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異世界に来たら召 喚スキルがありました  作者: ふぅみ


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第60話

「…あ」

 兎の群れとこのまま進むと遭遇する。俺は周辺を素早く確認して、何かに気づいたかのように進路を変えた。

「どうした?」

「セルタナ草があった。依頼のものじゃないけど、採集したい」

「セルタナ草? って、これ…よくある雑草じゃないのか?」


「アルタナ草と似ているけど、こっちはほら…葉の後ろが白い」

 だからどうした? という顔をしているマーリレンに近くに生えていたアルタナ草との違いを説明する。

「この2つは匂いにも違いがある。葉を嗅いでみて」

 寄り道するな、とも余計なことをするなとも彼は言わなかった。


 俺が勧めるままに草を鼻の前に充てて匂いを嗅ぐ。

「…ん、こっちの葉は爽やかだな」

「見比べて分かり難かったら、この匂いを覚えておくといい。このセルタナ草は制汗…えっと、汗を出にくくする効果があるんだ」

「汗を出にくくする?」

「うん。つまり、汗臭さを防ぐってことだよ」

「ホントか!」

 すごい勢いで食いついてきた。


「うん。商品として売っているのより効果は薄いけど、これを摘んで、手のひらで揉んで出た汁を水で薄めたものを汗をかきやすい部分に塗るだけでいい。今の季節はそれほど気にならないだろうけど、真夏だとおススメだよ」

「やってみる!」


 マーリレンも年頃男子としては汗の匂いが気になるらしい。これからますます暑くなる。知っておいて損はないと思う。

 水生成水筒をマジックバッグから取り出し、彼はセルタナ草の簡易制汗液を掌に塗り、さらにそれを首筋に塗った。革鎧を着ていなかったら、脇の下にも濡れただろうが…草原の真ん中で脱ぐ訳にもいかない。

「爽やかな香りはするが…分からないな」

「まあ、商品より効果は薄いよ。でも、材料費タダだし…もっと暑くなってきたら試してみてよ」


 と、話し込んでいる間に兎の群れとの遭遇を無事、やり過ごせた。

「他には? 他にもいい草ないのか?」

「あ、薬草に興味出てきた?」

「…少しな」


 草原を突っ切る間に、手軽に利用できる止血効果のある野草を紹介してみたが、こちらは残念ながらこの周辺では採集できない。だが、手に入りやすくて安い薬草だ。知識として知っていてもいいと思う。


「森の入り口に着いたな」

 ダイウヤクが採集できる場所まであと少しだ。地図スキルさんが群生地を教えてくれていたが、いきなり向かうのは怪しまれそうでどうしようと思っていたら、マーリレンさんがヒントをくれた。


