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異世界に来たら召 喚スキルがありました  作者: ふぅみ


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66話

 目覚めると急いで出かける準備をして、すぐに部屋を出た。早朝まだ早いのに町から出ていく冒険者は多く、その集団に飲み込まれるようにして町を出る。前の世界の朝の通勤と通学ラッシュを思い出して、妙に笑えた。


 街道を歩き、適当なところで草原へ歩を進めた。誰もいない、誰も来ないところへわざわざ移動して足を止める。500メートル以内に誰もいないことをしっかり確認してからステルスモードでカケルをアイテムボックスから出す。ステルスモードのカケルに魔力を流しスタンバイ。乗り込んですぐに離陸して空高く上昇させる。 進路を確認してから、水平方向に移動開始。徐々に速度を上げていく。


 朝の気持ちのいい涼風に吹かれながら、ツェターレの森へ向かう。一時間ほどは眼下に街道を捉えていたが、森の上空を飛ぶようになってからは変わり映えしない景色に変わって退屈してきた。

 11時近くまでひたすら飛んでいたが、そろそろ昼にしようと上空から休憩場所を探す。


「お、あそこにしよう」


 横に大きく枝を張り出した巨木を発見。シェルター内で昼ご飯と休憩しよう。

 魔力満タン状態で無事に結界スキルを獲得できた…のはいいがやはり魔力消費が大きくてアイテムに頼った方がいいと結論付けた。そしてそのアイテムも永遠に使えるわけではなさそうで、これまで通りひと目につかない場所で安心安全に休憩するならシェルターを利用した方がいいと結論が出た。


 上空でカケルからフローティングボードに乗り換えるのにもかなり慣れた。

フローティングボードに乗ったまま近付いていくと警告! といきなり地図スキルさんが前方を赤く染めた。


 え? と思った次の瞬間、特徴的な羽音に気が付いた。げっ! とか、まさか! の声を上げる余裕すらなく、急上昇。その場から逃げ出した。


「地図スキルさん…?」


 問えばキラービーの返事が届く。


「ああ、やっぱり…」

 森の上空に出たため、木々に隠れて下の様子を見ることはできない。もちろんこの高さだと恐怖を感じる羽音も聞こえない。

 休憩しようと接近したあの大きな木のどこかにハチの巣があるらしい。運がいいのかどうなのか、探さずに遭遇しちゃったよ。


「うわぁ、飛び回っているね」

 地図上を小さな光点がひっきりなしに動き回っている。飛び回っているその数、かなり。…多いね。飛んでいる範囲も結構広い。


「これ、近づくのは危険だなぁ」


 しかし、キラービーがいるということはフラワービーもいて、ハチミツが取れる巣があるということだ。


「先に昼ごはんにするか」

 キラービーの警戒範囲外に降り、そこそこの大きさの木を選ぶ。木肌に触れてシェルターに入り移動。ひとり暮らしの家を選んでランチ兼休憩タイムにすることにした。


「何にしようかな」

 シェルター内の家では匂いを気にすることなく食事もできるし、周囲を警戒する必要もない。牛丼ならぬワニ肉丼に野菜の浅漬けに卵焼き。飲み物は冷えた麦茶で食後のフルーツはりんご飴をチョイスした。


「どうするかなー」

 リンゴ飴をガリガリかじりながら思案する。

 巣を中心に飛び回っているキラービーの警戒範囲は500メートル以上ある。結界を張ったまま接近すれば、巣の近くまでは行ける気がする。


 問題は、どうやってハチの巣だけを手に入れるか。キラービーは邪魔だし、駆除してしまいたい。フラワービーも邪魔だが、今後もハチミツ作りをして欲しいから、こちらは殺したくはない。巣も出来だけ外側は残して中身だけをいただきたい。


 前の世界の養蜂家がハチミツ採集しているシーンを思い浮かべる。


 防護服で身を覆っていたな。…服をいいのに着替えるか。

 錬金術師さんのところでもらってきた物理防御が付与された服に着替えた。見ただけで特別製だと分かるから、人前では着られない服だ。


「他にも、魔物避けの香なんかどうかな」

 煙でいぶすかわりに、キラービー対策になるといいんだけど…ダメそうなら、強風で吹き飛ばすとか…


「んー、吹き飛ばしたぐらいじゃ、すぐに戻ってくるかな」


 網の中にどんどん捕獲していく? いや、噛み切る力が強いから網なんてすぐに食い破ってて出来そう。


「ラノベだと、電気ショックを与えていたパターンもあったっけ」


 電気…電気魔法なんてあるのか? いや、雷か。 氷結魔法…なんてものはないよな。水魔法で氷は作れるが…対象を凍らせること、出来るのか? これは試したことないな。

 いつか試すにしても…今回はダメだな。飛んでいる速さや対象が小さいことに加え、数が多すぎる。キラービーは殺してフラワービーは殺さない、と区別するのも大変そうだ。うん、無理だな。


 掃除機代わりに風魔法のトルネードで広範囲のハチを集め、結界で囲ってから結界内の温度を下げて動きを制限する?


