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異世界に来たら召 喚スキルがありました  作者: ふぅみ


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第26話

 宿を出て、おかみさんに教えてもらっていた果物屋でイチジクっぽい果実を見つけた。妹はこれが嫌いだったが、俺は好きだった。プチプチした触感が楽しいし、匂いも味も他のフルーツにはない、個性的だ。

 他にも柑橘系、桑の実、見たことない形をした…味はバナナっぽいフルレ…どれもこれも大人買いしたいところだが、旅に出る人間がフルーツを大量に買い込むことがおかしいことぐらい俺にも分かる。イチジク、桑の実、フルレそれぞれを二つずつ買って我慢した。


 洋服屋へ行こうとしたら、市場で古着を売っていた。常設のテントタイプの店だったし、地元の人っぽい人も買い物をしていたからここでいいかなと思った。

 予備用の旅行向けマント、普段着用シャツ、ベスト、ズボンをそれぞれ1枚ずつ。パジャマはないのかと尋ねたら、何それと言われてしまったね。パジャマの習慣がないのかと焦ったら、『寝着』とうまく変換できなかったらしい。なんでだろね。

 どうやらこの世界のパジャマは錬金術師さんが生きていた時代から変わらず、貫頭衣のような頭からすっぽり被るものらしい。売り場で視界には入っていたが、あれは民族衣装だと思っていたよ。


 カンカン帽っぽい形の帽子もあったからこれも買った。これ、なんでカンカン帽って元の世界では呼ばれていたんだろうね。お父さんがこの形の帽子を一つ持っていた。

 この世界では水夫帽と呼ばれているらしい。水夫が日除け用に好んで被っていたんだろうね。


 買ったものはすべて果物にひき続きリュックに入れた。ふりをしてアイテムボックスに収納した。

 先に果物を入れてあるとは分からないはずだし、このぐらいの衣類を詰め込んでも不自然ではないと思ったのだ。

 俺の格好は町に入った時に背負っていたリュックの他に、魔道具屋で買ったマジックバックのウエストポーチをしている。その上からマントを羽織っているから普通にしていたらマジックポーチ持ちとは気づかない。


 この町に入ったのは中央門で、その門から少し入ったところにも市場があった。昨日は何も買わずに通り過ぎただけだった。

 今日は買い物のために、リーエルの街へ向かう西門近くの市場に向かっている。

 出入り口になる門の近くにはそれぞれ市場があるらしいが、こちらは近くの村から直接農産物や毛皮などを売りに来る村人が店を出している自由市っぽい雰囲気だった。


 いい匂いにつられて、自家製ベーコンや干し肉を買った。わざと離れた場所で少しずつ買って、マントをちょっとだけ開いてウエストポーチに入れる。

 しばらくすると容量が限界になったのを感じた。10万もするのに30サイズだとそれほど入らないんだね。仕方がないから、ハーブ類や乾燥野菜、乾燥キノコはウエストポーチに入れるふりをして自分のアイテムボックスに入れた。うん、初めからこうしていれば容量を心配することはなかったね。


 宿で朝ご飯は食べていたが、串焼肉を売っている屋台があった。肉が焼けるときの美味しそうな匂いがしているし、異世界物の小説では定番かつ大人気の串焼肉。これは買わずにはいられない。


 ひとつの店で2本ずつ買って、一口味見。フードの陰で2本とも食べたふりをして、あとはアイテムボックスにイン。お持ち帰りする。羊肉が定番らしいけど魔物肉の串焼きもあった。一角兎、一角リス、一角モモンガ、一角牛に一角鹿、味もそれぞれ違う。

 少しずつ離れた場所の屋台で買ったけど、俺の後をついて回っている者がいたとしたら、痩せの大食いだと驚かれたかもしれない。


 森の中でリスもモモンガも見かけなかったから、俺がいたレニンラード大森林にはいなかったのかも。…あ、そういえばあの森には黒毛森林サルという魔物の群れが住んでいた。いくらリスやモモンガが俊敏に逃げ回れるといっても、魔物のサルの集団が相手だと生き残れないのかも。うん、そういえば兎もあの森では見かけなかった。


 昼過ぎに西門を出る。出るときに札を門番に渡して、大銅貨2枚を返却してもらった。

 街道を歩いて移動しているのは俺だけではないが、一人だけで歩いているというのは珍しい。しかも、自分で言うのもなんだが童顔で成人前の子供にしか見えない。


 そうなると必然のように、後ろから来た大人の旅人から声を掛けられる。

一人旅? どこまで行くの? 危ないから一緒に行く?

