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異世界に来たら召 喚スキルがありました  作者: ふぅみ


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67/97

67話

  ツェターレの森の入り口に着いたのは14時過ぎ。そこから森の奥と思われる場所まで2時間飛び、16時半には森へ降りた。

 まだ陽は落ちていないが高い枝が森へ影を落とし、周囲は薄暗い。といっても、夜目スキルがあるから移動には困らない。

 

 ステルステントで一晩過ごそうかと思ったが、さすがにこの辺りは大型の魔物が徘徊している場所だ。ムリはせずにシェルターを利用することにした。

 そうなると、安全な家の中で一晩過ごすのと変わらない。


「早めにご飯を食べたら、ハチミツを絞ろうかな」


 現在、シェルター内にある家は9軒。時々、思い出したように召喚している。宝探し感覚が楽しい。外れても材料に出来るから無駄にならない。


 一番先に手に入れたのは平たい石を組んで作った家。これは倉庫にしようと思う。といいつつほぼ使ってない。放置だ。雑草が生えている庭付きだが、畑をしている余裕がない。


 2軒めは靴屋の店舗付きの家だったか。いや、錬金術師さんの家が1軒目だ。既に順番はうろ覚えだ。


 次は薬師の店舗付きの家。次に1階が雑貨屋だった二階建ての家。これは結構古くて、壁や柱などそのうち資材だけを回収することになりそう。

 食堂兼宿屋だった家も結構古いからリフォームが必要だが手を掛けるのが面倒になって材料取りにする可能性もある。部屋数があるのと部屋の数だけ空きベッドやテーブルなどの調度品があるのがいいところだけど、どれもが古い。使い捨てにしても惜しくないから、セルセラの街の部屋で使っていたりする。


 喫茶店だった空き家と、家庭菜園をしていたひとり暮らしにちょうどいい家はどちらもキッチンとトイレが綺麗だ。

 ああ、忘れていた。貴族の別荘みたいな屋敷もあったが、これは広すぎて移動が面倒なので探検した後、足を踏み入れてない。いろいろ残っているし、中古でも元は貴族が使っていた調度品だから一番物がいい。食器類も一部持ち出して使っている。


 シェルターから一番近くにあり、一番よく利用しているのがひとり暮らしにちょうどいい大きさの家だ。ここには庭があり、解体作業をするため獲物を吊るすのに便利な木まで一緒についてきた使い勝手のいい家だ。

 

「今回はキッチンが広くて設備がいい喫茶店の家に行こう」

 厨房の作業テーブルが広いほうが作業しやすい。


 どれだけ採れるか分からないが、先に保存用のガラス瓶を用意しよう。

 ポーション用の瓶ほどには神経を使わなくても簡単に出来るから、さくって作ってしまおう。誰かにあげたりすると騒ぎになりそうだし、今回のハチミツは全部自分で消費しよう。


 大きさはマグカップくらいで、ピッチャーのような取っ手付きが便利かな。シンプルな形もいいけど、せっかくだから丸いフォルムで可愛い感じにしよう。

 そのうちお店をしてみたいと思っているけど、その時はこういうカワイイ感じのカラス瓶をいくつも並べておくと女性受けしそう。


「まずは、こんなところでいいか」

 ガラス瓶を12個、錬金術で作ってから次の作業へ。ハチミチは遠心分離器を使う方法や圧縮して絞り出す方法があるが、この世界には…そう魔法がある。そして俺には便利な錬金術がある。


「分離、からの抽出!」

 魔力を圧縮して作業するフィールドを錬金窯ではなく、空中に構築する。不思議なのだが、透明な錬金窯が浮かんでいると思って欲しい。透明だから作業過程が分かりやすく、ガラス瓶を作っている時も形をイメージひとつで錬成できる。


不純物を取り除く行程で色が綺麗な琥珀色に変わっていく。


「…直接、瓶に入れられたらいいけど…」

 まだ半人前ゆえか、ポーションもそうだが瓶に少量ずつ、決まった分量を入れることが出来ない。

 錬金窯でポーションを作ったときも、いつも手作業で瓶に測り入れていく。計測スキルがあるおかげで、決まった分量を取り分けるのは簡単にできる。


「でも、まあ。無駄なくハチミツを搾り取れているわけだから、あとは練習あるのみ」

 たっぷりとれたハチミツを瓶に移していこ…


「と、その前に…クリーン!」

 並べた瓶を先にクリーンして、清潔な状態にしておく。作ったばかりで汚れていないだろうけど、そこは気分が…ね。


 鍋に溜まったハチミツを慎重に移し替えていく。とろりとスプーンから落ちていく琥珀色は輝いているようにきれいだった。


 最終的に作った12個で瓶は足りず、追加で瓶を作って14個になった。これだけあれば1年ほど楽しめるはず。にんまりしてしまう。


 この世界の天然ハチミツは砂糖よりも高級品だ。多分だけど、この大きさの瓶なら1つで大銀貨1枚、つまり10万くらいになると思う。

 採集してきた冒険者の売値は多分、3分の1くらいで銀貨3枚ほど…つまり3万ちょいくらいだろう。いい稼ぎになると判断する冒険者もいるだろうけど、俺は稼ぎの前に自家消費を選択する。


