第11話
明日には転移門へ着く。具体的にはあと10キロ程の位置にいる。
夜道を一気に駆け抜けるという選択肢もあったが、やはり夜間の移動は怖い。隠密スキルがあっても夜目が利くわけではないから転んでケガをする可能性だってある。
いくらケガに効くポーションを持っているといっても、痛い思いはしたくない。安全マージンを取って森にもう一泊することにした。
それに、夕食にと我慢していた焼き肉がどうしても食べたかった。まだまだ周囲が明るい5時ごろには早々にシェルターへ移動して、竜の肉を食べることにした。
たき火で焼き目を付けた肉が食べたいところだが、網もフライパンもないから、魔道コンロに置いた鍋に切り分けた肉を入れる。肉に含まれる脂がいい具合に溶け出して、じゅわっという音とともにあふれ出す。たまらないいい匂いがする。
「もう、我慢できない」
塩をパッパと振りかけて、竹の串に刺して齧り付いた。
ライトノベルズでよく読んでいたように、竜の肉は絶品だった。この世界でも高級食材になっているだけのことはある。しかも10日以上、肉なしの生活をしていたこともある。
思わず泣いてしまった。美味すぎて泣くなんて初めてだ。
明日の召喚では絶対にコショウを手に入れようと心に誓う。焼き肉のたれも欲しいけど、多分こっちにはないと思う。あれはフルーツや香辛料がいくつも入っていたはず。
この世界でも似たような調味料がある可能性はある。だとしても塩コショウがあればしばらく我慢できる。ハズ。
腹いっぱい焼肉とご飯を食べ、食べられると鑑定さんが教えてくれた草も野菜代わりにちょっぴり食べて…携帯食を作り置きする。
携帯食といっても、干し肉や燻製などではない。小さくカットした焼き肉を具にしたおにぎりだ。アイテムボックスの中に入れておけば、移動中でもすぐに食べることができる。
「地味に、まな板も欲しい…」
今は仕方がないから、シェルターの床を洗浄スキルで綺麗にしてから、肉を直接床に置いたままカットした。それで問題がないと言えば問題ないのだが…見た目的にやはり気になってしまう。
「それを言ったら、フライパンやスープ用の鍋とお玉なども欲しい。野営用のキッチンツール一式で揃うといいんだけど…」
今日の召喚で試してみるか? コショウも欲しいし、味噌も欲しい。肉を食べたことで食欲全開になっている。
他に…欲しいスキルはといえば、錬金術スキル、付与スキル、言語翻訳も後回しにするべきかどうか。向こうの大陸には人が多くいる。この大陸では人に会わなかったみたいだけど、明日以降はばったり出会う可能性もある。
森に隠れ住む予定でいるけど、こちらの思い通りになるとはいえない。
「早めに修得しておいた方がいいだろうな」
読み書きできずに未知との遭遇は避けたい。
※言語翻訳になりますと、獣も対象になる危険があります。
世界基本知識さんが忠告してくれた。
マジか…それはやばい。
ウサギに殺さないでと言われたら、倒せる気がしない。かといって、向こうから襲ってこられたら殺さずにはいられないだろうし…。
人の言葉だけ読み書き出来るように、と願うことにしよう。
時間は九時過ぎ。少し早いが寝ることにした。明日はいよいよ転移門を超える。明日は最後の採集を楽しみつつ移動しよう。
*
朝。目が覚めて、いつも通りステータスカードで現在の状況をチェックする。
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マシロ ヒロト16 12 135/135
スキル 【召 喚 3】【地図3】【時計】【回復3】【解毒3】【洗浄3】【水魔法3】【解体3】【薬師3】【隠密3】【料理3】【重量軽減】
ギフト 【世界基本知識】【シェルター】【全鑑定】
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あれ? 気が付かなかったけど、レベル3という表記とレベル表記がないスキルがある。
「………?…」
考えたって分からないか。それよりも、だ。
いやぁ、増えたなぁスキル。ギフトも3つ持っている人なんてかなりレア。危険すぎる。
早くスプレイニドを捕まえて、皮で偽装スキルに変換しなきゃ。黒髪に黒い瞳という外見の特徴を変えたら別人に成りすませそう。
ん? 俺が捕まえに行かなくてもいいのか。
「スプレイニドは珍しくなかったよな?」
※はい。生息域は限られていますが、貴重な素材として広く取引されています。
じゃあ、今日の召喚の1つめはスプレイニドの皮。で、2つめにそれをスキル変換して、3つめは人語限定で読み書きと話すスキルかな。いや、もしかしたらギフトになるのか?
4つめは…味噌かコショウか野営キッチンツールか…うーん悩む。
はっ! 味噌は味噌汁以外にも、味噌焼きにできる!
