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異世界に来たら召 喚スキルがありました  作者: ふぅみ


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第33話

「やはりというか、なんというか…見込まれちまったねぇ。まぁ、がんばんな」

「女将さんー」

 無責任な励まし方しないでよー。そもそもは女将さんが悪いんじゃないの?


 領主様が部屋を退出し、今回の話し合いは一度解散ということになった。


「ヒロム」

 ハイセイの商業ギルドの長、ハーレンダルじいさんが近づいてきた。

 三人いる長のうちの一人って言っていたけど…会頭って呼ばれていた。会頭といったら一人じゃん。一番若いからなんて使いぱしりっぼいこと言ってたけど、実質トップじゃないかー。噓つきー


「はい、なんでしょう?」ビクビク…


「ハーレンダルさん、ヒロムが怖がっちまっているよ。もちっと目つきを優しくしてやったらどうさね?」

「目つきがどうのと、アイラには言われたくはないな。同じ穴の中じゃないか」

 2人は睨みあった。いや、どっちも怖いです。目つき鋭くて、タジタジデス。


「はっ! 一角兎のようにかわいいフリしたところであいつらは魔物だ。そこの可愛い少年だって、領主の前であれだけ熱弁を揮えるんだ。今更怖いなんて抜かすはずがない。フリだよ、可愛いフリ、か弱いフリ。騙されちゃいかん」

 いや…本人の前でそれ、どうなんでしょうね。


「確かに…そうさねぇ。領主様の前でもあれだけはっきりとものを言えるんだ。あたしは感心したさ」

 商人スキルのおかげです。これがなかったら俺なんて、ただの子供ですって。


「チッ話がそれた。ヒロム少年、商業ギルドカードは持っているのか?」

「いえ…持っていません」

「それならこの後、ワシと一緒に街に戻り、カードを作るといい」

 この街では作る気ないんだけど…


「それは、命令ですか?」

「なんだ? 嫌がる理由はなかろう。領主様からも言われただろう。報酬を硬貨で受け取るつもりか?」

「………報酬はいらないというわけには…」

 ぎろっと睨まれた。視線で人が殺せそうなほど鋭くキツイ。これまでの比ではない。


「商売人を舐めているのか」

「舐めていません」

「だよな、だったらお前は何者なんだ? 金が要らないなんて馬鹿は平民にはいないぞ」

「……」

 何と言ったらいいのか分からず、黙った。


「スキルを見られたくないのか? 訳ありなんだな?」

 その通りだった。だが、見られて困るものは隠してある。バレないだろう…と思う。


 空気を読んでくれたのか、俺とじいさんを残して他の人たちは部屋を出ていた。

 レモンさんには「また後でね」と声を掛けられたが、女将さんは頑張れというような謎のジェスチャーだけを残していった。


「まじめな話をするから座りなさい」

 促されて座る。机の対面ではなく、じいさんは俺の近くの椅子に座り膝を詰めてきた。


「そうだろうな、とは思っていた。訳ありでなかったら、その歳でリーエルなんて遠い街を目指して旅するはずがない」


 怖い目つきがいつしか、俺を労わるような目に変わっていた。

 成人したばかりの少年がひとりで旅をしている。この世界に限らず、俺がいた世界でも…そんな少年がいたら訳ありだろうと推測するし、心配もする。


「商人の中にも、人に知られたくないスキルを持つ者はいる。君は聡いから大人の本音や建て前、時には化かし合い、足の引っ張り合いといった汚い部分にも気が付いているだろう」

 俺は黙って頷いた。悪意を持っているのが大人だけではないことも知っている。子供の世界でもいじめや陰口はある。


「商業ギルドは商人や職人が加入している。商いによって生計を立てる者たちの相互協力組合だ。そこに国のしがらみを入れればスムーズな商いは出来ない。だからできるだけ独立採算制を保つ努力をしている」

