第10話
雨がやんだのは日が暮れてからだった。薬師スキルのおかげで初めての調薬作業も楽しく行えて、今日一日があっという間だった。
出来上がった初級ポーションの出来は鑑定スキルで確認するとランク4となっていた。薬師スキル3だと初めて作っても、いきなり中ランクの品質が出来るらしい。
薬師スキル1ではランク1からランク3、スキル2で4から6といった品質のモノが作れて、スキル1の人が作ったランク1のものでも売り物になるという。
ただし、世界基本知識さんによると薬師ギルドに登録していない薬師は自分で作った薬を客に直接販売してはいけないそうだ。
ポーションを売り物にして生活費を稼ごうと思っていた俺の計画はいきなりとん挫したわけだが、もぐりの薬師から薬を買う危険性は少し考えてみればわかることだった。
しかも、薬師ギルドに登録可能な者は、薬師の弟子となって修行を積み師から免許皆伝をもらった者か医薬学を専門に教えている学校を卒業した者のどちらかに限定されているらしい。
つまり、俺は薬師ギルドに登録できないってわけだね。スキル3を持っていても。
ただ、例外はあって…村などの薬師がいない環境下では、薬師ギルドに登録していない者が作ったポーションでも一定の基準を満たしていると鑑定されたものに限り店に卸せるらしい。
つまり自分では客に直接販売出来ないけど、村長や村にある店から頼まれて鑑定済み(という品質が保証されたもの)であれば卸すことは可能らしい。必ず数人の薬師がいる町と比べて田舎には薬師がいないんだから、仕方ないよねということだ。
正規の薬師に対してギルドに登録していない薬師は準薬師と区別されていて、販売可能な量に制限はあるらしい。だけど販売価格は正薬師も準薬師も同じ…いや、同じにしなければならないと決められているらしい。
品質によって決められた価格より高く販売できる者は行商人のみ。運搬賃を上乗せした価格に納得できる者が購入するシステムになっているそうだ。
「ま、俺は売り物に出来なくても自分で使いたい分だけでも作れたらいいけど」
本音では売り物にしてお金稼ぎがしたかったのだが…ダメなものは仕方がない。
初級ポーション、中級ポーションをそれぞれ6本ずつ作ってみた。解毒薬は材料が少なくて3本、耐麻痺薬5本も出来た。マジックバックに入れておけば劣化しないから精製水は多めに作って空きペットボトルに入れておいた。
「これ、意外とハマるかも…」
薬草を刻んだり、すりつぶしたり、煮込んだり…。そのへんはもしかしたら、料理と似通った作業なのかも。
「料理スキルも欲しくなったな」
おにぎり生活から卒業するためにも、料理スキルは絶対に手に入れよう。多分、家庭科の教科書から変換できるんじゃないかな。
「ああ、塩があるだけで…こんなにも味が違う」
夕飯は塩むすび。これまでと同じ米かと思うぐらい味が違って感じられた。うまい。うますぎる。塩なしのおにぎりでも身体は大喜びだったけど、塩味があるだけで心まで満たされた感じがする。
おにぎりの追加を作ろうかどうしようかと迷って、明日の作業に回すことにした。今日は少し疲れた。早めに寝よう。そう思って横になったというのに、横になった途端に目が冴えてしまってなかなか寝付けない。
「明日は何にしようかな…」
眠りに落ちるまでの間、明日召喚するものについてを考える。
1.料理スキル。鑑定で食べられる葉っぱが見つかったら、サラダみたいなものもそろそろ食べたい。
2.着替え。上から下まで一式…ってリクエストしてみて、ダメだったら…ポケットがいっぱいついた丈夫なズボン、次に歩きやすくて軽い靴かな。で、その次は下着の替えか? 下着は複数欲しい。アイテムボックスがあるからどんなに荷物が増えても移動に困らない。本当にアイテムボックス様々だ。