食欲に負けて、4つめは味噌に決定した。
「よし、朝食を食べたら出発だ」
朝から焼き肉入りのおにぎりを2つ食べ、食後のデザートに桃を食べる。
「桃、美味しすぎる」
腹八分目にして、タイマーを12時にセット。召喚タイムにもアラームが鳴るようにセット。
召喚解禁時間は少しずつずれていって、今は夕方の5時47分。
あと5キロほど移動すれば森を出る。今日中に転移門に辿り着けることは間違いない。もう二度とこの大陸に来ないだろうから移動よりも採集を優先した。
ポーションの材料や食べられるものなど、全鑑定さんに教えてもらいながら採集。そして移動。また採集。そして移動。そうこうするうち、森の切れ目に到達した。時間を確認すると10時過ぎ。
「おおおお…」
この世界に来て、初めて見る森と湿地以外の景色に思わず声が出る。
草原と丘と遠くに岩肌が見える。
「って…ここにもヤバいのがうろうろしているじゃないか」
そう。草原にも恐竜がいた。遠目に見えるのは小型で草食っぽいが…草食がいるということはもちろん肉食竜もいるに決まっている。
陰竜みたいなのがいたら困るので、隠密スキルを発動しておく。
草原にも薬草やニラのような食べられる植物が生えていた。地図スキルで警戒しつつ、採集していく。草食恐竜は狩らなかった。世界基本知識さんの「絶対に狩るべき」との猛プッシュもなかった。
小さい岩の上に座って、昼ご飯にした。昼は塩むすびの方だ。だらだら歩いていただけで身体の方も疲れていないから、カロリー補給したらすぐに出発した。
「もうすぐだな…」
地図スキルによると、あと1キロの距離だ。テーブルマウンテンと呼ぶには小さいが、それでも高さ5メートルほどの平たい岩に転移門のマークがある。
このころになると特に採集したいものもないため、ただただ草原を歩いていく。
「洞窟になってる」
入り口の横幅は3メートルぐらいありそうで、高さは2メートルあるかないか。この辺にいる草食恐竜の子供くらいなら入れそうだが、肉食恐竜のあいつらは入れないだろう。
だとしてもサーベルタイガーもヒョウもダイアウルフも入れる大きさだ。用心した方がいい。
※ご安心ください。魔物は中に入れません。
「え、そうなんだ? それは安心だ」
洞窟の中に入る前に、後ろを振り返ってみる。
草原の向こうにちょっとした丘があるからだろう、森は見えない。少し残念だ。
抜けるまで、長くかかった広大な森。そして…本来なら見えるはずの巨木。世界樹をここから見ることはかなわなかった。
「ありがとうございました」
世界樹さんの方角に向かって、しっかり頭を下げる。
この世界に訳も分からず転移して、世界樹さんに守ってもらったおかげで死なずに済んだ。毒蛇に噛まれて死ぬところだったのが、ずいぶん昔のことのように感じる。
隠密スキルを使わず、転移門へと続く洞窟の中に入ってみる。壁は光コケのおかけで歩くのに支障がないくらいほんのり明るい。奥行きはそれほどなかった。10メートルも進めば突き当りになった。
ここが天然洞窟ではなく人工的に作られたと分かるのは、岩肌の凹凸が極端に少なかったからだ。少しずつ掘削したというよりもいっきに丸くくりぬいたようになっていて、天井は完璧なドーム型だ。
中央に祭壇のような巨石と石柱が取り囲む円形広場があり、その周囲の壁は丸い明かりが均等に配置されている。
「この明かりは何? 魔石?」
※光石と呼ばれる自然発光する石です。
自然に光る石! 欲しいけど勝手に持っていけないよな…。
「で、転移門はどうやったら開く? 呪文でもあるの?」
※魔法紋の中央に立てば、自動的に転移します。
円形広場の中央に、魔法陣らしき紋様が描かれた場所がある。
「そっか。それだけでいいんだ」
転移する前に、せっかくだから…と周囲を調べておくことにした。
まず祭壇のような岩から調べてみることにした。岩の一部にひびが入っている。古くからあるのだろう。
「これはなに?」
濃い緑色をした、ビー玉サイズの球が中央にひとつ光っていた。その周囲を取り巻くように5箇所の窪みがあり、時計でいうところの12時の場所には蒼色の球が光ってる。
※魔宝珠によって転移先を指定します。このままの状態でグラニアス大陸へ転移できます。
なるほど。この魔宝珠を嵌める場所を変えたら別の大陸に転移してしまうのか。ヤバいから触らないでおこう。
巨大大陸に人々が6割んでいるというということは、グラニアスが広いからという理由ももちろんあるだろうが…住みやすいということも考えられる。この小大陸からエルフがいなくなったように…他の大陸にも生存を脅かす生き物がいる可能性は高い。
下手にあちこち触らないほうがいいと判断し、石柱にも近寄らずに魔法陣の中央に立つ。すると床から白い光が飛び出してきて、視界があっという間に白く染まった。…ということはなく、床の魔法紋がほんのりと輝いただけだった。
「あれ? もしかして、これで終わり?」
あっけないというか、あっさりというか…
周囲を見回してみても、どこにも変化はなかった。祭壇も石柱もどこも変わっていないように見える。
本当に転移したかどうかわからないまま、魔法陣から出ようとしたところで身体にだるさを感じた。
ん? なんだろう?
