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異世界に来たら召 喚スキルがありました  作者: ふぅみ


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第54話

 セルビナさんは元の席に座った。

「一通り、依頼を受けるところから終わりまで順におさらいしてみるわね。説明し忘れに気が付くかもしれないし」

「お願いします」


「基本的にギルドの扉が開くのは朝の5時」

「早いですね」

「朝いちに依頼を受け、6時までに街を出発しないと帰りが遅くなる場合もあるから周囲が明るくなって来たら活動開始という感じね」

「確か、8時までは混み合うんでしたよね」

「そうね。早い者勝ちだもの。報酬がいい依頼からなくなっていくから、仕方がないわね」

 俺は黙って頷くだけにした。


「依頼ボードを見て気に入ったものがあれば、張り出してある紙を取ってきて私たちに渡して受付手続きをしたら、依頼書を受け取り出発。…ヒロヤ君はビギナーズ卒業してからの話ね。明日の街中での依頼はこちらで用意するから時間も早くから来なくて大丈夫よ。9時ぐらいと付き添いの冒険者には言ってあるのだけど、大丈夫?」

「もちろんです。その時間前には来るようにします」


「じゃあ、卒業後の話を続けるわね。依頼を受けて現場へ行ったら、討伐あるいは採集をする。この時、他の冒険者と同じ採集地で出会うこともあると思うの。遠目に出会っただけの時は簡単に会釈、近くで会ったときは挨拶。声を出さない方がいい状況は会釈。そして先着の冒険者の邪魔になりそうならその場は譲って。時間をおいて戻るか別の場所を探して移動するように」

「分かりました。場所の取り合いにならないようにします」


 初めの頃はこっちがビギナーズだという事で場所の横取りをされるかもしれない。出来るだけトラブルにならないよう、誰かが近づいてきたら避けるようにしよう。幸い、俺には頼もしい地図スキルさんがいる。フィールドに出れば常に10キロ圏内の把握が可能だ。


「無事に依頼を達成したとするわね。討伐や採集の場合は依頼完了のサインは必要ないからギルドに戻ってきて、依頼のものを解体場なり買い取りカウンターに持って行って…やだ。ひょっとして、まだ買取カウンターがどこにあるのか教えてないわよね」

「ですね」

「はあ…ごめんなさい。売店に付き合った後、一階も案内するわ」

「よろしくお願いします」


「話を戻すと…買取カウンターで採集してきた薬草を納めたとするわね。そしたらその場で査定を済ませる、あるいはすぐに値がつけられない時は査定中の判を押してもらった買取用紙を受け取り、次は受付窓口へ。職員にギルドカードと買取査定用紙を渡して依頼完了の判を押してもらうの。それをもって最後に支払い窓口に提出してくれたら、依頼料をその場で受け取る…あるいは振り込んでもらって終わり、ね」

「大体の流れが、分かりました」

 窓口に最低でも3回並ばなくてはならないのか。面倒だけどそれぞれの業務の専門家がいる感じになるから、仕方がないのかな。


「解体後に依頼が完了になる場合は解体が終わるのを待ってもらうか、支払いは翌日になるわね。その辺は解体担当者から聞けると思うから、依頼表を受付窓口に出してね。…とまあ、一通り説明したけどビギナーズになってからの3カ月は買取カウンターの後の業務は担当、つまり私が担当することになるからね。依頼料がその場で支払えるか、それとも明日になるかの返事が出来るし、ヒロヤ君もその場で持ち帰りにするか振り込むか選択してちょうだい。もちろん支払業務も私がするわ」

「ありがとうございます」

 3か月間限定とはいえ、窓口が減るのはありがたい。経由する窓口が多ければ多いほど待ち時間が長くなりそうな気がする。やはり、担当者が決まっていることはメリットがあるな。