3.はどうしようかなぁ…
*
いつのまにか寝てしまっていたらしく、気が付いたら朝になっていた。ルーティンのように朝の身支度を澄ませて朝食。その後、ステータスカードのチェック。
魔力量はあまり増えていなかった。昨日はステルステントの中でポーションづくりしていただけだから仕方ない。
「追加のおにぎりを作るか」
米を洗ってからテントの外へ水を捨てに行こうとして気が付いた。ゴミをアイテムボックスに入れたぐらいだ、いらない水もアイテムボックスに入れておけばいいんだ。
「あとでまとめて捨てよう」
鍋を複数使って米を炊き、手早く塩むすびを60個作る。ご飯が握れる程度に冷めるのを待っていたら時間がかかってしまったけど、毎回作るよりも効率がいいハズ。
「おにぎりを包む葉っぱも残り少なくなったから、採集しながら移動しよう」
五日分のおにぎりはアイテムボックスの中。ステルステントも収納して、さあ出発だ。
多分だけど、明日には転移門にたどり着けると思う。どんな感じなんだろう? 鑑定とマップを使いながら移動する。鑑定のおかげでキノコや草も食べられるかどうかが分かるから採集に迷いがない。
手ごろな大きさの倒木を見つけ、ここで昼食にすることにした。座るのにはやはり、地面に直接座るよりも木の上か岩の上の方がいい。塩にぎりのおにぎりを2つ食べ、水生成水筒の水を飲んでホッと一息ついた時だった。
「なんだ? 臭い…」
何かが腐りかけているような変な匂いがする。なんだろうと思った時…いきなり背筋に悪寒が走った。緊張に身体が硬直する理由が分かった時には、あの怖い顔の恐竜が目の前にいた。
頭は真っ白だったが、とっさに体が動いていた。倒木から転げ落ちるように逃げると地面にシェルターの出入口を開き、飛び込んだ。ドアの向こうに大きく口を開けた恐竜のドアップが迫る。恐怖で腰が砕けた。
驚きすぎて悲鳴は出なかった。息を止め、なんで! なんで! とパニックを起こす。
大口を開けたことで鋭くとがった牙がびっしり奥の方まで生えているのが分かる。ばくんと閉じた後、噛み千切った木の残骸が吐き捨てられる。鼻の穴を大きく膨らませながら、不思議そうに首をかしげる様まではっきり見える。
「どういうことだ?」
地図には巨大な赤マークが表示されている。だけど数秒前まではこんなマークはなかった。いくら食後でホッと気を抜いていたといっても、恐竜がこんなに接近するまで気が付かないなんておかしい。
「レベル3になって、10キロ先まで分かるようになっているのに?」
いくらこの巨体に似合わず静かに移動し、足が速いといったって…10キロ先から接近する恐竜を見落とすなんて絶対にありえない。ありえないのに、襲われた。
「…ステルス、か…?」
まさか、こいつは見えないスキルでも持っているというのか?
※これはかなり珍しい。陰竜と呼ばれている壊滅級レアモンスターです。
全鑑定さん?
「陰竜? 壊滅級?」
※獲物に襲いかかる直前までその姿を消すことができるため、五千年ほど前にエルフがこの大陸を捨てたという歴史があるほど危険な恐竜です。
そう教えてくれたのは世界基本知識さんの方。
「エルフが? この大陸を捨てたの? つまり、昔はこの大陸にエルフがいたってことか!」
そして、エルフたちはこの大陸から去って行った。そう、小説の中の話ではなくこの世界にもエルフがいるという事だ。
※この陰竜の角を利用すれば隠密スキルを得ることができる可能性があります。これを狩ることをお勧めします。
狩る? こいつを?
