第62話
「おはようございます」
冒険者ギルドでセルビナさんに朝の挨拶をする。
「おはよう、ヒロヤくん。これが依頼書よ」
「はい」
受け取って、内容を確認する。
この時間の冒険者ギルド内は広いフロアが窮屈に感じるほど冒険者たちが多く、混雑していた。依頼の手続きを待つ冒険者の列が長く伸び、順番を待つ間にも知り合いと話をしている人が多い。依頼ボードの周辺でもどの仕事を受けようかと仲間たちと相談している声や笑い声がしている。特に体格の良い冒険者の地声が大きく目立つ気がする。
わいわいがやがやと騒がしい中、セルビナさんが冒険者スタイルでフロアにいるのがすごく気になるのか、仲間たちと話をしながらもチラチラとこちらを見てくる冒険者たちの視線が…正直に言うとうっとおしい。
「確認しました。…今日はよろしくお願いします」
森での採集と獣の討伐依頼で間違いないことをささっと確認し、依頼書をポーチにしまう。
「はい。よろしくね。…では、行きましょうか」
ビギナーズ講習みたいだぞ…とひそひそ声がする中、足早に二人でギルドを後にした。
町を出てからピアッシュを装備する。今回は7本とも普通のものをセットした。弱毒や麻痺効果のあるピアッシュはアイテムボックスの中に入れたままにしてある。必要になったとき、投げる瞬間にアイテムボックスから取り出せばいい。
森へ向かう冒険者は俺たちだけではない。パーティもいればソロっぽい人もいる。聞くとはなしに彼らの会話を聞きながら、こちらも聞かれても差し支えない程度の話をぽつりぽつりセルビナさんと交わす。
町から離れるにしたがって、周囲の流れに乗り遅れているのがハッキリする。やはり俺の歩く速さは遅いみたいだ。
「ヒロヤくん。無理しなくてもいいわよ。自分のペース配分でないと疲れるわよ」
「すみません」
セルビナさんに注意され、必死に上げていた歩くスピードを落とす。
「しばらくはソロ活動するのよね?」
「そのつもりです」
しばらくではなく、きっと…ずっと、だと思う。隠しておきたいことが多すぎる。シェルターを使いたいからひとりでないと困るし、アイテムボックスも使いたい。
「だったらなおさら無理はダメよ。無理と無茶はしない。常に余力を残すつもりで、ね」
「はい」
「引っ越したのよね? 部屋はどう? 気に入ったものが見つかった?」
周囲に人がいなくなってから、セルビナさんは聞いてきた。住んでいる場所についてなんて個人情報になるから、気遣ってくれたのだと思う。
「はい。気にいったので、ひとまず1カ月借りることにしました」
「そう良かったわね。どの辺?」
「レーレルという古着屋の3階です」
「ああ、あそこ。何度か買い物をしたことはあるけど…3階に貸し部屋があったのね」
「わりと部屋が広めで、専用キッチンと共用シャワーもあったのでそこに決めました」
「キッチンとシャワーがあるのはいいわね」
「…あ、そうだ。【ヨウサナの絆】という二人組の冒険者ご存知ですか?」
「知っているわ。ヨウサナ村出身の兄弟っぽいけど、実は従兄弟というパーティよね。…彼らも同じ階に?」
俺は頷いた。
「他に女性も三人いるみたいですけど、そのうちの1人が……」
まだ会ったことがない、話に聞いただけの女性冒険者グループのことを話すと、セルビナさんは彼女のグループのことも知っていた。
ただ、知っているというだけでそれ以上の情報を明かさなかったのは、それもギルド職員として他の冒険者に関する情報を漏らさないということなのかもしれない。ぺらぺらとしゃべる人だったら、俺のことも他の人にしゃべってしまうんじゃないかと警戒するところだから、安心した。
森に入ると街道を歩く時よりも慎重に歩を進める。地図スキルでまだ危険はないと分かっていても、今は試験中なのだ。警戒しているところをちゃんと見て評価してもらわないと合格をもらえなくなる。
