第21話
妙なハイテンションでゴーレムづくりに夢中になった翌朝。
家の外に立たせて警備を命じたゴーレムの様子を見に行った。
「よしよし、まだ消えてないな」
そう、耐久度もテストしないでいきなり乗り物を作って飛ぶなんて怖い。怖すぎる。
と、いうことで乗らないゴーレムをまず作ることにしたんだよね。
「ちょっと魔石のチェックをするよ」
ゴーレムの胸に埋め込んだ魔石のチェックをすると異常はなかった。確認してすぐに埋め戻しておく。錬金術でイメージする通りに形状変化するのは不思議だが、楽しい。
錬金術師さんの魔石の中でも小ぶりのものを使ってみたが、込めた魔力がほとんど減っていなかったことからも数日程度で動かなくなることもなさそうだ。
とはいえ、このゴーレムの稼働時間はまだ6時間ほど。丸一日経ってどれほど減るのかを確認する必要がある。
「今日は一日、この家の周囲を警戒していて」
命令すると了解しました。というように石ゴーレムは頷いた。自分で作った石人形だが、可愛いと感じた。石を凸凹のままくつつけただけの形状だが、間接代わりに動きやすいだろうと、あえて凸凹のままにしてある。気を付けたのは両腕と足の長さを左右で同じに整えたことだ。バランスが悪いと移動に無理が生じるからね。
重量軽減スキルを付与してあるから、足場の悪い河原を歩き回っても音がしないところが気に入っている。警備員代わりにしてあるが、攻撃手段はない。せいぜいが相手に抱き着いて動きを拘束するぐらいだ。
あの森林黒サルのような群れだと相手にならないだろうが、知能の高いサルなら警戒して逃げていってくれる…のではないかと期待している。
「これはこれでありだけど、ペット代わりのゴーレムを作るのもありかもしれない」
いや、耐久テストや動作確認のためにも常に側にいるペット型を作るべきかも…。
「って、また別なものを作りそうになってる」
気持ちを入れ替え、キッチンに戻って朝食にする。
「そういえば…昨日も召喚を忘れていたな」
そうなのだ。沈没寸前の船から大量のアイテムを入手した翌日の召喚から、なかなか欲しいものが決められなかった。
召喚できるのに…特に思いつかない。もったいないと思いつつ、1日4回可能な召喚を2回行うこともあれば1度もしない日もあった。
召喚しなければ、翌日に持ち越して召喚可能な回数が増える…というようなことはなく。一日最大4回まで。使っても使わなくてもそれは変わらなかった。
ただ、使わなかった回数分は解禁された状態なので、欲しいものが思いついた時に召喚が可能だというメリットはあった。
スキルの方はちょこちょこ増えた。錬金作業をしたりモノづくりをしていて欲しくなったスキルだ。裁縫、細工、熱源探知…このうちの熱源探知はいわゆるサーモグラフィーのことだ。
なぜこのスキルが欲しくなったかというと、鋳造で加熱加工した素材の温度が目で見ているだけでは分からず、不注意に触れてしまって火傷をしてしまったことから必要だと感じたのだ。
鉄鉱石やガラスを溶かして成形し、加工している間に色が変わっているときは警戒しているのだが、自然冷却中の危険度は分からない。急激に冷却するわけにもいかないし、完成後の製品の温度が分かれば火傷もせず安全だと感じた。
丸一日放置していればいいじゃないか、という意見もあるだろうが成形後に次の作業に早く入りたかったのだ。
サーモグラフィー。物体の表面温度を計測し、それを色として画像表示する。どうすればそれが可能かと考え、温度を測るということをそもそも考えた。
気温を測るのは気温計。体温は体温計。では、色の変化だけでは測れない鉄の温度を触れずに測るためにはどうするか。どうすればいいのか。
加熱によって鉄は赤くなる。冷えると黒くなる。黒く見えても温度はまだ冷えていない。
燃える、高温、灼熱…太陽。温度が低い黒点。天体観測はどうしているのか…。そもそも、目に見えているものは光の反射や吸収による強さを映像化したもの。
光は確か、紫外線、可視光線、赤外線と光の波長の違いによって区分されていた。
「ん、待てよ。赤外線?」
そうか…冬の暖房器具でよく聞く赤外線。セールスポイントの『赤外線で温かい』。赤外線は暖かいんだ!