「さて、と…。話が長くなったけど、他にも聞きたいこと知りたいことはあるかしら? なかったら売店へ案内しようと思うのだけど」

「そうですね…」

 大体の流れは一通り分かった気がする。実際にやっていくなかで疑問に思ったら、その時に聞けばいい。


 しかし、興味があるから…と冒険者登録してみたらビギナーズ講習を受けなければならないことになり、これが卒業できなければソロ活動が出来ないなんて…ズルズルと冒険者家業に突入していったな。急ぐ旅じゃないし、薬師になるのだって何も今年じゃなきゃダメということもない。ここは優先順位を入れ替えて腰を据えて冒険者業を頑張るか。自分で材料を揃えて調薬したり錬金したりできると思ったらメリットしかない。


「少し話は変わりますが…」

「なにかしら?」


「他の冒険者のみなさんは宿住まいが多いんですか?」

「ああ、なんだ。そのことね。…ええ、たいていは宿を借りて住んでいるわね。たまにパーティで一軒家を借りてメンバー全員で住んでいるところもあるし、銀や黒クラスになると一軒家をひとりで借りる人も…ってまさか」

 セルビナさん。勘がいいな。


「もしかして、借りたいの? 一軒家を? まさか、よね…?」

「相場を知らないので何とも言えませんが…ちなみに、おいくらぐらいでしょう?」


「ヤダーこの子、やっぱり借りる気なんじゃないの」

 ヤダーと言われましても…聞くぐらいはいいじゃないですか。こんなことを聞けるのはセルビナさんだけだ。


「夢ですよ、夢。目標ぐらい知っていてもいいじゃないですか」

「…そうよね。いくら何でも…夢だわ。夢よね?」


 で、おいくらぐらいなんでしょう? とじっと見つめてみる。


「知りたいの?」

「参考までに」

「…知りたいのね」

 じーっ……

 この世界の賃貸事情を知れる機会なんてあまりないはず。賃貸情報誌やネットで不動産サイトを調べられる世界じゃないのだ。


「分かったわ。条件でも変わるから、大体のところだけ調べてみてあげる」

「ありがとうございます。頼れるのはセルビナさんだけなんです。助かります」


 今度はセルビナさんの方が俺をじーっと見てきた。

「お礼を貰ってもいいかしら?」

「お礼ですか? 何がいいですか?」

「あのカップケーキがいいわ、ジャム入りの」

 そんなものでいいならお安い御用だ。


「分かりました。ちなみになんですけど…場所は治安が良く、出来れば西側に近い方がありがたいです」

「西側?」

「お気に入りの食堂があるので…近いと助かるかなぁと」

「……お気に入りの食堂」

「気になります?」

「気になるわ。だって料理が趣味だというヒロヤ君が気に入るって…それ、確実においしいお店よね?」


「さぁ、どうでしょう。ヤーユル料理が嫌いな人にはそうでもないと思いますよ」

「ヤーユル料理? って、なに?」

 地方料理みたいなものか。知らない人がいても不思議ではない。


「ヤーユルというのは調味料のことです。麦を発酵させた調味料で独特の風味があるので、苦手な人もいますし、俺のように好きな人もいます」

「麦を発酵…エールも発酵させたものよね?」

「そうですね」

 セルビナさんはうん、と大きく頷いた。


「興味がわいてきたわ。ヒロヤ君のビギナーズ卒業のお祝いに奢るから、その店、案内して」

「奢りですか…」

「そうよ。遠慮しなくても大丈夫よ。ギルド職員はそこそこ給料もいいのよ」

「…分かりました。案内します」


「美味しいお店か…楽しみが増えたわ」

「ちなみに借家の契約期間も選べるかどうか確認しておいてくださいね」

「契約期間?」

「一週間単位なのか、一カ月単位なのか、半年単位なのか…それによって金額、変わってきますよね?」

「そうね、分かったわ。ちゃんとその辺りも調べておくから」

「よろしくお願いします」


*


 ギルドの売店に案内してもらって、背負い子を買った。他にもセルビナさんおススメのライター…じゃなく点火棒も買った。これは一般販売のものより風雨に強いらしい。狩人や木こりなど森の中で野営することがある人達もわざわざ買いに来ることがあるそうだ。

