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異世界に来たら召 喚スキルがありました  作者: ふぅみ


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第38話

 途中教会に立ち寄ったこともあり、元の場所まで戻ってくるのに3時間近くかかった。

「レモン、ヒロム。俺と一緒に来て欲しい。父上に報告したい」

 分かりました、と応えるしかなく俺もトリトーナ様たちとともに執務室へ。領主様は息子とレモンさんの報告を熱心に聞き、また時折質問などをしてますますこの事業の手ごたえを感じたようだった。


「ヒロムありがとう。疲れただろうから15時まで休憩にしてくれ」

「あの、それなのですが…先に図書室へお邪魔しても良いでしょうか?」

「ん? その方がよければわしは構わぬが…15時には一度呼ぶぞ?」


 図書室で本を読みふけるようなことはダメだぞ、と笑われる。

「はい、構いません。…それで、本を読みながら洗浄をしても良いですか?」

「読みながら…その方がやりやすいようなら好きにするがよい。だが、仕事だからと無理はするな。君はまだ若いのだから、魔力の使い過ぎには注意するように」

 なるほど。魔力切れになるまで頑張らないかと心配してもらったのか。


「はい。充分に気を付けます」

 カードで魔力残量を確認すれば一目で状態が分かるし、そこまでしなくても感覚でなんとなく分かる。錬金術であれこれ夢中で作っていれば、あ、この辺が限界かな、って体調の不調を経験する。

 だから限界まで魔力を使えと言われてもやらない。そりゃ命でもかかっていたらギリギリまで踏ん張るだろうけど…その前に回復スキルを使うし、ポーションでさっさと回復する方を選ぶ。


「お帰りなさいませ、ヒロム様」

 トイレに行きたくて部屋へ戻ると、ロルフェさんが出迎えてくれた。リビングのテーブルに花を飾っていてくれたみたい。

「ただいま。綺麗な花だね、ありがとう」

 軽く手を振り、トイレへ。用を済ませて出ると彼女は待機してくれていた。


「何かお飲み物でもお持ちしましょうか?」

「そうだね。15時に領主様に誘われているから、さっと飲める果実水でも貰おうかな。外は暑かったし」

 一人になったところで間食。ささっと食べられるフルレ、向こうの世界でいうところのバナナを食べる。部屋の空気も念のため換気。証拠隠滅を終えたところでロルフェさんが戻ってきた。


「図書室へ行ってもいいと許可が下りたから、案内してくれる?」

「はい。承知しました」


「…本当に洗浄スキルをお持ちなのですね」

 一気飲みしたグラスを洗浄スキルで綺麗にしてから返却すると、ロルフェさんは空になったグラスを眺めて言った。目の前でスキルを使われたら、スキル持ちに間違いないと誰にでも分かる。


「ロルフェさんにも掛けようか? この前女性の冒険者の方にかけたら、髪が綺麗になったと喜ばれたよ」

「ホントですか? ぜひお願いしたいです」

 やはり彼女も綺麗になりたいらしい。今でも十分綺麗だと思うけど…こういうのはきりがないんだな、きっと。


 綺麗になぁれ、と念じつつ手を動かす。身振り手振りは必要ないけど、いわゆるパフォーマンスだね。

「うん、綺麗になった。終わったよ」

 マーセアやケノンさんほどではないが、ロルフェさんの髪の艶も増して、肌にも透明感が出た。

 俺ひょっとして、エステシャンなれるんじゃない? 凄腕の美のカリスマ、とか…あははは。

「ホントですか?」

「うん。向こうに鏡があるから、見てきてごらん」

 このゲストルームには衣装タンスと鏡が置いてあった。


 鏡の前に立ち、ロルフェさんは目を大きく見開いた。

「私の髪が…そして肌も…!」

 美人が鏡に見とれているのは、妙に絵になるなぁ。何かのCМを見ているような気になるからかな。


「あ…失礼しました。ヒロム様、ありがとうございました!」

「どういたしまして。喜んでもらえて俺も嬉しいよ」

 にこっと微笑みかけて続ける。

「じゃあ、さっそくで悪いけど、案内をよろしくね」

「…はい」


 大きくない図書室だと聞いてはいるけど、どれほど蔵書があるのか早く把握しておきたい。読みたいという興味ももちろんあるが、仕事として終わらせられるものはとっとと終わらせてしまいたい。