暖房器具から赤外線が出る。直接触れなくても手を近づければ暖かいと感じる。熱源、つまり放熱している暖房器具から空中に放出された赤外線がエネルギーとなって肌に伝わり、熱量つまり暖かいと感じるのだ。そう、温度を知るには赤外線センサーがあればいい。
「そういや、黒く見えても手を触れないでくださいと注意書きしてあった赤外線の暖房器具が家にあった」
冷えかけの鉄のように、目には黒く見えても温度は高いという現象と同じだ。
可視光線の外の光の波長。赤外線をどうして測る…? あと一歩まで来たのに……
赤外線、赤外線…目に見えない光を見る。
「プリズムを作ったら、光の帯は見えるのに」
三角柱のガラスを通した太陽光が光の帯になる実験を思い出した。
「見える光。見えない光…見えない光を見たい……」
無茶言っているなと苦笑して、ふと思った。逆に言えば、プリズムで見えない光を見たいとスキルで願ってみる…のはどうだろうか? ダメもとで試す価値はあるかも。
そんな思いでプリズムを作り、きれいに表れた光の帯をじっと見つめながらスキル変換を願った。
「目に見えない赤外線を感知するスキルを、どうかお願いします!」【換】
すうっとプリズムが消えていくのが分かってとても嬉しくなった。俺はついに、熱源探知という不思議なスキルを無事手に入れたのだ。
そして、このスキルを付与することで防犯の魔道具ができるようになると気が付くのはまだまだ先のことだった。
*
「そういえば、ゴーレムの魔石残存魔力をチェックして気が付いたけど…この家の防犯設備や水道、空調といった設備を動かしている動力とかはどうなっているんだろ?」
ゴーレムの警備員君はマモルと名前を付けた。丸一日稼働させても魔石の魔力はほとんど減っていなかった。魔石は多分高いのだが、コストパフォーマンスは優れている気がする。だって、食べることも寝ることも、休憩することもない。文句も言わないし、愚痴も言わない。ありがたい存在だ。
この家の設備の動力となっている魔石はキッチン横の壁、飾り板の奥にあるようです。
世界基本知識さんが教えてくれた飾り板は寄せ木細工のように、薄く削られた木片によって図版が嵌め込まれた木の板のことだった。これ見ると箱根のお土産を思い出すなぁ。
「これかぁ。ただの壁飾りだと思ってた」
飾り板に手をかけて動かしてみると、その下に家主新規登録をした時と同じプレートがあった。
それは今なら精神感応金属、スプリガン製のプレートだと分かる。触れてスキャンするように魔力を送り込むと壁に切り込みが入り、隠されていた空間が現れた。
「すげぇハイテク! そして大きい魔石!」
魔石の透明度は高く、色はほんのりとしたオレンジ色だ。
「これ、もしかして古代竜とかの魔石?」
握りこぶしほどもある大きい魔石が、壁の中の空間中央に嵌め込まれていた。じっくり見ると魔石の中だけでなく、周辺にもいくつもの魔力回路が繋がっている。
※そのようです。地竜の可能性が高いです。
俺のアイテムボックスの中にある陰竜はまだ解体してないからどのぐらいの大きさで、どんな色をしている魔石が獲れるのか知らない。だが、この家と同じぐらいの素晴らしい家を俺も将来作れるかもと思うと嬉しくなった。
いや、この魔石が寿命がきた時のために…あの魔石は残しておくのがいいかも。
恐竜との闘いなんてもう経験したくないし、このサイズの魔石が必要なものなんて家以外に思いつかない。
「今のところは、まだまだ大丈夫そうだ」
魔石を見るだけでかなりの量の魔力があると分かり安心した。
プレートにまた魔力を流して閉じろと願う。それが正しかったかのように、隠されていた空間が元通り壁の中に消える。
「さてと、今度こそ飛行ゴーレム作りを頑張るぞ」
出来れば今日か明日くらいには完成させて、欲を言えば飛行試験まで行いたい。
錬金部屋ではなく、素材や加工用道具のある鋳造工房でゴーレム作りに励むことにする。デザインは卵ではなく燕をモデルにした。さすがに空飛ぶ卵に羽をつけるメルヘンなデザインは恥ずかしすぎると気が付いた。昨日の俺はどうかしていた。
強度は欲しいが重量はいらない。椅子のクッションをしっかり作り込むより、すでにあるクッションを尻と背中に入れることで快適性を求めることにした。こだわって作り込めばいくら時間があっても足りなくなる。
欲を言えば羽の形状を風に合わせて変えることができればよく早く長時間飛べる気がするが、ここもこだわりを捨てた。その分、風魔法を細かく制御できるようにスプリガンのプレートを両翼に3か所ずつ、胴体に左右2個所、尾羽にも2個所溶接した。駆体のメイン素材はモリア銀と魔鉄を使い、キャノピーの防風窓には透明のガラスを利用した。風魔法で風除けをしても良かったが、飛ぶための制御に集中したほうがいいと判断した。
