第5話
「うわ…川の中にも危険生物がいるよ」
赤マークが中央や向こう岸のほうにいくつも点いている。
岸にいるのは…ワニに見える。ピラニアとかそういう肉食魚もいるのか、川の中に群れで赤マークがついている。
ここで食料となる魚とり…というあてが外れた。海じゃないから、ここでは貝なども獲れないだろうな。
川岸には大きめの石がごろごろしていた。森の中で拾った石より大きくて、ごつごつしている。
ジャッカルをやっつけたように、落とす武器として使うのにちょうどいいからいくつか収納していこう。
目についた石を収納していると、石の下にカニがいた。
これも食料、だよな?
サバイバルナイフで軽く叩いてみると、逃げなくなった。死んだのか? と思いつつ収納してみると、やはり死んでいたらしく簡単に収納できた。
よし!
川岸は開けているから森の中からこちらがはっきり見通せる。手元だけを見ないように、常に地図の警戒マークを確認しながら石を収納していく。
モグラたたきゲームのように、逃げるカニを叩いて、カニ、石、石、石、カニ、石、カニ、石…と楽しんでいるうちに、ふっと身体が暖かくなった。
あれ?
身体がぽかぽかする。
あ…地図スキルの範囲が広くなってる。レベルアップしたのか?
急いで森へと駆け戻って、手近な木にジャンプ。一気に枝の上に飛び乗る。身体能力の方もさらに上がっている。
いそいそとカードを取り出し、確認するといろいろ変化していた。
召喚スキルがレベルアップ! 魔力量が51になって、ランクが2になっていた。
「召喚スキルのレベル2は嬉しすぎる…」
今日中にレベルアップしてくれたら嬉しいと思っていたが、本当に2になってくれた。
これで次からは召喚の回数が増え…て………ん?
ほっと落ち着いてみると…あれ? なんだか…召喚スキルが使える気がするぞ? マジか?
レベルアップした時は、時間の縛りがなく使えるようになるのか?
よし、それなら次の召喚で望むものは決まっている。決めていた。
…お願いします。超高性能な、結界付きの野営テントが欲しいです。安心安全に眠れる快適なテントをください! 【召】!
はい、ドーン! とはならなかった。
「なにこれ?」
びっくりした。野営テントをお願いしたはずなのに、現れたのは腕輪が1つ…だけだった。
誤作動したのかとがっかりしつつ腕輪の魔石部分に触れると…使い方が自然と分かってしまった。
「ナニコレ!」
魔石部分に魔力を流して「設営!」と念じることで組み立てた状態のテントが現れるらしいのだ。
さすがに結界付きとはならなかったようだが、二百メートル四方に張られた警戒ラインを越えて侵入してくるものがあればアラームが鳴って知らせてくれるらしい。
これでひとまずは、眠れる場所が作れる。世界樹さんの結界ほど安心安全な場所はないだろうけど…。
「まてよ」
もう一度、召喚スキルが使えそうな気がする。一日の途中でレベルアップした場合、レベルアップ2回分が追加扱いになるらしい。すでに1回使った後の追加2回だから、今日だけは一日3回も召喚できるということだ。
「………このテントをスキルにしたらどうなるんだ?」
もう一段階上の性能を目指して、スキル変換できないだろうか?
試してみる…価値はあるよな?
結界付きの、安心安全に過ごせる家のような…そう、隠れ家になるスキルにしてください! 【換】!
手にした腕輪が消えたことで、スキル変換に成功したことが分かった。
「スキルにすると、元のアイテムは消えるんだ…なるほど」
ギフト【世界基本知識】はタブレットの中の『世界史の教科書』から変換、地図スキルはスマホの『地図アプリ』から変換したように思うけど、それが消えたかどうかまでは確認出来なかった。タブレットの電源を入れずにいるからだ。
「えーと…それで肝心のスキルは、どうなったかな……」
ステータスカードで確認するとスキルではなく、ギフトで【シェルター】となっていた。
「ギフトということはレベルアップしないということか。えーと、なになに…」
《異空間に隔離されている安全空間。管理者本人以外は移動時に接触していれば利用可能。出入口は元の世界と繋がっているため、時間経過も同じ。一日最長6時間の使用制限あり》
「すげぇえええ!」
異空間! シェルター! 秘密基地だよ、これ!
