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異世界に来たら召 喚スキルがありました  作者: ふぅみ


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第58話

「お待たせ」

「じゃあ、帰ろっか」

 行きと同じで、帰りもサーリャは俺の後をついて歩いた。自力でギルドからの行き帰りが出来るかどうかを確認しているということだろう。

 ふたりでギルドまで戻り、セルビナさんに仕事完了サインをもらった依頼書を渡す。


「もう終わったの? 早くても2時間はかかると思っていたけど…まだ1時間にもならないわよ?」

 セルビナさんの視線が俺からサーリャへと変わった。

「問題なしです。…というより、ある意味問題ありなのかも。エミナル婆さんとあんなににこやかに話が出来る男の子、初めて見ました!」

 サーリャ、その報告はどうなんだよと心の中では突っ込んでも、実際には何も言えなかった。一応、相手は先輩だし。


「そうなの? その辺、詳しく教えて」

 場所を変えることになり2階へ。


「まず、現着までの移動はどうだった? 彼が道に迷ったり、困ることはなかった?」

「全然です。知った道のようにすいすい歩いて、迷うことなく到着してました」

「エミナルお婆さんとの対応も問題なかったという話だけど…仕事を請け負う時の言葉遣いは出来てた?」

 俺はしばらくセルビナさんとサーリャが話しているのを聞いているだけになった。


「出来ていたかどうかという話じゃないですよ、セルビナさん、挨拶は完ぺき、笑顔で…というか、にこやか過ぎてびっくりしちゃったほどです」

 サーリャは時々声真似までしながら俺とエミナルお婆ちゃんの会話を再現してみせた。


「で、実際に仕事に取り掛かる段になっても驚いちゃいました。あたしたち、みんな屋根掃除の場合はロープを使って上るのに彼、まるでサルみたいにすいすい壁を伝って上っちゃうんですよ」

「壁を?」

「そうです。あっという間に上がったかと思ったら上で魔法を使っていた気配がして、すぐに終わったという声が掛かったので…ロープを結んでもらって引き揚げてもらったら、本当に綺麗になってました。というか、完璧です」


「そう。ありがとう…報告の方は以上でいいわ。お疲れ様でした」

「はい、失礼します」

 やや興奮気味だったサーリャが部屋から出ていくと、セルビナさんは俺に向かってにっこり微笑みかけてきた。


「さて、期待以上の働きで街クエストを終わらせてくれたわけだけど…この後、どうしたい?」

 多分、草原クエストを引き続き受けるわけにはいかないだろうし、卒業試験もまだ終わっていないわけだからひとりで依頼を受けるわけにもいかない。


「昼まで資料室で勉強をして、今日は帰ります。行きたいところもありますから」

 昼時に顔を出せたら、トルドスのおっちゃんの屋台へ顔を出すと言ってあるし…エミナルお婆ちゃんのあの物干し台の高さも気になる。


「そう。じゃあ、草原の兎狩りと薬草採集だけど…付き添いをしてくれる冒険者が決まったわ。急で悪いけど、明日になっても大丈夫かしら?」

「大丈夫です」

「良かった。とりあえず私からは以上ね。明日の朝は8時半ごろに来てくれるかしら。装備や持ち物などで相談があるようなら今聞くわよ?」

「…いえ、大丈夫だと思います」


「そう。…それで、森の中での卒業試験は2日の休みを入れて、こちらも朝8時半にギルド集合。受付をして、それから私と一緒に出発よ」

「分かりました。監督はセルビナさんで変更はないですか?」

「変更はないわ。もしどうしても私の都合が悪くなってしまったら、予定の変更をお願いすることになると思うけど…ま、そんなことにはならないでしょう」

「よろしくお願いします」


 打ち合わせは簡単に終わり、解散になった。俺はサレーナさんのいる資料室へ顔を出した。

「こんにちは、サレーナさん」

「…こんにちは。ヒロヤ君、今日はどうしたの?」

「この前勉強させていただいたのは、街から日帰りできる範囲に限られていたと思うんですけど…勉強できる時間が出来たので、それ以外の資料も読ませていただけたら、と思いまして…」

 サレーナさんはちょっと困ったように眉をひそめた。


「ヒロヤ君には…まだ早いと思うの」

「はい、分かってます。まだ卒業試験も終わってませんし、卒業してからも日帰り以上のものは依頼を受けられないことも分かってます」

「だったら…必要ない、んじゃないかしら」


「でも、可能性はゼロではありませんよね。魔物がいつもはいない場所に出て来るって可能性」

「………」

「戦いたいわけじゃないんです。むしろ戦いたくないから、周辺情報は先に知っておきたい…それだけなんです」

 しばらく考え、サレーナさんは以前にはなかった資料も持ってきて見せてくれた。


「知ることは、確かにいいことだと私も思うわ。…戦う勇気も素晴らしいけど、逃げると決断するのも素晴らしいと思って。どんな時も、命は大切にして」

「もちろんです。怖い相手からはすぐに逃げますから。安心してください」


 俺の身を案じてくれるサレーナさんに逃げる、と約束をする。


 相変わらず、分かりやすいイラストと文章で情報がすっと頭の中に入ってくる。覚えきれないものは世界基本知識さんに頼ることにして、地図スキルさんにも薬草の主な生育地や目印となる案内図などを覚えてもらう。俺の目的はむしろこっちだった。ギルドが把握している地理情報を俺の地図スキルに落とし込む。これで今後森歩きをする時も、さらに安心安全になったと思う。