 えーと、まず自分の周りに結界を作る。これは結界石があるから起動時に魔力を入れるだけ。…うん、出来るな。結界が瞬時に張れるのを確認して、一度解除。


 イメトレで手順を纏めよう。

 まず、隠密モードで巣近くまで接近する。巣の周辺にいるキラービーを風魔法のトルネードで集めて…集めた後はどうしようかな。火魔法で焼き払うか? キラービーはいらないからな。でもフラワービーが含まれていたら焼き払いはできない。


 鋳造スキルがあるから鍛冶は習得しなくてもいいかと思っていたけど、どこかに違いがあるから別スキルになっているのだろうし…と、このまえ錬金術師さんの家に戻ったときに鍛冶スキル習得に再チャレンジしたら、出来たんだ。火魔法が必須で条件を満たしていなかったから、以前チャレンジしたときには鍛冶スキルが獲得できなかったみたいなんだよ。


 だからいまは、火魔法でいらない魔物素材なんかも焼き払えるだけの火力を手に入れている。でも冒険者業の攻撃にするのは…どうかな、と思わなくもない。だって、毛皮に焼け焦げがあったら価値は半減する。脳内とか内臓を狙って焼くという手もあるが…水魔法でも出来たくらいだしね…でも、こんな攻撃が出来るのって普通じゃないよね。水だと証拠隠滅できそうだけど火だと証拠がばっちり残る。

 だから異世界物のノベルズでは、結構攻撃手段として火魔法が使われていたんだけど…この世界だと攻撃手段として使っている人がほとんどいない。素材を回収した後の不用品やゴミの焼却処分で火魔法を使うことはある。ビギナーズや初心者向けのクエストにもゴミの回収とその処分、というのがあった。


 火魔法はナシで、温度を下げるのは有効で、結界はもちろんありで…


「よし、イメトレは十分できた。やっつけ本番になるけど…チャレンジだ」


 と勢い込んだものの、キラービーの群れは恐ろしかった。理屈じゃない。あの歩音が近づいた来るだけで体が震えた。それも一匹や二匹じゃない、大群だ。羽音がもう騒音レベルというか威圧レベルというか。耳を抑えてしゃがみ込んでしまった。

 ステルスモードても近寄りたくなくて、結界石でしっかり結界を張った。


 幾ら物理耐性のいい服を着ていても頭や手など服から出ているところはある。見つかればあちこちを刺されて、ひどい目に遭っていただろう…と思うとぞっとした。いくら解毒スキルを持っていても腫れまではどうにもならないだろう。


 もうひとつ、計算違いがあった。結界の中から攻撃できるなんて、なんて考えたのか。結界で外からの攻撃を防ぎつつ、中から攻撃? それどんなマジックだよ。魔法のある世界といっても、そんなトリックはなかった。


「…ふぅ…」


 つまり、俺はハチの巣に近づいて結界内に閉じこもり。何もできないまま退却してきた。それだけだ。蜂を刺激したことで今なおぶーんぶーん周りを飛び回っているものの、巣から離れたことで周囲を飛び回る蜂の数が減ったことだけが救いだ。


「怖かったぁ…」

 って、まだ周りに飛んでいるこいつら。どうやって殺してやろう。

 結界を解けば群がってきそうだが、結界を解かないと攻撃は出来ない。


「何かいい手はないか」

 このまま尻尾を巻いて逃げる? せっかくハチの巣を見つけたのに? 手の届きそうなところにハチミツがあるのに?


 それは嫌だ! 


 再びイメトレだ。色々な魔法を組み合わせてみる。しかし、今回の対象は動きが素早い上に数が数だ。1匹1匹相手にどうのこうのできるものじゃない。しかも敵と味方が入り乱れているようなものだ。

 

 魔法がダメなら、なにかいいものがないかとマジックボックスの中を探るようにしたところで、気が付いた。

 錬金術師さんの家の周辺を守らせていたマモルを2体、回収してきていた。


「これだ!」

 マモルは警備ゴーレムとして作った。簡単な命令しか受け付けないが、これを使えば巣の下半分だけ回収して来れるのじゃないだろうか。


 結界を張ったままさらにハチの巣から離れる。10分ほどで警戒巡行していた鉢が1匹もいなくなったところで結界を解除。スイーツで糖分補給すると魔力回復も早い気がする。これは気のせいかもしれないけど、リフレッシュは出来た。


