第9話
「雨だ…」
いつものように朝ごはんのおにぎりを食べ、果物をデザートにして…ステータスカードで魔力量他のチェック。さあ出発しようかと思ったら、雨が降っていた。この世界に来てから初めての雨だ。
見上げた空はどんよりとしていて、かなり薄暗い。灰色というよりも黒っぽい灰色でこれからもまだまだ降りそうな感じだ。
転移門までは多分、あと一日か二日あれば着くという距離のはず。けれど、ここで無理をして雨に濡れたくはない。
「体調を崩して熱が出たら…薬もないし…」
やはり、早めに薬を自分で作れるようになっておきたい。それとも、風邪などをひく心配がないように健康スキルみたいなものがあればいいけど…どうやったら手に入るのか分からない。
「さて、と…。雨が上がるまでどうしようかな」
おにぎりの追加を作るのなら、そろそろ塩が欲しい。欲を言えば肉や野菜も食べたい。
「やっぱ、今日中に塩だな」
醤油や味噌などの調味料はもう少し先でもいい。とにかく、先に塩を手に入れておきたい。
「箸とご飯や汁物用の器は竹で作った。皿も欲しいけど…」
アイテムボックスの中に枝はあるが、皿に加工できそうな手ごろな大きさの木材は持っていない。
「いや、ちゃんとした皿を取り寄せるほうが良かったりして…」
召喚スキルがレベル3になって、一日4つまで取り寄せあるいは変換ができるようになっている。
「んー、あらためて優先順位を決めよう」
1、塩。2、薬師スキル。3、着替え…着替えってどれから先にすればいいんだ?
今日みたいな雨降りなら、長靴やレインコートが欲しい。けど、晴れの日はいらない。
スニーカーの汚れは毎日落としているけど、このままだと履きつぶすことになる。その前にこの世界の靴を手に入れて、スニーカーは大切に残しておきたい。
「下着も替えが欲しいし、こっちの世界の服にも着替えておきたいんだよな」
体操服の上に学校指定のズボンを着たまま、今日でもう10日になる。シャワーも浴びず、風呂にも入らずに我慢できているのは洗浄スキルのおかげだろう。
「着替え一式ちょうだい、ってお願い通らないかな」
強欲なお願いだと思うが、リクエストしてみるだけならタダだ。時間が来たらダメもとでやってみよう。
「ま、多分ダメだろうから…ポケットがいっぱいついた丈夫なズボン、次に歩きやすくて軽い靴。丈夫なってつけておく方がいいかな。えーとその次は下着の替えか?」
着替えは一度に揃えなくてもいいけど、出来るだけ早めにこの世界のものに変えておきたい。別の世界の服を着ていたら不審がられるし、盗まれたらショックだ。奪おうとして襲われるのはもっと嫌だ。
「あ、古着ってリクエストにした方がいいのか?」
世界基本知識さんにこの世界の洋服事情を確認してみると、予想通りだった。
貴族はオーダーメイド。一般市民は既製服。ただし、一般市民にもランクというかいろいろあって、裕福な商人から露天売りの商人などでも服のランクが違う。町民や農民、冒険者など服を見れば何者なのかがだいたい分かるようになっているらしい。
「やっぱ、無難なのは古着か。町や村人が着るような…シンプルな服のほうがいいかな」
服装を変えてこの世界の住人のようになったら、冒険者ギルドで登録するのが一番手っ取り早く身分証を得られるんだよな?
異世界転移や異世界転生物のノベルズでは冒険者になるパターンが多い。
※身分証を得る、ですか? この世界の身分証は誕生と同時に発行されています。
え?
「…ちょっと待って。もう一度確認したい」
それはこの世界の常識なんだよな。世界基本知識さんによると、この世界に生まれると同時に、この世界の人は身分証がもらえるのか?
※その通りです。
…じゃあ、俺は? この世界の生まれでない俺は身分証を得ることはできないのか?
※いえ、毎日確認していらっしゃいますよね? 名前とスキルなどが表示されたステータスカードを。あれが身分証です。
「えっ? えええ?」
俺自身の情報を教えくれるステータスカードが身分証? 俺はこの世界生まれじゃない。突然紛れ込んだ…迷い子みたいなものだと思っていたんだけど…どういうこと?