「やだよ! 冗談じゃない!」
よく見ると、以前見た恐竜よりやや小さい。だが、それでも全長3メートル半ぐらいあるし、顔つきがかなり残忍そう。角は小さ目のが額に二本あり、頭頂から背中にかけて剣先のようにとがった突起がずらりと並んでいた。前腕の鉤爪は鋭くとがっていて、見るだけで背筋が凍る。
※いざというとき、隠密スキルは役に立つと進言します。
「………」
人によってスキルは1つしかないこともあるという。
俺はこの世界に生まれたわけではないのに来てしまったことで、かなり特殊なスキルを得たと思う。
スキルでスキルを増やすことができる。いわばチートだ。誰かに知られたらズルいと言われても仕方がない。
利用してやろうと狙われる可能性もある。権力者に目をつけられたりしたら…最悪逃げ出すはめになるだろう。
だから、といってスキルを増やすのをやめようという気にはならない。今後もきっと増えていく。いや、自分で望んで増やすと思う。
だって…スキルが増えるほど生活は豊かになるし、安心出来る。この先、剣術スキルとかの戦闘系や魔法系、採集向きのスキルだって欲しくなるに違いない。
「…………」
陰竜はしつこく、辺りを嗅ぎまわっていてなかなか諦めそうになかった。
「隠密スキルって、こいつみたいに存在を消すことが可能ってことだよな」
隠れて逃げることが出来たら…確かに隠密スキルは非常に魅力的だ。
「持っているスキルを隠したり誤魔化したりするスキルにはならないの?」
※可能性は高いです。陰竜のもつスキルはかなり高性能ですので。
だったら、欲しい。スキルを隠せるスキルを手に入れたい。
※一般的な偽装スキルはスプレイニドの皮から得ることができると推察します。
スプレイニドって? と思ったところで脳内にカメレオンに似たトカゲの姿が思い浮かんだ。
全鑑定さんのアシストか世界基本知識さんの方のアシストかは分からなかった。
「なるほど…こいつなら簡単に狩れそうだ」
大きさも50センチくらいと、目の前にいる恐竜に比べれば小粒も小粒。生息場所は…ああ、転移門の向こうの大陸にいるのか。大体の生息域の地図まで世界基本知識さんは脳内に伝えてきてくれた。
「だけど…マジかー」
目の前にはとんでもなく恐ろしい生き物がいる。あれを…俺があれを倒せるのか? 本当に? やるしかないのか? 俺が?
※陰竜の攻撃可能範囲は尾の方が長いため、正面からの攻撃をお勧めします。接近されないように用心し攻撃可能範囲外から確実に攻撃を繰り返せば、いつものやり方で倒せる確率は高いです。
「う、ううう…」
※魔力量が多いエルフにも出来なかった戦い方です。自信をもってください。
「怖いから、シェルターから一瞬だけ出て攻撃して、接近される前にまたシェルターに逃げ込む。のでもいい?」
※逃げられる前に、是非とも。
強烈なプッシュに、俺はのろのろと腰を上げた。
たくさんスキルを持っていることを知られないように。スキルを隠蔽するスキルは欲しい。出来れば…ではなく絶対に欲しい。
だから、殺るしかない。それは分かるんだけど…怖いんだよ。人間なんて恐竜の前ではちっぽけな存在なんだよ。
気持ちを奮い立たせるのって、大変なんだよ。今にも腰が抜けそうだ。
「う、うぅ…怖い、けど…やってみる」
陰竜はようやく周囲を嗅ぎまわることを諦めたのか、未練たらしく背を向けた。
俺は何度も深呼吸をして、すぐに水魔法での攻撃ができるように集中する。
巨大カエルとの戦いで繰り返した、水攻撃を思い出す。生きた的に向かって攻撃するのは同じでも、的の大きさが違う。外すことはないが、大体の肺の位置を睨み付けるようにして……
「よしっ!」
覚悟を決める。シェルターから飛び出し、先手必勝とばかりに水攻撃をしかける。
背中を向けて一歩一歩足を踏みしめていた恐竜がびくっと身体を震わせた。奴が振り返ると同時に俺はシェルター内に戻る。奴はこちらを向いた状態で大きく口を開けた。
だが、そこには俺はいない。
恐竜は怒りを全身で表すようにして、暴れた。そして暴れたことで肺に入った水が肺胞の隅々まで移動したのか、突然…かふっと噎せた。
チャンスだ!