 自分で食べる為でなかったら、あんな怖い思いをしてまで苦労はしない。それから、食べる以外にも楽しみはある。

 ハチミツを絞った後の巣の残骸は蜜蝋に出来るのだ。そして保湿クリームのレシピは薬師スキルで分かっているから、あと必要なのはオイルと香料だ。


「明日はアブラの木探しだな」

 移動疲れもあるし、風呂に入って早く寝よう。そうそう風呂だけど、錬金術師さんの家と貴族の屋敷にしかないんだよ。シャワーなら庶民の家にもあるんだけど、さすがに風呂用の魔道具はお高いようだ。

 移動が面倒なのでそのまま貴族の屋敷の一室…掃除済みの寝室で寝間着代わりのシャツとゆったりしたズボンに着替えておやすみなさい。


 ベッドに入ってから寝付くまで、なんとなく明日の予定を考えて…ハッとした。

「ちょっと待て」

 思わず、がばっと起きたのは…気が付いてしまったから、


「植物の魔物って、どうやって…戦えばいいんだ?」

 俺が知っているアブラの木の情報は擬態した木で獲物を待ち伏せること。襲う時には動くこと。油がたっぷりとれる魔物の木であること。

 そういった姿形や生息域は分かっていても、どうやって戦えばいいのか分からない。



 助けてぇ…と、アドバイスを求めて世界基本知識さんに、泣きついた。


  *


 アブラの木探しは難しくなかった。魔力があって、ずっと動かないものをそれと予測して近付けば、ビンゴ。1本見つかれば、今後はマップさんがいい仕事をしてくれる。


 だが、いる場所が分かって不意打ちは避けられるようになったが…こいつはなかなかに大変な魔物だった。

 火魔法はもっての他。まあ、森の中で火を放つのがそもそも危険だということに加え、植物なのに火に強いのだ。てんぷら火災は油が高温になった後に火がつく。アブラの木といわれるだけあり、木にはたっぷりと油が詰まっていて、ちょっとぐらいの炎では温度が上がらない。


 かといってカッター系の魔法は刃が入らない。かすり傷が出来ればいい方で、ゴムのようにはじき返してしまう。植物であるから、水魔法も相性が悪い。水をもらったと喜ぶだけ。

 温度を下げて氷にすることでなんとかダメージが入る。しかし動きが悪くなるだけの嫌がらせレベルで、討伐までにはいかない。


 …と、まあ、この辺は世界基本知識さんにもらった前情報通り。念のための検証だ。


「ウインドカッター!」

 木の幹には刃が立たないが、細い枝なら切り落とせる。狙い通り、スパンといった。

「シールド!」

 木の葉がカミソリのように飛んでくる。葉の数が多いからヒヤリとするが、シールドに当たって落ちる程度の硬さしかない。

 生身だと軽く切られたり突き刺さるだろうから、試す気はない。


「ウォーターサクション!」

 そう、相性が悪いと言った水魔法だが、吸引が肝だった。そして俺には錬金術もある。


 切り落とした枝口から本体の水分を抜く。もちろん、まだ生きているから激しい抵抗にあう。


「分離!」

 傷口から水分と油分を強引に吸引アンド分離する。身をよじるように動いて、激しく枝を動かし葉っぱを飛ばしたり、枝を槍のように伸ばして攻撃してくるからシールドの陰に隠れながら動き回って、その攻撃を避ける。


 まるで綱引きのように一進一退が続く。長引けば他のアブラの木や魔物がやってきてしまうからこちらも必死だ。


 10分ほどが1時間にも感じられる攻防の末、アブラの木は逃げ出そうと地面から根を出してきた。ここで逃げられてはたまったものじゃない。手にした斧を地上に張り出した根に叩き付ける。