※この世界に来たことで、この世界に生まれた者となったのではないでしょうか。
…そう言えば、ごく当たり前のように魔力を使っていた。特別意識しなくても呼吸する…みたいに。俺は魔力溜まりの場所を体の中に探したり、身体から魔力を出す訓練なんてぜんぜんしてないのに。
この世界に来たことで。身体が変わった? この世界で生まれた人たちのようになったってことか?
※身分証は各個人の魂に紐づけされたものですから、本人の意思で出し入れが可能です。
「なんだって?」
俺の魂と紐づけされている…?
「はあっ」と思わず溜息が出た。
なるほど。だからステータスカードを出したり消したりできるのか。
世界基本知識さん、他にも身分証に関することで俺の知らない常識があれば教えて欲しい。
※身分証はその者の、魂のデータとも言い換えることが出来ます。自分自身を知ることができますが、他人に知られると不都合なことが起こり得る危険な情報ともいえます。平均的なスキル表示は10歳の誕生日後になりますが、スキルの発現は早ければ4歳ごろから、遅くても10歳頃には最低1つは発現します
「うん、特にレアなのだったりしたら知られない方がいいよね」
※各自のデーターはステータスを読み取る機械によって、貴重な情報を他人が覗き見たり知ったりすることが出来ます。
「それ、ヤバいじゃん」
※そのため、通常は読み取り側に制限が掛けられています。通常読み取る情報は名前、年齢、ランク、スキルの4つです。
それって、魔力量以外全部じゃないか。そんなので制限が掛かっていると言えるのか?
俺は自分のステータスカードを出し、改めて眺めた。
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マシロ ヒロト16 5 128/130
スキル 【召 喚3】【地図3】【時計】【回復3】【解毒3】【洗浄3】【水魔法3】【解体3】
ギフト 【世界基本知識】【シェルター】【全鑑定】
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「ランクが5しかないんだけど」
ランクって確か、社会的貢献度だったよな。
これでも、カエルやら大鹿やらを狩ったことで上がってくれた結果だ。ただ逃げ回っていただけでは、この数字は上がらなかったと思う。
※一桁は子供並みですが、この世界に来てからまだ日が浅いのですからそのうち二桁になるのではないでしょうか。
「……慰めてくれてありがとう。ちなみに、この貢献度って薬師スキルで薬やポーションを作っても上がるかな?」
※上がります。生産活動でもランクアップの経験値となります。
良かった。魔物をガンガン倒していくより、薬を作っていく方が俺の性には合うかも。
「確か、ギフト持ちは少ないんじゃなかったっけ? 3つも持っていることがバレたらヤバいよね」
※ギフトのみならず、スキルもレアなものが含まれなおかつ5つ以上になると貴重な存在になって注目される可能性が高くなります。
「っということは、この身分証を見られたらマズいってことじゃないか」
どこかの町へ行くことも出来ないってことか。
※ご安心ください。2つ以上のスキルやギフトを持つ者は、表示を非表示に操作できる隠し機能があります。
「え? なにそれ?」
世界基本知識さんの説明通りにスキル欄に指で触れながら表示を消したいと念じると…表示が消えたかと思うほど薄くなった。目を凝らして読み取れる文字の上で表示を戻したいと念じたら、再びスキル名やギフト名がハッキリ表示された。
「うわー。なにこれ」
ついでに言うと、魔力表示もオンとオフが出来た。こちらは魔法を使う仕事をしている人は能力の高さを証明することにもなるから、わざわざ表示している人も多いそうだ。俺はとりあえず隠しておきたい。
ということで、今後誰かに見せるときには
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マシロヒロト16 5
スキル 【洗浄3】【水魔法3】【解体3】
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と、いう随分すっきりした表示に変えることにしようと思う。
※ひとつご注意したいのは、高性能の鑑定水晶によっては隠し機能が解除されるということです。
「えぇー! ダメじゃないか」
※対応策として、偽装スキルの習得をお勧めします。
「偽装スキル?」
※この世界に偽装スキルを持つ生き物は複数存在します。それをスキル変換するとよいでしょう。
「……あー。それじゃあその素材を手に入れなきゃ」
※素材の確保については、また後ほどご提案します。
「分かった。お願いします」
えーと、何の話をしていたんだっけ。
※身分証を手に入れたいというお話でした。
「あ、そうだよ。だから冒険者ギルドに登録しないとまずいかなーと思っていたんだけど、ステータスカードが身分証なら、ギルドに登録しなくてもいいってことだよね」
※その認識は誤りです。身分証は魂と結びついていると申し上げました。他人の手に渡すこと、他人のステータスを直接見ることなど不可能です。
「え? あ、あれ?」
※他人にステータスカードを手渡すことはできませんが、ステータスカードの情報を読み取る機能がある鑑定の水晶を利用し魔力を流すことで、一部のデーターが転記されたカードを発行してもらうことが可能です。
つまり、それが一般的に利用されている公的な身元保証書?