「欲を言えば、この窓。強化ガラスにしたいんだけど…硬化の付与ってあるのかなぁ」
飛ぶ際には鳥にも姿を見られないようにするつもりだから、風力で割れないかどうかだけ心配すればいいか。万が一にも割れた時のことを考えるし怖いんだけど…時間がないしとりあえずこのまま様子を見よう。
工房で朝食も昼食もサンドイッチで済ませて一心不乱に作り続けたからか、夕方には一応の完成と思える状態で手を止めることができた。いきなり外でテスト飛行をするのも怖いため、トレーニングルームでのテストを試みる。
「まずは、タラップ…」
俺の声に反応して、飛行機ゴーレムの胴体の一部が階段状に変形する。 トントンと上がってコクピットに身体を納めるとにょーんと階段が変形。元の胴体に戻る。
これ、某アニメの影響を受けてます。はい。
シートベルト代わりに椅子と身体を固定するのもゴーレム君がやってくれる。やっぱり何か名前を付けてあげた方がいいだろうか。
T字ハンドルを握り、機体に付与した重力軽減スキルを発動させるが、これだけでは浮上しなかった。フローティングボードだとこの段階で浮いてくれるのだが、さすがに重量が違う。
ネックレスの重力軽減スキルに働きかけ自分自身の体重もカット。それでもなお浮上することはない。
乗っている機体を燕の身体に見立て、どこにどのぐらいの風魔法を出力するかイメージする。両翼の下へ向かって風を送り込むようにするとゆっくり浮かび上がった。思わず口元が嬉しさで緩む。
「浮上を確認。この手順を記憶。今後、浮上の命令でルーチン化」
ゴーレム君には声帯はないからしゃべる機能はない。だが、複雑になりすぎない命令ならインプットが可能で、キーワード登録すればその動きをトレースしてくれる。
この頭脳に使っているボックスは偉大なる錬金術師さんが残してくれた遺産だ。手のひらに載るほどのブラックボックスの中身がどうなっているのかは分からない。ただ、簡単な命令を受け付けてくれることだけ分かってて、利用させてもらっている。
「次に前進作業に入る」
両翼の3カ所のうちの一つを下へ、残る2カ所からは後方へ風を送る。それぞれのパワーを少しずつ上げていくと狙い通りに浮遊と前進の力が生まれた。
「前進を確認。この手順を記憶。以後、前進の命令で飛行。速度は状況に応じて命令。いまは微速前進。ゆっくり…そう、このぐらいが微速前進、記憶せよ」
床から30センチほど浮いたまま、3メートル前へ。思いついて試してみたら後ろ向きに2メートルという指示通りにも動いてくれた。向こうの世界の飛行機にはできない動きだ。
「あ、そうか。ドローンをイメージするといいのか」
プロペラの角度を変えることで上昇も旋回も静止も自由自在のドローンを思い浮かべた。
「んー。もっと早く気が付いていればデザインに取り入れたのに」
いや、明日。テスト飛行して姿勢制御や飛行速度に問題があれば改善しよう。これがベストな形だと決めるのは早い。
「着陸を行う。ゆっくり降下。その後、停止。タラップ準備」
機体を床に下ろし、胴体から変形したタラップを降りる。
「操縦者が機体から離れたら、5秒後に動力オフ」
お疲れ様、と思わず呟いてしまった。
「さあ、さっさと風呂に入って夕飯にしよう」
明日飛行テストして、動作確認に問題がなかったら時間当たりの魔力の消費量を計算して、安全のためにも8割…いや6割ぐらいの消費でどのくらいの距離飛び続けられるか計算したら、近くの町までどのくらいかかるか分かる。
「数日以内には出発できるかな」
眠気がなくてもベッドに入ることにした。目覚ましのアラームを「6時にセットして」と目覚ましスキルに頼んで目を閉じる。
「………」
なかなか寝付けない。眠気が来ない。
仕方がないので目を閉じたまま考えごとをすることにした。
燕くん。…ツバメ号だと変な感じだな。
飛行機。そのまんま過ぎてひねりがないし、飛行機と定義するにはエンジンが搭載されていない。乗り物っぽい形だけの遊具のような…だけど本当にこの世界では飛ぶことが出来る。エンジンのない飛行機。魔法と不思議金属で飛ぶ乗り物。しかし、おそらくこの世界では唯一のものになるだろう。この世界に飛行機があるかどうかそもそも知らないけど…
※この形の飛行物体はありませんでしたよ。
世界基本知識さんが俺の心の中の呟きに応えてくれた。
それじゃあ、やっぱり誰にも見つからないようにしないといけないな。
フライト…ライト兄弟…兄弟はいないし…希望や夢を乗せて飛ぶ…? ポエムみたいで恥ずかしいし…もうちょっと、こう…なんだろ……ブルースカイとか…ブルーインパレス? アクロバット飛行するわけじゃないし、あぁ…いい名前が思い浮かばない。
