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異世界に来たら召 喚スキルがありました  作者: ふぅみ


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68話

 ツェターレの森で採取してきたもの、討伐してきたものは全てギルドに出さなかった。レベルがもっと上がって、遠出してきたと報告できるようになったら考えるが、今は近くの森で採取してきた薬草、狩ってきた鳥を納品する毎日だ。


 納品ペースは2日に一度にしている。森へ行って狩りや採集をするのは4日に一度のペース。つまり、残り3日は魔法のレベル上げのトレーニングや体力作り、料理やアイテム作りなどの生産活動日にして一週間を過ごしている。


 セルビナさんにはもっと多くの狩りをしたり採集をしたりすると思われていたと思うが、無理なく続けるにはこのぐらいがちょうどよかった。


 料理にしろポーション作りにしろ、アクセサリー作りにしろ。俺は生産活動がやっぱり好きみたいだ。採集も好きだから森へ行くのはいいが、討伐は出来れば避けてしまいたい。美味しいお肉を得るために鳥や兎、時々シカやクマなども狩ったりするが積極的に狩って納品する気はない。


 初心者向けのセルコンドーラの森はそろそろ卒業してもいい気がするが、簡単に兎を狩ることのできるレニアスの原を行き帰りに通ることが出来るからこちら方面へ足を向けることも多い。  

 マジックボックスの中には出していない兎が50匹以上溜まっている。10匹は保存食作りにしてもそれ以上は休日が休日ではなくなりそうだから手を足さないでおこう。

 納品数を増やしてもいいんだけど…黄銅の1ランクになったばかりだし無理はしなくてもいいかなと思っている。


 街中クエストで引率をお世話になったサーリャは黄銅2ランクだった。

 草原と森のクエストの引率をお世話になったマーリレンから、黄銅2から青銅2の間にビギナーズの引率を最低1回。警護の仕事を最低1回成功してからじゃないと、紫鉄への昇級試験は受けさせてもらえない、と聞いている。


 つまり、次にランクアップしたら引率のクエストのことも考えていかないとダメだということだ。まあ、青銅2に上がるまでにはまだまだかかるだろうから先の話だけど。


 セルビナさんには、いいタイミングがあれば先にビギナーズの引率を済ませておいてもいいかも…とは言われている。引率は街中でも街の外でも関係ないらしいのでサーリャがやったように街中クエストだと楽でいいなと思っている。

 俺はいろいろズルをしているし、隠している魔法が多いし…森の中の引率は出来れば遠慮したい。


「お待たせしました。本日の査定はこちらになります」

 今日の納品はいつもの薬草と兎6匹、鳥3羽、森オオカミ2頭だ。


「はい、いつものように全額ギルドカードに」

 報酬を冒険者ギルドカードに入れてもらって、本日のお仕事は終わり。混み合う前にギルドに戻るようにしているから俺の仕事終わりは夕方の4時とか5時だ。うん、残業無しのホワイトだね。


「ヒロヤ君、このあと少しいいかしら」

 カードを受け取り窓口を離れる前に、セルビナさんに声を掛けられた。


「はい。なんですか?」

 ギルドホールが込み合っていないからか、簡単な相談が出来るスペースに彼女の視線が流れた。


「向こうで待っていてくれる?」

「分かりました」 

 少し喉が渇いたのでミルクを注文して受け取ると、壁際のテーブルに移動する。ホールに背を向けた状態でマジックポーチからこっそりクッキー入りの袋を出し、テーブルに出しておく。