※はい。冒険者ギルドや薬師ギルドなどに所属後、加入者に発行されるカードは身元確認証として信頼されている、ということになります。
「やっぱり、どこかに登録しないと身分証代わりのカードは手に入らないということじゃないか」
話が一周回って戻ってきた気分だ。
まあ、色々なことが知れたし、無駄ではなかったからいいけど…
まとめると…身分証は生まれた時に魂の記憶として誰もが持っている。本人だけがそのカードの内容を全て知ることが可能。本人はステータスカードを手にして操作もできるが他人には手渡せない。その身分証の一部を魔力を通じて情報を渡すことで転記した各機関発行のカードを作ることが出来て、その機関から身元確認カードがもらえて、他人に手渡すことが出来る。
「で、ギルド発行の身元確認カードがあれば不審者と思われずに済む」
※その認識でよろしいかと…
「そか。で、ギルドに登録していない人は? 仕事をしていない子供はどうなる?」
※保護者が保証人となります。
「親が死んだりして保証してくれる人がいなくなったら?」
※住んでいる地域の事情によりそれぞれ異なります。
「……そう。もうひとつ。俺が身分証、じゃなくてギルド発行の身元が確認出来るカードを持っていなくてそれを提出できない場合、村とか町とかに入れない?」
※その地域により変わりますが、一般的に町へ入る時に特定の料金を払うことが必要になるようです。村の場合は必要ない場合の方が多いです。
「お金を払えばいいんだ」
それで街の中に入れるのなら、身元確認証がなくてもいいか。町に入るたびにお金をとられることになったら、もったいないからどこかのギルドに登録した方がいいかもしれないけど。
ああ、そうだった。もうひとつ気になっていたんだ。
「俺って鑑定スキルを持っているよね。他の人のステータスカードの情報って分かる?」
※他人のスキルを鑑定することができる人はいません。
「俺の全鑑定でも?」
※はい。
「人に対する鑑定が出来ないのは良かったかな。でも、鑑定できる水晶があるわけだよね。ステータス表示をしないとこちらがオフにしていても、読み取る機械があったらギルド発行のカードに記載されてしまう可能性は?」
※その可能性がないとは断言できません。
「そっかー。それはなんとかして知られないようにしたいね。…だからこそ偽装スキルか」
スキルを偽装する偽装スキル、とか。スキルを隠蔽するスキル隠蔽スキルとか…そういうのがあったらいい? 鑑定の水晶でもバレない?
※偽装スキルも隠蔽スキルも存在します。幸いにも獲得してすぐにレベルが3以上になるわけですし、試す価値はあるかと判断します。
「なるほど…。取り合えず今後の課題として持ち越しかな」
身分証についてあれこれ知ることが出来たのは良かったかな。
「てっきりこのカードは向こうの世界で持っていた学生証がもとになっていると思ってたのになぁ」
持っていたはずの学生証がなくなっていたし。
失くなっているといえばもう一つ、通学定期もない。こっちの世界では使えないから消えた…とは思えないんだよな。
だって、この世界では使えないはずのスマホ、タブレットなども消えずに存在しているんだから。
※通学定期とは?
「あー。えーと、移動のための乗り物代を前払いするかわりに割り引いた金額で購入し、利用できる期間限定の乗車券、ってところかな」
※ステータスカードにも財布機能があります。もしかしたら、統合されている可能性もあります。
「財布機能っ? なにそれ! 最先端すぎる!」
各企業や国ごとに発行している電子マネーカードやスマホ決済よりも便利じゃないか。この世界、かなり進んでる?