色々、ぐだぐだ考えているうちに、いつの間にか眠っていた。羊を数えるより効果的だった。
*
起きてすぐ、窓の外を確認。多分、晴れ。
この世界には天気予報がないから、この後曇りになるのか晴れたままなのか分からないが、この地に来てから晴れ続きだから、今日も一日良い天気であって欲しい。
ちゃっちゃと身支度と朝食を済ませて地下のトレーニングルームに駆け込む。アイテムボックスに飛行機…名前が決まらず空飛ぶゴーレムは仮称のまま『飛行機』と呼ぶことにした…を収納して、まだ涼しい朝の空気に包まれた外へ出る。
河原に出してコクピットへ乗り込む。飛行手順は室内での浮遊実験と同じだが、外の方が広いため移動できる距離も高度も違う。
テスト飛行は一応の成功だった。一応というのは、飛ぶには飛んだがコントロールに慣れるまでがかなり大変だと感じたから一応とつけた。
「やっぱり、ドローンタイプがいいのかなぁ」
揚力を得るためにこだわった曲線の翼はこだわりポイントだったのだが、ジャイロ効果で姿勢のコントロールがしやすくなるというメリットは捨てがたい。プロペラタイプの羽を回転させることで推進力を得ることもできるし魔力消費の軽減は疲労軽減とイコールだ。
「やっぱ、作り直す方がいいか。デザインはカッコいいのになぁ」
一度アイテムボックスに収納して家の中へ。
ツバメをモデルにした飛行機型より、ドローンを参考にしたレースカーへ。
イメージ通りに金属加工できるスキルがあるからこそ、材料を無駄にせずに変形できる。ありがたい。
大幅にデザインを改造して、地下でテスト飛行して、また手直しして外でテスト飛行。そんなこんなを繰り返していると一日があっという間に過ぎた。だが、一日かけた改造のかいあって、飛行速度も安定感も見違えるほどよくなった。これなら1日10時間でも12時間でも飛び続けられる気がした。魔力の消費だけでなく集中力が続けば…の話だ。
「明日の天気がいいといいなぁ」
とうとう明日には住み慣れた河原からの引っ越しを決行する。
何のかんのいってもこの家での暮らしに馴染んでいたから一抹の寂しさもある。
「家ごと引っ越すようなもので、また森の中に戻る…というか別の森に移動するつもりだけど」
そう。大きな街に行き、しばらく宿屋で暮らして人恋しさが薄れたら、森の中の生活に戻るつもりでいる。この家での暮らしは快適だし、まだまだ読んでいない本も多いし、錬金術の勉強もしたいし、作りたいものもある。
錬金術師さんのこの家ほど居心地のいい家はない。シェルター内には他にもいくつもの家を所有しているわけだが、住み慣れた我が家と感じているのはこの錬金術の家だ。
「しばらくこの家は出せないから、テントでの野営になるな」
この河原にたどり着く前にやっていた移動生活に戻るだけ。しかも、今度の移動は先が見えている。世界樹の聖域を出てから方角だけを頼りに転移門を目指し、グラニアス大陸へ移動した先の読めない旅とは違う。今回の移動は目的地までの距離も時間も大体計算できる。
「パンを多めに作って、ハンバーガーのようにベーコンや野菜を挟んでおこう」
移動を優先したいから、寝るまでの時間を利用して素早く食べられるメニューを充実させることにした。手作りコーヒーもお湯を注げばいいだけの状態にして、焙煎と豆挽きまで終わらせておく。
ベッドに入り、寝付くまでの間。町で買いたい物ややりたいことを考えることにした。
「まずは…そうだな。靴かな。そして服ももう少し欲しい」
靴はたまたま召喚でサイズが合うものを取り寄せることができたが、これ一足では何かあった時に困る。予備が欲しい。
店で実際に足を入れて履き心地を確認して買いたい。服も洗浄スキルで清潔に保つていても、くたびれた感まではどうにもならない。アイテムボックスの中に入れておけば邪魔にならないから、シーズンオフの服があるようなら、それも買っておくといいかも。
「季節の野菜や果物も欲しいし、調味料や牛乳、ああ、砂糖の補充もしたい。料理用の油も欲しいし、チーズも種類が欲しい」
食材に関しては次から次へと欲しいものが思い浮かぶ。
街の魔道具屋、薬関係、できれば商業ギルドに登録して身分証を手に入れたい。商人ギルドがだめだったら冒険者ギルドでもいい。魔物討伐の仕事はできればやりたくないが、植物採集は自分用にも欲しいし、仕事として請け負うのもいいかもしれない。
寂しさと不安はあるが、わくわくしている。新しい世界が開けるような期待も感じている。
期待を胸に。希望を翼に。…おやすみなさい……




