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異世界に来たら召 喚スキルがありました  作者: ふぅみ


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92/97

92話

 船を予約したときにもらった木札で部屋を探す。

「あ、ここだ」

 部屋が並ぶ通路の中程。船首と船尾の真ん中近くで、いい場所だと思った。船には詳しくないけれど、中心部分が一番揺れが少ない気がする。こっそり渡したチップが効いたのかな。

 船は向こうの世界でも乗ったことがない。だから俺の勝手なイメージの船室は寝台列車の2段ベットだ。寝台列車も乗ったことはないが、おばあちゃんちで刑事もののドラマを一緒に見ていたからこちらは知っている。

 田舎のおばあちゃんちの近くにはボルダリング教室がなかったから、近所のお年寄りの人達と交流したり普段は見ないテレビドラマを見たり庭の家庭菜園で野菜のお世話をしたりと、夏休み中は普段できないことができて楽しかった。


 ドアの横に部屋の鍵が4つぶら下がっていた。2つを手にして片方をおばあちゃに渡し、自分の分はポーチにいれる。思った通りドアにはカギはかかっていなくて、誰もいない。

「相手の方はまだみたいだね」 

 寝台の下がお婆ちゃんで上が俺なのは決定として、右と左どっちがいいか。少し迷って船の進行方向は…と考えて、左の方がいいと判断した。

「万が一のことがあると困るから、マジックポーチは寝るときも身体から離さないで、マジックバックは抱きかかえるようにしておいてね」

「分かってるよ」

 預かると申し出てもいいが、いくら親しくしていてもお婆ちゃんと俺は身内なわけじゃない。マジックポーチなどはつねに身につけていてもらって、俺がお婆ちゃんごと見張るようにしていればいい。

 ベッドにはカーテンで仕切って中で着替えも出来るようになっている。また、女性客だと寝顔を他人に見られたくないだろうから、カーテンは必須なのだと思う。


「へー。ここ、靴入れみたいだね」

 靴を外に脱いだまま平気でいるのは治安のいい日本ならでは、だろう。古着よりも靴の方が高いのだ。こちらの世界の人は寝るとき、鍵を掛けた寝室以外の場所では靴を脱ぐことはない。 


 室内の点検が終わった後のんびりしていると、ドアがノックされた。応じる前にドアが開いた。

「あ、失礼。こんにちは」

 先客がいると思わずにドアを開けたようだ。50過ぎの男性と同年代の奥さんらしい女性がカバンを手に立っていた。

「相部屋の方ですね。先にお邪魔しています」

 ドア横にカギが掛かっている数だけ予約者がいるというシステムなのだろう。先に来た俺たちは4つの鍵を見ているが、後から来た彼らは2つだけのカギを見てふたりきりと勘違いしたのだろう。


「よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 通路の両端にベッドがあり、突き当りは外が見える窓があるだけでくつろげるテーブルや椅子はこの部屋にはない。船の中だからとても狭いが、その分ベッド周りが広くなっていてベッドの足元には荷物を入れておけるスペースもあったりした。


「ヒロヤ、ここにお座り」

 お婆ちゃんに言われて、ベッドに並んで腰掛ける。


「では、我々も失礼して」

 2人が部屋の中に入り、対面のベッドに仲良く並んで座った。

「お孫…いえ、息子さんかな」

「いえ、護衛の依頼を受けた冒険者です。おふたりはご夫婦、でよろしいですか?」

 護衛と分かるよう、わざと室内でも腰から剣を下げている。斬撃も刺突も可能でありながらやや細身。それでいて頑丈、と女性の冒険者でも扱えるくらい軽い両刃の剣なので威圧感はないと思う。


「ええ、家内のステラニとわしはボルフです」

 見るからに善良そうな、ごくごく普通の老夫婦に見える。

「私はエミナル。ヒロヤは冒険者だけど、息子同然の付き合いをしているいい子なんだよ」

 息子同然と言ってもらえて、かなり嬉しい。


「そうですか。仲が良さそうで、息子さんかと思いましたよ」

 船が出るまでの世間話で彼ら夫婦は2泊した後に寄港する町に住んでいて、今回はセルセラで働いている息子に会いに来たということが分かった。

 こちらは遠くにいる息子に会いに行く途中だとエミナルお婆ちゃんが話していた。俺が勝手に話すわけにはいかないから、向こうの旦那さんが聞き役に回っているように俺も聞き役に回ってにこにこ愛想よくしておいた。

