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異世界に来たら召 喚スキルがありました  作者: ふぅみ


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89話

 商業ギルド近くで別れ、俺はトルドスのおっちゃんとマルクがいるであろう広場へ向かった。



 お昼時だからか、今でも行列のできる屋台になっていた。見ていると、マルクの接客がずいぶんと上手くなっていた。客相手に笑顔を向け、丁寧に接することも出来ている。初めて出会ったときの、睨むような視線のキツさはもうなかった。髪も短くカットされて、身綺麗になっているから印象がかなり違う。村育ちの子というよりも街育ちの子のようだ。


「あ、兄ちゃん!」

 行列に並ぶとすぐにマルクが気がついた。その声でトルドスのおっちゃんも屋台の端から顔を出した。

小さく手を振って合図を送る。向こうも破顔しただけで忙しそうに作業に戻った。

「兄ちゃん、今日はお客?」

「そうだ。ちゃんと並んで買うから美味しいのを作って欲しいな」

「分かった!」


 順番待ちをしている間にも香ばしい照り焼きの匂いが漂い、空腹感が増す。順番待ちしているほかの客も、腹を空かせた様子で待っている。

 この匂い、たまらないよな。ライバル店がそろそろ出るかもしれないが、まだまだ当分おっちゃんの店は繁盛しそうだ。


「師匠、いいところに。今日から辛み増しソースを始めたんだ。ぜひ食べていってくれ」

「それは楽しみだ。食べ比べるから串焼き3本ずつとガレット包みを4つ。…この入れ物に入れてくれ」

 持ち帰り用に、と用意した横長の弁当箱を2つ差し出す。

 なんだこりゃという顔をした後「さすが、用意がいい」と感心しながら手際よくおっちゃんは持ち帰りを詰めてくれた。


「兄ちゃんのはタダだって」

 料金を支払おうとマルクの方を見ると、受け取らないというように手を振られた。

「世話になりっぱなしだからなぁ」

 そんなことを言うトルドスのおっちゃんも初めて会ったころに比べて随分と余裕のある笑顔を浮かべている。


「分かった。ごちそうになる」

 俺の後にも買うのを待っている人がある。その場から離れて、その辺で立ち食いしようとした。

「兄ちゃん!」

 こっちというようにマルクに袖を引かれて屋台の裏へ。椅子代わりにしているのか、木箱が置いてあった。


「マルクの特等席かな、座ってもいいのか」

 うんというように笑って、マルクは客対応に戻っていった。

 食べ終わったころを見計らったように「師匠、水を頼む」とお願いされた。

 ハイハイ、と壺の水を新しいものに入れ替える。


「マルク終いだ」

 トルドスのおっちゃんの声が聞こえたのは、食後に少しぼーっとしていた時だった。

 見れば待っている客はいなくなっていて、昼営業の波が終わったところみたいだ。

「売れ残りがあるんじゃないのか?」

「そんなのはないよ。自分たちの分の昼用に残しただけだ」

「それは残念」

 余っていたら、全部買っていこうと思ったのに。


「お、どうだった? 旨かったか?」

 新作の少し辛口のタレの味の感想を求められた。

「旨かった。このままでも悪くないけど、味が濃くなっただけの印象もなきにしもあらずで…ピリ辛にした方がいいかも」

「ピリ辛…。ピリ辛か。なるほどな」


「おっちゃん、見えた?」

 客がビール片手にピリ辛照り焼きソースチキンを食べている光景が。

「見えた」

 おっちゃんもアレンジレシピの手掛かりを得たのか、嬉しそうに笑った。

「客は冒険者が多い。エールにも辛い方が合う」

 そうそう。

「これから暑くなるし、ますますエールに合う方が売れる」


「ホレみろ」とおっちゃんはマルクに話し掛けた。

「大人はもう少し辛くてもいいんだよ」

 ああ、試食をマルクにもさせたのか。

「だから、オレはガキだから分かんないの!」


