82話
「豪勢だな」
久しぶりの陰竜ステーキ。白米。タケノコの炭火焼き。デザートは桃のコンポート。そう、白米以外はユニレシア大陸産のもの。魔力が豊富なあの大陸で手に入れたものが中心だ。
「久しぶりに食べると…なんだろう…」
旨味以外に感じると言うか、腹に溜まっていくにつれて身体がほこほこと暑くなってくるというか…。
まだ消化するには早い。早すぎる。
「タケノコ、初めて食べたけど…」
食べづらい。というか、飲み込みにくい。マズいというわけではないが、何やら不思議な塊というか…熱量を飲み込んでいるような…いや、これはタケノコのせいか? 竜のステーキのせいか?
デザートの桃のコンポートでフィニッシュにしようと思ったら…ぐわっときて、ポカポカ…いや身体が熱っぽい。
「これって…」
以前、一度だけ経験したことのあるあの感覚に似ている。急激に魔力量が増え、ランクアップしたときの……。
車酔いしたときのように、少し気持ちが悪い。所持するスキルが多すぎて、一気に情報が入ってきたことでスキル酔いというか…変調した感じだ。
……最悪。少し吐きそう。
ベッドにひっくり返ってしばらくじっとしていると、ゆっくりスキルが体に馴染んでいくのか、気持ち悪さが治まってきた。
「でも、まだ動きたくない感じ」
休日にしておいてよかった。狙ってアップしておいてよかった。
何かとの戦闘中にランクアップしていたら、戦闘とどころではなくなっていた。
「ステータス」
5分か10分か…分からないが、ようやく吐き気が治まってくれたことで落ち着いてきた。
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マシロ ヒロト 17《年齢》 22《ランク 社会的貢献度》 154/154《魔力量》
スキル 【召 喚4】【地図4】【時計】【回復4】【解毒4】【洗浄4】【水魔法4】【解体4】【薬師4】
【隠密】【料理4】【重量軽減】【鋳造4】【付与4】【風魔法4】【商人4】【錬金術4】【剣術4】【裁縫4】【細工4】【熱源探知】【計測】【遠視4】【暗視4】【皮製品作成4】【投擲4】【体術4】【麻痺耐性4】【弓術4】【身体強化】【気配遮断】【思考補助】【観察】【聖魔法4】【火魔法4】【鍛冶4】【槍術4】【危機察知】【斧術4】【結界4】【魔力感知】【魔力視】
ギフト 【世界基本知識】【シェルター】【全鑑定】【偽装】【全人語】
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ユニレシア大陸産トリプルコンボはやり過ぎたか。一気に6つも魔力量が増えてるよ。
「あーそうか。そういや、タケノコって雨後の筍っていうぐらいものすごい勢いで育つよな。生育のパワーがすごい植物だ」
地面から頭を出したと思ったら、ものすごい勢いで成長する。その成長パワーをたっぷり蓄えたのがタケノコだとしたら…。魔力たっぷり食材に違いない。
ふうっと溜息をついて、深呼吸。
「よし、ステータス」
もう一度スキルを確認しよう。魔力が増えていたことと、レベルだけ確認して目を閉じてしまった。
「……あ」
スキルが2つ、増えている。
魔力感知と魔力視? どんなスキルなのかと集中してみて、すぐに分かった。
「これ…ああ、これかぁ。スキルだったのか」
以前俺が洗浄スキルを使ったとき、すぐに魔法を使ったことが冒険者にバレた。それから用心して、誰かが近くにいるときは隠しておきたいスキルや魔法は使わないように気をつけている。
魔力のコントロールに長けた人や気配察知に優れた人が習得するスキルなんだろうな。
「なるほど…」
このスキルがあれば誰かが魔法を使おうとしていることも分かる。もちろん、使ったことも分かる。残り香のように痕跡が分かるのか。
裏を返せば、これ。自分の魔力を洩らさないよう…訓練に使えるってことだよな。
それより、聖魔法の方はどうなった?
「…お。おお、やったー」
自分の中を探るようにしてスキルを調べるというのか、自分自身に何が出来るのかを探るというのか…そんな感じで知ることができる。
出来る。出来るよ。とうとう、俺にも聖魔法の結界が使える。使えるようになったよ!
