↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に来たら召 喚スキルがありました  作者: ふぅみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
94/97

94話


  *


 ボルフ夫妻は船に2泊して、翌日の10時過ぎには船を降りた。エミナルお婆ちゃんにいい旅の友が出来て、良かったと思う。


 船が出港しても次の客は乗ってこなかった。船内を見て回ってから部屋に来るパターンもあるのでまだ確定ではない。最後のエックルの町まで誰も部屋に来なければいいなと思った。

 そしてその願いは届き、3泊目は俺たちふたりだけだった。何もトラブルもないまま最終寄港地、終点であるエックルの町に到着した。


「…あ、船から降りると地面が揺れてないのが分かるねー」

「ヒロヤ、面白いことを言うねぇ」

「でも、そんな気がしない? ずっと船は揺れていたから」

 ほんのわずかな揺れでも、身体に違和感として蓄積されていく。二日目からこっそり酔い止めの薬を飲んでいた。


「お婆ちゃんは船に強かったみたいだね」

 言うとエミナルお婆ちゃんは笑った。

「いや、酔ったよ。ヒロヤにポーチの中に薬を入れてもらっていたから、船に乗ってすぐにこっそり飲んだんだよ」

「そうだったんだ、気がつかなかったよ」

 ポーチに入れておいてよかった。船酔いは祝福ではどうにもならなかったってひとつ賢くなった。


「ヒロヤ、宿はどこにするか決めているのかい?」

「冒険者の勘で今探しているところ」

 何だいそれ、とお婆ちゃんは笑うがマップさんに風呂のある宿を探してもらったが、残念ながらなかった。しかしシャワー付きの宿はあったようで、そこに今向かっている。


「ここ、どうかな?」

「高そうだよ」

「予算厳しい?」

「そうだねぇ、先のことも考えると節約したいところだね」

「じゃあ、向かい側はどう?」

 お婆ちゃんの視線を通りを挟んだ逆に向けさせる。

「そうだねぇ、ここなら…まあいいかね」

 実は俺の本命は初めからこっちだ。向かい側に立派な店構えの宿があったから、わざとそちらを先にススメてみた。


「すみません、1部屋空いてますか?」

 お婆ちゃんと俺を見てから、フロントの男は頷いた。

「空いてます。ベットふたつの部屋を1つでいいですか?」

「はい。おいくらですか?」

「6大銅貨になります」

 ということは食事は別かな。

 確認してみるとそうだった。夕食と朝食付きだと8大銅貨。つまりふたり分だと銀貨1枚に大銅貨6枚になる。


 お婆ちゃんも安心した価格だったらしく、すぐに財布のひもが緩んだ。

「夕食を部屋に運んでもらうことはできるかい?」

「…配達した者に5銅貨のチップをいただけるのでしたら」

 俺はすぐに頷いた。

「では、夕食を6時にお願いします。朝食は何時から食べられますか?」

「7時からになります」

 7時か。どうするかなと思っていると、横でお婆ちゃんが袖を引いた。

「ヒロヤ、朝は市場で買い物をすればいい」

 そうするか。

「すみません、では朝食はナシでお願いします」

「分かりました。あと、宿にはシャワーがありますがご利用になりますか? 料金は1大銅貨です」

「シャワーがあるのかい」

 お婆ちゃんは嬉しそうだ。

「シャワーは部屋付きではないのですね?」

「部屋付きになると1泊2食でおひとり銀貨1枚になります」

 1万円か。宿代の支払いはお婆ちゃんなんだよな。お婆ちゃんがどう判断するか。


「ヒロヤは部屋付きの方が嬉しいかい?」

「そりゃまあ、その方が安心できるかな」

「それじゃあ、シャワー付きの部屋に変えておくれ。出発が早いから朝食はいらないよ」

「かしこまりました。では値引きいたしましておふたりで1泊と夕食付、銀貨1枚と大銅貨8枚。お部屋への食事のお届けを無料でさせていただきます。いかがでしょうか」


 いいんじゃないかな、とお婆ちゃんを見ると頷いていた。

「それでいいよ」

「ありがとうございます」

 案内された二階の部屋はなかなかに広いツーベット。テーブルと椅子もあるし、照明の魔道具も置いてある。ランプしか置いてないところもあるらしいから、これはアタリと思っていいんじゃないかな。もちろん、部屋にトイレとシャワーの両方がついている。


