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異世界に来たら召 喚スキルがありました  作者: ふぅみ


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第50話

「んーっ!」

 俺は大きく伸びをして、あくびをかみ殺した。


 最近は5時とか6時起きが当たり前のようになっていたから、久しぶりに寝過ごした。まだ7時なのかもう7時なのか…。約束は8時以降だから9時になっても10時になっても怒られはしないだろうが…


「あまりにも遅いと本気でやる気があるのか、と思われるだろうな」

 冒険者登録してすぐ実践講習に遅れて来る。そんな新人がいたら、俺でもそう思う。


 素早く身支度を整え、朝食は塩なしおむすび2つと昨夜こっそりお持ち帰りした味噌汁。串焼き肉を一本をおかずにして、アンズに似たフルーツを食後のデザートにした。


「マジックバッグを…どうしよう」

 ピアッシュ専用ベルトに剣帯ベルト。組み合わせとして邪魔にならないのは唯一ウエストポーチだが、これだとマジックバックだとバレないように気を付ける必要がある。


 せめて30の肩掛けマジックバックくらいは持ち歩きたいところだが…悩む。


「今日のところは講習のみだろうけど…装備を持ってるなら自前のを持っていった方がいいよな」

 マジックバック30の肩掛けカバンの中にピアッシュと専用ベルトを入れる。剣と剣帯は冒険者スタイルとしては定番だし、この街では身につけていても違和感ないだろうから堂々と剣を腰から下げておく。


「念のため、小手も持っていくか」

 片方はスキルに使ったからない。だけど剣を持たない左手だけにつけるスタイルは別におかしくない気がする。ピアッシュを入れた肩掛け鞄に入れる。


「おはようございます」

「おはようございます。これ部屋の鍵です。それでですね…」

 宿を出る前にあと2日の延長を頼んで前払いしておく。対応してくれたのはリケさんの方だ。


「ありがとうございます。…行ってらっしゃい。お気をつけて」

 宿のサービスのひとつだと分かっていても、行ってらっしゃいの声掛けは嬉しい。

「行ってきます」

 にこっと微笑み返して冒険者ギルド中央へ向かう。歩くと30分ほどかかりそうだ。急いで向かうため、地図スキルさんに最短ルートを教えてもらう。


 ナビがなかったら通らないよなという裏通りを隠密で素早く走り抜ける。変な人たちに捕まりたくないからね。周囲を確認して大通りに出る前に隠密を解き、速足でギルド中央へ。近くまで来たところで速度を落としつつ息を整える。


「ふぅ…」

 急いだ甲斐あって、20分ほどで冒険者ギルドに着いた。


 開けっ放しになっている大きなドアをくぐると、なるほど今日もヒナヒーラがいた。

「おはよう」

「おはよう。今日の予定は決まってる?」

「ハーシュさんに実践講習を受けるように言われてる」

「それじゃあ、一番端のセルビナさんのところに行って、そう言ってみて」


 あっちと指をさして教えてくれたブースは昨日、ハーシュさんがいた場所だった。今日は優しそうな美人が座っている。

「分かった。行ってくる」

 ヒナヒーラに手を振ってからセルビナさんの方に近づいていくと向こうから声を掛けてくれた。にこっと笑顔付きで。


「おはよう。ヒロヤ君?」

「おはようございます、セルビナさん。ヒロヤです。ビギナーズ実践講習をお世話になります」


「ハーシュさんに聞いているわ。説明するから2階へ行きましょう」

 冒険者というのは声が大きい人が多いらしく、なかなかに騒がしい。騒ごうとしているわけではなく、地声が大きい人たちがグループとなってあちらこちらで話していたこうなるのかなという感じだ。


「こっちよ」

 2階までは同じでも、昨日案内されたのとは別の部屋に通された。


「座ってね。まずは私の方から説明しておくことがあります。そのあとハーシュさんにバトンタッチします」

 俺は対面の椅子に座りながら頷き返した。


 セルビナさんはテーブルの上にタブレットのようなものを置いた。突然のハイテク機器の登場に俺の目は丸くなる。…ってか、いまどこから取り出したんだ?


「あ、これ? これはギルド職員のサポート魔道具なの。あれ違う? アイテムボックスの方に驚いたのかな?」

「両方です。どちらもすごく気になりました」


 俺は少し身を乗り出しつつ、セルビナさんの顔をじっと見た。

 髪は金髪。瞳はエメラルドグリーン。唇は肉感的でぽってりとしていて、ややセクシーだ。瞳は大きすぎず小さすぎずバランスが良い二重。髪型はややウエーブが掛かっていて、そのままだとボリュームが出るところを両サイドを後ろでまとめて括ってあるからか顔回りがすっきりしている。