「お待たせ」といってやってきたセルビナさんは、テーブルの上を見て「待って」のジェスチャーをした。足早に俺と同じミルクを買ってくると戻ってきた。

「…どうぞ」

 こそっと袋の口を開いて彼女の方へ向きを変えると、嬉しそうに微笑んで手を伸ばした。


「ありがとう、いただくわね」

 サクサク。ごくごく。サクサク、ごくごく。

 セルビナさんの勢いはクッキーを2枚食べきるまで止まらなかった。

「美味しい…」

 ゆるみ切った笑顔を見せてもらえると、奢った甲斐がある。


「残りも、どうぞ」

 勧めると、彼女は一瞬だけ躊躇したがすぐにささっと手の中に隠すようにして袋ごとアイテムボックスに収納した。


「ありがとう、ごめんね。…それで、話は変わるけれど…」


 彼女の要件は護衛依頼を受けないか? ということだった。

 担当である彼女は俺がアイテムボックスのスキルを隠したいと思っていることを知っているから、ソロでやっていくと決めていることも知っている。

 だが、今後ランクを上げるためには、護衛の仕事を受ける必要があるという説明をしてきた。


 ランクが下のうちに、上のランクの先輩に面倒を見てもらう形にして体験させてもらう方がいいということだった。

「クエスト内容は2つの村を行商する行商人の護衛よ。マーリレン君ほかひとりの3人で2泊3日の任務になるわ。青銅2と青銅1の2人だけでも隣村までなら大丈夫だと思うけど、今回は護衛対象が4人いてね、出来ればランクは若くてももう1人加えた方がいいんじゃないかと相談を受けているのよ」


 引率をお世話になったマーリレンなら、知らない相手ではない。もうひとりもランクが青銅1なら似たようなランクだし年齢も似たようなものかも。

「護衛任務って、早くないですか? まだ黄銅1になったばかりですよ」

「なに言ってるのよ。ヒロヤ君はソロで森に野営できる実力があるじゃない」


「……まあ、初心者の森ですけど」

 遠出した後のアリバイに、森に泊まったと説明したことがあるからなぁ。


「初心者の森だろうと、実力も度胸もないと野営なんて出来ないわ。町の外の暗闇の中で過ごすなんて怖いものよ。人数が多いと安心感もあるでしょうけど…それがひとりではねぇ」


「俺はこっそり、魔道具を使っていますし…」

 お金に困っていないことは彼女も気が付いている。アイテムボックスのスキルを隠すためのマジックポーチとマジックバックを持っている新人なんて…もしかしたら貴族とか裕福な商人の子供ぐらいかも。


「その辺りも実力のうちよ。マーリレン君ももうひとりの子も、マジックポーチ持ちよ。ふたりとも堅実タイプのソロ中心。性格もいいし、実力もあるし、おススメよ」

「なるほど…」

 タイミング的にはまだ早いと思うが、組む相手を選べるときばかりではない。いつかは護衛クエストをしなくてはならないのなら、今がチャンスだとセルビナさんは判断したのだろう。


「分かりました。参加する方向で、詳しく教えてください」

 参加の意思を示すと、詳しい説明をするからと2階に移動することになった。小さな会議室に通され、待っているとセルビナさんは依頼書と地図を手に戻ってきた。


「今回の依頼人は…」

 行商人が4人だということだったが、そのうち2人は彼の子供だった。子供といっても成人はしている。つまり俺と同い年ぐらいだ。

 いつもは大人ふたりでいくつかの村を回って行商しているが、今回は子供にも経験させてやりたいと初めて同行させることにしたらしい。 


 2人だけなら護衛の冒険者はいつも通り2人でも充分だが、4人になったらせめてあと1人ぐらいは護衛を増やしたい。しかし、予算的には厳しいのでランクが下の冒険者が雇えたら…ということで俺に白羽の矢が立ったらしい。俺のランクは下だが、セルビナさんいわくこれ以上ないぐらいの適任らしい。


 隣村まで荷馬車で4時間。早朝6時に出発して10時過ぎに村に到着。4時間ほど冒険者は休憩。遅くとも15時には村を出発。暗くなる前に野営地を決めて、その日は野営で一泊。

 翌日には次の村へ移動。また10時過ぎに到着。前日と同じパターンで販売と購入を済ませたら村を後にして戻るルート。暗くなる前にセルセラの街に戻ってくる予定。…とのことだ。


「って、計画通りに行ってもハードですね」

 ふたつ目の村から町まで戻れるのか? という疑問は地図を見ながらの説明で解決した。ひとつめの村までは登り坂、つまり山の中腹にあったのだ。ふたつ目の村は何事もなければ片道3時間ほどの近距離にあるという。


「行商人の人達と荷物を載せているから、冒険者は基本歩きになるわ。空きスペースがあれば乗せてもらえる可能性も無きにしも非ずだけど、今回は同行者が行商初体験の子供付きだから、期待はできないわね」


「………」

 気軽に受けたが、困ったぞ。歩きっぱなしになるなんて…大丈夫か?


