83話
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このゴーレムのコアを、壊れる前の状態…新品に直してください! 【環】!
強く念じるようにしてスキルを使う。
「お、お、成功…した。成功、したー!」
ヒビが入り、色褪せていたコアが新品のように直っていた。
やったー! やった、やったー!
鑑定で確かめても、『壊れた』という説明がなくなっている。
これって、壊れて部品取りするしかなかった魔道具も元に戻るってことじゃない?
いやあ、わくわくする。レベルが上がって、本当に良かった。
「えーと…今日はもう1回出来るんだよな」
と、ゴーレムの核を手にしたところで…疑問が浮かんだ。
錬金術師さんのところに、壊れたゴーレムがなかったかな? 核に戻さずに、修理しようと残していたものがないだろうか?
正直、作業部屋の隅から隅まで見たわけじゃない。地下の鍛冶場はそれなりに探索したが、2階にある作業部屋とかそれぞれの作業机の引き出しとか、丁寧に見たわけじゃない。
「もしかしたら、探せばあったかも」
とにかく、部屋のあちこちにマジックバッグやマジックボックスがごろごろしていた。中身を全部取り出していないものもある。
「うわー。なんで今気がつくんだよ」
今夜帰ったときに気がつけばいいのに。
だけど…あの時気がついていたとしたら、街に帰るのが遅くなってしまっていただろう。門が閉まっていたら外で野宿して、朝になって門内に入ったらすぐにカンゼルとの待ち合わせ場所に直行だったかも。
「今回は、これだけでも数があるし…」
2つ目のコアも新品状態に直して…終わり。明日からは【環】優先でスキルを使っていこう。
「そうだ、明日。明日も早いんだった」
朝からバッファロー狩りをして、終わったらギルドで納品。解散したらエミナルお婆ちゃんの家へ行ってハイセイの街へは通常だと1カ月かかるってことを伝えなきゃ。
旅が短縮できる方法があることは、まだ内緒にしておこう。自分でもまだどういうやり方がベストか決められない。馬車型ゴーレムを作ったわけでもないし、試験もしないでぶっつけ本番というわけにもいかない。
「やることいっぱいで、忙しいぞ」
そういやカンゼルの貯金、幾らになったんだろ。明日聞いてみよう、と思いつつクリーン! ベッドに入ってそのまま寝た。
*
翌朝、7時半に部屋を出て、8時にカンゼルと門の前で待ち合わせた。
「おはよー、ヒロヤ」
「おはよう」
「今日もよろしく」
「よろしく」
東門を出て、しばらくは他に冒険者や行商人などもいて、当たり障りのない話しか出来なかった。いつも通り、人気のない方へ移動していき、やっと内緒話も出来るようになる。
「なぁ、カンゼル。昨日までに幾ら貯まった?」
「あー、それな」
ん? なんだ? 歯切れが悪いぞ。
「昨日、仕事休みにしようってヒロヤも俺も休みにしただろ」
「そうだな」
忙しくて、全然休んだ気がしないけどな。
「しばらく行ってなかったから、盾のメンテに鍛冶屋へ行ったら…大銀貨3枚が消えた」
大銀貨3枚って…30万かよ。
「つまり、新調したのか?」
気がつかなかった。というか、背中に背負っているから今も見えないな。
「細かいヒビか入ってて、いつ壊れてもおかしくないって言われた。やっぱりヒロヤに言われたとおりに休日を作って、装備のメンテをするのって大切だと思ったよ」
「はぁっ…壊れる前でよかったな」
バッファローの突進を受け止めた時に破損でもしたら、弾き飛ばされて怪我をしていたかもしれない。いや、ケガで済んだかどうか。
注意はしたが、カンゼルの装備を鑑定していなかったからそんな状態だとは気がついていなかった。臨時とはいえ、ペアを組んでいる間くらい相手の装備を鑑定しておいても良かったかもしれない。
「あと、それと…真っ正面から受け止めるのを減らして受け流す技術を磨けとも言われた」
「そうだな。そこは長持ちさせるためにも重要だ。命には代えられないと言っても、安い買い物じゃないんだからな」
「ああ、同じことを言われたよ」
「で、結局幾ら必要になったんだ?」