「しかし…師匠はさすがに師匠だ。ピリ辛は売れる!」

 元料理人には何を加えればいいのか分るらしく、自信に満ちていた。

「頑張って改良してみて」

 俺は立ち上がると木箱をひっくり返して、片付けの手伝いをした。


「お婆ちゃんは元気?」

「ああ、変わりない。良かったら顔を見せてやってくれよ」

「…そうさせてもらうよ」

 あまりゆっくりしていられる時間はないけど…


 帰り道、マルクが嬉しそうに言った。

「いま、お婆ちゃんに字を少しずつ習っているんだ」

「そうか、頑張っているか」

 えらいぞ、と褒めておく。そういや石板を買ってやろうと思っていたのに忘れていた。

「石板をプレゼントしようと思っていたけど、買うのを忘れた」

「石板なら、おっちゃんに買ってもらったよ」

「そうか」

 被らなくて、かえってよかったか。


「何がいいか分からないから、金で渡しておくか。好きなものを買うといい」

 銀貨1枚、1万円分を出すと目を丸くした。

「それ、多すぎだぞ」

 おっちゃんは笑うが、自分だって結構色々なものをマルクに買い与えているんじゃないかと思う。古着だろうけど見るたびに着ている服が違うし、靴もサイズに合ったものだ。


「このくらいは計画的に使わないとすぐなくなるって。冒険者になったら、あれこれ必要になってくるものがある。おっちゃんに相談しながら使え」

 おっちゃんの方を見てから、マルクは俺へ顔の向きを戻した。


「分かった。ありがとう。相談しながら使う」

 マルクは受け取ってからおっちゃんに銀貨を差し出した。

「おっちゃん、預かっていて。オレ、いま欲しいものないから」

「分かった。大切に預かっておく」

 大切なお金を預けてしまえるほどの信頼を築いていると思うと安心した。


 おっちゃんの家に戻り、マルクが家の中に駆けていく。開けっ放しになっていたドアから入るとお婆ちゃんに抱き着いているマルクがいた。ホント、ずいぶん仲良くなったなぁ。


「まあまあ、よく来たねぇ」

 嬉しそうに笑って出迎えてくれるおばぁちゃんにホッとした。顔の血色もいいし、とても元気そうだ。

「忙しくてなかなか来れなくてごめんね、お婆ちゃん」

「いいんだよ。元気でいさえすれば…」

 近くに行き、服の下に隠していたギルド証を出す。

「お婆ちゃん、俺…紫鉄になったんだ」

 ほら、と紫色のラインが入ったギルド証を見せるとお婆ちゃんもマルクもぽかんとした。

 遅れて居間に入ってきたおっちゃんが「どうした?」と聞くのでギルド証を見せると、彼もぽかんとした。


「紫鉄って、お前…」

「かなり忙しかったよ、いろいろと」

「忙しいって…普通、どう頑張ったって数カ月で紫になんかなれないんだぞ!」

「そうみたい。ちょっとやり過ぎてしまったみたい」

「やり過ぎて…って、おい、それで済ませるのかよ」

「すげぇ。兄ちゃん、すげぇ!」

 この世界の人はみんなギルドランクのことが良く分かっているみたいだ。


「おい、マルク。あれは別物だからな。化けモンみたいなもんだ。普通の人間は紫に上がるのにすごい苦労するんだからな。勘違いするなよ」

「分かってるって、おっちゃん。村に来た冒険者だって、もっと歳食ってても黄とか青だったよ。青2から紫に上がるのには難しい試験があるって言ってた」


 ギルドマスター権限でその試験は免除になった、とは言いにくいな。

「えーと、それで…長期の護衛でこの街を明日出る」

「明日! 急だな」

「長期って、どのぐらい?」

「片道1カ月の予定かな」

 そのまま行方をくらませる予定だけど。


「オレのスキル確認の儀式が終わってるね。帰ってきたら…もしも水魔法をもらうことが出来たら、いろいろ教えて欲しい」

「悪いが、その約束はできない」

 マルクの表情が悲しみに変わった。


「マルク、俺は冒険者だ。今回の依頼が終わったら、そのまま他の町を見に行こうと思っている。この街にいつ帰ってくるかは約束できない」

「でも、帰ってくるんだろ?」