 簡単な自己紹介が終わった後、年頃も似ている女性ふたりは意気投合したみたいだ。今夜の食事は船内の食堂へ食べに行きましょうよと約束していた。


「船が出るみたいですね」

 甲板が賑やかだなと思っていたが、出港時間になっていたようだ。


「ヒロヤ、気になるようなら船の上から見てくるといいよ。私は部屋でゆっくりしているからね」

 お婆ちゃんもお婆ちゃんの荷物もマーキング済みだ。船が出てしまえば万が一のことがあっても限られた空間内のことだ。対応できるだろう。

「えーと、じゃあそうさせてもらうね」

 すみませんしばらく出てきますと断って、二人の前を横切らせてもらう。甲板に出てみると、少しずつ船が動いていた。

 

 桟橋に接舷していたこの船を、小さな船が曳航している。小さな船の動力は帆と櫂で、船乗りの他に風魔法使いらしい冒険者の姿も見えた。


 遠視スキルを使うと、望遠鏡いらずだ。

 クリナード大河は川幅が広く水深も深いようだ。見ている限りではゆったりとした流れで、船で遡上するのも難しくなさそうだった。波がほとんどない河の水面が陽の光を反射してキラキラと輝いている。

 対岸へ渡る渡し船なのか、手漕ぎの小さな舟も人を乗せて行き来している。


 ハウバールの町を遠く離れていく景色を堪能してから、船内を見て回ることにした。この船には食堂が1つしかない。他にはテイクアウト専門の売店と立ち飲みのバーが2カ所あるだけだった。

 豪華客船というわけでもないのでショーを見る場所もダンスホールもない。せっかくここまで来たのだからと食堂でスタッフに聞いてみたら、夕食の席の予約が可能だと言う。


 6時半か7時半のどちらかだと言われ、6時半に4人でひとつの丸テーブルを予約することにした。代表者として俺の名前と、木札を見せて部屋番号を告げておく。

 料理は多分、全員が魚料理を選択するのではないかと思いつつ、決めつけるのは危険だとメニューはその場で決めることにした。スタッフも6時半からだとまだ売り切れはないから大丈夫ですよ、と笑っていた。


「俺以外は年齢が高い方々なので、入り口からあまり遠くない席をお願いできませんか?」

「でしたら、入ってすぐのこちらでいかがでしょう?」

 中央の方に比べるとテーブル間が広くて歩きやすそうだ。

「いいですね、ここをお願いします」

 チップに大銅貨を1枚渡すと、ホールスタッフはにっこり微笑んでくれた。


 部屋へ戻り、勝手に決めてしまったけど…と断って6時半にテーブルを予約してきたと告げた。すると、ありがとう! とボルフさんに喜んでもらえた。

「あとで予約に行こうと思っていたのだよ。食堂はひどく混むからね。来るときに知らなくてかなり待たされたよ」

「そうなのよ。一度大変な思いをしてからは、私たちも予約を入れようって決めたのよ。ありがとう」

「良かった」

「ヒロヤ、ありがとうね」

 お婆ちゃんにもよくやった、というように褒めてもらえた。


「お婆ちゃんたち、縫物をしているの?」

 移動中の時間つぶしに裁縫道具は持っていった方がいいと勧めたのは俺だけど、もう早速裁縫道具を広げている。

 

「何かしていないと落ち着かなくてねぇ」

 始めたのはステラニさんの方が先だったみたいだ。

「へぇ、可愛い人形ですね」

 布製の人形が、まだパーツはバラバラだが作りかけでベッドの上に転がっている。


「お婆ちゃんも同じようなのを作り始めているの?」

 型紙を借りて布を裁断して、胴体らしい部分を縫い始めたところみたいだ。

「ステラニさん、これ完成したものってありますか?」

「あるわよ。…これよ。可愛いでしょう?」

「男の子に人形を勧めても…」

 ボルフさんが苦笑しているが、俺は興味津々だ。


「いえ、かなり興味あります。俺も作ってもいいですか? 型紙を貸して欲しいです」

「あら…」

「まさか、俺だけ除け者かい?」


 後でこっそりクリーンをかければいいや、と2人のお婆ちゃんの間の通路に直に座る。

 自分のマジックバックからハギレと糸、ハサミを取り出すと普段から裁縫をしている子だと分かってもらえた。上段のベッドから身を乗り出して見ていたボルフさんがふて寝するようにベッドに寝転がった。