レベル4で出来るようになったのは、サンクチュアリ(聖結界)とディスベル(呪いの解呪)。
コワイ呪いが解除できるって…どうなんだろう。嬉しいような…そもそも呪いなんて怖いものに近づきたくないというか…微妙な気持ちだ。この世界にそんなものがあるのかよ、と今でも思っていたりするがスキルとしてあるからには…マジにこの世に呪いがあるということで…呪いを解くことが出来るということは、逆に呪いをかける人がいるということでもある…ハズ。
「怖いな…」
この世界にも陰陽師がいるのか? あぁ、ある意味俺がそうなったのか。お祓い=解呪だとしたら。
「ま、まあ…持ってないよりあった方がいいスキルということで…」
一番いいのは、使わずに済むことだけどね。
「えーと、他には…」
よく使う水魔法が、プリズンアイス(氷の檻)。ウォーターキャノン(高圧水流)。風魔法が、ストーム(広範囲の暴風)。ハリケーン(竜巻)。
召 喚の方は…レベルが上がっても回数が…え? 減った?
って、なんだこれ。ステータスカードに見たことがない説明文が増えているぞ。
《一日2つあるいは2度、召 喚できる。》半分の回数になっていて
《一日2つあるいは2度、送 環できる。》って、これは一体何なんだー!
送 還? うん、これも微妙に空白があるし…
送の文字の説明が…出た!
《送ることができる。希望のものを元の場所へ送り返すことができる》
環の文字の説明が…出た!
《環すことができる。希望の状態へ戻すことができる》
待て待て。待てよ。これは良く考えなきゃ。
【送】で希望のものを元の場所へ送り返すことができる? って、つまり…召で取り寄せたものがいらなかったり、いらなくなったら元の場所に返せるってことだよな。
例えば、以前召喚して失敗した、腐ったコーヒー豆を「いらないから帰すー」と送り返すことが出来るって…こと、だよな?
「…………」
いや、落ち着け。もう一度ちゃんと読め。
希望のものを元の場所へ送り返すことができる、って書いてある。元の場所へ元あったものを返せる、とは書いてないだろ。
「え…つまり、これって…」
勝手に品物を貰って泥棒していたー! って俺の悩みを解決してくれるありがたい機能だ。
「つまり、米を取り寄せてから米の代わりに代金を【送】で送れる…支払えるってことじゃないか!」
……心臓が、ドキドキしてきた。
もちろん、召喚しておきながらいらないと判断したものをそのまま送り返すことも可能だろう。だが代金が支払えるということの方が、ずっとずっと嬉しいし安心する。
「ありがとう、レベルアップして素敵な使い方に変更してくれて」
んで、いまいち分からないのが【環】の使いかただ。
えーと、希望の状態へ戻することができる? 希望の状態? 例えば、水が氷になって、それをまた水に戻す、みたいな使いかたが出来るってことか?
まてまて、そんな簡単なことをわざわざ頼まなくてもいいだろ。
例えば…えーと、壊れた剣を元に戻す…的な?