 おっちゃんもお婆ちゃんも俺の返事を待っている。もちろん、帰ってくるよという返事を。

「約束はできない。でも、また来たいとは思っている」

 この街に家も買った。エミナルお婆ちゃんの家を大切にしたいという思いもある。


「そうか、なら…いい。マルク、笑顔はどうした。泣いている暇があったら歯を食いしばって笑えって教えたぞ」

 マルクは首を振って、俺に抱き着いてきた。泣き顔を必死に隠すように、泣き声を洩らさないように唇を噛みしめたまま。

 もう二度と会えないかもしれない。冒険者が町を離れた後、どうなるか分からないといことをマルクは理解したのだ。


「おにぃちゃん…おれ、ガンバルから…あり、がと。村から、連れだしてくれて…」

 涙声で、必死に言葉を絞り出すマルクの細い肩を抱きしめる。

「連れ出したわけじゃない。マルクが自分で自分の道を選んで、そしてここまで来たんだ」

 違うというようにマルクは首を振る。


 まだ8歳ぐらいだと思っていた小さな子供が、たった一人で村を捨て、未来に向かって歩いた。背中を押したのは俺でも、歩いたのは彼自身だ。

「次に会う時は、お互いにいろんな話が出来るといいな」

 笑顔でいい話が出来ると…いいなと思う。


 マルクの肩を撫でてから、少し引き離す。

「これは健康のおまじないがついたネックレスだ」

 エミナルお婆ちゃんの分を作ったときに、多めに作ってみた。


「マルクのは水色。色は違うがみんなとお揃いだ」

 細い首に掛ける。大人用と同じに作ったから、今だとやや大きい。そのうち成長期が来るだろうから…我慢してくれ。

「こっちはおっちゃんの分、これがお婆ちゃんの分」

 おっちゃんには赤っぽい茶色、お婆ちゃんには赤を薄くしたほんのりピンク色の魔石を使って祝福を付与してある。


 おっちゃんは俺が何やら人には言えないスキルを隠し持っていることを察しているのか「作ったのか?」とも「買ったのか?」とも聞かなかった。

「すまんな、ありがとう」

 おっちゃんは俺から二つのネックレスを受け取り、お婆ちゃんに手渡した。

「ありがとうね。大切にするよ。…元気でね」

「お婆ちゃんも、次に会う時までお元気で…」


 お互いにややぎこちないながらも、笑顔で別れた。



 これから先どうなるかは誰にも分からない。ただ、彼らとはまた会いたいなとは思う。会えたらいいなと思った。


*



 次の目的地である冒険者ギルドに向かった。やはりギルドの建物近くに来ると、マーク済みの人が待機しているのをマップさんが知らせてくる。

 認識障害のスキルのテストも兼ねて隠密で隠れることなく、認識阻害だけで歩いてみた。すると向こうにも俺が見えているはずなのに、全く反応しなかった。


 へーまたあいつか。商会の使いだといってやってきた男が建物の物陰に隠れながら通りをじっと見ている。

 不自然にきょろきょろしている身なりのいい男もいる。あっちのは商人っぽくないから、貴族の使いか何かだろうか。

 こちらは気がついているのに向こうからは気づかれないというのはいいな。


 ギルドの建物の裏側に回り、認識障害をオフにしてから入る。先にギルド長に面会したい。

 2階へと続く階段を上がりかけたところで、トイレに入っていくギルド長の背中を偶然捉えた。

 廊下でトイレから出てくるのを待ち「少しお時間をいただけませんか?」とお願いしてみる。


 しばらく考えて「分かった」と同意してくれたが「すまんが15分ほど時間をくれ」と言われてしまう。急ぎの仕事があるのかも。

「分かりました。後ほどお声がけします」

 同意して、時間つぶしのためにギルドの備品売り場へ向かう。ここは初心者用の冒険者御用達グッズから中堅どころまで幅広く商品が取り揃えてある。値段も手ごろだし、なにより信頼できる品質のものしか置いてない。

 売り子の手伝いや商品補充の仕事をしている小さい子は、ギルドに仮登録中の冒険者の卵だろう。彼らは売店の他に、建物内の清掃をしたり職員たちの業務のちょっとした補助をしたりしながら働いている。