時々立ち止まって様子を伺いながら進む。偶然見つけたフリをした薬草を採集しながら1時間ほど過ぎた頃、鳥の鳴き声が聞こえた。元の世界にいた時は鳥には詳しくなかったから鳴き声だけで何かは分からない。だけど今は鳴き声の主が山鳩で食べられることも分かっている。
静かに、慎重に鳴き声がする方へと進む。そっと木の影から覗くと5メートルほど先の枝に止まっている山鳩を見つけた。遠視スキルと投擲スキルを両方ともオンにして、ピアッシュに軽く魔力を注いで素早く放つ。
「…回収します」
背後にいたセルビナさんに声を掛けてから、獲物に近寄った。
あれ? 鳥も血抜きをした方がいいかな。そんなに大きくないけど…
「セルビナさん、このサイズの鳥も血抜きしておいた方がいいですか?」
「そうねぇ。今回はマジックバッグに入れて持って帰れるからどちらでも構わないけれど、肉が売りものになるものはしておいた方が売値が良くなるかしら」
「分かりました」
どこに血抜きナイフを突き立てればいいか分からなかったが、基本的には首でいいだろうと判断。身体が小さい分、あっという間に終わる。
「すみません、お願いします」
獲物をセルビナさんに託す。今回は付き添いの彼女が持ってきたマジックバッグに入れて持って帰ることになっている。
「これ、常設にもあるけどなかなか狩ってくる人がいないのよね」
「そうなんですか?」
「そうよ。基本、鳥類は狩人の人達が狩ることの方が多いわね。この森の南側は鳥類が多いから、狩人優先の狩り場になっていて罠もあちこちに仕掛けてあるから、その罠を壊したり狩人の邪魔をしたりしないように気をつけてね」
「はい、気をつけます」
いいことを聞いた。南側は狩人たちがメインの狩場なのか。鳥を捉まえる罠ってどんな感じなのか、後日こっそり見学させてもらいに行こう。
森での狩りは平原以上に隠れられる場所があるから見つけにくい。地図スキルでモモンガに似た生き物がいると分かっていても、木のどこにいるか見つけられなかった。ひと目で分からないものは気が付かなかったふりをするしかない。
2時間歩きまわっても、得られたのは山鳩1羽と薬草が3種類だった。
「セルビナさん、そろそろ昼食休憩にしたいと思います」
「…そうね。あとしばらく待ってもその声が掛からなかったら私の方から提案させてもらおうと思っていたわ」
つまり、ここで休憩をとるのは合格ということだ。比較的開けた場所で、腰を降ろすのにちょうどいいと思ったので足を止めたのだ。
「先に手を洗いましょう」
「そうね」
こぶし大の水球を2つ、ふわりと浮かべる。…そのうちのひとつをセルビナさんの方へゆっくり移動させる。
「ありがとう」
水球を撫でるようにして俺と彼女は手を洗った。
「どういたしまして」
彼女が洗い終えたのを確認して、ぱっと消す。
「お昼にどうかと思って、ガレット巻きを買ってきたんです」
ウエストポーチのマジックバックからセルビナさん用にと買ってきた分を差し出す。
「え、私の分?」
「昨日、行列が出来る屋台で買ってきたんです。冷めていても美味しいですよ」
俺のアイテムボックスだと時間停止になっている。だからいつもなら、出した途端に作りたてが食べられる。だけど今回は…時間停止も遅延もかかっていないマジックバックに入れてきたから、冷めてしまっている。味は落ちているだろうが、わざとそうした。
時間停止のマジックバッグはサイズに関係なく高級品扱いだと、世界基本知識さんに教えてもらったのだ。
「ありがとう。ビギナーズの子に講習先でランチをごちそうになるのって初めてだわ」
「あ…別に賄賂ってわけじゃないですから」
マズったか?