※ステータスカードの財布機能は本人だけが入出金出来るものですが、神殿が所有する水晶でスキル確認の儀を受けてようやく利用可能になります。
「そうなんだ…」
※他にも各ギルドが発行するギルドーカードでもカード決済が可能です。村や個人商店レベルでは硬貨のみのところも多く、決済機能は利用出来ないですが金貨を10枚以上やりとりするようなところでは、カードでのやり取りが基本といってもいいです。
やっぱり冒険者ギルドに登録してギルドカードを作ってもらった方がいいな。
※冒険者ギルドに所属する者は冒険者ギルドカード、商人は商人ギルドカード、傭兵は傭兵ギルドカード、貴族のみが所持可能な貴族カード。たいていは一つの機関に所属し、ギルドカードを発行してもらいますが複数のギルドカードを発行してもらい、所持する者もいます。
複数、か。俺は一つあればいいかな。
※よろしければスタスカードの財布機能が使えるかどうか、確認してみましょう。
あれ、全鑑定さん? の声? 世界基本知識さんの声と違う。全鑑定さんの方は秘書っぽい男性の声。世界基本知識さんの声はアナウンサーっぽい女性の声。
※裏面にある黒丸に血液を一滴落としてみてください。
「黒丸? 血液?」
ステータスカードをひっくり返して、よくよく見てみると確かに…黒く塗られた小さな●マークがあった。
「あーっと…ここに?」
※冒険者ギルドでカードを発行してもらったとしても同じ手順を求められることになります。
全鑑定さんに続いて、そう教えてくれたのは世界基本知識さん。
「あー…そうだね」
尻込みしていないで試してみろってことだね。仕方がない。
サバイバルナイフをアイテムボックスから取り出し、ちょっとだけ指先に傷をつけて…滲んできた血を窪みにこすりつけてみる。
「お。おぉおお?」
数字と文字がぽわっと浮かび上がってきた。
銀貨2 大銅貨9 銅貨5
通常ならステータスカードの財布機能は神殿が所有する水晶でスキル確認の儀を受けてようやく利用可能になるらしいけど、俺は神殿の儀式を受けていないのに使えるみたいだ。良かったー。
「えーと、銅貨1枚が100円換算だったから、これって2万9千5百円、かな?」
はっ! そういや、財布の中身はどうなっているんだ?
財布があったことに安心して、中までは確認してなかった。
アイテムボックスの中からリュックを取り出し、財布を取り出し、急いで中を確認してみる。
「うわぁ」
財布の中には、初めて見る硬貨が入っていた。
「外国のお金みたい」
馴染みのない色と形の硬貨をしげしげと眺める。こっちの硬貨は一枚が分厚い。つまり重い。模様も日本のものに比べるとシンプルだ。片方に紋章っぽい刻印。もう片方にも…同じ刻印。表も裏もないってことか…あるいは表と裏が同じと言ったらいいのか…。
「これは多分、銅貨。で、こっちが大銅貨か」
材質は同じっぽいが、大きさが異なる2種類の硬貨が入っていた。
銅貨3枚に大銅貨7枚で7千3百円か。
「あれ? 現金は確かに7千円ほどしか持ってなかったけど、電子マネーカードがあったはず」
銀行と紐づいているカードはダメと言われ、親からお小遣いをもらうたびにチャージして使っていた電子マネーカードがあったはず。
「あ、そうか。これも財布から消えているってことは、定期と同じで…合算されてさっきの2万9千5百になっていたのか。なるほど」
確か、素泊まりが一泊大銅貨3枚ぐらいと世界基本知識さんから聞いているから、現在の手持ちだと10日ぐらいしかないってことか。いや、食事代が一日1500円ぐらいと計算しでみると…わぁ、足りない。
どうにかしてお金を稼がないと、10日分の生活費すらないということだ。いや、逆に言えば…何もしていない現状でさえ一週間程度の宿代は持っているとプラスに考えたほうがいい。うん。悪い方向へ考えてばかりいてもしょうがない。
町にはいるときの設定としては、田舎から出てきた村人…といって信じてもらえるかな。信じてもらうためにも、目立たないように古着を着ないとダメだよな。
「んー、どこの村の出身だと聞かれたらどう答えよう」
※村を出た若者が冒険者を希望して都市部にやってくるのはこの世界ではよくあることですから、心配しなくてもいいでしょう。
え、そうなの? 適当な名前を言っても大丈夫かな?