 多分、平原を歩いている時に薬草のことをあれこれ教えたのが効いているのかも。森の歩き方や探し方を親切に教えてくれる。


「地面をよく観察するんだ。初心者だけでなく、冒険者がよく通る道は草の生え方や地面の色が違う」

 森の中での会話は小声にした方がいいらしく、彼は囁くような声で地面を指さす。


 俺はじっくり地面を見て、周囲を観察し、警戒している様子でそろそろと歩き出した。

「確か…サレーナさんのテキストに書いてあった…目印になる岩。それを探せばいいんだよね」

 テキストを思い出しているフリをして小声で呟く。



 10分ほどで無事、目的地に着いた俺は警戒を続けながら背負い子に下げていた袋から採集スコップや袋を取り出した。

 良く育ったダイウヤクの根元を掘り返し、慎重に根を採集する。大きい塊を5つ、一袋にまとめて入れた。

「手慣れているな」

「まあね。薬草採集は育ての親に教えられているから」

「なるほど…だから森歩きにも慣れているのか」


 少し離れた場所で俺のしていることを見守っていたマーリレンが近寄ってきた。

「これは何に使われるんだ?」

「消炎、つまり炎症を改善する効果がある」

「具体的には?」

「んー。火傷を治す塗り薬や打撲や肩こりなども早く治せる薬の材料のひとつかな」

 ポーションを使えばあっという間に治せるが、ポーションは高額だ。この世界でも塗るタイプの傷薬は広く一般向けに製造販売されている。


「材料のひとつ、という事はこれだけでは火傷の薬にはならない?」

「そうだね」

 消炎の他に鎮痛成分も一緒に配合する必要があるし、油分を加えることで肌に浸透しやすく効果も上がる。製品化するなら、最低でも3つ4つの材料が必要だ。


「セルタナ草のように揉んで水で薄めるだけ、という手軽なものじゃないのか」

 残念そうに呟くが、そうそう簡単にできるものばかりじゃない。


「…移動するよ。次はコウケイの葉だ」

 個人用にも欲しかったが、薬師スキルを持つ者でないと調薬は出来ない。ことになっているから、依頼を受けた分だけの採集にした。それに、この地は初心者向けの採集地だ。欲しいから好きなだけ取る、というのは間違っている。この後ここに来る後輩や同僚のためにも必要最低限だけの採集にするべきだと思った。


「えーと、確か…コウケイが採集できるのは日当たりがいい場所だったな」

 わざと…採集地を探しながらふらふらと歩いているフリをしつつ、確実に目的地へ近づいていく。途中、鹿の気配を感じたフリをして足を止める。もちろん、俺よりも早くマーリレンは気が付いていたみたいだ。

 …本当は俺の方が早く、1キロ先から鹿の動きには気が付いていたけど、数百メートルの距離になるまで気が付いていないフリをしていた。


【静かに】【注意しろ】のハンドサインが送られてくる。俺は頷き返して、木立の向こうの様子を伺い、じっとしていた。


「去ったな」

 数分ほどで鹿は立ち去った。こちらの気配に気づいていたのか、いなかったのかは分からない。

「ちらりと角が見えた気がした」

「俺のいたところからは見えなかったが…一角鹿だろう。気性が荒い奴だから、気づかれなくて良かったよ」

 青銅2クラスになると索敵スキルも備わってくるのだろうか。彼は見えない状態でも、獣の気配を察して正体を掴んでいた。地図スキルでズルをしている俺にしてみれば、彼のその能力をすごいと思った。この世界の人の能力の片鱗を感じ、素直に感心した。


 と、同時に青銅2クラスになると索敵が使えるフリが出来るという事も知った。

「一角鹿…」

 サレーナさんのテキストイラストでは、地球の一角魚のようなねじれた一本角が書いてあった。先端部分はピアッシュのようには鋭く尖っていて、槍のように長い。一角鹿の一番怖い攻撃は、やはりその角を使った突進らしい。人間の身体も一気に串刺しにしてしまうとか。


「ソロで狩れるようになれば紫色に手が届くかもな」

 ということは、マーリレンはそろそろソロで狩れるという事だ。

「確か、青銅以上になるには討伐や採集の実績だけではダメだとか…」

「そうだ。俺が今回ビギナーズの引率をやっているのも、昇給に必要なポイントを稼ぐためなんだ」

「なるほど…」


「黄銅2から青銅2の間にビギナーズの引率を最低1回。警護の仕事を最低1回成功してからじゃないと、昇級試験は受けさせてもらえない」

 黄銅2からという事は、サーリャの引率も昇給のためのポイント稼ぎだったのかも。

「ヒロヤもそのうち、ビギナーズの引率を受ける立場になると思うけど…変なのに当たったら一度じゃ済まなくなるから、ギルド職員の心証は今から良くしておけよ。…って、ヒロヤにはこのアドバイスは要らないか」

 マーリレンは苦笑いした。


「何せ、セルビナさん期待の新人だからな」

 期待の新人、か。

「ランクアップはまだ先の話だと思うけど、教えてくれてありがとう。セルビナさんの心証が良くなるように気をつける」

 とりあえずは、目指せビギナーズ卒業だ。


「あの人、美人でファンも多いから…そっちのやっかみも気をつけておけよ」

「あ、やっぱり。人気があるんだ」

「そりゃそうさ。仕事も出来るし美人だし、色気もあるし、何より胸がデカい」

 俺は黙ってうんうん頷いた。胸が大きい女性が嫌いな男なんていないだろう。…多分。


「少し姉御肌だけど、そこも人気のひとつだよな」

「あ、やっぱり。俺も姉御肌だなって思ってた」

 強いだけじゃない。面倒見がよさそうだし、頼りになる。


「そろそろ、次に行くか」

「…だね」


 コウケイは低木だ。見つけることさえできれば葉の採集は簡単だ。

 ダイウヤクの群生地から500メートルほどしか離れていないのは、ビギナーズ用のクエに適していると言える。とはいえ、方向を間違って逆に進んでしまえば、これほど近くにあることに気が付かないだろう。