「すごく美味しかったから、お勧めしたいと思っただけで…」
焦る俺を見て、セルビナさんは笑った。
「分かっているわ。賄賂なんてもらわなくても評価は変えない…とはいえないか」
「え?」
「お昼を買ってくるのを忘れる。持ってくるのを忘れる。そもそも、買うお金を持っていない…そんなビギナーズもいる中、君はホントに出来がいいわ」
「…えーっと、はい」
褒められたのだろうが…なんとなく素直に受け取っていいのか迷った。
「ふふっ。私的には高評価だから。…さっそく、いただくわね。すごく美味しそう」
セルビナさんがかぶりつくのを見て、俺も自分の分をバッグから取り出した。
「んー、なにこれ。美味しい!」
気に入ってもらえたみたいだ。
「甘くて、でもからい? そして香ばしい。なんなのこれ? 肉が兎だというのは分かるけど…」
「肉にかかっているソースは照り焼きソースというらしいです」
「…てりやきソース。初めて聞いたわ」
しげしげと見てから、彼女はあっという間に1つを食べきった。
俺も1つでは足りないので、2つ目をマジックバックから取り出し…
「もう一つどうです?」
「いいのっ?」
「はい。2つずつ買ってあるので、遠慮なく」
「ありがとう!」
満面の笑みを向ける彼女に肉巻きガレットを手渡す。
食べきる前に、こちらにオオカミが1匹走ってくるのを地図スキルさんが教えてくれた。期待した通りだ。
「食後のデザートを…」
続けるはずだった「どうですか?」という言葉は飲み込む。
セルビナさんは200メートル先にいる獲物が分かるのか、顔の向きを変えた。そんな彼女を、俺はじっと観察した。すごいな。森の中は何も変化していないように静かなのに…セルビナさんは接近してくる気配を感じたらしい。
「何か来ましたか?」
小声で確認すると彼女は俺の方へ顔の向きを変え、小型の四つ足…と囁き返してさっと立った。俺もそれに続いて立ち剣を抜くがわざと左手に持って軽く構える。彼女は静かに俺の斜め後ろに立ち位置を変えた。
ガサガサと草や茂みをかきわける音、地を駆けるかすかな物音。緊張感がいやがおうにも高まり、ドキドキした。接近するモノの正体が分かっていてもこんなに緊張するのだ。相手が分からなかったら怖くて、闇雲に逃げ出していたかもしれない。
遠くに姿が見えると同時に足の付け根あたりを狙って右手でピアッシュを投げる。鳴き声を上げると同時に走る勢いがガクッと落ちる。そこへ2射。今度は眉間と目を狙う。投擲スキルと遠視スキルのwコンボは相変わらずいい仕事をする。
「子供、ですかね」
地面に倒れて伸びた全長は1メートルぐらい。テキストで習っていた森オオカミの平均全長は2メートルだから、幼体かな。
「そうみたい。でも幼体とはいえ3投でオオカミを仕留めるなんて…あ」
続いて2匹。親なのか仲間なのか分からないが、ものすごい速さで走ってくる。このまま突っ立っていればいい的になる。急いで幼体を回収して身構える。近くの木を盾がわりにしたセルビナさんが緊張した様子で聞いてきた。
「多分親、2匹よ。いける?」
「やります」
3頭同時だったら迷っていただろうが即答した。
先に走ってきたオオカミより後ろのオオカミの方がデカい。俺は胸元のホルダーから抜いたフリをしてから弱毒を塗布してあるピアッシュをアイテムボックスから出して、投げた。投げるその一瞬、目を離したそのすきを狙ったように手前のオオカミが力強く地面を蹴り、大きくジャンプして飛びかかってきた。
剣術スキルをオン。すると反射神経の能力もアップしたのか、素早く剣を左手から右手に持ち替えると同時に振りきった。浅い! と判断して即座にバックステップで間合いをあける。とびかかってくる動きに合わせて回避のち切り払う。大降りになり過ぎない最低限の動きで前肢を切って、どおっと落ちたところを追いかけるようにして接近。素早くのど元を突き刺して確実に仕留める。視界の隅でとらえていたもう1匹が、よろめいてから大きく口を開けて飛びかかってくる。正面切って受け止めるのではなく、身をかわすようにしながら切りつけ、手ごたえを感じつつ少し後ろに足を引く。
「………」
毒が回っているのか2頭めの方は動きが鈍い。だが地面に叩きつけられてなおも立ち上がり、唸りつつすぐに攻撃態勢をとる。こちらも睨み返すようにしながら、魔力を流して威力を上げたピアッシュを眉間目がけて投げる! 狙いは外れることなく、深く突き刺さった。
どさっとオオカミの大きな身体が地面に落ちた。
「…ふぅ」
思わず、ため息が出た。
「やったと思ってもまだ油断しちゃだめよ」
「はい」
「…………」
しばらく様子を伺ってみたが、2頭とももう動かなかった。
「大丈夫そうね」
「良かった」
「同時にオオカミ2頭なんて、凄いわね…おめでとう」
「緊張しました」