 テントも勧められたが、迷って…買っておいた。ステルステントのような高性能なものはなかったが、偽装用に必要かもしれないと思ったからだ。


 ギルドの一階の配置についてもひと通り教えてもらい、この日の予定はすべて終了。3時くらいに帰宅となった。もちろん、俺が宿に直帰するわけがない。


 気になっていた大通りの魔道具屋へ寄るには、いま着ている服が安物っぽいから、こちらはまた後日。フィールド実習に出かけた時に食べる用のパンや持ち帰りのできる屋台の料理の新規開拓が今日の目的だ。


 1軒目のパン屋はハード系が多かった。日持ちがするから冒険者には好まれるのかもしれないが…汁物がないと顎が疲れるんだよね。

 2軒目でようやくミルクパンを発見。向こうの世界のミルクパンと違ってやや硬めだが、これぐらいなら許容範囲。飲み物なしで食べるわけじゃないから大丈夫だろう。

 飲み物といえば…ミルクが買えるなら欲しいが、マジックバック持ちだとバラしたくないから水で我慢だな。水生成水筒は冒険者御用達の魔道具だから、これは必ず持って行こう。


 串焼肉はあるが…そいうや、麺類を見たことがないな。麺類文化がないのかな。あれば焼きそばなんかが屋台で売られていそうなものだけどないし…お好み焼きぐらいあってもいいだろうに。


「ん? あれは…」

 いい匂いにつられていってみると、そば粉のガレットを売っている店があった。


「いらっしゃいー。いらっしゃいー。美味しいよー。買って行ってーよー」

「おっちゃん、それ何?」

 そば粉のガレットと言いそうになったのをぐっと我慢する。


「そば粉のガレットだよ」

 よっしゃー! この世界の言葉が俺の世界の言葉と上手くリンクして翻訳された。実際に彼が発した発音は違ったが、俺にはそば粉のガレットとインプットされた。これで俺がそば粉のガレットと発音しても、無意識に向こうの世界の言葉に変換される。


 トマトはトマトと変換されたのに、レタスをメイロと覚えてしまったために、メイロと発音しないとこちらの世界ではもうレタスでは通じなくなってしまった。他にもレモンのメリトールとか、麦味噌のヤーユルとか。この仕組みがなんとなく分かってからは翻訳のリンクを先に繋げるように気をつけていた。


「中身は何?」

「兎の肉、イノシシの肉、山鳩もあるよ」

「肉以外はない?」

「肉以外って他に何があるってんだ?」

 おっちゃん、俺にいちゃもんをつけられたと思ったのか、ちょっと声が尖ったぞ。


「いや、他の組み合わせも美味しいと思うよ。例えば、卵とメイロとか」

「卵とメイロ? そんな組み合わせが旨いんか?」

「材料を用意したら、焼かせてもらえる?」

「おぅ、やってみろ。本当に旨かったら、兎でもイノシシでも山鳩でも好きなのを1つ食わしてやる」


「じゃあ、ちょっと買い物に行ってくるよ」

 なぜわざわざ俺がこんなことをしているかというと…いい加減、串焼肉以外のバリエーションが欲しいからだ。焼肉以外も旨いと分かったら、他の店でも工夫してくれるかもしれない。