 そんな風に誘ってくれる親切な人たちがいる一方、幌馬車を留めてじろじろ見た挙句『乗っていけ』と怒鳴ってきた人相の悪い男もいた。


 地図スキルさんが示す色が、魔物を教えてくれるときみたいに赤く染まっていくのを見て人さらいだと確信した。どうしようかと考えているうちに、後ろからやってきた冒険者たちのグループに気が付いた悪いおっさんは舌うちひとつして諦めたのか、幌馬車を走らせて去って行った。


 行った行ったとホッとしていたら、今度は冒険者集団に絡まれた。絡まれるというと失礼かもしれないが、大きなお世話というやつだ。


 隣村まで依頼で行くところだから、一緒に行こうと誘われる。「歩く速さが違うので…」とやんわり断ってみるが「今日中に着けばいいから大丈夫だ」と返される。


 六人グループの冒険者リーダーをやっている男が特に熱心だ。親切なのか、子供好きなのか。仲間たちはまたかという顔をするものの反論はしないし、リーダーと類友の反応をする者もいる。

 つまりは全員が子供の一人旅を容認しない集団だった。子供じゃないのに。


 あと10分も出発を遅らせていたら彼らと会うことはなかっただろう。人気が少なくなって来たらトイレのふりをして街道を外れ、飛行機で快適な空の旅を始めようと思っていたのに…ついてない。


「あの…それでは、隣村までよろしくお願いします」

 そう答えるしかないではないか。


「よかった。改めて自己紹介するよ」

 歩きながら自己紹介をすることになった。


「俺は【明夜の空】のリーダー、ジェスティマ。みんなからはジェスと呼ばれている。大剣使いだ」

 リーダーの年齢は20代後半ぐらいかな。赤っぽい金髪に緑の瞳。腰に下げた大剣が大剣に見えない立派な体格をしている。ちょっと熱血だが、頼もしい兄貴タイプ。


 ジェスと対照的な、ひょろりとした体格のカレスニードルはサブリーダー。風魔法使いらしい。異世界物の小説では良く描かれている杖は持っていない。魔法使いでもちゃんと腰に剣を下げている。つまり、本人に聞くか魔法を使っているところを見ないとパッと見た目で区別はつかないってことだね。

 髪は黒に近い焦げ茶。瞳は濃紺。ちなみに俺は、町を出ると同時にフードの下の髪の色を赤っぽい茶色に変えている。変えてなかったらお揃いになっていたところだった。

 カレスニードルの年齢はジェスより年上っぽい。多分、参謀タイプ。頭よさそうで、慎重派。俺のことをじっと観察している気がする。


 女性は二人。マーセアとケノン。年齢は二人とも多分20代。もしかしたら30前なのかもしれないけど、そこは詳しく追求せずに流すところだ。

 彼女たちは外見もタイプも全く違っている。マーセアがお節介な姉御タイプでケノンが沈着冷静な引っ込み思案タイプ。あ、もう一つ年齢の他にも二人には共通点があった。胸が…けっこう大きい。あまり見ないように気をつけなきゃと思うほど、立派なサイズだった。

 マーセアが弓と短剣使いで、ケノンは水魔法使いらしい。ちなみに、ケノンも短剣を腰から下げている。


 一番大柄な体格で、盾を背負っているヤノスは装備からも分かる盾使い。彼は腰から短槌を下げている。みんな、二種類の戦闘スタイルがあるってことだね。

 彼の年齢は一番若く、なんと俺の2つ上の18だって。俺とは逆に年齢を誤魔化していないか? 20代半ばくらいかと思ってたよ。


 最後に斥候役だというハーロ。両剣使い。パッと見に分からないけど、何か暗器を隠し持っていそう。遠目には黒にも見えるほど暗い焦げ茶色の髪。彼は女性二人より小柄で俺と身長が同じくらい。だけど身体の鍛え方は比べ物にならないと思う。