「お婆ちゃん、夕食まで1時間ほどあるからゆっくりしててくれる? 俺はこの宿周辺を見回ってくるよ」

「……分かった。気をつけるんだよ」

「うん、行ってくるね。俺が戻るまで部屋から出ないでね」


 俺はひとりで宿を出る寸前に認識阻害スキルを働かせた。そして本当に宿周辺を一周して、次の目的地となる街へ向かう門の方へ向かった。

「あ、あった」

 門近くに馬車の待機場があると思ったのだ。立派な建物があるわけではなく、いわばタクシーの待機所のようなもの。馬車の御者はタクシーの運転手。客が集まったら出発する訳だから乗り合いタクシーみたいなものか。


「すみません」と声を掛けて、仮の目的地である町への馬車があるかどうか。あるとしたら何時ごろに出発するか。何人乗りかなどをこまかく聞いてみる。

 話してもらう代わりの情報料として、ここでも大銅貨1枚のチップを渡す。するとちょっとめんどくさそうだった御者が親切に教えてくれた。


 誰誰の馬車は狭い代わりに客が集まりやすいからすぐ出発するだとか、誰誰の馬車は早く着くと言っているがよく車輪を脱輪させているとか、全く聞いていないことまで教えてくれた。あまりにも調子よく話してくれるので、エールの1杯でも飲んでよとさらに5銅貨を追加しておく。


「ありがとうよ、兄ちゃん!」

 宿に戻ってしばらくすると夕食が部屋に届いた。昼がシチューだったのに同じメニューだった。お婆ちゃん嫌がらないかなと心配したが、気にしてない感じだった。


 部屋へ運んでくれた下働きの少年に情報料の分としてチップを見せ、市場で食料品が買いたいが何時ごろからやっている? と聞いてみる。

「農家のおかみさん連中が持ってくるのは6時過ぎてからだよ。その日に届く新鮮な野菜だから町の人達もよく買いに行くよ。露店ではなく市場にある店が開くのは7時過ぎてから。街の中の食堂は6時半に開くところと7時に開くところが多いよ。うちは7時からだよ」

「そうか、ありがとうな」

 見せていた5銅貨を渡した。


「お兄ちゃん、ありがとう!」

 嬉しそうに笑って、部屋を出ていきかけ…あっと言った。

「食べ終わったら、廊下に出しておいてね。あとで回収に来るから」

「分かった。頼むな」

「うん!」と元気よく返事をして今度こそ部屋を出ていった。


「お婆ちゃん、冷めないうちに食べよう」

「そうだね」

 向かい合って食べた夕食は暖かいのがごちそう、といった感じた。マニムニ食堂やおっちゃんの店などまた食べたい味を提供しているところはあるのに、なかなかそういうのに当たらない。