「お?」
自分で言っていて、これが正解のような気がした。
回数が減ってしまったから、使えるのは一日2回だ。今は特に召喚したいものはないから、送還の方を試してみたい。
いまは、環の能力が気になる。
壊れてしまったもの。壊れる前に戻したいもの…何かないか。何か…何か……。
しばらくうんうん唸りながら考えてみるが、すぐにこれというものが思い浮かばない。
「困った。せっかくのチャンスなのに…」
困った…困っているもの…今、直したいもの。…何かないか。何か…何か……。
「あっ!」
使えなくなったものがあった。ゴーレムのコアだ。錬金術師さんの工房の棚に、壊れてしまったコアを入れた箱があったのだ。
「あれが使える状態になってくれたら…」
もっとゴーレムが作る。畑の水やり専用や、荷馬車を引く馬の代わりや、贅沢にペット代わりのゴーレムだって作れるかもしれない。
俺は思わず時間を確認した。現在の時間は14時過ぎ。片道3時間。コアをとってきて持ち帰るだけならさらに3時間で20時過ぎには戻って来られる。
「どうしよう…」
いずれにしても、馬車を引く馬タイプのゴーレムが作れるかどうか…一度は帰らなくてはならない。でも、どうせなら向こうで作業して、テストも出来れば人が来ないところで済ませてしまいたい。
迷う。迷うが、環の能力を使えるのは一日に2回だけなのだ。無駄には出来ないだろ。
休日のはずなのに…と思いつつ町を出て、人目につかない場所まで走った。隠れてカケルをアイテムボックスから出し、すぐに上昇。
「あ…違う」
魔力量が増えたのは5つだけだが、ランクが上がったことで色々なところがランクアップしたような気がする。魔力のコントロールにあまり苦労しないというか、魔力の漏れも少なくなったというか…全体に性能が良くなった気がする。
推進力として使っている風魔法の馬力も違うし、燃費も違う。気がする。
片道3時間が2時間半に短縮できたのも、ランクアップの恩恵だろう。
「取り急ぎ…持って帰るものを選別するか」
錬金術師さんの家の地下の鍛冶場へ行き、ゴーレムの壊れたコアを全部アイテムボックスに収納する。他にも、何の部品か分からないものがある。どういうわけで区分されているのか分からないが、箱ごと全部持ち帰ろう。
「他には…今は思いつかないか」
隣の部屋に行き、箱馬車を眺める。
「紋章ナシの方なら、見かけだけなら今のモノとそう変わりはないか」
いずれにせよ、ゴーレムが曳いているところをみられるわけにはいかないから、ステルスモードにしなくてはいけない。
この大きさを、見えない状態で走らせ続けることが出来るのか?
「いや、待て待て」
見えない馬車を走らせたとして、音まで消せるか?
「消音の魔道具が使えるのは閉鎖空間だけだぞ…」
馬が走る音は聞こえるのに、姿は見えない。それって…
「ホラーだ…」
ホラー伝説が生まれてしまう。
「と、とりあえず町へ帰ろう」
馬車のことは、帰ってからでも考えられる。今は置いていこう。
いつものように錬金術師さんの家の戸締りをして、外を警備してくれているマモル姉妹に手を振り…なんとなく、そうしてしまう…そしてカケルで暗くなってきた空に向かって上昇する。
毎日少しずつ気温が上がって、夏に突入しつつある。夜間飛行でも、寒さに震えることはなくなっていた。
「よし、今からなら充分間に合う」
すっかり周囲は暗くなっている。遠い狩場から戻ってきた冒険者達がいるから、俺一人がこんな時間に帰ってきたと不審がられることはない。
だが、こんな時間に戻ってくる冒険者はベテランや年長者が多い。
見るからに若く、ビギナーズを卒業したばかりのような外見の俺がひとりでいるのは明らかに浮いていた。
検問の列に並んでいる間、ひそひそ声やあからさまな侮りの声が聞こえてくる。いい気はしないが、聞こえないフリをしていた。
並んだ列を抜けてまで絡んでくるヤツがいないのが幸いした。
「待て!」
しかし、門を潜ったことで門番の目もなくなり…子供を揶揄うことを優先してきたバカな奴らがいた。
「こんな時間にガキがうろちょろしてるなよ!」
「おー、本当にひとりみたいだな」
5人組の冒険者に囲まれた。いずれもガタイが良く、人相が悪い。
「なんですか? 何か用ですか?」
「なに、しけた獲物しか取れなかったんだろ? 親切な俺たちが獲物の捉まえ方を教えてやろうと思ってな」
何も持たずに身軽な状態で帰ってきた若い冒険者。気になって腰を見るとマジックポーチ。身につけている服も良さそうだ。売れるな…とでも値踏みしたのだろう。
一人でいる弱っちい相手から装備品を奪い取ってやろう。そんな風に、こいつら頭の中で考えてるな。
口々に余計なお世話を言ってくるが、まともに聞くのもバカらしい。まとめて催涙弾や痺れ薬で退けてもいいが、この手の手合いは逆恨みも甚だしいからな。
後腐れがないのは、どんなやり方かな…と考えていたのが、どうやら奴らには怯えて震えているように見えるらしい。
目が悪ければ、頭も悪いらしい。ああ、口も悪いな。態度も悪いか。悪いところばかりだ。
「なにをしている」
バカどもの向こうから、落ち着いた声がした。
「なにって…」と言いながら後ろを振り返った1人がぎょっとしたように身を引いたことで、包囲が解けた。
「そいつはお前たちの弟には見えないが?」
確か、この街のギルドに所属している冒険者のなかでトップクラスという実力者だ。銀髪の黒2の冒険者だとギルド職員に教えてもらったことがある。攻撃と防御の講習を受けた日のことだ。
「やだなあ、ちょっと親切に教えてやっていただけですよ」
「お前たちが?」
おぉ、カッコいい。バカにしたような声音で見下すその怜悧な瞳がカッコいい。黒の冒険者は落ち着いた雰囲気で俺と因縁をつけてきた男たちの間に割って入ってきた。
身長も高いし、装備の間から見える筋肉も良く鍛え上げられている。顔も良ければ声も良い。羨ましいな。
「ほ、ホラ…あれです。勘違いです」とか「なんでもないです、なっ」とか苦しい言い訳のようなことを呟いて…男たちは脱兎のごとく逃げていった。
「助けていただいて、ありがとうございました」
かわいくお礼を言ってみると、不思議そうにした後「いや…余計なおせっかいだったかもしれない」なんて呟いた。
「セルビナさん…あの人に専属してもらっているよな?」
あ、もしかしてセルビナさんのファンか?