「アイテムボックスのスキル持ちって珍しかったかしら?」

「俺は田舎育ちで知らないことが多いのですが…この街では珍しくないのですか?」

「そうねぇ…珍しくないとは言えないけれど、ものすごく珍しいわけでもないかしら」

「危険はないのですか?」

「危険?」

 キョトンとした様子から、どうやら危険はないらしい。


「あ、もしかして…襲われるとかそういうのかしら? あー田舎だとアイテムボックス持ちって珍しいのかも。そうね。危険だわね」

「セルビナさんは危険を感じていないようですが…?」

「あら、わたし強いもの」


 あっけらかんと言われて、一瞬だけえ? と思った。思ってから鑑定するつもりで彼女を見てみるとなるほど…魔力の強さのようなものを感じた。


 人は鑑定できない。それは相手のスキルが何かを知ることが出来ないという事であって、相手の強さをなんとなく推し量ることはできるようだ。


「なるほど…失礼しました」


 くすくすと笑われた。

「ハーシュさんに聞いていた通り、言葉遣いが冒険者っぽくない礼儀正しい子ねぇ。教養が高い秘密を知りたくなっちゃうわ、お姉さん」

「…………」

 こっそり商人スキルをオンにした。


「あら、黙っちゃった。可愛い」

 今の俺に必要なのは年上の女性にどう対応すればいいのか…という別のスキルだな。女たらしのスキルなんてないだろうけど…せめて坊や扱いされずに済む男らしさを身につけたいものだ。


「じゃあ、話を戻すわね。これはギルド職員のサポート魔道具なの。冒険者のみなさんが討伐した記録とか活動履歴とかそういう情報を私たちがどうやって覚えているか不思議に思ったことはない?」

 言われてみればなるほど…の話だ。いくらギルド職員が優秀な人たちだとしても、冒険者は非常に多い。ひとりひとりの記録を覚えていられるはずがないし、複数人が情報を共用することが出来なければ別のギルドに移動するたびにその冒険者の情報は途切れることになる。ひとつの国にとどまらず活動する冒険者。そんな人だって多くいるだろう。


「改めて考えると不思議な話ですね」

「そうなの。とっても不思議でしょ? 私たちもこの魔道具を仕事で使っているんだけど、不思議に思うことがあるのよ」


 俺はその魔道具を鑑定する気でじっと見つめた。しかし、ダメだった。俺の個人情報カードと同じで何も出てこない。素材の一部情報としてシンダリンダルやモリア銀が使われていることは分かったがそれだけだった。

「不思議ですね」

 しみじみと呟いたからか、セルビナさんが笑った。


「ギルド職員を目指してみる?」

「いえ…やめておきます」

「そう、やめておきます…なのね」

 何を言ってもくすくす笑われる。うーやりにくい。


 綺麗なお姉さんには棘がある、って感じかな。優しそうな美人という第一印象はどこへ行ったという感じだ。俺にとっては彼女は手ごわいとかやりにくいという評価になる。【フクロウの止まり木】の女将さんとはまた違う狡猾さを感じた。


「やだ…警戒させちゃった感じ?」

 そういうセリフをにっこり笑って言うのだから、俺はもう黙るしかない。

「やぁだ。何か言って?」

 

 動物に例えたら、雌豹という感じか。強くて綺麗て、気まぐれで…油断できない。


「セルビナさんに釣り合うような男に憧れます」

「………それって、どういう意味?」


 あれ? 褒め言葉のつもりだったが、なぜか怒らせた?


「いい女にはいい男が相応しい。そんな男に憧れます、という意味ですけど?」

 じっと俺の顔を見て、まじまじと見て…


「ち、ちょっと…」

 いきなり、左耳に触れられてびっくりした。身体を後ろに引いて逃げると彼女はニヤッと笑った。ニヤッとだ。優しげな第一印象はどこへ行った。ああ、これはもう既に思ったことだったか。


「可愛い。少年と思っていたけど…大丈夫。あと数年もすればいい男になりそうよ。ヒロヤ君」

 それは…どうも、と言ってもいいのだろうか。


「ビギナーズには3か月間、決まったギルド員が担当する場合があるの。ヒロヤ君のこと気に入ったから、私がなってあげる」

「それは…どうしてですか?」

「だから、気に入ったから」

 楽しいおもちゃを見つけた…とまでは言い過ぎか。弱い者をいたぶる目つきとも少し違う。


「多分、だけど…ヒロヤ君隠していることがあるでしょ? 毎回違うギルド職員を相手にするより、私にしておいた方が色々と都合がいいんじゃないかしら」


 確かに、一理ある。アイテムボックス持ちであることがいずれバレるとしても、セルビナさんなら同じスキルを持つ者同士という事で配慮が期待できる。


「…よろしくお願いします。セルビナさんに担当者になっていただけるなら、心強いです」

 敵に回すと怖い相手は、出来れば味方に回しておきたい。


「うん、素直でよろしい。じゃあ、ビギナーズになったばかりの君に色々と説明していくわね」


 まずは登録したばかりの冒険者が、実際に仕事を受けるまでの間に攻撃、防御、解体について最低でもそれぞれ一時間、ギルド職員に初歩の技術を習う。もちろんこれは技術向上のためにギルドが行っているので無料だ。希望すれば何度でもこの講習は受けられるが、受講可能な期間は3カ月限定となっている。この3か月間が過ぎた後は有料となるが追加講習を受けることが出来る。しかし実際にお金を払ってまで講習を受けるビギナーズはいないらしい。