 マモルを2体マジックバッグから出し、魔石のエネルギーを補充する。これまで区別をつけないままマモルとだけ呼んでいたが、それぞれの顔面に位置を変えて小さなほくろのような石を入れたため、じっくり見れば区別がつくようになっている。

 1と2という数字にしようかとも思ったが、数字から俺が他の世界から来たことがバレる危険があるとやめた。


「マモル兄、これを手にゆっくり水平に振ってみてくれ」

 右頬にほくろのあるゴーレムに切れ味いい錬金術師さんの剣を持たせて軽く素振りをさせてみる。


 うん、命令通りに動くな。


「そしたら、お前はハチの巣の下半分をその剣で切ってこい」

 分かった、というように頷くのが可愛い。


「それで、そっちのマモル弟。お前は切り離された巣を落とさないように受け止めて、潰さないようにゆっくり巣から離れて俺のところまでもどってこい」

 左頬にほくろのあるマモルも、分かったというように頷く。


「キラービーがお前たちの周辺をしつこく飛び回るが、奴らが刺そうと噛みつこうとかまわず、俺のところまで戻って来い」

 マモル兄弟の腰に魔物よけの煙を出す魔道具をつり下げて送り出す。


「さて、マモルたちが戻ってきても多分、キラービーが周りを飛び回っているはず。森の中で火をつけるとまずいだろうから、トルネードでまとめて払いのける感じか」


 旋風で吹き飛ばしたら、キラービーが戻ってくる前に素早く結界を張る。マモル弟が持ち帰った巣の中からフラワービーが出で来る可能性もあるが、それは…うーん、結界の中に結界って張れるのか?


 マモル兄弟が戻ってくるのを待つ間に試してみたら…あら、不思議。結界のなかに結界が張れた。多重構造できるならハチとハチの巣を分別できるかも。



「とすると、このあたりにたいまつを立てておいて、マモルたちが戻ってきたらここで待機させて…来た!」

 ものすごい羽音ともにマモル兄弟とキラービーが接近してきた。ゴーレムの周囲にトルネードを数回送り込み、キラービーの数を減らす。


「たいまつの側でマモル弟、停止」


 命令に従ったマモル弟から離れ、マモル兄だけが俺の近くまで戻ってきた。

「回収する」


 剣を先に受け取り、マモル兄もマジックバッグに収納した。


「もう一度トルネードで蜂を蹴散らすから、マモル弟はそのまま待機」


 トルネード、トルネード!


 マモル弟の周囲にキラービーがいなくなったのを確認して、駆け寄り結界で包む。小さな結界内にいるのは俺だけで、大きい方の結界内にはマモル弟とハチの巣から出てきたフラワービーが飛び回っている。

 しばらくするとたいまつの煙が外に逃げて行かないためにフラワービーの動きが嫌がっている様子に変わった。結界を解除してすぐに弱めのトルネードでフラワービーを周囲に散らし、結界を張り直した。


「残ったのは5匹ぐらいか」

 このぐらいの数だと、うっとおしいぐらいで恐怖感はない。ミストウォールで羽を湿らせ、フラワービーの飛ぶ勢いを落としてから結界を解く、と同時に周辺をトルネードで一掃。


「…よし」

 しばらく待っても結界内は静かなままだ。完全に蜂がいなくなった。俺だけを守っていた結界を消してマモル弟から甘い匂いのする巣を回収しようとして…アイテムボックスに入らないことに気が付いた。


「マジか…」

 まだなにか生きたものがいる。


 仕方なくテーブルを出し、ハチの巣を大鍋の上に置かせるとマモル弟だけアイテムボックスに回収。蜜がこぼれるともったいないので、巣を大鍋に置いたまま解体ナイフで慎重に壊して詰めていく。


「あーこれか」

 蜂の子だ。これも確か、食べられるんだよな。食べたい気にはならないけど。


「すごい匂いだ。濃厚で…ハチミツの匂いだけで甘いものを食べている気分になる」

 手とナイフをべとべとにしながら巣を壊し、より分けていく。

 蜂の子だけを箸でつまんで瓶に入れ、蓋をする。そのうち空気がなくなって死ぬだろう。それまでは仕方がないから鞄の中にでも入れておくか。リュックを出し、蜂の子入りのピンを入れ、背負う。


 ここでゆっくりハチミツを絞る時間もないから、マジックボックスに大鍋ごと収納する。シェルター内に移動して結界をコーヒーで気分を一新させ、落ち着いたところで森へ戻る。


 すっかり時間をとってしまった。もっと上手な採集方法があったかもしれないが、いまは反省する時間すら惜しい。

 フローティングボードを出して上空へ。カケルに乗り換えたら遅れを取り戻すために、速度を上げて飛んだ。


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