世界基本知識さんが心配ないと教えてくれる。
※親の仕事を継ぐことができる者はひとり、あるいはふたりまで。それ以上の子供を持つ家庭が多く、10歳から親元を離れて別の土地に移動することが認められています。
「10歳からっ?」
それは早すぎないだろうか。10歳といえば、まだ小学4年か5年生だぞ。向こうの世界では。
※冒険者ギルドには10歳から仮登録が可能です。一万人以上の都市部には、仮登録の年少冒険者を寝泊まりさせる宿泊所を併設する義務があります。
「へーそうなんだ。それはいいね。10歳から何歳まで?」
※基本は13歳までです。各ギルドの裁量でそれ以上の年齢でも宿泊を認めている場合もあります。
「だいたい13歳までというのは理由がある?」
※3年あれば冒険者に向いているかどうかが本人にも周囲の者にも判断できるからとされています。
「なるほど…」
※ですが、この世界の成人年齢は16歳。口減らしが必要な環境でないかきりでは、どこの家庭でも子供を成人まで養育します。
口減らしか…そうしなきゃならないほど厳しい世界ってことだね。日本でも昔はそういう時代があったと歴史で習ったっけ。
※ちなみに10歳で冒険者仮登録が可能になるのは、この世界では10歳になるとスキル確認の儀を受けることが可能だからです。
さっきも言っていたっけ。神殿でスキル確認の儀を受けるとかなんとか。
※スキルの発現は早ければ4歳ごろで、遅くても10歳を過ぎる頃には最低1つは発現しますと説明しました。
「そうだったね。 ん? 早ければ4歳?」
※身分証にスキル表示がなくても、本人が素養を持っている場合があります。
ステータスカードに表示されないスキル? そんなことあるのか?
※素養はあっても魔力量が足りない、レベルが低いために発現しない、スキルそのものへの理解がない…などが原因と言われています。
「俺もマジックボックスのスキル表示がないけど…でも、使えてるけどな?」
魔力が足りないわけでもないだろうし、理解が足りないわけでもない。レベルも低くないんじゃないかな?
※…このケースは…分かりません。
「だよねー」
※一般的な話に戻りますがコントロールが難しい幼児期にはスキルを使わない方が魔力の暴走を招かない、と…わざとスキルに関する知識を与えないように子供を育てることもステータスカードにスキル表示がない原因という者もいます。
魔力暴走…。
※保有するスキルを知ることが理解の鍵となります。つまり、本人も気が付いていないスキルはスキルの使いかたを知らないままになる可能性があるのです。
俺のケースは特殊過ぎて一般には当てはまらないとして…
「スキル確認の儀は10歳の誕生日後、と決まっている理由はあるのかな?」
※10歳頃には魔力回路が安定する、とされています。
魔力回路…が、安定……するのか。つまり、安定しない魔力回路は危険、と。
「じゃあ、もしかして…10歳になってすぐに鑑定した時は、実はまだ魔力回路が安定してなくて、10歳をかなり過ぎてから鑑定した場合、鑑定結果が変わってくることもある?」
※当然、鑑定結果は変わります。一般的に年齢を重ねる方が経験値を加味してスキルレベルは上がりますし、新たなスキルが加わる可能性も上がります。
「スキルが増えるんだ?」
※もちろん、増えます。経験値が溜まることにより発露する確率は上がります。
料理人になりたいと料理を作り続けているうちに料理のスキルを習得出来た…みたいな感じかな。努力が実るケースは希望があるからいいね。
俺の場合はスキルで狙ったスキルを獲得しているから…すごく稀なケースだと思う。
ギフト【世界基本知識】さんが言葉を選ぶように、答えてくれた。
※これまでは前例はありませんでした。しかし今後も例がないとは断定できません。
AIのように会話形式で…と望んだのは俺だけど、実に人間臭い。とても不思議で、でも…ありがたい。ひとりきりの孤独に押しつぶされずに済んでいるのは、ギフトの【世界基本知識】さんや鑑定さんなどが会話してくれるからだ。脳内会話というとっても不思議な現象だけど、助かっている。
「………まだ雨、降っているかな?」
ステルステントから外を確認してみると、まだ雨は降り続けていた。外の安全を確かめてから首から先だけ外に出してみると、空気がひんやりしている。湿気も高く、不快指数がぐんと上がる。
「まだ外へ出るのはダメだな」
テントの中に戻って、水を飲む。
「この世界にもお茶とかコーヒーあるのかな」
嗜好品も欲しいが、今は我慢だ、我慢。それより先に欲しいものはいくらでもある。
優先順位を間違えないようにしなくては…
塩気のないただの白米のおにぎりを食べ、果物を食べてお昼を澄ませる。デザートの果物の種類がいろいろあるからごはんだけの食事も続けられる気がする。
「そろそろ、かな」
召喚スキルの解禁を知らせるアラームが鳴る。
業務用サイズの袋入り、塩を3つ下さい!【召】!