「採集用の袋もちゃんと持ってきているんだな」

「いつどこで、いい薬草を発見するか分からないからね」

「セルビナさんが言うように、知識は十分だな。あとは経験か。…それも森の中を歩いていれば、自然と分かるようになる」


 コウケイの葉は少しぐらい余分に採集しても良さそうだったので、自分用にも余分に積んでおいた。

「ビギナーズを卒業して森歩きが出来るようになったら、色々と探し回ってみるよ」

「ソロでやっていくのか?」

 俺は黙って頷いた。

「マーリレンは? 何人とパーティを組んでいるの?」

「……いや、ひとりだ」


 いつもはパーティを組んでいても、今回のような引率の依頼は独りで受けることになる。それゆえの一人活動家と思っていたら違ったみたいだ。

「ソロ活動している人は少ない?」

「どうかな…。いや、そうでもないと思うが、ランクが上に行けば行くほどソロは少なくなる」

 俺は黙って頷いた。

 ランクが上になるという事は依頼も難しくなってくるという事。獲物も強くなるという事だ。ソロ活動が限界になる…分かるような気がする。

「セルセラの街には銀以上はいないって聞いたし、他の街よりはソロ活動しやすそうだね」

「…そうかもしれない」


 俺も訳ありで他の人と一緒に組むのは遠慮したい。マーリレンもソロ活動する何かの理由が、もしかしたらあるのかもしれないから深く突っ込まないことにする。


「そろそろ森を出よう」

 次は兎狩りだ。

「了解」


 迷うことなく森を出て、平原へ戻る。行きにはわざと遭遇しないように歩いたが、帰りは逆だ。出来るだけ最短距離になるようなルートを通りながら、兎を探す。時々足を止めて兎の気配を探すフリをする。


 いた。500メートル先か。しかし、遠い。急に進路を変えると不自然だよな。

 どうするかと思いつつ気配を探るフリでじっとしているとすこしずつ兎が接近してきた。どのぐらいで彼は気づくだろうと思っていると、100メートルのラインを越えたところで気づいた気配を感じた。


 振り返って、マーリレンが見ている方角をじっと見て…ようやく気が付いたフリをする。

 そろりそろりと慎重に歩を進め、距離を縮める。と、兎が周囲を確認するように背伸びをした。


 気が付いた! 逃げる!


 いま! と狙ったタイミングは焦りの方が早かったらしく外してしまった。がすぐに2射めを投じていて、運よく後ろ脚をかすめ、3射めで仕留めた。


 ふぅ…と無意識に息が漏れた。


「やったな」

「…なんとか、ギリギリというところだね」


 フリではなく、焦ってしまった。思っていたより素早くて、逃がしてしまうかと思った。


「初めてなんだろう? それ」

 俺は頷いた。初めて実戦で使ったピアッシュにはまだ麻痺毒はつけてないものをつかった。7本のうち、2本だけ弱い麻痺毒を塗布してある。


「初めての獲物を逃がさなかったんだから、上出来だ」

 一発必中ではなかったのに、褒めてもらえたのが素直に嬉しかった。

「ありがとう。これからもっと上手になるよう、練習するよ」


 仕留めたウサギは血抜きナイフで血抜きだけしてそのまま持って帰ることにした。食べられない獲物の場合は解体した方がいいだろうが、兎は肉も毛皮も角も売れる。


 袋に入れたウサギを背負い子にのせ、激しい動きをしても落ちないようにロープで括りつける。ピアッシュは回収して布で軽く拭いた後、3本とも元の位置にセットした。


「とりあえず依頼は達成出来たな。どうする? もう少し狩っていくか?」

「初めての狩りに緊張して…帰り道に見つけたら狩るぐらいにしたい、かな」

「緊張、ねぇ。順調すぎるほど順調ですごく落ち着いていたように見えたけどな」


 俺は微苦笑した。

「いや、仕留められたけど…後から、手が震えたよ」

 初めて命あるものを殺したという衝撃がきている。解体スキルを入れたらこの手の微かな震えは止まるだろうけど、そうすると今度は平然としすぎる気がするからオフのままでいようと思う。