俺はすぐにシェルターから飛び出して、水魔法で肺への水注入を開始した。
何とも表現しがたい。ギャオーでは可愛すぎる。ゴォオオオでもない。とにかく今まで聞いたこともない…大きな咆哮だった。威圧スキルでも放ったんじゃないかと思うほど、身体が硬くこわばる。
「い、いけっ!」
へたり込みそうになるのをぐっとこらえて、気を奮い立たせる。その口に向かって水攻撃しそうになるが、目標地点は奴の肺だ。狙いを間違えないよう、気持ちを落ち着かせて…いけっ!
俺の水攻撃は相手の身体がデカいせいか、なかなか手ごたえが返ってこない。ゆっくりとだが恐竜が1歩1歩戻ってくる。だが…諦めるわけにはいかないっ!
なにやら不思議そうに首を振った恐竜がさらに一歩踏み出すのを見て、慌ててシェルター内に戻る。
「………」
不思議そうというか、うっとおしそうに首を振るしぐさをするものの…恐竜が弱る気配はない。
「もしかして…あんまり効いてない?」
身体の大きさから考えても、肺に水がたまるまで時間がかかりそうだ。
※肺の中すべてを水に浸す必要はないとアドバイスします。
「あ、そうか。ありがとう!」
漠然と肺の中とイメージするのではなく、肺胞やそこへ至る呼吸細気管支を細かい霧で覆うようにすれば……
「さらに、水の温度を下げてみるか」
水魔法は水を生成することが出来る。空中から常温の水を作り出すことはもちろんのこと、水温を下げることで氷にもできる。つまり、水分子の振動を変えることで温度を変えられるのだ。
イメージは氷霧に咽て、息が止まる感じで……
恐竜って、寒さに弱いイメージだし…いける! ハズ!
シェルターから飛び出し、イメージを明確にして水魔法攻撃をする!
やや戸惑う感じで喉を逸らした恐竜の、肺があるであろう位置を睨みつつ…ミストウォール! から温度を一気に氷点下に下げ、肺胞の周辺をふさぐイメージを高める。何度も繰り返し魔法を発動する。
陰竜は硬直したような動きの後、変な声というか音をたてて顔の向きを変えた。睨みつける目つきではなく、困惑したように目がぎょろぎょろ動く。目の前にいるちっぽけな存在に何かされているのではなく、息苦しくなった原因が他にあるのではないかと探しているようにも見えた。
畳みかけるように水魔法攻撃を続ける。俺はもうシェルターには逃げ込まなかった。
肺胞の先からじわじわと微細氷が張り付き、やがて肺のすべてが凍り付き、細胞が壊死していくイメージの攻撃を続ける。先端からピシピシと凍り付いていく肺はもう空気を取り込めない。凍れ、身を切るほど冷たい冷気で凍りつけっ!
やがて…どのぐらいの時間が過ぎたのか。長いように思える時間が過ぎたころ、恐竜の目から強い光が消えた。あがくように前脚を、力なく動かす。二度三度…もがくように繰り返すうちに、ゆっくり奴の瞼が閉じていった。
俺はスローモーションを見ているように、その巨体が斜めに傾いていく様子を無言で見つめていた。地面に倒れてから、少し遅れて振動と音が伝わってきた。
「………」
死んだのか? いや、死んだふりをしている可能性もあるから油断はできない。
アイテムボックスに収納できれば、死んだと確認できる。
収納! と無言で命じると、巨大な体が一瞬にして消えた。
「……っ…やっ、た?」
ふぅうと止めていた息を吐き、こわばっていた体から力を抜く。疲れたー。
勝ったという喜びよりも…実は戸惑いのほうが大きい。
「…えーと…これ、どうしたらいいの?」
解体…しなくちゃダメ、なんだろうか。ダメなんだろうね。
「マジか…」
げんなりした。まだ小動物の解体すらしたことがないというのに…
誰か、俺の代わりに解体してくれないかな…。現実逃避したい。
※狩りの成功、おめでとうございます!