一日6時間しか使えないらしいけど、隠れ家ゲットだよ!
テンションがんがんに上がって、うっかり警戒を忘れてた。
「うわ、ヤバい!」
例の怖い顔をした二つ角恐竜らしき赤マーク大が、すぐそこまで大接近していた。
使い方、使い方! シェルターさん!
えーと、なになに…シェルターの出入口は任意の場所に触れながら、シェルター内に移動!と念じること。
<シェルター内に移動!>
「お、おぉおお!」
しゅんってした。しゅん! と一瞬で世界が変わった。扉らしきものの窓から外が見える。それまでいた世界がちゃんと見える。
「うわ…」
恐竜のドアップが…!
思わず後ろに下がるが、向こうとは視線が合わない。二つ角恐竜は俺が突然消えたことに不思議そうにあちらこちらへ顔の向きを変え…匂いをフンフン嗅いで、あれ? というように首を傾げた後…ゆっくりと背を向けた。
ぶっといしっぽがゆらりゆらりと揺れている。後ろから見ても危険な生き物だ。
「この窓から見ると、結構広い範囲が見えるんだな。ドアに耳をつければ向こうの音も拾えるし…」
白っぽい空間にはこの窓付きドアしかなかった。だから、すごく不思議な空間になっていた。
「あれ? これもしかしてタイマーじゃないか?」
利用可能時間を教えてくれているのか、359とドアのところに数字が表示されていた。
残り時間、359分…? じっと見ていると数字が358に変わった。
「推測通りだな」
今は何もない空間だけど、将来ソファやテーブルを持ち込んだりすれば好きなようにレイアウトできるってことだ。
ちなみに、人以外の生きたもの…植物は? 植木鉢とかこのシェルターに持ってきても大丈夫?
※栽培環境を整えることで可能になります。
おぉ、頭の中に答えが返ってきた。
ギフトってみんな対話モードになっているのかな。だといいんだけど…そう都合よくはならないか。
「…すごいな。この空間で栽培が出来るのか」
※こちらは異空間ですが、時間経過も成長速度も元の世界の時間軸と同期しているため日中は明るく夜は暗くなります。ただし、気象の変化には対応していません。植物の生育に必要な土壌や水やりは必要となります。
そう、か…。つまり、ここで畑を作ろうと思えば作れるのか。野菜の自給自足が出来るなら嬉しいかもだけど…買った方が早いかれしれないし…ううーん、どうだろ。まだそこまでは考えられないかな。余裕がない。
白一色の空間というのが落ち着かず、アイテムボックスから取り出した草を適当にばらまいてみた。切り取った草は死んでいる扱いになると思うけど、次に来た時にどうなっているかの実験も兼ねている。新鮮な緑色のままなのか、萎れていくのか…どっちなんだろう。
「この空間。上はどうなっているんだ?」
試しにその場でジャンプしてみたが、上に伸ばした手が何かに触れることはなかった。
奥行きはどうかと歩いてみたが、10分ほど歩いても行き止まりにならない。振り返ると小さくなったドアが見えるが…なんとはなく怖くなって、もとのところまで走って戻った。
一日6時間しかいられないのだから、夜中になるまでは外にいよう。
<シェルターの外へ移動!>
元の世界へ瞬時に戻る。枝の上で足場が急に狭くなったため、少し慌てた。
「あいつは……と、心配ないな」
特大赤マークが遠くへと離れていく。他にもいくつもの警戒マークが動いているがあれほど怖いものはない。レベルアップして地図の表示範囲が5キロになったため、見つかる前に逃げられるはずだ。
それはそうと、時計がないのは困る。明日の召喚スキル一つ目のリクエストは時計スキルにしよう。
アラームがないとシェルター滞在時間の6時間をしっかり把握することができないし、毎日の召喚スキルの解禁時間も感覚で済ませているから、これもきっちり管理したい。
「さて、移動するか…」
警戒しつつ移動していくが、時には木の上に待機してわざと赤マークと遭遇してみる。どんな生き物がいるのか知りたいと思ったからだ。
ジャッカルより大きなサイに似た魔物にも石落としを仕掛けてみたが、こいつは一発では死んでくれなかった。石が大きくなっていたからいけると思ったのだが、相手の頭蓋骨の頑丈さが計算に入ってなかった。
それでも5つ一度に落としてやると、さすがに死んだ。サイと石を収納して移動。次にはまた3から5匹のジャッカルの群れに3度遭遇し、石落としを繰り返した。
日暮れの気配を感じるが、今夜の寝床にちょうどいい木がない。仕方なく、少し戻ることにした。
だが、そのおかげでいい感じのヤマモモ、スターフルーツを見つけて収穫することができた。
探せばどこかにバナナやアボカドもあるのかな。どっちも好きなんだけど、 この世界にもあるのだろうか。蔓もサバイバルナイフで切って回収した。ロープ代わりに出来るといいけど…素人にできるのか?