 親がいない子供や、親から逃げ出してきた子供など…いろんな理由はあるだろうが、冒険者ギルドという受け皿があるおかげでこの街のストリートチルドレンは少ない気がする。


 せっかく来たのだし、消耗品をいくつか購入していくことにした。 

「そろそろ時間か…」

 ギルド長室がどこにあるかは分かっている。初めて訪れたけど、マップさんが教えてくれた。 


 ドアをノックするとすぐに返事が返ってきた。

「入れ」

「失礼します」

 入ってドアを閉めると、ギルド長は防音の魔道具を使った。

「行くのか?」

「はい。明日の朝早くに発ちます」

「そうか、セルビナには?」

「この後、ご挨拶させていただきます」


 俺は首に下げていたネックレスを外し、ギルドカードを机の上へ置いた。

「どういう意味だ?」

「…ここに登録してから入金された報酬のすべてを、冒険者ギルドに寄付します」

 ギルド長はしばらく無反応だった。耳の穴に指を突っ込んでぐりぐりとしてから「もう一度」と言った。


「このカードに入金されている報酬のすべてを、冒険者ギルドに寄付します」

「は?」

 まさか、三度も同じことを言わせるつもりか?


「いやいや、それはないだろ」

 ギルド長は慌て始めた。

「登録してからと言ったら、あれだ。オークションで稼いだ分も全部か?」

「全額です」


 ギルド長はガシガシと髪の毛をかきむしり、天井を見上げ、そして最後に大きな溜息をついた。

「…意味が分からん」

「このギルドに寄付するのは、冒険者の卵たちへの支援に使って欲しいからです。10歳から仮登録を認め、15歳まで保護と教育を施す役割をこのギルドが担っています」

「それが決まりだからだ。ある一定以上の規模のギルドが負う義務だ」

 この街には冒険者ギルドは他にもあるが、冒険者の卵を受け入れているのはここだけだ。


「いくら義務であっても、運営費を稼ぐのは大変なはずです。現状運営費に困っていないのであれば、寄付した金額が尽きるまでの間、通常よりも手厚い支援をお願いします」

「それは…お前にとってどんな意味がある?」

「ギルド長もご存知のように、偶然の発見により騒動が起きました。ハッキリ言って、有難迷惑でしかなく受け取りたくない」

「………」

「青いことを言っている自覚はあります。お金に綺麗も汚いもない」

「分かっているなら…」

「分かっていて、あえて言わせてもらいます。俺が正当に稼いだお金です、どう使おうと勝手だと言わせてもらいましょう」


「お前…」

 寄付すると言っているのだから、四の五の言わずに受け取っておけ。そんな思いでギルド長の目をじっと見つめる。


「冒険者の卵たちへの支援、だな」

「そうです。生存率を上げるためにも、装備に気を使っていただけるとありがたいです」

 ケガなく子供たちが成長していけますように。そう願って、思いついたのが寄付だった。胸当てひとつ。頑丈な靴ひとつ。身の安全を守るために、ひとつでも装備を良くしてあげたい。

 マルクのようなガリガリで食べることにも困っている子供が、必死に生き抜いている。そんな現状を知ってしまったから、手を伸ばせる範囲にだけ腕を伸ばす。


 海に消えていた…沈没船から回収したお金を手に入れてしまってから、いつか寄付をしたいと思っていた。困っている人の元にお金を届けたいと思っていた。だが反則のような方法で手に入れた表に出せないお金ではなく、ここで俺が稼いだ報酬は表に出せるお金だ。寄付として差し出しても受け取ってもらえるお金だと思う。


「あ、そうだ。ひとつだけお願いが。あるクエストを定期的に発注、その支払いに一部を充てて欲しいのです」

「あるクエスト?」

「はい。エミナルお婆ちゃんの家の庭の草むしりとその隣にあるマンションの掃除クエストです」

「その建物(マンション)はすでにギルドの持ち物…いや、分かった。定期的にクエストを発注しよう。もちろん報酬は預かった分から支払っておく」

「はい。お手数をおかけしますが、よろしくお願いします」


「…他にも、いろいろ検討しておく。後進のための寄付、ありがたく受け取ろう」

 ギルド長はギルドカードを机の上から取り上げて、部屋から出ていった。


 ギルド長へのお願いは済んだ。あとはセルビナさんに挨拶をしたら…この街でやり残したことはない、ハズ。

 と、思って思い出した…鍛冶職人の親父のことを。

 購入してからピアッシュと剣の手入れを一度も頼みに行ってない。鳥肉の差し入れぐらいしようと思っていたはずなのに…あれこれ忙しくて忘れてた。


 あー、まあいいか。かなり迷ったが、そう結論付けた。

 この先の旅の準備に使える時間が残り少ない。夕飯の時間までに帰らなきゃいけないし…うん、悪いけどムリだな。




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