「…………」
世界基本知識さん、会話がますます人間ぽくなってきた気がする。
※解体する場合はシェルター内をおススメします。竜の血液も薬の材料になりますから。肉は高級食材ですし、革も防具におススメの素材です。足の骨をスキル変換すれば、重量軽減スキルが習得できるかもしれません。
「…………」
重量軽減スキル?
「ああ、そうか…」
あの恐竜にしてもこの恐竜にしても、身体があれほど大きいのに地面に振動がほとんど伝わっていなかった。あれほど静かに移動出来たのは足の骨に秘密があったのか。ってか…
「スキル…魔法を使う生き物って多いの?」
※人間以外の生き物にもランクがあり、ランクが高いものほどスキルを持っていることになります。もちろん種族ごとの体質や能力ですので、一種の固有スキルという扱いになります。
「なるほど…種族としての能力は固有スキルか」
※解体スキルを発動させ思考を停止すれば解体への忌避感は薄れると推察します。
無駄がないように解体しろ…ってことなんだろうけど……
嫌だけど、いつまでも嫌だなんていっていられなくなる。この世界で生きていくためには、自分で肉を得る力がないと…誰にも頼れないのだから。
人里に行く前に、隠れ住む。強くなると決めたのだから。
「…分かった。やってみる」
修得してから、まだ一度も解体スキル使ってないからな。
「と、その前に…」
陰竜に不意を突かれて襲われた場所の周辺を探す。落とした水生成水筒を回収して、壊れていないかどうか確認する。
「良かったー。大丈夫みたい」
マジックバックに戻してからシェルターに移動して、何気なくドアの数字を確認すると731になっていた。
「あれ?」
どういうことだ359じゃないのか? 使えるのは6時間だけじゃなかったっけ? 昨日は一日シェルターを使わなかった。今日は陰竜に襲われて出入りしたけど…。
「マジか…繰り越しできるのか……」
シェルターの一日6時間の使用制限。まさか、使わなかったら消えるのではなく、繰り越せる? 嬉しすぎる! 繰り越していくうちに、24時間…いや、そのうち一週間ぐらいの使用可能時間になったりして…。
嬉しくてテンションが上がったけど…時間を無駄にできないことには変わりない。
深呼吸してから、意を決して陰竜をアイテムボックスから出す。
「うわっ! …死んでると分かっててもビビる」
まだ死後硬直もしていない。正直、触るのが怖い。
アイテムボックスからサバイバルナイフを取り出し、解体スキルを発動させようと意識を集中する。すると不思議なことに、すっと心が落ち着いてきた。
怖いという気持ちは薄れ、やる気スイッチが入る。
「必要なのは角だったな」
ここ、ここ…とでもいうように、角の根元がぽわんと明るく照らされている。解体スキルが働いて、どこからどのように刃を入れればいいのかが分かる気がした。
「初めての解体が竜だなんて、俺ぐらいのものだろうな」
ふつうはもっと小さな、鳥とかウサギとかから始めるのではないだろうか。
恐竜の分厚く硬い皮に刃を入れるのにはかなり苦労した。長い時間かかってしまったが、無事、二本の角を頭部から切り離すことができた。死んでいても迫力満点なので、恐竜はすぐにアイテムボックスに収納した。
解体スキルを解除してほっと一息。手の中に握り込むと、角から魔力が感じられた。
※角一本をスキル変換した後、もう一本はアクセサリーに加工することをお勧めします。鑑定すれば隠密機能が付与されているアイテムと出るはずです。
「…なるほど? 隠密スキルを持っているのではなく、アイテム効果と偽証するのか」
特別な効果があるアクセサリーを自作するとしたら、どんなスキルを手に入れたらいいんだろう?