「やっぱり、俺は採集を基本にやっていきたいな」

「そうか。それならそれでいいんじゃないか。…じゃ、帰るか」


 頷いて、最短ルートを通る。そして歩き出してから30分後。


「…どうする?」とマーリレンに聞かれた。溜息をつきたくなったが、ぐっとこらえて狙いをつける。

 真剣に見つめたことで遠視スキルが働いてしまったらしく、狙いがつけやすくなってしまった。


 無言で1投。仕留め損ねなかったと見えていたけど立て続けに、もう1投。今度は狙いを外して投げた。


「……やったな」

「多分…」


 同じようにピアッシュと兎を回収。余裕で入る大きめの麻袋を持ってきていたから、二匹目も同じ袋に入れて口を縛る。


さらに10分後。

「…どうする?」とマーリレンに聞かれた。探して接近したわけじゃないのに…と溜息をつきたくなったが、ぐっとこらえて頷き返す。

 獲物を見つけておきながら見逃すなんて、普通の冒険者はしないと思う。


「やってみる」


 何で、同じ場所に3匹も固まってじっとしているんだよと毒づきそうになりながら狙いをつけて…1投必中なのを誤魔化すために次々と…5本のピアッシュを投げた。


「…やったのか?」

 逃げ出した兎がいれば追いかけて援護しようとしていたらしく、彼は剣を抜いて身構えていた。

「…分からないけど、多分…」


 立て続けに投げたけど、投擲スキルがきちんと仕事をしている。初めの3射で3匹とも頭を貫いていた。出来がよすぎなのでワザと遠視スキルで外したところに残りの2本を投げた。多分どの順番にどこに当たったのか彼には分からないハズ。


「…おぉ、すごいな」

 足早に兎の元へ駆け寄り、3匹とも死んでいるのを確認すると彼は抜き身だった剣を戻した。


「良かった。偶然うまくいったみたいだ」

「偶然だろうが何だろうが、結果が全てた。お前のそれ、すごいな。鳥だけでなく兎狩りにも向いているな」

「…でも、身体が小さい獲物だけだよ」

「ああ、確かにそうだな」

 俺はピアッシュを回収してから、血抜きナイフを困ったように見た。


「これ、いっぱいになったらどうしたらいい? その辺に血を捨てるのってマナー違反?」

 兎サイズなら5匹くらいまで抜いた血をナイフにキープできるみたいだが、それ以上の場合は?

「いらない内臓や血などの処理は基本、地面に埋める。そのまま放置すると、獣を引き寄せることになる」


 だよね。

「分かった。…ありがとう」

 今回は血だけを処分するだけだから、採集用のスコップで10センチほど地面を掘って穴をあけた。

 血抜きナイフに吸わせた5匹分の血を廃棄する。スコップで避けてあった土をかぶせてしっかり埋め戻す。


「初めてのクエストで5匹か…すごいな」

 麻袋には3匹までしか入らないから、2枚目の麻袋を取り出す。採集したものを入れるのにも使えるため、麻袋は多めに買ってある。

 念のため予備を持ってきて良かった、という顔をしておく。


「この平原ってこんなにもたくさん兎がいるのか?」

「いや。短時間でこれだと多い方かな。…でも、毎日兎狩りしている奴がいるのに絶滅しないから、やっぱりもともと多いのかもな」

「そっか。…青銅になったら、やっぱり狩場は平原よりも森?」

「たいていの奴はそうだけど、平原の方が好きな奴もいる」

「それで生活できる?」

「さあ? やっていけてるんじゃないか」

 兎の卸売価格は変動するだろう。最低でも毎日の宿代と食事代を稼ぐとなったら、兎だけでも10匹ぐらい狩る必要があるかも。


「もうこれ以上は重いから嫌だな」

「まあ、そう言うな。頑張れ」

 励ましてはくれるが、手伝ってはくれない。手伝われても困るが…今回はひとりでやれるかどうかの見届けだ。パーティの仲間というわけじゃないから仕方がない。


 帰り道、マーリレンはセルタナ草を探しながら歩いているみたいだけど…見つけられずに拗ねていた。俺はもういらないのに、兎が飛びかかってきて…仕留めそこなったフリをして3匹のうち2匹を逃がした。草食の癖に人間を襲ってくるなよ。


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