これまではピアッシュだけだったのだが、さすがにオオカミ相手では無理だ。剣を手にして討伐したのは初めてだ。
終わったと思ってほっとしたからか、剣術スキルをオフにしたせいか、手が小刻みに震えている。それを隠したくて、さりげなくセルビナさんから離れる。先にピアッシュを回収し、洗浄スキルで汚れを落としてホルダーにセットし直す。弱毒付きの方はアイテムボックスにこっそり隠し戻す。
先に回収していた幼体も取り出して血抜きをしたら、3頭ともセルビナさんのマジックバッグに収納してもらおう。
「セルビナさん、そのバッグに3頭とも入りますよね?」
「ええ、大丈夫よ」
抜いた血を地面に掘った穴に捨てて、荒した地面を足でならしたら撤収だ。
「ヒロヤくん、ひとつ教えてくれる? ランチに食べたあれ…わざと?」
俺は意味深に笑って見せた。
「やっぱり。…急にオオカミが現れても、動揺していなかったものね」
獲物を探して闇雲に森の中を歩き続けるのは疲れる。匂いの強い食べ物で嗅覚の優れた獲物をおびき寄せる方が効率がいいと思ったのだが…うまくいってよかった。
「今回の討伐対象はなんでもよかったですし、こんな無茶はセルビナさんがいる今しかしないと思います。基本、薬草採集をメインにするつもりなので」
「そう。…もったいないわね。ソロでオオカミを2頭同時に相手に出来るビギナーなんて、将来有望よ」
あ…もしかして、やり過ぎた? びくっとして様子を伺う俺に、彼女は笑った。
「あはは。ヒロヤ君の場合、計算しても計算通りにはいかないかもね」
「え?」
「そのバッグのこともあるし、セーブするより遠慮なくランクあげした方がいいかもよ」
「………はい」
多分、討伐の方はしない方向で避けると思うが…兎や鳥なら時々狩るかも。売っても安いし、自分用のお肉に確保しておきたい。
「あ、そうだ。鳥や兎を狩って、肉を引き取りたいと言っても実績になりますか?」
「なるわよ。持ち込み回数や量、状態なども査定に響くわね。もちろん、売り上げも実績の評価のひとつよ」
それなら、兎や鳥は薬草のついでに毎回狩ってもいいな。
「セルビナさん、まだ昼過ぎですけど…もう帰ろうと思うのですがいいですか?」
「かまわないわよ。ヒロヤくんのペースで決めてくれたら」
よかった。じゃあ、薬草も採取してあるし討伐の方もオオカミと山鳩で終了にさせてもらおう。
森を出る方へと引き返す。先に歩くのはもちろん俺だ。セルビナさんは付き添いでしかないから、ギルドに着くまで俺を先導するようなことはしない。
警戒しながらの移動なので余計な会話はせずほぼほぼ無言のまま森から出て、街道を歩くようになってから質問をしてみた
「ランク落ちについて確認したいんですけど…クエストを終えてから次のクエストを受ける期間が長くなってしまったら…ランクが落ちるなどのペナルティありますか?」
「そうねぇ。例えばケガなどで出来ない場合を除くとして…長めの休養程度ではランク落ちはないかな」
「長めの休養というと、具体的にはどのぐらい?」
「ランクによっても多少は変わるけど、ランクが下の子ほどギルドに来る間隔が短くなると一応心配はするわね」
無茶なことをしてケガをしたり、最悪死んでしまっていないかどうか、ということだろう。
「銅クラスだと5日くらいで、一度気にするかしら」
5日顔を出さないだけで心配される。…うーん、早いような早くないような。
「ランクが下の子ほどお金に余裕がなかったりするから、5日も稼ぎ無しで大丈夫かしらと心配するわね」
「なるほど…」
今の俺は一年どころか十年でも働かずに生活していけるだろう。だけど、さすがに何もせずに遊んで暮らす気はない。
「もしヒロヤくんがゆっくり休養したいと思ったら、事前に連絡をくれると助かるわ」
「分かりました。事前に連絡します」
錬金術師さんの隠れ家へは飛行機ゴーレムのカケルで日帰りが可能だ。と言っても行ってから、最低でも2日はゆっくりしたいところだ。何かを作っていたら一日なんてあっという間に過ぎてしまう。せっかく行ったなら森の中の散策もしたいし…誰も来ない静かな場所でのんびりもしたい。3、4日過ごしても退屈しないだろう。
「セルビナさん、少し休憩にしましょう」
そう声を掛けて街道を少し離れる。すぐに同意して脇の草地に腰を下ろすセルビナさんに続いて、俺も座った。町まであと30分ほどのこのあたりなら、兎も出てこないだろう。
「ヒロヤくん。以前約束した、おススメを持ってきたのよ」
そう言ってセルビナさんがマジックバックから取り出したのはどら焼きサイズのミニパンケーキだった。
「美味しそうですね」
「間にミルククリームとアンズジャムが入っているのよ」
手洗い用の水球をひとつ、セルビナさんに渡す。
「…あら、ありがとう」