 11時前にギルドを後にして、トルドスおっちゃんの屋台へ向かう。


「おっちゃーん」

 声を掛けるとどこかホッとしたような表情で笑い返してくれた。俺が本当に昼時に来るか半信半疑だったのかな。

「ヒロヤ、よく来てくれた。裏に回ってくれ」

 言われたとおり、屋台の横からするりと裏側へ回る。

「どう?」

「ひと晩寝かせてみたから、昨日よりも旨くなっているはずだ。味見してみてくれ」


 ソースを入れていると思われる壺をずいっと渡される。

 蓋を開け、近くにあった肉の刺してない串だけを突っ込んでちょっとつけ、それを手のひらにつけてから舐めてみる。

「どうだ? いけそうか?」

「うん、いいよ。もうちょっと甘いのや反対に辛いのが好きな人もいると思うけど、基本のソースはこんな感じでいいと思う」


「ちょっと甘いのや反対に辛いの?」

「うん。でも、まずは基本のソースを軌道に乗せてからだね。種類を増やすのはそれからがいいと思う」

「おう、そうだな」

 それじゃあ、さっそく焼いてみるか。

「あ、その前にプレゼントがあるんだ」

「プレゼントだ?」


 昨夜なかなか寝付けなくて、結局ひとつだけアイテム作りをした。

「そう、これ」

「なんだ、これ?」

 木でできたTの形の棒だ。こっそり、防水加工もしてある。

「やってみるから見てて」


 ガレット生地を入れた壺から生地をお玉でひとすくいしてアツアツの鉄板に落とす。そして持ってきたガレットの伸ばし棒で薄く広げる。

「ほぅ…棒の中心を動かさずにくるりと回すことで薄焼きが簡単にできるのか」

「そうそう。おっちゃんはプロだから必要ないと思うかもしれないけど、忙しくなった時にこれがあると時間が短縮できると思うんだ。実際にやってみて」


 こてで薄焼きを作るよりも素早く簡単にできるし失敗も少ない。

「なるほど、こりゃ簡単だな」

「おっちゃんなら片手でガレットの生地を伸ばして、もう片手で肉が焼けるかもね」

「え、そんな忙しいことしなくてもガレットの生地は暇なときに焼いて鉄板の隅にでも置いておけばいいじゃないか」

 暇な時があればね。


「ところで、おっちゃん。メニューはどうするの? 値段も決めた?」

「メニューは…とりあえず兎肉を串で焼いたものに照り焼きタレを掛けたものと、ガレットに焼いた肉を載せて4つ折りにしたものの2種類でいくことにした」

「うん、いいんじゃない。卵やレタスは美味しいけど、時間かかるし…仕入れの準備もいるし、慣れてからの方がいいと俺も思うよ」

 明らかにホッとした様子なのは、俺が卵焼き入りのレタスを外すことに文句でもつけると思っていたのだろうか。いくらバリエーションが欲しいと言ったって、すぐには無理なことぐらい分かってる。