「お婆ちゃん、明日なんだけど…」

 ここから出る馬車について聞いてきたけれど、あまりお勧めできないようなことを言われたと話す。

「思い切って、隣町まで歩いてみてもいい? そんなに遠くないみたいだった」

「歩くのかい? 2時間ほどなら何とかなるかねぇ」

 不安そうだったが、そんなに歩かせる気はない。今はまだ言えないけど、ちゃんと考えてあるのだ。


「お婆ちゃんに無理はさせないから、まずは1時間だけでも歩いてみて欲しい」

「そうだねぇ、少しずつ歩くのにも慣れておかないとねぇ」

 ごめんね、不安にさせて。街から離れて人目がなくなったら、驚かせてあげるから。


 食事の後、マジックバックからオレンジに似たフルーツを出す。鑑定で甘さを確認して買ったものだから、さわやかな酸味の他に後味すっきりの甘みがある。

 食べ終えた食器を廊下に出し、食後のまったりタイムにおばあちゃんが船の中で作ったという帯を見せてもらった。安産のお守りの帯だそうだ。

「これで完成じゃないの?」

「ここからが本番さ。刺繍をするんだよ」

 完成したら見せてあげるよ、と言ってお婆ちゃんは笑うが…多分5日やそこらでは完成しない気がする。


 お婆ちゃんには1カ月の長旅だと言ってあるから、どんなに手の込んだ刺繍をしてもハイセイに着くまでに完成すると思っているんだろう。

 食休みの後、交代でシャワーを浴びる。ここで俺の魔法の出番。ドライでお婆ちゃんの髪を乾かしてあげると喜んでくれた。

「便利な魔法があるんだねぇ」

「そうだね」

 そういや、この世界には生活魔法と呼ばれるものはないな。ノベルズに書いてあったことがそのままこの世界に当てはまるわけではないみたい。


「ヒロヤ、先に横になるよ。疲れていないと思っていたけど、船に乗っているだけで疲れていたみたいだ」

「うん、早く寝て明日に備えよう。俺もシャワーを浴びて髪を乾かしたら、早めに寝るよ」

「おやすみ、ヒロヤ」

「おやすみ」

 お婆ちゃんは安静の魔道具を作動させると、すぐに目を閉じて…あっという間に寝付いた。


 俺は宿のシャワーではなくシェルターに移動して一人お風呂を満喫させてもらった。髪もドライで乾かし、着ていた服も靴もクリーンで綺麗に。

 部屋に戻ったらお婆ちゃんの服もこっそりクリーンしておこうかな。


 それから1時間限定効果の身体強化ちょっぴりタイプをワッペンに付与したものを3つ作っておく。これは明日、お婆ちゃんにぺたっと貼りつけて、市場での買い物や町から離れるまでの道のりを元気に歩いてもらうためのもの。

「他には…何か見落としはないかな」

 ああ、うっとおしい見張りをここで撒くためにも認識阻害のワッペンも用意しておくか。


 シェルターに移動して、念のために特製リヤカーを出して自分が乗ってみることにした。


「あれ、ステップがないじゃないか」

 さあ、乗ろうとしてから気がつくお粗末さ。俺は跨いで乗り込めても、お婆ちゃんには無理だよ。

「そして、座っている時の背もたれになる場所が…欲しい」

 やっぱり事前に確認してみて良かった。その場で気がついても修正できなかったじゃないか。


 ステップを用意するなら…と思い切って変更。車輪を大きくして、車軸までを上げる。そして、乗り込むときに使う2段のステップを車いすの足置きのように跳ね上げ式にして、俺が座る椅子として使う時は水平に。使わない時は垂直に立てておけるようにした。


 荷台には椅子の背もたれも用意したし、お婆ちゃんのマジックバックを入れておける収納も新たに作った。

「これでかなり快適空間になったな」

 日除けの幌はベビーカーのアレを参考にしたけど、固定しておく位置を前後どちらでも好きなように出来るよう、ここも改良した。


 そんなこんなをこしょこしょ作っていたら2時間が経過していた。

「そろそろ寝なきゃ、だけど…」

 リヤカータイプのこのゴーレムの名前は何にしようか。名前を付けると命令が良く通る気がするんだよ。気のせいかもしれないけど。


 自走運搬型ゴーレム。自走ってことでハシル…って、それはないか。ウーン…自走にこだわらないで考えて…えーと…マイル!