飲み物は果実水でいいだろう。マジックバッグに入れてきていたカップ入りを二つ取り出せば、セルビナさんは驚いた後すごく喜んだ。
「ヒロヤくんて…ホント気が利いているわね」
2人して並んで、のんびりおやつタイム。今ここに誰かが通りかかったら、何しているんだという目で見られたかもしれない。
「美味しいですね」
パンケーキ自体はまだまだ改良の余地があると思うが、クリームが爽やかで程よい甘さだった。
「これ甘すぎなくてちょうどいいから、数個ぐらい食べられそうです」
「気に入ってくれた? 良かった。この他にも数種類あるから、いつも買うのに迷うのよね」
「そうなんですね」
店の場所を教えてもらって、いつか行ってみようと思った。
俺からはトルドスのおっちゃんの屋台の場所を教えてあげた。
「あのてりやきソースというのは病みつきになりそうなほどおいしいわね。でも、ギルドから少し遠いのが残念だわ」
「そのうち真似するところが出てくるかもしれませんけど、しばらくはそこだけだと思います」
「そう。それじゃあ、お休みの日に行くしかないわね」
そんなこんなの話をしながら小休憩。体力も気力もしっかり回復したところで、帰路についた。
「お疲れ様でした」
ギルドに戻ってきて、買取窓口へ向かおうとして「あ」と気が付いた。獲物はセルビナさんが持っているマジックバックの中だ。
「お疲れ様。急いで解体に出してくるわね。採集した薬草を買い取り窓口に出してから、一番端の受付窓口前で待っていて」
セルビナさんが指さした窓口を見て確認し、頷き返す。
「はい。すみません。よろしくお願いします」
薬草の買取票を受け取って休止中の札が出てしまっている窓口の前で待っていると、セルビナさんが戻ってきた。
「おまたせ」と言って向かい側の受付ブースに腰かけた彼女は軽鎧を脱いで普段通りの受付嬢スタイルに戻っていた。
休止中の札を片付け、窓口を開けると彼女は椅子に座った。
「先に支払いの手続きを済ませてしまうわね」
俺が提出した薬草の買取表も受け取り、さっと目を通して小さく頷いた。
「金額を確認してちょうだい」
てきぱきと作業をしていたと思ったら、すぐに2枚セットになった買取り価格表がカウンターの上を滑るようにして出てきた。2枚目には合計金額が書いてある。
「あ、はい」
金額よりもオオカミも薬草もそれぞれの状態が優ランクになっていたのが嬉しい。
「下に解体経費が引かれているでしょ。お任せで良かったかしら?」
「はい、お願いしたいです」
解体の講習は習ったが、それは討伐証明部位を自分で切り取って持ち帰ることが出来るようにするのが目的だ。それさえできれば解体講習は卒業できる。
兎にしろオオカミにしろ、毛皮が売り物になるものは解体に慣れたギルド職員がした方が値段が上がるからマジックバック持ちはそのまま持ち込む。マジックバッグ持ちでなければ帰りの荷物を減らすために自分で解体することもあるが、森の中で血の匂いを振りまくのは危険が伴う。持ち運べない場合は別として、可能なら森の外まで運び出してから、血抜きしたり解体したりするようだ。
「確認したら、下にサインして」
「はい」
ささっと名前をサインして買取価格表を返す。
「では、今回の森での討伐と薬草採集クエストは終了です。…ビギナーズ講習卒業おめでとう」
卒業祝いをこそっと言って、セルビナさんは柔らかく微笑みかけてくれた。
「あ、ありがとうございます」
嬉しさがぐわっと込み上げてきた。討伐も採集も大丈夫だろうとは思っていたが、改めて卒業おめでとうと言われると、照れるほどに嬉しい。
買取価格表に書かれていた金額をカウンターに並べてもらったが、カードに入れてもらうことにした。なんとなく、記念みたいな感じかな。
「ふふっ、そういうビギナーの子も多いわ。なんだか、すぐに使えないのよね」
気持ちが分かると慈愛の微笑みを向けられてますます恥ずかしい。俺だけではなかったということだが…子供っぽかっただろうか。
「明日からはヒロヤ君の好きなペースで依頼を受けていいけれど、前にも言ったように三か月間は私が担当させてもらいます」
「はい」
「無茶なクエストを受けているとか、休みを入れた方がいいとかそういうアドバイスはさせてもらうから、嫌がらずに聞いて欲しいわ」
「はい。ありがとうございます」
「ええ、じゃあ…これからもよろしくね」
「よろしくお願いします」
ギルドを後にしてそのまま町を出る。ギルドに5日顔を出さないでいると心配されるということは、4日くらいなら黙って留守にしてもいいということだ。そして今日はギルドに顔を出しているから含まれない。
まだ4時前だ。飛行機のカケルで森の中の隠れ家に向かえば、日没前には到着する。
ようやく森の中の隠れ家に戻れると思ったら、自然と足取りが軽くなっていた。