※転移に伴い、魔力が一気に消費されています。洞窟を出る前に身体を休め、魔力を回復しておくことを提案します。
世界基本知識さんがアドバイスをくれた。
「魔力が消費された…ってことは、無事に転移できたんだ」
※この外はグラニアス大陸です。転移お疲れさまでした。
「いや、そこは「ようこそ、グラニアス大陸へ」でもいいんじゃない?」
※ようこそ、グラニアス大陸へ。
世界基本知識さんのまじめなアナウンスに思わず笑いが込み上げる。
「ありがとう、世界基本知識さん。これからもよろしくね」
洞窟の出口に向かって移動し、外が見えるところで足を止める。外の世界は真っ暗だった。
「あれ? 時間が違う?」
時計スキルで確認すると、現在時刻は夜の11時過ぎ。召喚スキルの解禁はとっくに過ぎている。
「大陸間移動したことによって時差が…この場合はどうなるんだ?」
召喚スキルが使えるのか? と自問したところで、使えそうだという感覚が伝わってきた。
「マジか…。ここで一晩泊っても大丈夫そう?」
※《《現在は》》転移門の存在を知らない者のほうが多いため、安全に過ごせると思います。
そっか。じゃあテントを出すか。
洞窟からは出ず、ステルステントを出して休むことにする。まだ腹は減ってないから水を飲むだけにして、ステータスカードで現在の魔力量を確認してみた。
あらら…朝の満タン状態から100以上も減っている。一気に減ったなー。こんなに減ったのは初めてだ。
今日はもう寝るだけだから、回復スキルを1回使って10だけ回復しておこう。
朝起きた時にフルに回復していなかったら、ポーションを飲むことにするか。
「それでは、本日の召喚行きますか」
まず、スプレイニドの皮【召】!
なめし終わった皮がでろりんと現れてぎょっとした。
では、このスプレイニドの皮を偽装スキルに…誰にも見破られない使い勝手のいい…偽装スキルに【換】!
皮が無事に消え、ステータスカードでスキルを確認するとギフト【偽装】となっていた。
「あれ? またギフトになってる」
使い勝手がいい、とか誰にも見破られないとか、調子のいいお願いをしたせいだろうか?
※偽装の能力をお試しになりますか?
ナビゲーターのように世界基本知識さんが話しかけてきてくれた。こちらから働きかけなくても助けてくれるなんて…なんて優秀なんだろう。
地図や鑑定とも連動しているようなことがあったし…今度はもしかして、スキルにも影響が及ぶようになったのだろうか。
はい、お願いします。
※何をどのように偽装しますか?