※錬金術スキルと魔道具付与スキルがあれば可能でしょう。
「錬金と付与スキルか…」
どうすれば手に入るのか分からないが、そのふたつともいずれは…ということにして……
「そろそろ召喚解禁タイムだな」
時計スキルがカウントダウンしている。シェルター内でこのまま召喚することにした。二つのうちの片方の角をアイテムボックスの中に収納し、もう片方の角を手に中に握り込む。
この一本の陰竜の角を、スキルを隠密することもできる強いスキルに変えてください【換】!
手の中から角が消えた。ステータスカードで確認してみると、無事に隠密スキルを獲得していた。しかも、社会貢献度のランクも上がっていきなり二桁になったし、魔力もぐんと増えてる。
「よしっ、よし!」
隠密スキルの検証は後ですることにして…
今日の召喚スキルふたつめ。料理スキルもさくっとゲット。多分、タブレットの中の家庭科の教科書から変換出来たのだろう。
次は、我慢してきた着替えだ。
上から下まで一式…一般的な町民か農民スタイルの古着一式…十代半ばの男性用Мサイズを下さいっ! お願いします 【召】!
ダメもとのリクエストだが、真剣に祈ってみた。
「ん…?」
そっと目を開けてみると、大きな麻袋が目の前に転がってた。
「お、おおお…」
もしかして…と袋の口を開いて中に手を突っ込む。
「すごい。言ってみるものだな…」
紺色の上着、肌着っぽい薄手のアイボリーシャツ。ベルトではなく腰ひもで縛るタイプの灰色のズボン、内ポケットのついた茶色ベスト、何かの革で出来た茶色のブーツ、深緑色の靴下、トランクスタイプの下着が二枚詰め込まれていた。
「下着も替えておくか」
脱いだものは全部洗浄スキルで綺麗にしてから、リュックの中にしまっておく。
「おっと、着替える前にこっちも洗浄スキルで綺麗にしておこう。古着だからな」
一枚一枚を広げるように並べてから、一気にスキルで綺麗にしておく。すると色が初めに見た時よりも色濃く鮮やかになった気がする。
「このベストの内ポケットから小銭を出したふりをして、マジックボックスからお金を出すといいかも」
まだ町へは行かないから、お金を使うことはないだろうけど…
「よし、着替え終わり」
シンプルなデザインで肌触りが良いとは言えないが、躊躇なく着れるレベルだ。当て布されて補修されているこの古着姿だと、異世界から来た人間だとは見ただけでは多分…分からないだろう。
「今日使えるのはあとひとつか…」
調味料の味噌があれば欲しいが、ダメなら胡椒でもいい。胡椒より味噌が欲しい理由は、味噌があればスープになるからだ。お茶やコーヒーもあれば嬉しいが、まだそこまでのゆとりはない。
「うぅ…どうしようかな」
竜の肉は高級食材だと教えてもらったし、肉を食べたい気持ちもある。足の骨で重量軽減スキルを習得することもおススメされている。
「重量軽減スキルか…」
体重が軽くなれば、足音を消すのも簡単になる。それに、走るのもさらに早くなるかもしれない。
「やるか……」
再びドーンと陰竜をアイテムボックスからシェルター内に出す。
太ももの肉が一番おいしそうだが、これを切り落とすとなると手持ちのサバイバルナイフでは心もとない。また太い骨を断ち切る力は、俺にはない。ノコギリとか斧とか、そういうのでもないと切り離せないほどデカいぞ。
解体スキルがあってもサバイバルナイフじゃ、無理か。
「いや、待てよ」
不意に閃いた。ダメもとでやってみようと恐竜の足、ちょうど真ん中あたりに手を置いて…
陰竜のこの足の骨を、重量軽減スキルに【換】!