 俺は黙って頷いた。

「もちろん、君も気が付いているだろうが国という枠から完全に抜けることはできないし、その地の為政者と持ちつ持たれつの関係を続けるしかない」

 そう国のトップやその地を治める領主のトップから命じられれば従わざるを得ない現実もある。一方で権力あるトップと協力し合うことで商いは大きくなるし、収益も上がる。


「つまり、だ。我々にも秘匿義務というものはある。権力に屈することがないとは言わないが、我々にも守りたいものはある」


 ここでハーレンダルじいさんは商業ギルドカードを首から外して、差し出してきた。


「これはワシのギルドカードだ。見てもいい」

 渡されたそれを受け取り、見てみる。


 名前と年齢とランク、持っているスキルと何かのマーク、そしてその横に+と-が表示されていた。

 ってか、じいさんと思っていたらまだ38か。髪が薄いだけで、やっぱりまだ若かった。


「おい、ワシの頭を見るな。思っていることが顔に出ているぞ」

「…すみません」


「調子が狂うやつだな」

 ハーレンダルさんが苦笑した。

「歳に似合わぬ老獪さを見せるかと思えばまだまだ若い。つかみどころがない奇妙な奴だな」

「本人の前で、奇妙はないと思いますけど…」


「まあ、いい。それよりカードを見ておけ」

 促されてカードを見ていると、ハーレンダルさんがカードに触れて魔力を流した。


「あ…」

 スキル欄に書いてあった商人スキル/レベル2の前にアイテムボックス/レベル2という文字が追加されていた。アイテムボックスのスキルを持っているのって。俺だけじゃなかったんだ。そっか、よかった。


「このように、本人の意思で表示したくないスキルを表示させないことが可能だ」


 へぇ、ギルドカードを作った後で簡単に表示のオンとオフが出来るんだ。これが出来るのならスキルでいちいち隠さなくても良いのか。


※いえ。カードの秘匿効果は便利ではありますが、鑑定の魔道具にスキルやギフト情報が読み取られた場合、それは記録として残ります。記録として残ってしまったものを人間が善悪の判断だけで守るでしょうか。


<あ、向こうの世界でも情報漏洩問題は大きな社会問題になっていたよ。過信は出来ないよね。>


※その通りです。確実に秘匿するためにも、まず記録として読み取らせないことが重要です。


 その通りだ。これからもスキルを隠すスキルを使って、ステータスカードのスキルやギフトの秘匿は続けよう。


「この下に書いてある、絵と記号は何ですか?」

「ギルドカードは本人の魔力を登録し、他人には使えない。それは分かっているな?」

「はい」

「そしてスキル表示以外にも、口座と呼ぶ財布機能があることも知っているか?」

「はい」

「ふむ…やはり知っていたか。説明の手間が省けて何よりだ」


 ということは、これは通帳にあたる機能が表示されているのか。

「君が思った通り、ここに本人にしか見えない情報として、現在所有している金額。借りている金額。返金時に必要となる利子、最終資産額が表示される」


「借りているお金! このカードで借金までできるのですか? しかも利子計算もしてくれるなんて、すごいです!」

 驚いた。まるっきり銀行機能みたいじゃないか。


「うむうむ。そのあたりも説明しなくて良さそうだな」

 ハイテク過ぎる…。異世界すごすぎ。


「先ほど借りている額といったが、これはないほうが望ましい。だが、君も商売をしてみれば分かるが、どうしても収入を得る前に仕入れを行わざるを得ない場合がある。この時、当ギルドから借り入れを行ったり、他の商人から借り受けたり、時には領主から借り受ける場合もある」

 彼は言わなかったが、後ろ暗いところからお金を借りる人もいるかもしれない。


「君には借り入れは必要なさそうだが、領主からの報酬を得ることが確定している。その為にもぜひ商業ギルドに加盟し、ギルドカードを作って資産管理することを勧める。お互いのスムーズ、かつ確実な取引のために」

「…分かりました。お世話になります」


 いづれはどこかで作りたいと思っていたカードだ。それに、成人したての年齢の俺が作りたいと申し出ても断られるケースすら考えていた。ここで作ることになったのは、良かったと思うことにしよう。


  *


「え? 街へ戻ってしまうの? 早く帰ってきてね。お願いだよ」

 レモンさんのしがみつかれんばかりの懇願に口元を引きつらせつつ、俺はハーレンダル他2名とハイセイの街に戻った。


 舟を出してくれたのはハイセイ舟組合の副会長、マーセルさんだ。女将さんが真ん中に座り、その前に座らされた。女将さんの後ろにハーレンダルさん。水夫のマーセルさんは先頭だ。