金貨1枚、100万を貯めるはずが、盾の新調で30万消えたことになる。
「大銀貨5枚と少し」
つまり、残り50万ちょいか。振出しに戻ったな。単純計算で、これまでのペースで狩りをして4日。稼ぎが悪い日があることも考慮すると5日というところか。
エミナルお婆ちゃんもこの街を去るためには所有しているアパートを処分したり、家を売り払ったりしなくてはいけないし、持っていくものを選別する引っ越し作業もある。一週間や10日ほどかかると予測したら…まあ、なんとかなるか。
「いつもみたいに群れを探そう。1日空けたから、メス以外で」
メスを狩りすぎると数が減ってしまう。
「うん。頑張るよ」
盾が新調したばかりで、張り切り過ぎていないといいけど…と少し心配したが、蓋を開けてみれば新しい盾は安心感が違うのかカンゼルの身体の動きが良くなっていた。
「ひとりで受け流して、隙をついてとどめを刺す。危なげなく出来ているな」
「ヒロヤが初めに釣り出して弱らせてくれるからだよ。群れの中に突っ込んでいったら、普通はひとりで出来ないって」
血抜きナイフは経費扱いにして数を増やしたため、倒した後の処理も早くなっている。
「どう? 身体の調子は良さそうだけど?」
「実際、いいよ。自分でも驚いている。ヒロヤの言うように、定期的に休みを入れる方がいいみたい」
「よし、こっちも終わり。そっちが終わったら、帰ろう」
「いいけど…飯は?」
「歩きながら済ませる」
「お? なんか午後からの用事があるのか?」
「違う。今日はもう一回やる」
「マジかー。珍しいな。…あ、血抜き終わった。多分」
カンゼルの近くまで行って、子牛を120のマジックバッグに入れる。
「よし、帰ろう。…カンゼルも調子良かったし、1回ぐらい2周戦を経験しておきたい。実際、狩りが終わった後に思いがけない事態になることだってあるだろ?」
俺はマップで回避できるけど、帰り道に偶然群れと出くわすとか…上位種に見つかって追いかけられるとか。俺ならシェルターに逃げ込むけど。
「疲れた状態での第2戦になったときのことを想定しておくのもいいと思って」
「ヒロヤって…ホント頭使ってんだな」
街に向かって歩きながら、カンゼルは感心したように言った。
「俺なんか、ただ戦っていくうちに強くなるだろうとか、ソロで頑張れば早く強くなれそう、とかそんなことしか考えてなかったのに…すごいな」
「頭は常に使った方がいい。強くなりたいなら、なおさら」
「そうだな。ヒロヤを見て、こうして一緒に一緒に戦ってると、それが良く分かる。筋肉を鍛えるだけが強くなるやり方じゃないってことが」
兵士になりたいという夢があるからか、カンゼルは一生懸命で前向きで、生き生きとしていてパワーに溢れていた。
この街の冒険者の頂点に上り詰めた昨夜の銀髪の男と、つい比較してしまう。
「夢があるっていうのはいいな」
「…なんだよ、茶化すなよヒロヤ」
「そんなんじゃないよ。夢があって、追いかけていると…楽しいってことだ」
「楽しいって、なんだよ…。ヒロヤにも、あるのか? 夢」
「あるよ」
「なんだよ、教えてくれよ」
本当の願いは口にはできない。でも…
「いろんな景色を見てみたいな」
「いろんな景色?」
「行ってみたことがないところに行って、その土地の美味しいものを食べたい」
「なんだよ、そりゃ。ただの旅人か」
「いいね。ただの旅人」
カンゼルは少し驚いたような顔をした。
「マジで、旅人になりたいんだ。ヒロヤにとって冒険者は、ひとりで旅をするための…強さを得る為なんだ」
「強さもそうだけど、安全と、お金かな」
一般的な意見を言えば、そういうことになるはず。
行く先々で冒険者をして路銀を稼ぎ、ひとりで旅をしていても大丈夫なように腕を磨く。
「そうか…そうだよな。旅人になるのに冒険者はピッタリだ。そうか…ヒロヤはこの街から旅立つんだな」
「カンゼルはこの街の兵士になるのか?」
「分からない。この街の兵士がいいなとは思ってるけど、兵士になれたとしてもどこに配属されるかは、分からないだろ?」
「あー、そうかも」
そんな話をしながらギルドに戻ると、何やらいつもと違う。あれ? と思いながらホールを見渡すと、今日もセルビナさんの姿がない。