ふにゃりと…片方の足が柔らかくなったようにへこんで形が変わる。
「お、やった!」
無事にスキルに変わり、骨だけが抜けたと分かる。こうなればしめたもの。骨のない片方の足の一部を切り落とし、残りはアイテムボックスの中に戻す。
硬い皮を剥ぐのは大変だったが、肉を五つの塊に切り分けるのには三十分とかからなかった。
片方の足の全部を肉のブロックにしたわけではない。足から5つの塊の分だけを切り分けたという方が正しい。足全体で言えば、まだ4分の1ほどを切り取っただけだ。脚以外にも肉はついているし…当分、肉に困らないだろう。
「うまそう…」
塊になった肉は見るからに美味しそうだったが、夜ご飯まで我慢することにした。明るいうちに少しでも先に進みたかったからだ。
手とナイフを洗い、皮も肉もすべてアイテムボックスの中に戻して、シェルターを出る。
「隠密スキルと重量軽減スキル、同時に…いけるか?」
陰竜は同時に使っていた。
どちらも使いたいと願ってみると、身体が軽くなった気がした。隠密スキルが働いているかどうかは分からないが、隠密状態になっていると判断して走ってみた。
もともとこちらの世界に来て、レベルが上がるにつれて足が速くなっていると感じていたのに、重量軽減スキルが加わったことで身体が浮くほど軽く感じた。これでジャンプしたら、固いはずの地面でトランポリンができるかも…そんな感じがした。
試しに見つけた、3メートル上の枝に向かってジャンプしてみると…ひとっとびで飛びつけた。
「マジか…」
これを映像にして公開したとしたら、絶対に合成だと書き込みが来る。
「今の俺がオリンピックに出たら…優勝できる、気がする」
人間技ではないから人前ではやらないほうがいいけど…こっそり楽しむぐらいはいいだろう。
跳ねて跳んで走って…森の障害物がトレーニングコースのようだった。楽しい。
「…あ」
マップに赤い点がいくつも現れた。慎重に近寄ってみるとサーベルタイガーの群れだった。
隠密スキルに意識を集中し…ゆっくり歩いて近寄ってみる。いつでもシェルターに逃げ込めるように、油断なく足音を消して……
百メートル手前、障害物のない真正面にいてもサーベルタイガーは反応しなかった。のんきにくつろいでいる様子を見ながら、さらに近寄ってみる。
緊張しながらじりじりと接近する。百メートルが50メートルになり、30メートルが10メートルになり…5メートルになったところで一番大きなサーベルタイガーが何かの気配を感じたように顔を上げた。あちらこちらへ顔の向きを変える様子を見て、仲間も周囲を見回す。
俺はその場にじっとして、隠密スキル隠密スキルと心の中で呟いていた。
あ、匂いか。
そういえば…と思い出す。俺が陰竜の接近に気が付いたのも、あいつの臭い匂いだった。自分では気が付かないが、人間の匂いをサーベルタイガーがかぎつけたとしたら…ヤバい気がする。
そっと静かに、後ろ脚で下がって離れていく。
5メートルが10メートル、20メートルまで広がったところで走って離れた。
ダメじゃん。隠密スキルがあっても、匂いで接近がバレる。
※匂い消しのアイテムを使ってみてはどうでしょうか。
匂い消し。そんなのがあるんだ。いいねそれ。
※洗浄スキルでも一定の効果があります。
今度は世界基本知識さんが教えてくれる。なるほど…優秀だね。洗浄スキル。今度やってみよう。
それから10分としないところでサイを見つけた。洗浄スキルで匂いを消し、隠密スキルでゆっくり接近してみると、すぐそばまで大接近できた。あと少しで手が触れそうな位置まで来ても、のんびり葉っぱを食べている。
検証を終えて、ゆっくりサイから離れる。今回は洗浄スキル効果を確かめたかっただけだ。別に倒す必要はない。
「いいね、隠密スキル」
マップも見ながら、さくさくと森の中を移動する。ただし、ジャッカルやダイアウルフ系いや、犬系は鼻が利くらしくて10メートルほど近づいたところでアウトだった。唸り声をあげ、集団で襲ってこようとしたので、水攻撃や石攻撃で倒した。