「ヒロム、うちに寄って行って昼を食べるかい?」

 確かに、あと1時間もすれば昼時だ。

「マイラ。悪いが却下だ。そんな時間はない。とっととカードを作って館に送り届けないと、レモンが迎えに来る」


「そうかい。残念だねぇ…リーノが張り切ってサンドイッチを作ると言っていたから、食べて欲しかったんだがねぇ」

 それって、試食に見せかけた新商品開発のお手伝いってことじゃないのか? せっかくいい感じに感動して宿を出発したんだ。食堂には絶対に近寄らないようにしよう。


 商業ギルドの前で舟を降り、先導するハーレンダルさんに続いて建物内に入る。

 入って正面に、業務を受け付けるカウンターがある。その手前に順番を待つための椅子が横一列に並んでいる。一人掛けの椅子もあれば数人が座れる長椅子もある。両端には、商談をするために使うのだろう衝立で仕切ったスペースがあった。雰囲気が銀行によく似ているなあ。

 お年玉貯金は親に任せっぱなしだし、実際の銀行に行くようなことはないけど、子供でも刑事ドラマなんかでよく見るから知っている。


 ハーレンダルさんがカウンターに近づくと「お帰りなさい」の声がかかる。

「イシェラ。奥の部屋で、彼の新規カード登録を行う。すまんが案内と準備を頼む」

 カウンター内にいたベテランっぽい女性に声を掛けたハーレンダルさんは1人で2階へ続く階段を上がって行った。


「急ぐ用事だけ済ませたら、すぐに戻る」

 そう言って、振り返ったのは俺がひとりにされれると泣きだす子供だとでも思われたのか。それとも、目を離すと姿を消されると思ったのか。…んー、多分だけど後者かなぁ。


「どうぞ、こちらへ」

 順番待ちをしている人たちをすっ飛ばして、イシェラさんという女性職員の案内で奥へと連れていかれる。

 準備を整える間、お待ちくださいと小部屋へ案内され一人にされる。壁紙や調度品が高そうな部屋だから、小部屋に押し込まれても窮屈さはない。


 待つ間にきょろきょろしていて、気が付いた。

 ここ、魔道具が働いている。何の魔道具だろうと気配を探ってみると、どうやら防音のための魔道具みたいだ。

 そういやイシェラさんが部屋を出る前、テーブルの上の箱に触れて何かをしていたが、あの時スイッチを入れたんだな。


 試しにテーブルをコツコツ叩いてみると、音が室内の壁辺りで吸収されたのを感じた。

 防音効果の高い音楽室の壁や音楽スタジオ、カラオケルームみたいだなぁ。


 面白い。テーブルを中心として室内の音を遮断するだけなら風魔法のレベル3、ウインドルームでいける。目に見えないドームのような空間をつくり空気の流れを外もれしないようにすればいい。

 使うところがないから一度試してみただけだが、これは俺にもできる魔法だ。


 水魔法のレベル2、ミストウォールでも音漏れ対策は出来る。濃いめの霧で自分たちを包み込むようにすると離れたところにいる者には話している内容がハッキリ聞き取れなくなるのだ。

 衝立で仕切っただけの商談スペースで使うならミストウォールだけで充分だ。離れたところにいる人に姿は見えてもいい。でも話している内容は聞かれたくない。そんな風に気軽に使える。


 あ、そうか。だからこその小部屋か。広い空間の音漏れをなくすのには小部屋でないと消費魔力が多くなる。そして人目を避けるなら部屋の中の方がいい。なるほどな。


 俺だったらどういう形の魔道具に付与するかなぁ。

 少しうずうずしてきた。最近魔道具を作っていない。魔道具どころか、料理もしていないし、鋳造もしていない。何かを作りたいというウズウズが作れないイライラに変わる前に、イシェラさんとハーレンダルさんの2人が部屋に入ってきた。