今日一日の移動距離は体感で20キロほど。森を完全に抜けるまでというと気が遠くなりそうだけど、転移門は地平線より手前にある気がする。
道なき森の中を警戒しながらの移動だし、収穫もしているし、なかなか進まないけど…焦らず、安全第一で行こう。
そうそう、食材探しも優先事項の一つだ。川でカニが取れるとは思わなかった。まだ料理できないけど、茹でて食べたらきっと美味しいだろうな。
「………」
タケノコ堀りもしたっけ。今日一日の密度が濃すぎて、すでに昨日のことのようだ。
二つ角恐竜に遭遇したことと、ギフト【シェルター】で驚きすぎた感じだな。
「…………何が吠えているんだろ」
夜の森の中は昼間よりも音が遠くまで聞こえる。幸い、寒くて眠れないほど気温が下がることはなかったが、とにかくうるさい。夜行性の鳥もいるらしく大きな鳴き声はするし、狼に似た遠吠えも聞こえる。魔物同士が戦う気配もしているし、実際…赤マークが地図の上をかなりの速さで動き回っている。
そろそろ真夜中かな。まだかな。シェルターに移動しようかな。まだ我慢しようかな。
シェルターの中で寝過ごしてしまったらどうなるんだろ?
…時間きっかりに異空間から放り出される気がする。
危険すぎる。
今夜は徹夜しようかな。明日はやっぱり、時計スキルをゲットしよう。
あれこれ考えつつ、不安な夜を過ごし…睡魔に負けそうになってシェルターを利用した。睡眠時間4時間ほどで飛び起きて、シェルターから出る。
枝の上で水を飲み、果物を食べ、毎朝の恒例。ステータスカードのチェックをする。
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マシロヒロト16 2 59/59
スキル 【召 喚 レベル2】【地図レベル2】
ギフト 【世界基本知識】【シェルター】
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この他にサバイバルナイフと水生成水筒、元の世界から持ってきたものあれこれが入ったリュックが俺の持ち物だ。いや、アイテムボックスを忘れてはならない。この中には、果物や岩、葉っぱや竹などいろんなものが入っている。正直、ありえないほどの容量だ。
昨日と同じぐらいの狩りをすれば、明日ぐらいには魔力量が100くらいになってくれるハズ。101を越えたらレベルが3になれるらしい。
恐竜にだけは遭わずにすむよう祈りつつ…そろそろ移動しよう。
慎重に竹林を移動し、タケノコを掘りつつ周囲警戒。3本収穫して移動したところで赤マークに気が付いた。こいつは恐竜ではないが何か危険な生き物に待ち伏せされているらしいと判断し、その場から離れる。がこちらが逃げたことに気づいたのか急接近してきた。急いで転移門方面へ逃げる。
反対側からも別の赤マークが接近してきた。
「やばっ!」
なんで俺の動きが分かるんだ?
分からないが、このままだと逃げきれそうにない。
近くの竹にシェルターの入り口を開いた。
シェルターに避難してドアの窓から外を警戒していると、目の前にとんでもない獣が現れた。
「サーベルタイガー!」
あんなものまでいるのか。口元から大きくて長い牙が二本飛び出しているのが特徴的な茶色のトラだ。体長二メートル以上。体つきはがっしりしていて、集団で狩りをするタイプらしい。
俺が消えた場所の匂いをしきりに嗅いでうろうろしている。
ドアに表示された残り時間は34。
緊急避難にも使えてめちゃくちゃありがたいけど、残り時間を気にしながらの避難はドキドキする。
あ…今日の召喚スキルがそろそろ使えそうだ。
ちゃっちゃと時計スキルを携帯のスマホアプリからしておこう。
便利な時計スキルお願いします! 【換】!
