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異世界に来たら召 喚スキルがありました  作者: ふぅみ


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93/97

93話


  *


 エミナルお婆ちゃんは俺が貸した安静の魔道具でぐっすり夢の中だ。ボルフ夫妻には、申し訳ないが俺のスキルの安眠で眠っていただいている。

 いきなりの実験みたいで申し訳ないが、このスキルを使っても相手に後遺症のようなものは出ないと分かっている。途中で延長しようと再度スキルを掛ければ長くも出来るが基本は6時間睡眠が基本だとなんとなく分かる。

 魔道具の設定が6時間になっていたのは、これが基本だからなのかも。


 …で、同室の3人にはしっかり眠っていただいて、俺はこっそりシェルター内に戻ろうと思う。カーテンを引いて隠した半個室の壁にシェルターの入り口を開いて、ハイハイするように移動した。


「……はぁ…」

 思わず、ため息が出る。


「やってしまった…」

 河賊? さんにごめんなさいしたくなるのは、彼らの食料まで奪ってしまったからだ。盗んで貯めたものを…と、ざっくりとした指定が悪かったみたい。

 いや、盗んだものと指定したのだから別にいいのか。…とにかく、彼らが貯めた海の幸、河の幸までごっそりいただいてしまった。


「エールの入った樽に、この肉の包みはワニ肉。河エビ、カキっぽいのにアサリっぽい貝。名前をいちいち調べるのも面倒なほどの魚の塩漬け。ライ麦に小麦に野菜もいろいろいっぱいあるなぁ。これ、彼らが購入した食料というよりどこかの商船を襲った感じだなぁ」

 ごめんなさいした気分を返せ!


 漁具である網やモリ、大鎌のような道具など見たことのないものもある。大小の剣に鉤爪のような武器に木製の槌。これらは船を襲う時に使うのだろうか。


「もしかして、これ…ワイン? 樽が4つに…お金の入った箱まである」

 沈没船から出てきたような大きな箱ではなく、大きめの手提げ金庫ほどの箱だったがそれでも銅貨や銀貨がいっぱい詰まっていた。

 ポイっとアイテムボックスに収納すればすぐに枚数が分かる。


「えーと…2千万ちょっとぐらい、かな? あはははは…」

 やってしまった…下の方には金貨も何十枚か、あったみたいだ。


「ってか、やっぱり河にも盗賊はいたのか!」

 いないといいなーと思いつつ、試しに『クリナード大河を活動拠点にしている盗賊』と限定してみた。そしたら、これだ。

 海も山も河も砂漠も町も…盗賊のいないところはないのだろうか。


「こうなったら、時々盗賊退治をするつもりで奴らから武器と資金を奪ってやろう。そして、冒険者ギルドとか孤児院みたいなところとか…そのうち寄付してばら撒いてこよう。盗賊している奴らにはお宝を貯めても無駄だ、と真面目に働かないと酷い目に合うと反省してもらおう」


 はぁ…。とりあえず、確認だけは今夜中にしておこう。

「えーと、この箱は何だ?」

 開けると魔石が入っていた。

「へーこんなものまで貯めていたのか。色もそれなりだし小粒だからランクが低い魔石だな。小物づくりにちょうどいいかも」

 これはいつでも利用できるようにアイテムボックスに収納しておこう。


「こっちの箱は…」

 真四角の黒いキューブ? カーボン素材なんてこの世界には…まさか、ないだろうな?

 鑑定で調べてみると鉱物だった。


「黄鉄鋼? これって、鉄なのか?」

 正方形なのが面白くて実際に触ってみた。

「うん、重いな。…って…あれ?」

 手が黒くなった? 試しにクリーンを掛けてみると…黒かったキューブが金色のキューブに変わった。


「見た目金だけど、コレ…鉄だったよな?」

 じっと観察して鑑定を掛ける。すると硫黄と鉄の成分を含む硫化鉱物という結果が出た。

「……本物っぽいけど…」

 見た目が金にも見えるから【愚者の黄金】か。これを金だと騙して高値で取引する愚か者がいるということか?