 ま、それを言ったら女性二人にも俺はかなわないと思う。ハーロの年齢は分かりにくいが、リーダーのジェスと同じくらいかな。


 ざっとした自己紹介を聞いて思ったけど、バランスが良いチーム編成だった。

 魔法使いが二人、前衛、後衛、斥候に…と非常によくまとまっている。


 彼らの自己紹介が終わり、今度は俺の番になった。

「えっと…ヒロシ。ヒロと呼ばれてます」

 偽名とはいえ、ヒロが付いていないと呼ばれても気が付きにくいかもしれないからここはヒロと名乗っておく。

「年齢は…これでも、16です」


 見た目年齢の14と嘘をつくのはリスクがある。成人していることを信じてくれなかったとしても本当のことなのでいいやと開き直る。


「16!」とジェスとヤノスが驚いた。

「ほらね、成人していたじゃない」とマーセアとケノンが頷く。

 カレスとハーロは黙って俺を見ていた。


「ごめんな。…14くらいかと思ってた」

「よく言われるので、気にしてません」

 と言いつつ、コンプレックスになっている風を装い苦笑しておく。


 実際の俺の心境としては、あんたらの方が老けて見えるんだよ、だった。日本にいた時に俺が童顔だとか若く見られるといった経験をしたことがないだめだろう。いまだに考え方は俺基準だった。


 俺に関する質問が続くのを避けるため、先に相手についての質問をする。

「明夜の空のみなさんはエクスルスの冒険者ギルドが本拠地ですか?」

「そうだ。これでも紫鉄なんだよ」

 冒険者ランクは上から白金、金、蒼銀、銀、黒鉄、紫鉄、青銅、黄銅、赤銅の9階級。色1色で表すときは白、金、蒼、銀、黒、紫、青、黄、赤だと世界基本知識さんに教えてもらっていたな。


「紫鉄ですか、すごいですね」

 何がすごいのかいまいち分かっていないけど、そう褒めておく。

「君は冒険者登録は?」

 カレスの静かな口調は、ちょっと気に障るかも。探られているような気になる。


 地図スキルさんか世界基本知識さん…と心の中で呼びかけて質問してみる。

 隣村のその先、リーエルの街側に村か町はある? 彼らにはそこを旅の目的地と話そうと思う。話のつじつま合わせがしたいから事前知識が欲しい。


「していません」

「気を悪くしないで欲しいんだが、仕事は何を?」


 ほら来た。身元調査をしたくなるのは分かるよ。自分でも、ちょっと他の人たちとは違うって分かっているから。


※隣の村はクロニー村。大麦と羊の牧畜が主な産業。その先のハイセイの街でクロニー村の羊の加工と販売が行われており主な産業となっている。街中を複雑に流れる水路とセルネージュ川を利用した運輸でも栄えている。


 川の運輸って船? どこからどこまで?

 頭の中に地図が思い浮かび、リーエルの街に向かう途中にある山脈まで続いているのが分かった。


「今は何も…。ハイセイの街で仕事を探す予定なので」

「そうなのか。ハイセイの街には知り合いが?」


 突っ込んだことを聞いてくるなぁ。

「遠い親戚が…。行ってみても相手にしてもらえるかどうか分かりませんけど」


「ハイセイの街かぁ。私達一度だけ行ったことがあるわね」

「うん、綺麗な街だったわ。川魚の料理も名物なのよね」

「私、魚は苦手だったけどハイセイで食べてからは好きになったわ」

「そりゃそうよ。向こうは鮮度が違うもの。この街に来るのは塩漬けばかり」

「仕方ないけど、塩漬けの魚は匂いが…ね」

 食べ物の話になったからか、マーセアとケノンの会話が弾む。俺も相槌を打ちながら会話を楽しむ。


「ハーブを使えば気になる匂いもマシになりますが…そもそも状態が悪いと誤魔化せませんよね」

 料理はこの世界に来てから好きになっていた。料理スキルを習得した影響かもしれないが、向こうの世界にいた時よりも食べることが楽しみになっていた。


 細かい設定をしてないからほころびが出る前に彼らとは別れたい。その一方で、冒険者事情に触れられるこの機会は貴重だとも思っている。


「冒険者の紫鉄クラスになると生活はどうですか?」

 顔の向きをカレスとハーロ以外に向けると、彼らは「生活が良くなった」とか「普通」とか「人によるから色々」だとか教えてくれる。


 ほどよく彼らに馴染んできたころには2時間ほどが経過…つまり、2時間も歩き続けていた。


 彼らは俺に合わせて歩く速度を落としてくれているらしい。グラニアス大陸に来るまでは歩き回ったけど、最近はフローティングボードか飛行機での移動ばかりで歩いていない。そろそろ足が疲れてきたから、こっそりと回復魔法を使おうかと思ったその時だった。