「それほどの距離、歩いたことがないのですけど…」

 正直に弱音を吐いてみるがセルビナさんは「ヒロヤ君なら大丈夫よ」と軽く言ってくれる。

 筋肉痛にヒールは効かないし、キュアも違う気がする。ポーションで疲労は回復できるのか? 筋肉痛の解消はどうしたらいい?


「最近、近場で野党が出たとは聞かないし、危険があるとしたら野営中かしら。夜行性の獣に注意して、見張り番の途中で寝ないようにね」

「その辺で出るとしたら狼ぐらいですか?」

「そうね。大きな群れが出たということも聞かないから、数頭程度じゃないかしら。奇襲にだけ気をつけていれば大丈夫よ」


 何も心配いらないわよ、なんて顔をして言ってくれるが、俺はすごい不安だよ。

「大丈夫。油断しないように気をつけてくれたら、ヒロヤ君なら心配ないって」


 防御の試験官を務め、森での実習に付き添いしてくれたセルビナさんのいうことだ。ここで不安だからやめますとは言えないのは分かっていた。

「分かりました。それで、装備などの準備についてですが…」


 相談に乗ってもらい、腰につけるマジックポーチだけで肩掛けカバンタイプのマジックバッグは持って行かないことにした。さすがに両方持っている黄銅ランクというのは目立つだろうということだ。

 行商人だとはいえ、相手は商人だ。マジックバッグの性能まで看破してしまうだろうし、2つも持っている新人など話のネタにポロリと出されたら商人達の間で広まってしまう可能性もある。  


「今回は護衛任務だから、動きを阻害しかねない背負い子は持っていかないでね。ポーチに入れていくのは野営用の毛布代わりのマント。これは出来れば急な雨が降ったときにも役立つ防水加工がされているとなおいいわね。万が一の時のためのポーションや傷薬、獣よけ、コップ、フォークと水筒。余裕があればロープやタオルなども持っていくと便利かもね。そうそう、今回は野営の時の食事、つまり夕食は冒険者の分も出して貰えるわ。干し肉やパンぐらいだと思うけどね」

 干し肉とパンか…。きっとパンは保存のきく硬いライ麦パンだろうな。


「夕食だけですが。昼食は各自で用意した方がいいのですね」

「そうね。基本は干し肉とパンよ。火は熾さないと思って」

「こっそり、何か持っていってもいいですか?」と聞いてみると、セルビナさんは俺が持っていこうとしているものを察して笑った。

「目立ちたくないなら、ひとりだけでこっそり食べるのよ。見つからないようにね」

「そうします」


 申し訳ないが、人目を盗んでつまみ食いをしよう。味噌汁を飲むふりをしてアイテムボックスに収納していくあの裏技を応用すれば、手を口元に持ってきた状態でアイテムボックスからクッキーなりカップケーキなりを出して食べることも出来るはず。口元が動いているのに気づかれないよう、背を向けた状態でするかな。


 なんにせよ、一口サイズにしておくのがいいだろう。おにぎりを小さく丸めたものを用意しておくかな。うん、匂いがしないものにしないとバレるリスクがあるからおにぎりがいいかも。クッキーもカップケーキも甘い匂いがするものなぁ。


「ああ、そうだ。予備の武器代わりにもなるし解体ナイフも持っていってね。途中で狩りや解体をする時間は取れないかもしれないけど、襲ってきた獲物を捨てていくのはもったいないわ。兎でも狼でも狩れたら行商人の人か、着いた先の村で買って貰えると思うわ。道中で荷馬車に載せる商品が増えるのを喜んでもらえるかどうか行商人に確認してからの方がいいけれどね」 

「了解です」


 他にもいつ、どこで待ち合わせなのかしっかり確認しておく。臨時のパーティを組むことになり、リーダーはランクが一番上のマーリレンになった。依頼書は彼が代表で持っていき、仕事が終わった後の報告も彼が代表してしてくれるらしい。報酬をすぐに受け取りたいなら一緒にギルドに顔を出せばいいが、後でいいなら次に顔を出した時に支払われるらしい。