きょろきょろとしていると、ヒナヒーラがやってきて教えてくれた。
「セルビナさん、お休みだって。他にも、ギルド職員が10人ほどお休みみたい」
「へ―それで、いつもより閑散としているのか」
カンゼルもそう言いながらキョロキョロしている。
「なんか、昨日は残業をしていた人が多かったって…。朝の集合の時に聞いたよ」
あーそうか。オークションでド深夜まで残業させられて、疲労がピークに達した人や体調を崩した人も…いたかもしれない。
「ミンダオさんは?」
「そっちは変わりないみたい。朝の集合の時に見かけたよ」
「そっか、ありがとうヒナヒーラ」
カンゼルに行こう、と促して解体場へ。
「ミンダオさーん!」
「ん? 早いな、まだ昼過ぎだぞ」
「今日はもう1周してきますので、まとめでお願いできませんか?」
ぎょっとしたような顔をして、慌てて近寄ってきた。
「もう1周って…今、どのぐらい持ってきた?」
小声で確認してくれる。俺たちぐらいの歳で狩ってくる量ではないのが分かっているから、隠したい。そんな思いを理解してくれるから、ミンダオさんも配慮してくれるのだ。
「前回と同じ数で、レアなしです」
ほっとしたように表情を和らげた。
「分かった。隣に出していけ。後はやっておく」
「鍵は?」
「開いてるぞ」
「ありがとうございます」
ささっとオスと子牛合わせて6頭を置いて、カンゼルとギルドを出る。
「狩場、どうする?」
「んー変えるか。今からだと奥まで移動する時間が惜しい。だな。上手くハグレがいればいいけど…」
と言いつつ、マップさんを駆使して誘導する気マシマシだ。
「向こうに5人組がいるからこっちへ行こう」と言いつつ進路を決めたり「なんだか、あっちにいそうな気がする」と誘導したり。
「カンゼル…」
「ああ、オス2頭だけだな。ツイてる」
麻痺を塗布したピアッシュを両足に投げた後は、カンゼルに任せるように背を低くして隠れる。カンゼルがうまく2頭を誘導し、牽制して時間を稼ぐ。
少し動きが鈍くなってきたころを見計らって、死角から忍び寄った。
カンゼルが盾で突進を受け流す動きを見て、離れたオスの首を一撃。俺が突くのを見て、カンゼルは攻撃に転じて、もう1頭の首を斬った。
「お疲れさん」
「そっちも…。カンゼル、血抜きは後回しにして次に行こう」
「了解。…頼む」
2頭ともマジックバックに入れ、次を探す。
「どっちにいると思う?」
「んー」
迷うフリをしてあちらこちらを見てから…
「向こうに影が見えた気がする。行ってみよう」
一番近くにいた群れに誘導した。
「7頭か…。ついてないな、群れがデカすぎる」
「全部やる必要はないよ。子牛2頭とメス2頭を狙う。カンゼルは少し離れ身を低くしていてくれ。」
「ヒロヤ、ひとりで大丈夫か?」
「近寄らないから大丈夫だ。遠くから狙うからいくつか外れるかもしれない。騒ぎ出して突進してきたのだけ、いつでも受け流せるように…頼む」
「ああ、任せろ」
子牛2頭には睡眠薬を使った。子牛とはいえエミナルお婆ちゃんより大きいから、即効性が…あったな。ピアッシュが当たったときの傷みにびっくりした子牛が、逃げようとした途端に地面に倒れた。
持続性の実験もしたいが、今はダメだ。
子牛の異変に気がついたメスたちが、地面の草を食べるのをやめて顔をあげた。遠視スキルでしっかりと狙いをつけ、風魔法で追尾支援をしながら狙った2頭へピアッシュを投げた。こちらは麻痺薬が塗ってある。
自分たちが襲われていることに気がついて騒ぎ始めたが、メス2頭は身体をふらつかせ始めた。
「カンゼル、そのまま様子をみる…待て」
こちらから突進していけば、死に物狂いで突進してくるメスバッファローがいるかもしれない。
「逃げていくな」
数分ほど様子を伺っていると、座り込んでしまったメスを置いて逃げ出した。子供は横になったまま動かない。
「メスからとどめを刺していこう」
盾を構えたカンゼルを先に接近させると…慌てたように立ち上がるが、メスはよたよたした動きしかできなかった。
「こっちは大丈夫そうだ。子牛を任せる」
「分かった」