 夏休みの宿題がどれだけあるのか分からないのに、遊びに行こうと誘われても計画が立てにくい。そんな状況にも似て、落ち着かない。


「こちらです」と案内されたとある部屋。俺が借りているゲストルームからは少し遠かった。

「立派なドアだね」

 普段鍵がかけられているのか、ロルフェさんがカギを開けてくれた。

「こちらは滞在中、お持ち下さいとのことです」

 そう言って渡されたアンティークなデザインの鍵。

「えっ、いいの?」

「はい。領主様からはそう伺っております」

 わぁ…すごい信用して貰ったものだなぁ。

「分かった。大切にお預かりするね」


 ドアを開けて中に入ると、持ち出しは出来ないもののここで本を読むことが出来るようにテーブルと椅子が用意されていた。


「端から見てみるか…」

 鍵を預かったものの、俺ひとりにすることはないらしい。監視というわけではないだろうが、ロルフェさんが室内に待機していた。


「本棚の隅の方までは掃除が行き届いてないな」

 埃を発見し、思わず呟いた。


「こちらは普段、利用する方も少ない場所ですので、洗浄師さんのドリアスさんも滅多にお見えになられません」

「そうなんだ。じゃあ先に部屋全体を綺麗にするか」


 自分ひとりだったらしない、やや大げさな手の振りをして洗浄スキルを部屋全体にかける。綺麗な部屋。綺麗な空気になれ! 


「……すごい!」

 ロルフェさんの前でかっこつけすぎたかな。

「部屋の壁紙まで、色褪せがきれいになるなんて…」


 え?


 驚きの声を聞き、俺も改めて室内を見回した。

「えっと…綺麗に、なった?」

「はい! 一瞬で、見違えるようです。すごいですね! ドリアスさんとは比べ物になりません!」


「……えっと…俺は他の人のことは分からないんだけど…そんなに、違う?」

「違います! 新たに増えた汚れはドリアスさんも落としてくれますが、長年染みついた汚れやシミなどは綺麗にならないものだと思っていました」

「あー。そうなんだ」

 つまり、それが1級の…修繕できると思われることになった能力ってことか。


 まあ、こうなったらもう隠すこともムリだし、出し惜しみしても始まらない。


「そうなんだ。じゃあ、お仕事頑張るかな。俺にしかできないことみたいだし」

「はいっ! ヒロム様のお手伝いをさせていただきます。なんでもお申し付けください!」

 張り切っている彼女に、黙って見ていてと言うことは俺には無理。出来ない。


「そう? 助かるよ。じゃあ、端から順番に本を持ってきてくれるかな。俺は本の状態を確認しながら洗浄していくから」


 俺でも本は直せないんじゃないかな。でも一応、努力したという様子は見せておかないと。


「はい! お任せください!」

 俺は席に着き、こっそりと溜息をついた。




 結論から言おう。

 俺の洗浄スキルは俺が思っていた以上に優秀だった。


 褪せたページは製本当時のように色を取り戻し、薄くなっていた文字のインクも書かれた当時のように甦った。ただ、ちぎれて失せたページはそのまま元に戻らなかったし、故意か偶然か糊付けされたページはそのままの状態だった。


 15時になり、領主自らが様子を見に来てくれた時にも、彼は俺同様驚いていた。

「やはり、噂は本当だったのか」

 感激した様子で、この調子でぜひ頼むと改めて依頼されてしまった。


「それはそうとして、そろそろ休憩の時間だ。エスラがぜひヒロムに食べてもらいたいと、朝から飴づくりに張り切っておる」

 なるほど。試食して欲しいということだな。そして成果を確かめて、できれば褒めて欲しいということかな。


 前回と同じベランダでお茶をごちそうになる。エスラ嬢が作った飴以外に、料理人が作ったフルー入りの飴もあった。それぞれを食べ、そして褒めた。

 失敗しようがない飴づくりを教えた自分自身にグッジョブと言いたい。いや、こっそりと心の中で言っておこう。そして、母さんありがとう。


 飴細工づくりが素人にしては巧くて、昔からの付き合いがある友人からアメちゃんのあだ名で呼ばれている母さん。べっこう飴、金太郎飴、飴細工の作り方を教えてくれてありがとう。異世界でも役に立ったよ。


 そんな心の中の会話がありつつもそれを笑顔で隠し、お嬢様たちと和気あいあいとしたティータイムを過ごす。その後夕食の時間まで時間があるということで、また図書室へ戻る。


 洗浄手順としてはロルフェさんが本棚から本を持ってきてテーブルに置いてくれる。俺はそれを椅子に座ったまま本の洗浄する。ちゃんと綺麗になっているかどうかを一ページずつめくって確認し、問題なければその本は終わり。ロルフェさんが元の場所に戻してくれる。


 ただ、それだとロルフェさんの待ち時間が長くなる。

 聞けばこの図書室、本を持ち出さなければ入り口近くの棚ひとつ分だけは使用人たちにも開放されているという。文字を読んだり、勉強することで知識が豊かになるから推奨されているらしい。