「串焼きが銅貨3枚、ガレット包みは銅貨4枚でいこうかと思っている」

この辺の屋台の串焼きだと銅貨2枚が平均だから、相場よりも高いことになる。だが、他にはない味だし物珍しい間は少しぐらい高くても売れるはずだ。

「いいんじゃない。借金もあるんだし、強気でいこうよ。早く借金返さないとね」

「借金借金言うな」

 おっちゃんは拗ねたように唇を尖らせた。


「お婆ちゃんを早く安心させてあげたいから、頑張って」

「おう…。その為にも、照り焼きソースにわしは賭ける」

「意気込みは十分だから、俺の分の試食を作ってよ。お腹空いてきた」


「よし、すぐに作ってやる。師匠はそっちの箱にでも座っててくれ」

 ニヤッと笑って師匠呼びされた。俺もニヤッと笑い返してみた。


 水の入った桶はそれほど汚れていなかったが、焼き上がりを待つ間に新しいものに変えておく。

「こっちの空の樽にも入れておく?」

「すまん、頼む」

 ということでこちらにも洗い用の水を入れていると、ものすごくいい匂いが漂ってきた。照り焼きソースの焼ける匂いはたまらないな。

「どっちから食べる?」

「ガレットから」

「おぅ…ほら、熱いから気をつけろ」

 なるほど焼きたてはアツアツで手に持つのがちょっと要注意だ。手持ちのハキロの葉を取り出し、包んでかぶりつく。


「うんうん。美味いよ、おっちゃん」

「そうだろそうだろ。なんせ、師匠仕込みだからな」

 ふたりして笑いあっていると「すげぇいい匂いがするな」と言って客らしき男が近寄ってきた。


「幾らだ?」

「串焼きが銅貨3枚、ガレット包みは銅貨4枚。串焼きを3本買ってくれたら銅貨8枚にする」

 うん、いいんじゃないかな。腹ペコの冒険者なら3本ぐらい食べられるし、まとめ買いしてくれる客にちょっとした値引きサービスするのはありだと俺も思う。


「じゃ、串焼き3本頼む」

「まいど」


 まいど、っていうのは多分違う言葉だったと思うが俺にはそう翻訳して聞こえた。


「なんだこれ! 甘辛くて、香ばしくて、うめぇ!」

 買ったばかりの串焼きをその場で食べ、歓喜の声を上げた男の声が周りで様子を伺っていた人たちへの客寄せになった。別に仕込んだサクラじゃなかったんだけど…わっと客が集まり始めた。


「おれもくれ!」

「おれも買う!」

 押し寄せてきた冒険者風の男たちの圧に気圧されそうになる。昼時だという事もあり、みんな腹ペコなところにこのいい匂いだものな。


 俺は素早くガレット包みを食べきって、おっちゃんを助けてやることにした。

「すみませーん、一列に並んでくださいー。順番にお願いしますー」

 ギルドでも並ぶことに慣れている冒険者たちは俺の声を合図にしたようにちゃんと並んでくれた。


「串焼き3本ですね。はい、銅貨8です。お釣りです。熱いですから気をつけて。はい、次の方」

「串焼き3本とガレット包みというのもくれ」

「串焼き3本とガレット包みひとつ、合わせて銅貨12になりますー。…はい、ちょうど頂きましたー」

 俺はガレット焼きをハキロの葉に包むと、客の片方の手に串焼き肉、もう片方の手にガレット包みを渡した。


 おっちゃんはチラチラと俺に向かって「すまん」と言いたげな視線を向けてきた。人波が落ち着くまで10分近くかかった。


 途切れたわけじゃなかったけど、少し波が落ち着いたのを見計らって後ろに引っ込む。おっちゃんの屋台の内側には売上金を入れる箱があった。そこへ先程まで受け取った売上金を入れる。

「すまん、助かった」

 まだ客がいるから、こそっと礼を言ってくれた。


「いいよ、気にしないで。それより、ガレットを焼くの手伝おうか?」

 俺の地図スキルにはこちらへ向かって歩いてくる集団が光になって表示されていた。先に買った客が仲間を連れて戻ってきた予感がする。


「だい…」大丈夫と言いかけたのだろうが、ふと視線が泳いだ。向こうから接近してくる集団の気配に早くも気が付いたみたいだ。

「すまん。頼む、ししょー」

「了解」

 俺はガレットを焼き、おっちゃんが横から寄越してくれる焼いた肉に照り焼きソースを絡め、ガレットに載せて包んで客に販売した。時間が経つほどに流れ作業がスムーズにいく。照り焼きソースが切れるのが先かウサギの肉が切れるのが先かと思っていたら、兎の方が先にゴールした。


 後はすみませんと謝りつつ客に完売を告げる。

 売り切れているのに長居は無用。素早く撤収して広場を後にする。


「ふぅ…」

 ここまで来ればもう大丈夫、というわけではないだろうが、おっちゃんはため息をついた。

「すごかったな」

「そうだね。初日から完売したね」

「想像以上だった」

「明日はひとりだけど…頑張ってね」

 ぴたり、とおっちゃんの足が止まった。


「俺、明日は草原に出て兎狩りと決まっているから。絶対に来れないよ」

「……そう、か」

「うん、そうなんだ。今日以上に事前準備がいるよ」

「そうだな…」

 おっちゃんは大きくため息をつき、歩き出した。


「おっちゃん」

 俺は途中で足を止めた。

「俺、こっちに用があるから、またね!」

「寄って行ってくれないのか? まだ今日の礼もしていないのに」

「ガレット包み美味しかったよ」

 俺は一つだけとはいえしっかり食べられたが、おっちゃんは何も食べていない。


「そんなの、礼になるか! …だが、それなら別の日でもいいから寄ってくれないか。おふくろもヒロヤが来るのを楽しみにしている」

「分かった。俺もお婆ちゃんに会いたいから、近いうちにお邪魔するよ」

「絶対だぞ。約束したからな。絶対だからな」

 俺は笑って手を振った。

「分かってる。絶対に寄るよ。…じゃあね」


 おっちゃんと別れ、俺は鍛冶屋のおやっさんの店へ向かった。


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