「よし、お前の名前はマイルだ」

 コアに触れて命名する。なんとなくだが、マイルちゃんという感じがする。やっぱり気のせいだろうけど。


「じゃぁ、明日からよろしくなマイル。一度収納!」


 本日の召喚タイムはゴーレムコア2つを【環】で直して、サクッと終了。宿に戻ってお婆ちゃんの隣のベットで寝ることにした。


 *


「おはよう、エミナルお婆ちゃん」

「おはよう、ヒロヤ」

 宿で食事はしないため、身支度を済ませて荷物を持ったら…って、荷物なんて肩掛けカバンと腰に装着のウエストポーチの2つだけだ。最後に膝下までの長さのマントで隠して、いざ出発。

 お婆ちゃんのマントの背中には、昨夜作った身体強化ちょっぴりのワッペンを張り付けた。魔力をノリ代わりに張り付ける感じだから好きな場所に張り付け出来るし、剥がして回収も出来る。


 ワッペンは偽装でマントと同じ色に同化しておいた。これで何かが張り付いているとは見えないだろう。


「買うのは次の町までの分でいいよ。お婆ちゃんのポーチに2食分入れておけば十分だよ。出発前に入れた食料が俺の方にはまだたっぷり残っているからね」

「そうかい。分かったよ」

 お婆ちゃんのポーチは時間停止機能はついていない。あと1食分のパンと3食分の干し肉、水生成水筒が入っているだけ。干し肉は長期保存が効くから、旅の終わりまで食べずに保管の方向でいく。


「ヒロヤ。昨夜早めに寝たからか、今朝は身体が軽いよ」

「良かった。ぐっすり眠れたのが良かったんだね」

 市場で新鮮なミルクが売っていたため、空の水筒を2つ出して入れてもらう。セルセラでもこういう使い方をしていたから、空の水筒のストックもばっちりだ。あ、2本のうちの1つはお婆ちゃんの分ね。


 日持ちと腹持ちのいいライ麦パンも2つずつ買ってお婆ちゃんと俺のポーチに分けて入れておく。野菜不足解消のために生のまま食べられるトマト、ザクロを巨大化したような見た目で味はブロッコリーという野菜も買う。これは個人的に大量買いしたいところだが、エミナルお婆ちゃんの前でそれは出来ないため、ひとつずつ買うにとどめた。

 

「あと、果物でも見つかるといいんだけと…」

 そろそろ町を出たい。1時間の効果が切れるまでに街を出て、人気の少ないところまで行きたいのだ。

「お婆ちゃん、果物は俺が多めに持ってきているから…もう行こう」

「分かったよ。ヒロヤの言うとおりにするよ」


 町から出る検問の列に並ぶ。わずか100メートルほどの間隔を開けて、監視者さんも並んでいる。

商会の尾行は船を降りた時にうまく撒けたようだ。宿を突き止められずに断念したのか、離れたところにある宿らしき場所から動いていない。


 検問を終えて町を後にして徒歩で歩く人達の流れから、少しずつ遅れ始める。歩き慣れた冒険者や背負子で荷物を運ぶ農家の人などは足早に遠ざかっていく。間隔も少しずつばらけていく。

 お婆ちゃんに身体強化でブーストを掛けていても、そこは加減してある。いつもの自分と違いすぎると歩くつもりがスケートで滑っていたような感覚になってしまってかえって危ないのだ。


 さて、ちょうどいいダミーが来た。そろそろ認識阻害を掛けようか。

 肩を並べて素早く認識阻害のワッペンをお婆ちゃんのマントの背中に張る。街道の脇に誘導して、立ち止まった。監視者の男はそのまま通り過ぎていく。彼が見ている背中は別の旅人のマントだ。

 いやあ、旅人のマントってよく似ているからこういう時は便利だよね。お気に入りの青いマントを身につけない選択をした俺、グッジョブだよ。


 どうしたんだい? という顔をしたお婆ちゃんに、黙って水生成水筒をポーチから取り出して見せた。飲む? と黙ってジェスチャーで尋ねると、いらないとお婆ちゃんも黙って首を振る。

 わざとゆっくり水をごくごく飲んで、監視者との距離をあけた。


「さて、と。お婆ちゃん、これからいいものを出すけど、大きな声を出さないでね」

 驚きの声であいつが引き返してきてしまうと困る。

「いいものかい?」

「うん、口を手で押さえていて」

 なんだね、という顔をしながら言われたとおりに口を手で押さえてくれるおばぁちゃん、可愛い。ホント、素直になったなぁ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。