来た来た来たー! 袋入りのコメは50キロサイズだった。塩の袋のほうは…多分30キロぐらいある。これが3袋だから大量だ!
「嬉しいー。これで夕食からのおにぎりが美味しく食べられる!」
塩入り袋に頬ずりしてしまう。それほど、嬉しい。
えーと、次は…なんだっけ。そうだ、薬師スキルで薬を作ってみたいんだった。傷薬や、腹痛を治す薬。万が一の時の下痢止めとか…いろいろ常備薬が欲しい。
どうかお願いします。生き延びるため、健康を保つため、必要な薬を自分で作れるようになりたいので、薬を作れるスキルをください! 【換】!
真剣に祈る。願う。
薬師スキル、もしくは錬金スキルで薬が作れるようになりますように…
「や、った…?」
なにか、新しい感覚が増えた気がして、急いでステータスカードで確認してみる。魂と結びついているというから、変化があったらすぐ情報が更新されて、自動で個人情報を記載してくれてる感じがする。
「成功だ!」
何が変換されたかははっきりしない。科学の教科書あたりかなぁと思うが…とにもかくにも無事に薬師スキルとステータスカードに書いてあった。
これで薬が作れるようになったのか?
早速傷薬を作ってみたいと願う。するしレシピが頭の中に浮かんでくる。おぉー凄い!
「えーと擦り傷は軟膏もあるけど、初級ポーションを塗ってもいいのか。必要な材料は回復草と生命草と精製水と…え? 精製水?」
精製水? と思ったところで精製水の作り方も分かった。分かってしまった。製薬作業に必要となる道具とその扱い方も。
「うわぁ、どうするよ、これ」
作り方は分かった。材料も分かった。でも、道具がない。どうする?
「精製水作りって基本の基本だ。これができないと始まらないってくらい重要じゃないか」
あぁぁ、道具が…いろいろと必要だ。
「製薬するのに必要な道具一式もらえないかな」
ひとつひとつを揃えていたら、何日かかるか…。すぐにでも薬作りを始めたいのに……。あきらめて、薬そのものを取り寄せるか?
「いや、まずはダメもとで…」
新人薬師が揃えるべき製薬に必要な道具一式を、どうか道具一式をください! 【召】!
額の前で手を組み、必死に願う。
ドサッ。ドサッ、ドサッ。
大きな音にビックリ、からの…恐る恐る目を開けてみる。
「来たぁー!」
ちょっと大きめのトランクケースが3つも並んでいた。急いで開けて中を確認してみる。
向こうの世界でもおなじみのすり鉢や乳棒、ミニナイフに温度計。蒸留器具にピペット、フラスコ、試験管、秤、製薬ミニ窯…たぶん、必要なものは全部揃っていると思われる。
「ありがとう、ありがとう!」
いゃあ、言ってみるものだ。もしかしたら、新人用道具一式と願ったのが良かったのかもしれない。うん、実際に新人用道具一式として販売されているのかも。
向こうの世界でも、体育の授業用に…と体操服上下に運動靴とそれを入れる袋もセット販売されていた。セット販売は売る方も買う方も助かるよね。
「えーと…あーして、こーして、これでこうなって…」
と、初級ポーションの調薬手順をおさらいしていて、はっと気が付いた。
「出来上がったポーションを入れる空き瓶がない!」
えーどうする。どうする?
今日の召喚スキルはまだあと1回使える。そろそろ着替えを、と思っていたが、今日はあきらめて明日にするか? 洗浄スキルを使えば、同じ服のままでも我慢ができる。うん、そうしよう。
まだ雨は降っているし、このまま出かけずに今日は薬つくりを優先したい。
この世界では傷を治す薬も解毒薬も液体だった。つまりポーション瓶が必要だ。1つや2つじゃなく、せめて一ダースぐらいは欲しいなぁ。
※基本的に空きポーション瓶は木箱に入れて運搬、販売されています。
世界基本知識さんが教えてくれた。
そうなんだ。やっぱりまとめ販売が基本だよね。んじゃ、ま…今日の最後のお願いいってみますか。
ポーション用空き瓶を木製の箱入りで、5箱ください!【召】!
「…………」
俺が思っていたより大きな木箱が現れ、ビビった。