 台座に乗った水晶の魔道具。そして箱の魔道具。その両方をケーブルのような紐で繋いだら準備完了みたいだ。

「水晶の魔道具に手を翳し、魔力を流してください」

 ドキドキしつつ魔力を流すと、水晶が中央から輝いた。


「…………」

 3人が3人とも黙ってしまった。


 へぇーこれ、光るんだ。俺が鑑定スキルのために手に入れた水晶は鑑定する前にスキル変換してしまったからこんな反応をするとは知らなかった。

「もういいぞ」

 そう声を掛けられるまで魔力を注いでいたからか、慌てたようにハーレンダルさんが言った。


 ハッとしたように魔道具同士を繋いでいたケーブルを外し、箱だけをイシェラさんが差し出してきた。

「どうぞ。中のカードを取り、魔力を流して本人照合してください」

 あれ? 血を一滴吸い取らせることはしなくてもいいみたいだ。


 何も書かれていないカードを手にして、それが合板だと気が付いた。ガラスの錬成鋼であるシンダリンタルで精神感応金属のスプリガンを挟み込んである。


「これって…」

 貴重なものではないのか? シンダリンダルも欲しいが、スプリガンの在庫が特に少ない。どうやって手に入れたらいいのか知りたいんだけど…質問したら教えてくれるかな。


「ん? なにか表示におかしなことでもあったか?」

「いえ…その…大丈夫です」 


 言われたように魔力を流してみると、何も書かれていなかったカードに文字が浮かび上がった。びっくりするほどハイテクだ。


 出来たばかりのギルドカードは名前のところがちゃんとヒロムになっていた。不思議なことに。

 年齢は元から偽装してないから合っている。スキルなどもステータスカードで俺が選択して変更したものだけが表示されている。具体的には【洗浄3】【薬師2】【水魔法2】【細工3】だ。

 通帳になっているという部分には、金額を示すのだろう。ゼロだけが並んでいた。


「スキル確認の儀は済ませているのだろう? 表示させたくないスキルがあったら、非表示と念じなさい」

 試しに【水魔法2】を消してみた。すると初めから3つしかなかったかのように空間が埋まった。おもしろい。固定された場所に表示されるのではなく、表示したいものだけを描くのか。


 精神感応金属のスプリガンが使われているカードだよな。だから非表示と、念じたら意思が反映される? もしかして……


 ヒロムの名前のところに指先を当てて、ヒロトと念じてみた。そっと指先を放すが名前はヒロムのままだった。うーん、予想が外れたか。


 もしかしたら…と実験してみる。

 細工スキルレベル3のところに指先を当て、レベル2と念じる。反応があった気がして指先を外して確認すると…なんと、レベル2の表示に変わっていた。


 表示と非表示以外に、レベルまで変更出来たのか。これはいいことに気が付いた。


 試しに…3を4に…とやってみたが、逆にスキルのレベルを上げることはできなかった。なるほど、あくまでも表示を偽装するだけなのだ。レベルの操作は下げることしかダメらしい。

 ま、それもそうか。レベル1しかない者がレベル2のフリをしたら、それは一種の詐欺行為だよな。


 【細工】は1に下げておくか。【洗浄3】はそのままにしておこう。洗浄スキルはつい使ってしまう。


 自分のスキルカードを改めて見ていて不思議に思う。魔力量が増えた時、レベルも上がった。だが、他の人達はどうなのだろう? 俺と同じで魔力量が増えると同時に持っているスキルのレベルも上がるのだろうか。


 …他の人のギルドカードは、ハーレンダルさんのしか見たことがないからなぁ。


 最後の確認実験として、俺が現在持っていない土魔法を表示させようと指先を押し付けたまま念じてみた。すると全く変化しない。


「なるほど…」

「何がなるほど、なのかな?」

「持っていないスキルを表示させようとしても表示されませんでした」

 ハーレンダルさんは何を当たり前のことを…という顔をした。


「不思議なので、検証してみただけです。持っているスキルの表示を消せるのなら、その逆は出来ないかと…ただの好奇心です」

「なるほど。ワシはそんな疑問を持ったこともないが、君のその好奇心と実際に検証するという姿勢が君を君にしたのだろうな」

 分かり切っていること。すでに解明されていることでも疑問を持ち、検証して試してみる。そこには無駄ばかりのようだが、無駄で終わらない結果が待っていることもある。


「好奇心ついでにお伺いしますが、このカード何なんですか? ギルドで登録できるカードとかいうあたりまえのことではなく素材というか働きというか…不思議なカードですね」