えーと、その…俺のスキルとかギフトを他の人にバレないようにしたい。
※スキルやギフトでしたら隠密スキルの方をお勧めします。スキルを読み取られないように隠すことが可能です。
「あ、隠密の方でステルスモードにできるのか」
そうだよな。スキルを隠したいって願ってスキル変換したものな。
※ギフトは持たない者のほうが多く、持っていると分かると権力者に囲い込まれてきたという歴史から、秘匿するのが一般的です。
うん、それは以前にも教えてもらったよな。確か、ギフトをひとつ得る人は一万人に一人の確率で、2つは十万人にひとり。3つは百万人に一人、4つ以上となると千万人に一人いるかいないか…って。
俺はすでに4つ、ギフトを持っている。一千万人に一人いるかいないかって…すごい確率になると思う。
※該当スキルやギフトを隠しモードに変更と念じてみてください。
えーと、まずは…そう。隠密スキルを隠そう。これを持っているとバレたくない。
頭の中で隠しモードに変更、と念じてみた。ステータスカードで確認すると表示が消えていた。表示をオンとオフに変更したときにはうっすら見えていたのが、完全に消えてしまったのだ。
※無事に隠しモードに変更されています。どの機関で個人カードを発行しても鑑定されないため表示されませんが、スキル自体が消えたわけではありません。
「おぉおお…」
他にも隠しておいた方がいいスキルやギフトは…召喚と時計と…えーと、反対にいくつ残しておこう。
「スキルはいくつぐらい持っていても不自然じゃない?」
※数よりもバランスに注意した方がいいかもしれません。戦闘能力に優れた者が身体系スキルを複数持っていても不自然ではありませんし、年齢や生き方によっても増えるのがスキルです。
「なるほど。それじゃあ、薬師と水魔法は残しておきたいから…あ、洗浄スキルを持っていることはすぐにばれる気がするからこれも表示のままにして…」
スキル 【召喚3】【地図3】【時計】【回復3】【解毒3】【洗浄3】【水魔法3】【解体3】【薬師3】【隠密3】【料理3】の表示が、スキル【洗浄3】【水魔法3】【薬師3】の3つだけになった。
解体と料理を表示しなかったのは、これを持っていても持っていなくても、経験でどちらもそれなりにできる人がいるだろうと判断したからだ。
これで一安心だ。
※隠密スキルの確認が終わりました。次は偽装スキルの説明をします。
魔力を消費しますが、髪や瞳の色を変えることができます。肌色を変えることも可能ですがこちらは消費魔力量が多く必要なため、短時間のみになります。ホクロやアザなどの一部変色であれば髪の色変えより簡単です。
偽装スキルはコスプレスキルだった。もともとこのスキルを持っていたトカゲだって擬態に使っていたんだ。そりゃそうだって感じだ。
俺個人の外見を偽装スキルで変えてみよう。
学校では派手にならない程度の明るめの茶髪まではオッケーだったが、金髪に染めるのは校則違反になっていた。カラコンももちろんNGだ。
クライミングの有名選手で俺が一番リスペクトしている相馬クリスさん、彼は金髪にブルーの瞳をしている。瞳の方はハーフらしくて自前とのことだが、背も高くて足が長くてとにかくかっこいい。高校を卒業したら一度でいいから彼みたいな金髪にしてみたいと思っていたけど、自分が似合うかどうかの自信は今でもない。
「あ、でも…鏡がない」
自分で似合っているかどうかの確認ができないや。しょんぼり…。
「まあ、でも…瞳の色ぐらいは変えてもいいよね。ブルーにしたい」
黒が青になるくらいはそう、おかしくはないだろう。多分。
※瞳の色を変更、好みの色のイメージを強く念じてみてください。
瞳の色をブルーに変更。ブルーに変更。
頭の中では、相馬さんの優し気な笑顔が思い浮かんでいる。あんな兄貴がいたらいいなぁって憧れもある。
※戻すときには偽装解除と念じるだけで大丈夫です。消費量より回復量の方が多いため通常であれば解除するまで継続されますが、魔力がなくなった時には解除されます。
「うん、分かった」
今は誰が見るわけでもないし、転移でごっそり魔力が減った後だから外見の偽装は解除しておく。
さて、と。わくわくのお楽しみが終わったところで、今日の召喚タイムに戻ろう。
残りは2つ。味噌と人語限定の読み書きと話す能力のどれかかな。いや、もしかしたらこれもギフトになるのか?
いや、野営キッチンツールも欲しいんだった。読み書きよりこっちを先にするか。
では……味噌を、樽入りでいっぱいください! 【召】!
しーん…。久しぶりに来たよ、まったく手ごたえがない。
もしかして、この世界に味噌はないのか? 日本人が転移や転生していたら、味噌ぐらい作っていそうなものだけど……仕方がない。代わりにコショウにしておくか。
あらびきコショウを大袋入りでお願いします!【召】!
今度は長さ30センチ程もある麻袋入りのコショウの包みが現れた。
いそいそと中を確認すれば、綿ぽい素材の小袋がぎっしり詰まっている。店では、この小袋に入ったコショウを販売しているのかも…。大袋入りとお願いしてよかった。
アイテムボックスの中に収納しておけば、時間が経っても香りが飛ぶ心配はない。これだけあれば数年どころか…10年でも持ちそうだ。
あとは、野営用キッチンツールかな。味噌が手に入らなかったのは残念だが、野菜やキノコを利用したスープに挑戦したい。汁物が飲みたい。
最後の野営用キッチンツールはさくっと召喚することができた。新人薬師用製薬道具セットと同じで、木製のトランクケースにセットでいろいろ入っていた。ホント、助かる。セット売り。
まな板とペティナイフで果物をカットし、肉入りおにぎりひとつで夕食代わりにした。
今日は移動距離も短く、肉体的な疲れはない。ただ魔力はごっそり減っているから早めに寝ることにした。
明日からはとうとう、新大陸での生活が始まる。ちょっとわくわくしている。