 鑑定をしたらすぐに分かるけれど、鑑定スキルを持っていない者は見た目の色だけで騙されるかもしれない。

「ふぅん、悪いことを考える人がこっそり隠し持っているわけだ」


 えーと、なになに? ハンマーなどで強くたたくと火花が出る? 昔は火打石として使っているところもあった? へー。


 世界基本知識さんが教えてくれた。


「色的には金だけど、実際には金じゃない。庶民用のアクセサリーに加工して売るのはありかなぁ?」

 実際に使うとしたら、かなり小さく割らないとダメかも。これはしばらく保存だな。使えないものを保管しておく倉庫にでも入れておくか。


  *


 船で一泊した翌日の朝。エミナルお婆ちゃんは自然に目を覚ました。まだハッキリ覚醒する前に、とボルフ夫妻の安眠スキル効果も解消してみた。すると5分ほどで彼らは自然と目を覚ました。


「みなさん、おはようございます」

 カーテンを引いて開け、挨拶してみる。俺の声を聞いたからか、顔だけ見えるようにそれぞれのカーテンが少し引かれた。

「おはよう、早いね」

「いえ、そろそろ5時ですよ」

 俺がそう応えると、彼らは笑った。


「さすが冒険者だね。わしらはいつももっとのんびりしとるから、まだ横になってるよ」

「そうねぇ。もう少しだけ寝たいわ」

 奥さんの方も普段はまだ寝ているのか、2度寝を始めた。俺の安眠スキルが効き過ぎたせいじゃないだろうな、と少しドキドキした。


「お婆ちゃんももう少し寝ていたら? 急いですることもないし」

「そうだねぇ。…そうさせてもらおうか」

 船を降りてからの移動では、野営もあるしこんなにゆっくり寝ていられないと判断したのだろう。エミナルお婆ちゃんも素直に目を閉じた。


 寝貯めが出来るなら、俺も二度寝したいよ。

 カーテンをしっかり閉めて、みんなと同じく二度寝しているように見せかけて…シェルターへ移動。トイレと歯磨きを済ませ、花に水やりをして日課の観察記録をつける。


 今日も虹の花は枯れる気配がない。ただ、浄水が一番元気がないと分かるようになってきた、反対に聖水を与えている花は生き生きとして成長している。明らかに花も茎も大きくなった。

「………」

 身体を動かしたことで胃袋が空腹を訴えてきた。一足早くおにぎり1つと野菜たっぷりスープで朝食にする。


 1時間ほどでシェルターから出て、カーテンを引いたままクッションを縫う内職をしていると下のエミナルおばぁちゃんがベッドに身を起こす気配がした。

 静かにそっと下を覗いてみると何やらごそごそ中。着替えをしているらしい。俺はすでに冒険者スタイルに戻っている。武器を身につけないまま二段ベッドから降りた。


 着替えを終えたのかカーテンを引いて姿を見せたお婆ちゃんは小さく頷き、ドアの方を指さした。まだ寝ている夫婦を起こさないようにして、外へ出ようということだ。

 頷きかえし、二人でそっと静かに部屋から出る。マジックポーチから剣と剣帯を取り出して身につける。まだ朝は早い。廊下に出ても会話をしないまま売店の方へ向かう。

 売店が見えるあたりまで来ると他にも買い物をしている人たちがいて話し声がする。

 列の後ろからそっと覗いてみると、料金が高いし美味しそうに見えない。お婆ちゃんの腕を引いて列から離れた。


「どうしたんだい、ヒロヤ?」

「あまりおいしそうじゃなかった。それに、高いよ」

 小声で答えると、お婆ちゃんは困ったように売店の方を見た。

「俺がそれに入れたパンの方が美味しいと思う」

 マジックポーチを指さすと、そういえば…と思い出したらしい。


「甲板にベンチがあったから、行こうよ」

 手を引いて空きベンチを探す。まだ6時過ぎということもあり、ベンチは半分ほど空いていた。


「待っててね、いま準備するから」

 2人の間を少し離し、そこに布を置く。そして冒険者御用達。水生成水筒を置き、好きなだけ飲んでもらうことにする。

 紅茶やコーヒー、ハーブティーもあるがそれは出せない。ここで出すと目立ってしまう。

「まずはこのパンに切れ込みを入れて…。お婆ちゃん、ベーコンの厚みはどのぐらいにする?」

 食事用のナイフで厚さを確認してからカット。

「チーズをのせてレタスを挟んで、ベーコンを挟んで、さらにレタスを挟むと出来上がり」

 マヨネーズもソースもないが、ベーコンだけでも食べられる。そこにレタスとチーズが加わるのだからボリュームもたっぷりで美味しい。


「ヒロヤ、私には多すぎるよ。少し端の方をカットしてヒロヤが食べておくれ」

「わかった。このぐらい?」

 確認してカットした切れ端を自分の分にして、いただきます。


「なんだいこのパン、柔らかいねぇ」

 お婆ちゃんはパンの柔らかさにまず驚いた。

「これはパンだけでも美味しいじゃないか」

「ベーコンも美味しいでしょ?」

 自慢の自家製だ。

「ホントだねぇ、いまから追加を買いに街へ戻りたいぐらいだよ」

 お婆ちゃんの冗談にただ、笑った。自分で作ったなんて今は言わない。俺たちがあまりにもおいしそうに食べているせいか、チラチラとこっちを見ている人がいる。


「セルセラで買ってきて、良かったねぇ。もっと買ってくればよかった」

 ここで買ったものではないことと、もうないのだというような発言をわざとする。ふふっというようにお婆ちゃんも笑った。

「食後のデザートに干したフルーツもあるよ」

 甘いものは別腹なのか、お婆ちゃんは嬉しそうにパクパク食べてくれた。


「船から河を見ていると、のんびりするねぇ」

 キラキラとした水面を見ながら食後をのんびり過ごす。波がないからかほとんど船は上下に揺れない。エンジンで進んでいるわけでもないからとても静かだ。ざーっざーっと水を掻き分ける音は聞こえているが、どちらかというと心地よいと感じる。