 市場へ行くと新鮮な卵とミルク…なんと午前中に売り切っていると思っていた卵とミルクをまだ売っている露店があった。鑑定で確認したからどちらの鮮度も問題ない。

 新鮮な卵とミルクをついに発見した! ホクホクしながら売ってたお姉さんに聞いてみる。


「おねえさん、いつもこの時間に売りに来ているの?」

「うぅん。いつもは朝一に来るようにしているんだけど、今朝は荷馬車が壊れてしまってね。修繕してから街に来たからすっかり遅くなってしまったのよ」

「あ、やっぱり、いつもは朝一に来るんだね」

「そうなのよ。この時間からだと長くはいられないんだけど…ミルクが古くなってしまうから、少しでも売れないかとと思って」

「おねぇさん、ちょっといいかな」

 少し近づいて、両隣の露店の売り子や客にも聞こえないよう声を潜めた。

「俺、お使いを頼まれて大量買い出来るこれ持っているんだけど…」とマジックバッグをさりげなく見せる。


「残り全部売ってもらうわけにはいかないかな。これ、持っているのがバレないようにこっそり」

 こっそりと囁いたからなのか、彼女はごくりとつばを飲み込み、俺と同じようにそっと声を落とした。

「残り全部って…いいの? こちらはすごく助かるけど…」

「こっちもね、すごく助かるんだ。お使いできないと叱られてしまうところだったから…」

 誰にも叱られることはないが、お金持ちの主人がいるように振る舞っておく。


「えっと…それなら後ろに回る?」

「うん、助かるよ」

 テント店の裏側に入らせてもらって値段を確認する。

「えっと…大銅貨13枚…いえ、大銅貨12枚と銅貨5枚でいいわ。でも、本当にこれ全部も…買ってくれるの? いいの? 荷台一台分よ」

 荷台1台分と言っているが、それにしては量が少ない気がする。多分だけど馬車が壊れた時に三分の一ほどダメになってしまった卵やミルクがあったのではないだろうか。


 ひそひそ密談は続く。

「大丈夫。俺のこれはもっと大きい奴だから全部入るよ」

 彼女は息を飲み、じっとマジックバッグを見た。本当なのだろうかという思いと、本当ならとんでもなく高いバックだから驚いたという心の揺れ動きが見えるようだった。


 こちらも地図スキルで彼女をじっと見ていたが目の前にいる光点が赤く染まることはなかった。高額のマジックバッグが目の前にあっても、悪い気を起こすような人ではないという事だ。


「それじゃあ、これ。…お釣りはいらないから」

 銀貨1枚と大銅貨5枚を渡す。

「え…」

「今日は朝から大変な目にあって疲れたでしょ。美味しいものでも食べて元気出してね」

 荷馬車の修理代にもならないと思うけど…大銅貨2と銅貨5…つまり2,500円は飲食代の奢りとして渡しておく。


「…え…?」

 ぽろりとお姉さんが涙を流したので俺はびっくりした。

「ど、どうしたの?」

 俺が焦っていると彼女はグイッと涙を拭き、ニコッと笑ってくれた。


「困っているときに親切にされて、嬉しかったの。急に泣いてごめんね」

 そ、そうなのか。突然だったから焦った。


「ありがとう。本当に困っていたから助かるわ。お釣りなしでいただいておくわね」

「どうぞ、どうぞ。気にしないで」

 俺のお金じゃないし、みたいな感じで気軽に答える。

「それじゃあ、貰っていくね。ミルクを入れている樽はいつ返却しよう?」

「え? やだ、樽込みの値段なのよ」

 くすくすと笑われる。ここでも常識をまた一つ勉強した。


「卵を入れているこの箱も?」

「あ、それは全部まとめて買う人が滅多にいないから…うぅん、サービスで」

 さっきの差額から差し引きされるという事か。

「ありがとう。じゃあもらっておくね」

 ミルクを入れた樽が8つ。20個の卵入りの箱3つと半分入った1箱をてきぱきとマジックバックに入れていく。フリをして、俺のアイテムボックスに収納した。

「すごいわね。本当にカバンに入っちゃった」


 目を丸くしているお姉さんに「また見かけることがあったら、買いに来るね」と囁いて店の裏側から表へ出る。

「おねぇさん、ありがとう!」

「こちらこそありがとう! またどうぞー!」

 普通の声量に戻して挨拶を交わし、俺は露店を後にする。

 さ、次はメイロを買わなきゃ。これもレタスに変換できればいいんだけどなー。


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