「いや…違う」と、俺の顔色を呼んだのか、否定された。
「俺も新人の時、世話になった」
って、セルビナさん一体いくつだよ!
うわ、うわ…これ、聞かなきゃよかったか?
「あー何を勘違いしているのか分かるが、あの人はまだ…ギリギリ20代前半、のはずだ多分。俺が16歳で登録したとき、1つか2つ上だったと思う」
つまりは、この落ち着いた感じの彼の年齢は20代前半だということ。めっちゃ勘違いしてた。30代だと思ってたよ。老けて見えるなー。
彼は苦笑して、歩こうというようなジェスチャーをした。立ち話ではなく、歩きながら話そうということみたいだ。
「俺も登録したとき、ランクが上がるのが早いとは言われたが…銀になれないまま8年経った。…君は登録してから、まだ3カ月にならないんだろ?」
「はい」
俺のランクのこと、知っているのか。
「あの人から聞いた。1年で黒になれる可能性を秘めている、と」
「………」
何と言えばいいのか。探るような視線でもなく、妬むわけでもなく。そう、熱量が失せたような…何かを諦めたような……
「この街には銀以上の依頼はないから、銀クラスの人はいないと聞きました。…この街を離れられない理由がありますか?」
銀髪の男はひどく驚いた顔をした。
「先ほど8年と聞きましたが、黒に上がってから長いんじゃないですか?」
「ああ。1と2合わせて4年だ」
つまり、黒になるまで4年。黒になって4年ということか。上に生るほどなかなかランクが上がらない。そういうものだとは思うが…
「セルビナさんにはまだハッキリ言ってませんけど、専属期間が終わったらこの街を出るつもりです」
冒険者をこのまま続けるかどうかも決めていないが、いずれは紫まではランクを上げてもいいかなと思っている。紫になれば信頼度がある。町で家を買えるというならそのくらいまで上げてみてもいいかなという気になっている。
「まだまだ、見てみたい場所があるんです。行ってみたいところもある。…もちろん、この街も気に入っていますからいつか戻ってくることもあるかもしれない。でも、今は次を目指したいんです」
銀髪の男はギルドに向かっているようだったが、俺は自分の部屋に戻りたい。
「ここで、失礼します。ギルドには行かないので…」
「…そうか。分かった」
銀髪の男は足を止め、俺が横道に逸れるのを見ていた。
「おやすみなさい」
何か言葉をかけるべきなような気もしたが、結局はそんな平凡な挨拶だけをした。
「おやすみ。……またな」
またの機会があるかどうか分からないが、彼はそう言った。
不思議な感じがした。子供に見えるのは俺の方なのに、最後に見た彼の表情が迷子の子供のようにも見えて…奇妙な感じがした。
ギルド一強くて、カッコいい男に対して…と思うとおかしかった。気のせいだと、先ほど浮かんだ印象を振り払った。
…さて、部屋に帰ったら早速試してみよう。
壊れたゴーレムのコアが元通りになってくれたら…楽しみだな。
3階にある部屋までの階段を上がるのも、まったく苦じゃなかった。