「他にも何か確認しておきたいことは?」


「ひとつめの村のバーンヤ村とふたつめのレリー村には特産品はありますか?」

 セルビナさんはきょとんとした後、笑った。


「ヒロヤ君らしい質問ね。でも、そんなこと…他の冒険者から聞かれたことはないわよ」

 けらけらと笑っている。楽しそうでいいけど…そんな変なこと聞いたかな。


「いい、ヒロヤ君。普通の冒険者だとこう質問するの。それぞれの村では何が狩れますか? もしくは、採集できる薬草はどんなものがありますか?」

「……」

「特産品の有無を気にするのは行商人。つまり商人ね」


「旅人だっているじゃないですか」

「ええ、そうね。…って、そうか…。ヒロヤ君、もしかしてここに来るまで旅を楽しんでいた? 成人してすぐにどこかの村から出てきたと思っていたけど…」

「遠くから来ましたからね、旅を楽しんでいたと言ってもいいと思います」


「そう……」

 セルビナさんは真面目な顔でじっと俺の顔を見た。


 俺が冒険者になるためにこの町に来たのではないかと気づいた…いや、違う。冒険者を続けるにしてもこの町に定住する気がないと気が付いたと言った方がいいか。

 来てすぐに宿住まいではなく部屋を借りると言ったから、定住希望なのだと思い込んだのだろう。それが、この町を出ていく可能性があると今、気が付いた。


「話を戻すわね。ひとつめの村バーンヤ村は村のある場所のせいで、採れる野菜の収穫時期が周辺より少し遅いわ。ふたつめのレリー村には沼があり、そこでしか獲れない野菜や貝が特産品よ」

 なるほど…どちらも行商人が立ち寄りたいと思う場所だ。

 残念ながらどちらの村にも宿泊する予定がない。つまりは、どちらの村でも野菜や貝の料理を食べることはできないということだ。そこは本当に残念だが、仕方がない。


 俺の考えていることが分かったのだろう、セルビナさんがこの町の市場でも時々貝を売りに来ている村の人がいると教えてくれた。そしてそんな日は近くの食堂でも貝を使った料理が出ることもあるという。


「運が良ければこの町でも食べられるんですね、教えてくれてありがとうございました」

「いいえ、大したことではないわ。他にも何か質問はあるかしら」

「もう大丈夫です。明日は休んで、ゆっくりしようと思います」


 つまり、明日は仕事をしない宣言だ。

 護衛任務は明後日の早朝出発。食事は干し肉を出してもらえるということだが、量が足りるかどうかまでは分からない。追加で食べられるように個人的に持っていこう。燻製肉は作ったが、干し肉は作ってないから手持ちがない。帰りに肉屋へ寄ろうっと。


 ギルドを後にして、肉屋の他に薬屋にも立ち寄った。この町の薬師が作る傷薬やポーション類を確認して、値段の変動がないかもチェック。

 自作の初級ポーションと傷薬を持っていけばいいと判断して、そちらは買わなかったが獣避けだけは買い足しておく。いつも使っている自作のとは匂いが違うと突っ込まれたら困るから。


 ロープの他、防水加工された袋も買い足しておく。この辺は消耗品に近い、つねに在庫を抱えるようにしておきたい。採集用の小さい袋、手袋も予備を買っておくか。

 しばらく鍛冶屋のおやっさんのところにも顔を出してないから、明日にでも行ってこよう。


 歩き過ぎによる筋肉痛対策も考えなきゃな。薬師スキルに湿布と似たような働きをする疲労回復クリームというレシピがあるけど、これ匂いがきついから使えばすぐにバレる。 

 疲労回復ドリンクがわりにポーションをこっそり飲めばいいか。一口ずつ隠れて飲む練習をしておこう。


 ああ、めんどくさい。いつも使っているステルステントもシェルターも使えない。結界石も使えないし、守衛ゴーレムも出せない。ご飯も食べたいものが食べられないし…

「うわ…嫌なことに気が付いた」

 任務中はトイレが大自然だ。いや違う、大自然がトイレだ。久しぶりに立ちションしなくてはいけない。

 風呂には入れないが、隙を見てコッソリ洗浄スキルを使おう。ああ…不便だ。いろいろと不便だ。が、仕方がない。ずっとの苦労じゃないから我慢だ、我慢。


 快適な冒険者業をしたいと思ったら魔道具をあれこれ持っていてもおかしくない財力と、奪い取ろうと狙われても跳ね返せる武力の両方が必要か。先は…ホント…長いなぁ。



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