カンゼルにメス2頭のとどめを任せ、俺は子牛の方へ。息の根を止めて2頭とも血抜きをする。
近くにカンゼルがいないこともあって水魔法の吸引でズルをする。2頭の処理を素早く済ませ、マジックバッグへ。先に入れていた方の子牛とオスを出して、こちらの血抜きをする。
「急いで戻れば、暗くなる前にギルドへ戻れそうだな」
「ああ、だけど走るのは嫌だからな」
「分かってるよ。だけど、ヒロヤ。もっと早く歩く練習をしてもいいんじゃないか?」
「身長差を考えろよ。…足の長さだけを見るんじゃないって」
「悪い、悪い。拗ねるなよ」
歩く速さが遅いことは自分でも気になっている。
「ヒロヤ、ゴメンって。無理しなくてもいいって」
「いや、少しくらい練習する」
「変なとこ、負けず嫌いなんだから…。へばったらおぶっていってやるよ」
「それはヤダ」
ケガしているとか、歩けないならまだしも…
「じゃあ、ペースを落としていつも通りでいいって」
「……そうする」
討伐の後にこんな会話をしながら街へ帰れるのも、チームを組んでいるから出来ることだ。色々制約はあるけど、誰かと一緒に行動するのも時々なら悪くないかもしれない。
街へ入る検問の行列に並んでいると、この前絡んできた嫌な奴らが前の方にいるのに気がついた。
そっとカンゼルの身体の陰に隠れてやり過ごす。
「どうした…?」
俺が隠れたことに気がついたのかカンゼルが小声で聞いてきた。仕方なく理由を伝える。
「前に、絡んできた奴らがいた」
「絡まれたのか?」
「少しだけな。黒2の冒険者に助けてもらった」
「黒2って銀のヴァン?」
「名前は知らない。でも銀髪でセルセラのトップだって人」
「じゃあ、ヴァンさんで合ってる。…そか、ヒロヤは見た目で…騙されるのがいるんだな」
「騙される、って…」
まあ、あいつもそんなこと言っていたけど。
助けがいらなかったかも、なんて言われて嬉しかったのも確かだ。
「ヒロヤ、いま青だろ。すぐに紫に上がるだろうから、その頃になると周りも慌て始めるんじゃないか」
紫か。やっぱり、紫が実力を測るひとつの物差しになっているのか。
「俺もあっという間に追いつかれて驚いたし、驚いている間に追い抜かれると思ってる」
「カンゼル、それは…。運が良かったというか…たまたまで」
「運も実力のひとつ、って聞いたことがあるよ」
「………」
行列が前へ進み、あいつらがいなくなったことにほっとした。
「すぐに追い越してやろうぜ。ああいう嫌な先輩、みんな悔しがらせてやればいいんだ」
「カンゼル…」
そうだな。他人を利用しようとする嫌な奴らのことなんて、悔しがらせておけばいい。向かってきたなら叩きのめすつもりで、蹴散らしてやろう。
とはいえ、めんどくさいから関わらずに逃げる道を選びそうな自分もいるけど。
「あー、やっぱ混んでるな」
昨夜ほどではないが、ホール内は汗と血の匂いがこもっていた。
「先に解体場へ行こうか」
持ち込んだ数と状態をミンダオさんに頼んで確認してもらわないと、査定してもらえない。
「それはヒロヤに頼んでもいいか? 順番待ちしておくから」
「そうだな、二手に分かれた方がいいか」
どの窓口も混んでいて、待ちの列が出来ている。カンゼルと別れて解体場へ。ミンダオさんの背中を見つけて、声を掛ける。
「ミンダオさん!」
「おう…ヒロヤ。少し待て」
待っていると、嫌な奴らのうちの1人がやってきた。ここにいないと思ってほっとしていたのに。
「なんだ、ガキが来るようなところじゃないぞ」
仲間が一緒でなくても態度はデカいままか。やっぱり、カンゼルが言うように俺の見た目で侮られるんだろうな。
「目障りだから出ていけ、邪魔だ」
「なにを騒いでやがる」
ミンダオさんが戻ってきてくれた。
「あ、いえ…用もないのにガキが紛れ込んでやがるんで、注意してやっていただけでさ」
「そんなことはないぞ。ヒロヤ…」
隣へ行ってろと顎を動かすミンダオさんに「そんなはずは…」となおも食い下がる。
「俺たちはバッファローを狩ってきたんだぜ。ガキの獲物とは物が違う」
「モノが違う、ねェ」
ミンダオさんの目がこちらを見て、そこで待ってろと逆の合図がきた。