「まぁ、素敵な色の布ね。どこで買ったの?」

「これはハイセイで買いました」

「ハイセイで…。ということは青の店かしら?」

「ご存知でしたか」

「ええ、あの店の布は発色がいいのよね。でも店主の拘りで青い生地ばかりで…」

 ステラニお婆ちゃんは苦笑した。あまり女の子向けではない、ということだろう。


「それなら、男の子の人形を作ればいいんです」

 頭の中でマルクをモデルにして、人形に着せる服をアレンジしてみよう。

 基本の身体は借りた型紙でパーツを切り、縫い合わせていく。ワタの代わりに詰め込むのは使い道がなくなった端切れを細かく裁断した布みたいだ。

 俺のはハイセイで買ってきた羊の毛皮の切れ端を詰めて、ふっくらさせよう。

 

「ヒロヤ、あんた…手際がいいねぇ」

「ホント、器用ね」

 チクチク縫っているうちに裁縫スキルが働いていたようだ。

「ほう、上手いもんだ」

 ふて寝していたはずのボルフさんも上のベッドから覗いていた。


「エミナルお婆ちゃん、これ…旅のお土産にあげる。中身はハイセイに行けば羊の毛皮が売っているから、端材でも買ってきて詰めると柔らかいよ」

「羊の毛皮の端材かい。そんないいものがあるんだねぇ。…私も中身を詰めるのは後にしようかね」

 にこにこ笑いながら、お婆ちゃんは俺が作った男の子人形を受け取ってくれた。


「みんな…お楽しみ中のところだが、そろそろ食事に行く準備をしないかい?」

「あら、もうそんな時間?」


「続きはまた後で…一度、片づけようかね」

 マジックポーチにポイポイと入れて、エミナルお婆ちゃんはベッドから立ち上がった。先に俺たち二人が部屋を出て、上の段から降りてきたボルフさんとステラニさんも部屋を出る。