 どおりで…その棚にあった本の多くは絵本タイプの学習系が多かった。冒険者が書いたと思われる旅行記、物語もあった。


 だからロルフェさんにも待ち時間を読書に充ててもらうことにした。こうすればお互いに本を読みながら作業も出来る。

 そうやって順番に本を綺麗にし、状態を確認するという仕事を流れ作業のように進めていく。ロルフェさんが本棚とテーブルの間を何往復したか分からないけど…正直助かってる。


 本のほとんどはなるほど、この地に関する領主の忘備録やその当時の苦労話などが多かった。もちろん、地図や税収に関する報告書といったこの領にとっては大切な情報も含まれている。


「ヒロム様、まだ魔力の方は大丈夫ですか? すでに3時間以上スキルをお使いですが…」

 ロルフェさんに心配そうに聞かれて、はたっと気が付いた。


 本の洗浄は一瞬で、その後ページをめくりながら確認するふりをして読みふけっていた時間もある。その時間ももしかして、洗浄し続けていたと思われている? 俺、さぼり過ぎた?


「えっと…大丈夫、かな。確認作業中はスキルを使っていない時間の方が長いから」

「それでも、3時間ずっとお続けになられて…ご自身では気が付かれていなくても、お疲れになっていらっしゃるのに違いません」

 もしかして、一般的には魔力の使い過ぎ状態? 全然疲れてません、なんて言えない?


「そういえば…少し気分が悪いかも…」

 魔力切れの予兆のようなことを言って、本を閉じる。

「それは魔力切れの兆候なのでは! いけません、すぐに横になってください」

 横になって下さいと言われても…と思ったら、奥に仮眠できる長椅子が置いてあるそうな。


 手を引っ張られて、奥の部屋へ誘導される。

「どうぞ、横になっていてください。すぐに魔力回復ポーションをお持ちします!」


 ロルフェさんが慌てて部屋を出ていく。慌てなくてもいいのだが…何を言っても聞いてくれなさそうな勢いだ。

 彼女の光点が離れていくのを地図スキルで確認し、長椅子から身を起こす。


「他の人だとどのぐらいで魔力切れを起こすものなのかな」

 んー。考えても分からないが、ロルフェさんのあの心配具合からいっても、3時間魔力を使うという状態は普通じゃないのかもしれない。


 薬師スキルで調薬したり、鋳造で何を作ったり錬金術でゴーレムを作ったり…そんなことをしていたら3時間なんてあっという間に過ぎる。楽しい時間ほどつい集中してしまい、完成したりキリがいいところまで出来たところでようやく没頭していたことに気が付く。


「ふぅ…っ。普通が分からないというのを、つい忘れてしまうな。気を付けないと」

 この部屋がいつもより遠くにあるからか、ロルフェさんはすぐに戻ってこなかった。


 時間を持て余し、きょろきょろと本棚を見ていると、一冊気になる本を見つけた。

「立派な装丁だな」


 図書室と言いながらも紙を纏めたものを綴った状態の忘備録も収蔵されているぐらいだ。本格的な本の装丁に興味を惹かれた。


「えーと……」

 本を取り出し、タイトルを見て…思わず息を飲んだ。


ハイセイの街はどのようにして作られたのか…。

   偉大なる、錬金術師たちの偉業を称えよ。     黎明の錬金術師




 黎明の錬金術師っ! って、カーサイノさん?

 えっマジ?

 こんなところで大錬金術師の名前を拝見するとは思ってもみなかった。


 驚きつつ開いてみると本は…というかこれは日記のような、物語のような語り口調で書いてあった。


    ◆

ティオリエス、他六人の弟子たちとともにこの地に来たわしは、セルネージュ川の河口に海上都市を造ることを命じられた。

(中略)

この地は草木の生えぬ荒れ地とガマの穂が生えるだけの沼地であった。実り豊かな大地とするにはいささか無理があるこの地を、領主が選んだのは大山脈から流れ出たセルネージュの女神が住む川を利用するからだという。舟が街中を行き来し、いずれは大海を渡り大山脈越えをすることなく王都へ至る海の道を作る。たいそうな夢を描いておるらしい。

(中略)

わしらは錬金術師である。土木屋ではないわ。しかし沼を大地に変え、荒れ地を草花の生える地に変えよという。

(中略)

地質調査の結果は驚くべきものであった。この地にまさか、シンダリンタルの鉱脈が眠っていようとは。

    ◆


 シンダリンタルの鉱脈だって? ハイセイに? !