 水分が抜け、張りを失くして弱っていたためか一度で太い根に傷がついた。ラッキーとばかりに、同じところを狙って繰り返せば根が切れた。

 それを三本切り落としたところでバリバリバリ…引き裂けるような音とともにアブラの木が倒れた。倒れると同時に地鳴りがする。


「つ…収納!」

 焦りながら倒れたばかりの木をマジックボックスに収納、と同時に走り出し一番近い木に手をつく。シェルターの入り口を開けると飛び込んだ。


「……間一髪、間にあった」

 ゼイゼイと荒い息をつきながら、扉の向こう…つまり、現れた魔物の姿を確認した。焦っていたのはマップさんが何かの接近を教えてくれていたからだ。


「ブラックベアか。大きいな。資料室で見たブラックベアとちょっと違う?」

 試しに鑑定してみるとキングブラックベアと出た。しかもその肉が美味しいことまで鑑定さんは教えてくれる。


「疲れてなきゃ、チャレンジしたんだけど…さすがに…」

 ぜーはぜーはと息が整わない状態だ。スタミナが足りない…。


「冒険者登録したばかりで無茶したかなぁ」

 毎日の走り込みや筋トレをして身体つくりをしないと。


 様子を伺っていると、キングブラックベアは俺の息が整うまでその場で周囲を警戒していた。

 さっきまでいた俺の匂いがその場に残っているのだろう。なのに獲物の姿がない。不思議そうに、でも未練たらしく匂いを嗅ぎまわっている。


 ウルフ系よりは匂いに敏感ではないだろうから、立ち去ってくれたらその背を追いかけるように出て、木の上に飛び移ろう。そして、久しぶりに陰竜をやったときのように…やってやる!

 

 イメトレをしながらその時を伺い、訪れたチャンスをものにするためシェルターから飛び出した。

 

 溺れろ! 肺に水っ! 入れ! 入れっ! 入れぇっ!


 キングブラックベアは俺が飛び出してすぐに振り返り、不思議そうに首をあちこち動かした。隠密中の俺の姿は見えなくても、魔力感知する能力があるのか、こちらに向かってのっしのっしと接近してきた。

 威圧を受けなくてもその迫力にビビる。…が、すぐに前のめりになり、背を丸め、そして苦し気にもがき始めた。

 

「……はぁ」

 ピクリとも動かなくなったのはアブラの木より早かった。


「クリーン!」

 地面を転げまわったため薄汚れた黒クマにクリーンをかけて綺麗にしてから、マジックボックスに丸ごと収納。

 セルビナさんと違って、触れなくても収納できるマジックボックスに感謝感謝だ。


「どのぐらいの油が取れるかなぁ」

 先に油を搾り取ってみるか、それとも二本目にチャレンジするか。うぅーん…悩む。


 地図スキルさんに半径三キロ圏内のアブラの木と魔物の位置を表示してもらう。すると、魔物が近くにいなくて他のアブラの木とも離れているちょうどいいアブラの木を発見した。


「これは、再チャレンジするしかないよな」


 森の中を歩く方が体力作りにはいいが、今は体力温存と回復を優先したい。フローティングボードで一度森の上に出て、そのまま目的地まで移動。ターゲットの上からアイスカッターで枝の先を切り落とす。驚いたように上空に伸ばしてくる枝を狙って落とすのはやりやすかった。


「これはいいな」

 

 フローティングボードで飛び回ることで、伸びてきた枝の攻撃が回避しやすい。カミソリのような葉が飛んでくるが、葉自体が軽いためか上空に飛んでくるのは半分以下で…それも俺に届く前に全部地面に落ちていく。


「ウォーターサクション !」


 枝の切り口から水分が飛び出し、雫となって落ちていく。地面から再吸収されては困るので強めのウインドで飛び散らしておく。


「分離! からの再ウォーターサクション!」

 魔物であっても、さすがに水分がどんどん抜かれていくと弱ってくる。逃げ出そうと歩き出したところで斧をアイテムボックスから取り出し、地面に降りた。


「よいせっ!」

  身体強化でガツンガツンと木の根を切ること数分。余力を残して、魔木が倒れていくのを見守ることが出来た。

 バキバキバキどどーんと森の中に大きな音と振動が響く…寸前にマジックボックスに回収。音に着き寄せられた魔物との戦闘を避けるためにも、静かな戦闘を心がける。


「よし、この調子ならあと2、3本切れそうだ」

 ちょっと慣れてきたぞ。木を倒す前に邪魔が入らなければ…というただしが付くけど。


「ここまで来るのはしばらくないだろうから、明日はアブラの木以外の採集にもチャレンジしようかな」


 薬草も気になるけど、なにか美味しそうなものが新たに見つかるといいな。

 なんだか、わくわくしてきた。




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