「それは誰にも分からないんだよ」

「分からない? ここにこうして存在しているのに? どうやって手に入れているんですか?」

「すまないが、それは答えられない」


「ギルドの本店から資材として補充を受けているだけなのよ。わたしたちも本当に知らないの」

 イシェラさんの微苦笑に、本当のことなんだと感じた。

「君が本店のトップに収まれば知ることが出来るかもしれないぞ。目指してみるかね?」

「まさか…」

 この素材に興味はある。だが、危険そうな場所には近づきたくない。


 まだ読んでいない錬金術の本にその答えが書いてあるかもしれない。錬金術師さんの本棚になかったとしても、どこかに書いてある本があるかもしれない。

 本がなくても、地下に眠る鉱脈を偶然発見する日が来るかもしれない。だから、今危険を冒す選択はしない。


「カードは首から下げるのが一般的です。当ギルドでは切断されにくいモリア銀のネックレスをお勧めしていますが、どうなさいますか?」

「お願いしたいです。カードの発行手数料について伺っていませんでしたが、おいくらですか?」


「カード発行は登録料に含まれている。今回の登録は領主様からの依頼によるもので、君の負担はない」

 つまり今回は領主様負担で行われて、俺はただということか。


「先ほどカードの発行は登録料に含まれる、ということでしたね。再発行していただく場合はカード代も発行手数料も必要だということですよね?」

「もちろんよ。その場合はカード代として金貨1枚。発行手数料として大銀貨1枚が必要になるから、なくさないように気をつけて」


 俺が気にしているのはお金のことではない。再発行システムの方だ。


「再発行について、もう少し確認しておきたいのですが…この街を出た後、別の街でカードを失くしたことに気が付いた場合、再発行のためにこの街に戻ってくる必要がありますか?」

「その必要はないわ。商業ギルドのある街なら、どこで再発行をお願いしても大丈夫よ」


「商業ギルドのある街なら…失くしてから再発行までの時間が長くなっても大丈夫ですか? 旅の途中、商業ギルドのある街からない街へ行き、再びギルドのある街にたどり着くまで数カ月かかる可能性だったてありますし…」

「私の経験からは、一週間前に失くしたという人の手続きをしたことはあるけど…」

 イシェラさんはハーレンダルさんの方を見た。彼女も知らないことらしい。


「ワシも確実なことは言えぬが、本人が生きておれば再発行までの期間が空いても大丈夫なのではなかろうか」

「本人が生きてさえいれば…」

 と、いうことはもしかしたら…複数枚のギルドカードを所持することが可能になるかも……


「そのカードは手にした者の魔力を読み取って、本人かどうかの確認が出来るようになっておる。基本、紛失を避けるために誰もが肌身離さず持つことになり、死亡時には魔力消失をカードは読み取る。つまり死亡を確認できるカードでもある」


「…会頭。ネックレス代の方は?」

「そのぐらいはギルドの方から出そう。あとで処理しておく」

「承知しました。では、こちらを…」

 どうぞ、と手渡されたネックレスをすでに空いている穴に通す。ネックレスをつけるとなんだか…少し大きめのドッグタグみたいだな。角が肌に当たらないよう緩いカーブを描いていることといい、邪魔にならないように首から下げることといい。


 俺の世界にいた人が大昔のこっちの世界に来て神様みたいになって、このシステムを導入したんだったりして…。ドッグタグよりハイテクだけど。


「あ、そう言えば私。カウンターに座っているときにカードの生死確認を依頼されたことがありました」

 イシェラさんの言葉にハーレンダルも頷く。

「行商人は旅の途中、死と隣り合わせだからの。帰宅が予定より遅くなった場合、店の者や家族の者がその安否確認のためにギルドを訪れることもある」


 なるほど…カードで生死確認が出来るのは、残された家族にとってはいいことだ。行方不明のままというのは、不安だし…つらい。


「カードの生死確認で本人死亡だと分かっても、残された家族はカードに残ったお金を取り出せないんですか?」

「本人が身に着けていただろう資産、つまり硬貨や商材は本人とともに不明のままだという場合が多い。まれに発見者によりギルドに死亡連絡が来たとしても、身に着けていた硬貨や商材は発見者に所有権が移る。これは発見者が善意の行為で死亡を連絡してくれたり現地で弔ってくれたことへのお礼という慣習的な習わしによるものだ。だが、身に着けていた商業ギルドカードが返却される、されないにかかわらず、残っていると確認できる資産があれば8割ほどが遺族のもとへ返される。その最後の清算を行うのも商人ギルドの仕事のひとつで、2割の手数料をいただいておるが、手続きが煩雑な時は正直2割では割に合わないと思うこともある。遺族にはこんなこと言えぬがな」

 つい余計なことを言ったとハーレンダルは呟き、話を変えるように聞いてきた。


「君のカードを見せてもらってもいいかな?」

 これからは他人にこれを見せることもあるはずだ。ハズというか、街の出入り口を守る門番には必ず見せる必要があるだろう。まあ、短期滞在なら見せずに入場料を払えばいいだけなんだけどね。


「はい。どうぞ」

「なんとっ! 洗浄スキルの1級持ちか!」

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