 驚きつつ、本の続きを読もうとした時、地図スキルに光点が点滅してロルフェさんが戻ってきたことを知らせてくれた。

 急いで本を本棚に戻し、長椅子に横になる。


「ヒロム様…? 大丈夫ですか」

「うん、ありがとう。だいぶ楽になったよ。もう大丈夫」

「念のため、ポーションをお飲みになって、部屋でゆっくりお休みになられては? お身体に触りが出ます」

「心配かけたね。ありがとう。ロルフェさんに声を掛けてもらったおかげで早くに気が付けたし、もう大丈夫」

「いえ。念のため。ぜひ。お飲みになってください」

 飲まなくても平気なのだが、心配をかけているのには違いない。諦めて、魔力回復ポーションを飲むことにした。

「…………」

 なんだ、これ。

 おもわず、ポーションを鑑定する。


「遠慮なく、どうぞ飲んでください」

「…分かった」

 仕方がない。覚悟を決めるか。


 他の人が作ったポーションを飲むのはこれが初めてなのだが…なぜこんなにもまずいのだろう。匂いも良くない。

 鑑定すれば作られた材料まで分かるが…なぜもっと他の…飲みやすくなる材料を使わないのだろう。確かに同じ効能のあるポーションでも、レシピは数多く存在する。その時、手に入る旬の材料で品質と効果を一定にするべく魔力で調整する。


 中級を作れる腕はあるのだから能力が低いとは言えない。しかし…なぜこんなにもまずい? やはり材料か? それとも状態がまずかったのか? 俺もこの材料で作ったとしたら、この味になるのだろうか。


「どうぞそのまま、しばらく安静になさってください」

「うん。そうするよ」

 俺はゆっくり横になった。口の中を漱いでしまいたい。

 確かに効能は鑑定が教えてくれた通り。魔力回復薬の中。品質に問題があるかと言えばそうとは言えない。だが…どうせなら飲みやすく匂いもないものがいい。


 準薬師のスキルを俺が持っていることを彼女は知らないのか?

 そうかもしれない。スキルを知られることを嫌がっていることはハーレンダルさん経由で領主様にも伝わっているはずだから。

 その割に洗浄スキル持ちであることはこうやって仕事を依頼していることからも隠す気がないみたいだけど。


 俺はこの後、洗浄スキルの使い過ぎで無理をしたことになって…この館へ来てから始めて部屋で一人、食事をすることが許された。食事の後はとにかく安静第一ということで風呂もなし。寝ていてくださいということに。


 ロルフェさんをはじめ領主様、そのご家族にも心配され俺は大人しくベッドに入ることにした。

 もちろん、寝て魔力を回復する必要はないし、あの本の続きを読みたくて仕方がなかった。


 深夜。隠密でこっそり部屋を出て、こっそり図書室へ入る。本を持ち出すことで何かの魔法が働く可能性を考え、奥の本棚の横の壁にシェルターを開き、そこへ大錬金術師の本とともに移動した。


 シェルター内の家にある長椅子に座って本を読む。

 するとカーサイノさんが他の錬金術師とともに大々的な発掘と水路建築を同時進行で進めたことを知った。


「すげぇな。やることが大胆だ」


 なんとカーサイノ師。あの水路は鉱脈探しのために掘ったらしい。しかし、彼曰く仕事量をケチりすぐに難癖をつける領主に腹を立て、シンダリンタルの鉱脈から採れたシンダリンタルの九割もの量を秘匿したという。どんだけ怒らせたら、そんなしっぺ返しを食うんだと、俺はあきれた。


「しかし、そうか…鉱脈に沿って掘り進めたから、時には複雑に絡み合ったり、平行に走ったりと水路がややこしいことになったのか」


 領主の館があるこの周辺にも、わずかだが銀脈があったらしい。銀の方は枯渇したそうだが、シンダリンダルの方はもう少し張り下げれば採取できるかもしれないと書いてある。


     ◆

 この本を見つけて読むことが出来ている錬金術師がおれば、是非に挑戦してみてくれ。シンダリンタルの鉱脈は銀鉱脈を探し当てるより稀である。

(中略)

後の世の錬金術師のため、念のために錬成方法を書き残す。

(中略)

     ◆


 シンダリンダルを他の金属と混ぜて作る合成金属。その配合割合や温度管理、それで作った剣のことや魔道具に関することも書いてあった。

 これは俺の手元にある本には書いてなかったことだ。ぜひメモして残しておかないと…


 こういう時にコピー能力があれば一瞬で複製を作ることができのだが…そうそう世の中上手くはいかない。地道に書き写していくしかない。


 せっせとメモ書きをしていると時計スキルのタイマーが鳴った。事前に3時間タイマーを掛けておいたのだ。夢中になって、朝まで図書室にいないように、と。


 欲しいところまだ全部書き写したわけではないが、いまは終わりにするしかない。明日からも時間を見つけて、書き写すことにしよう。


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