「…うん…使える。これはかなり使える」
現在の時間表示はもちろん、タイマーもアラームも使える。カードで確認してみれば、最初からレベルが2になっていた。
「ギフトと違って育つスキルだけど、一から育てるんじゃなく、修得した時の魔力量に応じたレベルになってくれるということか」
これはありがたい。
「もう一つは高性能野営テントだよな。やっぱり」
シェルターが使えない時間もあるのだ。快適安全な野営テントが使えると助かる。
結界の機能がないとすると…視覚や匂いなどの探知機能を無効化、赤外線や熱源などのセンサーにも反応しない、こっそり隠れることに重点を置いた快適安全な高性能野営テントが欲しい!です!【召】!
「………」
無茶苦茶なお願いしたかな。反応がないなーダメなのかなーと思った次の瞬間。
現れました。やりました。腕輪型ではなく、今度は手首に巻く腕時計型です。なんなんでしょう。アクセサリーに付与するのがトレンドなのでしょうか。ワンタッチで出せるテントというだけで、もう元の世界のテントより優れている。
「これ不思議な素材だな。革製品のようでもあり、ゴムのようでもあり、プラスチックのようでもある」
腕時計のベルトのように穴が開いていてサイズがぴったり合わせやすくなっている。
玉を半分に切って張り付けたような半円型の魔石が中央に嵌め込まれていた。その周囲は銀色の刺繍糸で飾りつけられていて装飾品としても価値があるつくりになっている。
「テント設営!」
さっそく魔石に触れて、シェルター内に野営テントを出してみる。
「…すごい!」
なんだか近未来的な素材だ。地球上にはいない魔物の素材からできているのか、それとも錬金術で加工されているのか……わからない…謎だ。
中から見ると外がうっすらと透けている。これ、本当に外側からは見えないんだろうか?
よく見ると出入り口近くの柱にボタンのようなものが付いている。
「押せといわんばかりの場所にあるな」
試しに押して、外へ出てみる。
「あれ?」
出てきたばかりのテントが消えた。慌てて手探りしてみると、何も見えない空間なのに触れることができた。
「おぉおおお!」
見えないのに、そこにある。間違いない、ステルス機能が効いている。
「これ、これ! こういうのが欲しかったんだ!」
感激していたら、時計スキルのアラームが鳴った。
「ヤバい。もたもたしていたら10分経ってしまった」
念のため、10分タイマーをセットしておいてよかった。
手首の魔石に触れてテントを収納し、外の様子をうかがう。とっくにサーベルタイガーはいなくなっていた。
シェルターを出て、今度こそ竹林を駆け抜ける。タケノコ堀りはもう終わりだ。今日はできれば30キロぐらい進んでおきたい。
竹林を抜けると、また森の中に変わった。しかし、一本一本の木がこれまでのものよりも細い。木の上で一晩過ごすのは無理っぽい華奢な木ばかりだった。
ステルステントを手に入れておいてホント、よかった。
ほくそ笑みながら森の中を移動する。一本一本の木は細くても、生えている間隔は狭い。それにところどころ根っこが地面から飛び出ていて、慎重に歩かないと足を取られる。これは30キロ希望どころか20キロ移動できればいい方かも。
時々現れる小さな赤マークを避けるようにしながら移動し、アボカドの木を発見した。
これは全部収穫していかないと…。
夢中になって収穫した。アボカドの木は全部で3本あった。少し離れたところには、桃の木もあった。桃目指して一目散に近づいたところで足に激痛が走った。
えっ! と痛む右足を見ると、縞縞模様の蛇に噛みつかれていた。
食らいついている蛇の胴を左手に鷲掴み、アイテムボックスから取り出したサバイバルナイフを右手に、怒りを込めて掻き切った。
真っ二つになったしっぽ側を遠くへ投げ捨て、足に噛みついている蛇の頭を泣きそうになりながら引きはがした。それも遠くへ投げ捨てたところで異変に気付いた。
心臓が…苦しい、息が…上がる、苦しい。