 鍵は掛けたが、大切なものは持ち出して貴重品は身につけていく。

 老夫婦の2人はマジックポーチだけを身につけ、着替えなどが入っていそうなカバンは部屋に置いたままにするようだ。


「いらっしゃいませ」

 食堂はすでに混み始めていた。

「6時半に予約したヒロヤです」

 部屋番号を記した木札をさっと見せる。

「ヒロヤさまですね。はい、ご案内します」

 と言っても、すぐ近くなんだけど…。テーブルを探すように動かしたスタッフの視線が、俺が見ていたテーブルの上で止まる。


「どうぞ、こちらへ」

 テーブルには部屋番号を示す数字を書いた細い木札が置いてある。さっとそれを取り上げて、スタッフはテーブルの側に控えた。

 この世界では椅子を引くサービスはないらしく、それぞれが勝手に席についていく。


「私たちは魚料理の煮込み定食をお願いするよ」

 ボルフさんがスタッフに注文した。

お婆ちゃんは俺の方を見てからスタッフに尋ねた。

「どんな料理があるのか聞いてもいいかい?」

「もちろんです」


 魚料理は2種類。煮込みか焼きかの調理方法が違うことと、メイン料理の他にはパン、スープがついているということだった。肉を選んだ時も、煮込みと焼きの違いらしい。

 素材や調理方法を具体的に説明しないことから言っても、レパートリーは少なそうだ。

「それじゃあ、私も魚の煮込みにするよ」

「俺も同じでお願いします」


 4人ともが魚の煮込みを注文した。スタッフが十分離れてからボルフさんが聞いてきた。

「ヒロヤくんはエールを注文しなくて良かったのかい?」

 見た目が成人してすぐであっても、冒険者はエールを飲むものというイメージがあるのだろう。

「仕事中は飲みませんけど、そもそもハーブティーやミルクの方が好きなんです」

「そりゃいい。健康的だ」

 この世界の飲酒は成人していれば大丈夫だ。つまり、年齢的には俺も飲んでもいい。


 入口の方で大きな声を出す人がいて、思わず視線がそちらへ吸い寄せられる。多分俺だけでなく、多くの人がその太ったおじさんを一斉に見つめただろう。

「…ヒロヤくんに予約してもらっていてよかったよ」

 こそっとボルフさんが呟く。


 その太ったおじさんは大きな声で、自分の座る席がないことを怒っている。金持ちか身分があるのか、どちらかなのか分からないが態度がデカいし声もでかい。ああいう手合いには関わりたいと思わないので、そっと視線を外す。


 随分長い間粘って喚き散らしていたが、満席である以上はどうしようもできない。俺たちは料理が運ばれてきたこともあり、静かに食事を始めた。本当なら、初めて出会って仲良くなったばかりの人達との食事だ。和気あいあいと食べたいところだが、誰もがその嫌な客に目をつけられたくないと静かに食事をしていた。


 食べるスピードはテーブルによって違うし、席に着いた順も違う。俺たちが半分ほど料理を食べたところで迷惑な客はテーブルに着くことが出来たらしく、離れたところに行った。

 自然とホッとしたような空気に包まれた。

「ヒロヤ、パン足りるかい?」

 静かにエミナルお婆ちゃんが聞いてきた。

「大丈夫。今日はあまり動いてないし、このぐらいがちょうどいいよ」

「そうかい、それならよかった」


「ボルフさん、ここの煮込みの魚の種類って、毎回違いますか?」

「違うみたいだね。これは行きで食べたのとは違うよ」

「魚によって味付けが違うこともあるみたいよ」と補足してくれたのはステラニさんだ。


「そうなんですね、楽しみです」

 特別美味いとは言えないが、まずいわけでもない。しかし、久しぶりに口にした魚料理だ。素直に嬉しかった。 


 テーブルが空くのを待っている人が他にもいることに気がついて、俺たちは長居することなく部屋へ戻った。

 全員が部屋に入ったところで内鍵を掛ける。体当たりでもしたらすぐに壊れてしまいそうなドアだが、ないよりはマシだ。というか、誰かが襲ってきてもすぐに分かる。危険人物がきたらマップさんが警告してくれるはずだ。


「明日の朝食は何時にしますか?」

 予約を入れてこようかと思って聞いてみると、ボルフ夫妻は朝食は少ししか食べられないから売店でサンドイッチを買うことにするよ、という返事だった。

「おばぁちゃんはどうする?」

 そうだねぇというように考えて「私もサンドイッチにするかねぇ」と答えた。明日は1日船の中だ。ほとんど動かないと言ってもいい。出かけるとしても甲板までの間を散歩するより他はない。


「ヒロヤはしっかり食べた方がいいよ。船に乗っている間くらい、気を張らなくても大丈夫だろうさ」

「…分かった。じゃあ、明日一緒に売店へ行ってから考えるね」

 マズそうなサンドイッチだったら、お婆ちゃんのマジックポーチに入れたパンの方を食べてもらおう。それに切れ込みを入れておっちゃんのところで買った照り焼きソースチキンととレタスを挟む方がきっと美味しい。


 寝るまでお婆ちゃんたちは人形作りを楽しんでいた。俺は少し散歩してくると言って部屋を出ると、人目のないところでシェルターに移動した。トイレとクリーンでさっぱりしてから、本日の召喚タイムについて考える。

 

「1つはゴーレムのコアを修復することにして…」


 このゴーレムのコアを、壊れる前の状態に直してください!【環】!


「あと1回は何にしようかな」


 山賊と海賊、街の盗賊と砂漠の盗賊。その人たちから武器を奪ってきたけど、クリナード大河を活動拠点にしている盗賊っているのかな?


「んー試してみるか」


 クリナード大河を活動拠点にしている盗賊の根城から、彼らが盗んで貯めたものを奪ってください! 【召】!


「うわーっ!」

 なんじゃこりゃー! と久しぶりの叫び声を上げてしまった。


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