 ま、それもそうかなとは思う。ビギナーズという事はまだ稼ぎも良くない者が多い。講習に回すお金があれば他のことに使うのだろう。


「講習を受けた後は実際にフィールドに出ることになるけれど、この場合も3回、先輩と組んで仕事をしてもらうことになっているの」

「3回も、ですか…」


「1回目は街の中の仕事。いわゆるお手伝い案件ね。仮登録の冒険者やビギナーズたちは初めて仕事をするという子もいるの。だから、基本的なことを学んでもらうのだけど…多分君は問題なく終わると思うわ」

 そういえば、街の中で溝浚えの仕事をするシーンが異世界物の小説でもよく描かれていたっけ。


「2回目は平原での薬草採集と兎狩りを同時にしてもらうわ。それが問題ないと判断されたら最後、3回目は森の中に入ってもらって薬草採集と獣狩り。この時の獣はなんでもいいし、魔物になっても構わない。先輩がそばにいるといっても基本は見守るだけ。本人がひとりで薬草採集と基本の討伐をこなせるかどうかがチェックポイントね」


「良く分かりました。…それで、実際の予定はどうなりますか?」

「君の予定は考慮しなくても大丈夫かしら?」

「はい。お世話になる先輩の都合に合わせます」


 とりあえず、この講習と3回のクエストを無事に終わらせないとソロ活動は出来ないみたいだ。だとしたら、とっとと片付けておいた方がいい。


「冒険者登録した際に説明を聞いたと思うけど、各個人が持っているスキルを聞き出すことは基本しないのがマナーなの。でも、パーティを組むときには誰がどのスキルを持っているのか知っていることがスムーズな連携をとれることになるから自己申告で公表するのが一般的ね」


 登録時には聞かなかったマナーだったが、話を進めてもらうため頷いておく。


「他にもギルド職員が冒険者が持っているスキルを知っていることで、その人に合った仕事を紹介することも出来る。私としては君のスキルを教えてもらいたいのだけど、教えたくないと判断したなら黙っていてもいいわ。でも…実際にはだんだん分かってくるのよね」

「…まあ、そうでしょうね」

 付き合いが長くなってくれば隠し通すことは難しくなる。


「さしあたって今日中に攻撃、防御、解体の講習を片づけてしまいましょう。剣を用意しているという事は、攻撃は剣術でいいかしらね」

「はい。剣術でお願いします」

 ほら、そっそく俺のスキルがバレた。いや、スキルがなくても剣を武器にする者もいるのか。慎重にならなきゃと警戒する一方で、警戒しすぎるのも疲れるという本音で心が揺れ動く。


 スキルについて自己申告しなくても、討伐された獲物を見れば剣で切られたものか弓で射られたものか風魔法で仕留められたものかが分かってしまう。戦っているところを見られても同じだ。スキルを無理に聞き出さないことがマナーであっても、実際には自己申告ナシでも所有スキルが何であるかは分かっていくものだ。


「攻撃と防御は私が相手でもいいかしら? それとも、男性の方がいい?」

「少し考える時間をください」

「分かったわ。先に解体の予定を入れて来るから待ってて」


 さっさとセルビナさんは席を立って、部屋の外へ姿を消した。


 俺は正直、戸惑ってしまった。彼女が強いことは本人から聞いていたし、そうだろうと感じてもいた。だが、女性を相手に戦うという事に対する心構えは全くできていなかった。彼女に対してだけではない。女性と戦うことを全く想像したことがなかった。


 …女性は守るべき対象だという親の教育の弊害か? 正直、女性に剣を向けることは難しい。実際には男性だとか女性だとかは関係ない。関係なく戦わなければならない場合もあるはずだ。


 ましてや彼女は強い。ここは覚悟を決めて、女性相手でも戦えるようになっておくべきなのではないだろうか。


「だけどなぁ…」

 気持ちが付いていかないのだ。頭では分かっている。分かっているつもりだ。


「お待たせ。その顔だと…まだ悩んでいるみたいね」

「すみません。こんなことで躊躇するなんて、自分でも思ってなかったみたいで…」

「それは私が相手だから? 女が弱いと思っているから?」

「女性を守れる男でありたいと…甘いことを思っていたみたいです」


「そんな情けない顔しないで。君の葛藤はよく分かったわ」

 セルビナさんは怒るわけでも、呆れるわけでもなく事務的に一つの提案をしてくれた。


「攻撃の相手には男性、防御の相手は私というのではどうかしら? 君は私の攻撃を受けるの。攻撃しないんだから、相手が女でも構わないわよね」

「……はい」

「そこできっと君は知らなかったことを学ぶことになる。いまの悩みも解決できる気がするから、ここでいろいろ考えているよりやってみましょ」

「はい…」



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