※魔法を使うと、どうしても魔力が周囲に漏れて残滓が残りやすいのでご注意を。


 世界基本知識さんの指摘を受け、えっ! と思った。

 それじゃあ、こっそり回復魔法が使えないじゃない。足が痛くなったらどうしよう。歩き慣れていないことがすぐにばれるじゃないか。


 仕方なく、森を指さし「休憩してもいいですか?」と暗にトイレ休憩がしたいと伝える。

「そうね。私も休憩したいわ」

 女性二人もトイレ休憩を希望し、男女で別れて少し離れた場所で用を済ませた。


 一瞬迷ってから、洗浄スキルを使って手を綺麗にする。半日以上彼らと一緒にいるのだから、洗浄スキルのひとつぐらいばれても構わないだろう。


「いま、何かした?」

 風魔法使いのカレスがすぐに聞いてきた。少し離れていたのに、一発で分かるものなんだな。…というか、洗浄スキルって魔法の一種だったのか? あ、そうか。魔力を使うから魔法の一種か。


「あ、俺…洗浄スキル持ちなんです」

「洗浄スキル! なるほど、それで不自然なほど身綺麗なのか。」

 謎が解けたといわんばかりに叫ばれた。


「なになに? 洗浄スキルって聞こえたけど…」

 弓使いのマーセアは目以外に耳もいいのか、離れたところにいたはずなのにこちらの会話を拾っていた。


「ええ、洗浄スキル持ちなんです」

 男たちから姿は見えない位置に隠れていた彼女たちが用を済ませて戻ってくると、キラキラした目で大接近してくる。確かケノンは水魔法使いだ。手を洗うことには困っていなかったはず…なんだけど?


「えっと…洗浄スキル持ちって珍しかったですか?」

「いや、千人に一人くらいいると言われているな。だが、俺たちの周りには残念ながらいない」

「そうなのよ。私も欲しかったんだけどなー」

「そうよね。いつでも身綺麗にできるなんて、羨ましすぎる」

 って、チラチラ見られている。


「お二人に洗浄スキルを使ってもいいですか?」

「ぜひぜひ!」「お願い!使って!」

 やはり、洗浄スキルを使って欲しかったらしい。


 彼女たちひとりずつ、頭の先から足元まで綺麗にするように腕を動かす。腕を動かす動作は必要ないのだが、これも一種の儀式みたいなものだ。


「わぁ…汗が引いて、さっぱりした!」

「マーセアの髪、洗いたてのように輝いているわ!」

「ホント? そう言うケノンの髪もきれいになってる! 肌も見違えるように変わった!」


 きゃいきゃいと女性二人がお互いの変化を褒めたたえ、喜びを飛び跳ねることで体現してくれた。

 こんなに喜んでもらえたら、嬉しくなるなーと思っているとハーロがずいっと身を寄せてきた。気配が薄い男の接近にびくっとなる。


「頼む、俺も! 俺もすっきりしたい!」

 斥候役の彼は他の男たちより身綺麗にしていると思うが、それでも洗浄して欲しいという。まあ、確かに。自分でも体験しているから、身体がさっぱりして綺麗になる快感を知っている。それに不潔な状態が好きな者は誰もいないだろう。


 ハーロに洗浄スキルをかけ、他の男たちには何もしないというのは心臓が痛い。全員に洗浄スキルを掛けていく。念入りに洗浄スキルを使った覚えはないが、彼らの装備にこびりついていた汚れが消え、匂いも消えた。


「ありがとう! ありがとう!」

 髪や肌のくすみが消え、汗の匂いも消え、肌がさっぱりした彼らに感謝されまくった。俺を警戒していたはずのカレスまでニコニコと嬉しそうな表情をしたぐらいだ。よっぽど嬉しかったらしい。


 聞けば、普段はシャワーで汗を流すだけで、風呂のある宿に泊まるのはたまの贅沢なのだという。

 紫鉄の冒険者の生活もたいしたことないな。


 ……そう思ったのは内緒だ。



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