「お婆ちゃん、お昼は4人で食べるよね? 12時でいいかな?」

「そうだねぇ、あの二人に聞いてみた方がいいかねぇ」

 二度寝している夫婦は何時ぐらいに起きてくるだろう。

「そろそろ、部屋へ戻るよ。孫が生まれるんだから、安産のお守りの帯も作りたいしねぇ」

「じゃあ、俺も一度戻って昼の予定を確認してみようかな」


 甲板でゆっくりしていたからか、戻ってみると夫婦は目を覚ましていた。

 確認すると、昼は12時でいいらしい。良かったら夜の分もと頼まれたので今夜も6時半の予約を入れることにした。メニューは三人とも魚の煮物でいいそうだ。昼は細切り肉の炒め物かシチューらしい。昼のメニューは決まっているんだって。

 夫婦とお婆ちゃんのお昼はシチューで俺だけ肉の炒め物にすることにした。


食堂へ行くと運よく、昨日のスタッフを見かけた。

「すみません、今日の昼と夜も4人分、テーブルを1つ予約したいのですが…」

「はい、承ります。お時間の方はお決まりですか?」

「昼は12時、メニューはシチューが3人分、肉の炒め物がひとりぶん。夜は6時半で魚の煮込みを4人分。お願いしたいです」

 そっと大銅貨3枚のチップを渡す。


 驚いたように見るので「昨日の夜はいい席をありがとうございました」とお礼を口にしてにっこり微笑んだ。

「お婆ちゃんたちにいい席だと褒めてもらえて嬉しかったです」

 お婆ちゃん大好きっ子を演じるとほほえましそうな視線に変わった。


「ご希望の時間に同じ席をお取りしておきます」

「ありがとうございます」

 無事に予約が取れてホッとしたところで、一度部屋へ戻る。


 席の予約が取れました、という報告と甲板に出て身体を動かしてきますと告げてすぐに部屋を出る。普通の冒険者なら時間を持て余したらトレーニングするだろうと思ったのだ。裁縫をする冒険者はきっと多くないはずだ。


 あの夫婦と一緒に部屋にいる間は危険なことはないと思う。念のため、マップさんには監視を頼んでおくけれど。


 甲板には時間を持て余して、ベンチにぼーっと座っている人もいれば手持ちの本を読んでいる人もいる。マークしているひとりは船室にいる。多分まだ寝ているのだろう。

 俺はあまり場所をとらずにできるストレッチとして、屈伸や背伸びなどのラジオ体操モドキをする。本格的なラジオ体操だと目立つ。あくまでも、身体の筋を伸ばし、筋肉をほぐしているような軽い動きにした。


 軽く体をほぐしたら腕立て伏せ。背筋、腹筋。向こうの世界にいた時にはできなかった片手腕立て伏せだってできるようになった。身体強化って素晴らしい。

 ここで剣を振り回したり、投擲の練習をするわけにもいかない、筋トレだけした後はクールダウンを兼ねた軽いストレッチ。最後に精神統一のつもりで座禅…はこの世界にないから出来ないので、ベンチに座って目を閉じた。


 心地よい風が吹いていてうっかり寝てしまいそうになった。そろそろ部屋へ戻らないとお婆ちゃんが心配するかもしれない。


「大変だな…」

 思わず、ひとりごとが口をついて出た。

 同じ船にまでついてきて俺の監視を続けている人が、商会の使いとは別にもうひとりいる。身のこなしというか多分隠密スキル持ちだろう。この人は一度も接近してこないし声もかけてこないが、かなり前からずっと俺を監視している。伯爵様の配下なのだろうか。

 

 甲板でストレッチをしている間もベンチで本を読むフリをしながらこちらを意識している。

 ただ居合わせた客同士のフリをしてこちらから話し掛けたらどういう反応をするだろうか。愛想よく雑談に応じる? それとも当たり障りない挨拶だけして逃げていくだろうか。


 くすっと笑いながら甲板を後にする。マップさんのマークからは逃れられないよ。例え隠密スキルでも、ね。俺のマップさんは熱源探知のスキルと連動するようになったから、たとえ陰竜だとしても…もう見逃すことはない。


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