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異世界に来たら召 喚スキルがありました  作者: ふぅみ


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第2話

野草辞典とか欲しいな。

 いや、もっと使える【鑑定】があれば解決する問題かもしれない。


 「これも変わっているな」

 葉っぱが星型で、裏側が白っぽい。


 『キリカレヌア草1』


 見た目もいいし、根っこごと引いて持って帰ろう。


 『キリカレヌアの株3』


 「この花ももらっておくか」

 あっちふらり、こっちふらりと収穫の旅をしていて、はっと気が付いた時には…迷ってた。


 いや、もともと、迷子なんですけどね。

 自分がどっちから来たのか、どこへ行けばいいのかさっぱりわからなくなってた。


 ははははは…

 乾いた笑い声を上げる。太陽がだいぶ傾いていた。


 俺の危機管理どこ行ったの?

 ヤバいじゃないですか。このまま日が暮れたら、終わりだって。


 アイテムボックスが優秀すぎると責任を押し付けて、先を急ぐ。方向は野生の勘に任せた。東京生まれ、東京育ち、だけどね。


 「おぉおお」


 突然視界が開けた。森を抜けたわけじゃなく、太い幹の立派な木が生えているせいだ。そびえ立つ大樹の四方へ伸びた枝葉の影響か、その巨木を中心とした数百メートルほどが下草しか生えない空き地になっている。


 「すごい…」


 まるで縄文杉だ。いや、屋久杉と言ったほうがいいのか。とにかくでかい。


幹の太さは大人が何人も腕を広げてやっと取り囲めるぐらい。高さも首を限界まで曲げなければならず、てっぺんはどうやっても下から見えない。

 これはもう、ご神木レベルかも。

 この木が日本にあったなら、注連縄しめなわを張り巡らせ、柵で囲われていただろう。

 神が宿る木にふさわしい存在感。恐れ多い気はするが、この木以上に安心感を覚える場所はない。ゆっくりと近づき、そっと手を触れ…る前に頭を下げる。


 お願いします、今夜一晩ここで寝かせてください。

 訳も分からずこの世界に来て、困っています。どうか、どうか助けてください。


 普段、神様のことは忘れているが、お正月や大きな大会の前などは神社へ行って手を合わせる。神社以外の場所にも目に見えない神様がいる、と試合の前にも神頼みしている。


 さわり…と柔らかな風が吹いた気がする。

 頭を上げ、そっと手を幹へ伸ばす。


 心が凪いでいた。不思議と、あたりは静かだった。

 もしかして、異世界の巨木の定番…『世界樹』だったりして。


 落ち葉の一つでもあれば、それを収納してみたら分かる。そう思ってぐるりと周囲を歩いて探してみたが、落ち葉も小枝も落ちていない。

 もしもこの木が世界樹だったら、エルフたちの聖域を人間が汚したとか言って怒って襲ってくる…なんてパターンあったりして…。


 どうしよう……ここにとどまる方が危険かもしれない。


 「……どうしよう」

 悩む。あと一時間もしないうちに陽が落ちるかも。そうなったら辺りは一気に闇に包まれてしまう。


 迷ったが、やはりこの巨木を今夜の寝床に借りることに決めた。

 木の幹にあるわずかな凸凹を利用しながら木肌を登り、枝に腕を伸ばす。指先に力を入れて、枝にとりつく。身体を引き上げひとつめの枝を攻略。立ち上がって、さらに上を目指す。


 「命綱なしでこんなに登ったのは初めてかも…」

 俺が通っているボルダリングを楽しめる練習場には落下しても怪我しないように安全対策がされているが、ここにはそんなものはない。落下したら確実にケガをすると考えて用心しなきゃ。


 慎重に木登りしながら、身体を休めるのに適した場所を探す。地上から十五メートルほど登った枝がちょうど良い感じに横へ張り出している。


「ここにしよう」

 幹に近いところは畳1枚ほどの広さもあるから、横になれる。寝がえりは打てないけど安定感は良さそう。

 「とはいえ、あまり下を見ないほうがいいな」


 高さ十五メートルといえば、ビルに例えると3階ぐらいだ。落ちたら骨折ではすまないだろう。

 幸い、この高さでも風はほとんど吹いていないし寒くもない。


 命綱はないけど、この木は登りやすいからもっと登ろうと思えば登れる。だけど、陽が落ちる前にいろいろと準備をしておきたい。小さいライトは持っているけど、何があるか分からないから明かりはつけたくない。つまりは、暗くなったら寝る以外のことはできなくなる。


 アイテムボックスからリュックを取り出し、幹に背を持たせかけて足を延ばす。

 「スキルカードは落としたり失くしたりしないようにしたいよな」

 ズボンの後ろポケットに入れてポケットを縫い付けてしまえば落とさずに済むが、カードを取り出したいときには困る。


「だけど…スキルか」

 改めてカードをまじまじと見てしまう。

 スキルがあるということは魔法もあるということだ。


 俺には魔法がないから、残念ながら使えないということなんだろう。すごく残念だ。

 だが、召喚というスキルがある。全く何もなかったよりは良かったと思う。


「すごいシンプル。ゲームのような細かい数字で表示されるわけじゃないのか」

 異世界転移したときの定番のセリフの『ステータスオープン』を唱える必要がないのは残念なような…。


「ステータス……えっ?」

 手にしていたはずのカードが突然消えた。


「えっ、嘘っ!」

 慌てて「ステータスオープン!」と叫んでみるが何も変化なし。


「ステータス!」と呼んでみたところ…


 現れましたよ、不思議なスキルカードが。

「つまり、これって…」


 出し入れ可能なステータスカードということ。よくあるのは半透明の板に自分のステータスが並んでいるパターンだが、それがこの世界だとカード式になっているみたいだ。


「不思議ー」

 触れば質感がある。カードの上の文字をなぞることも出来る。


「でも…まあ、自分のスキルが確認できるのはいいね。現在の状況が分かるのって、助かる」

  試しに、心の中で強く念じることでもスキルカードの出し入れが出来た。


「これでカードを落とす心配はなくなったわけだけど…次の問題は、この森を抜けること、か」

 気が付いたらひとりごとが増えていた。地上十五メートルにいるとはいえ、油断大敵だ。独り言禁止。


 なにか使えそうなものがないかな。

 リュックの中を漁っていた俺の手に、固くて丸いものが触れた。なんだ? と取り出して、しげしげと眺めること約一分。



…あ



 分かった。これも母さんに勝手に入れられた防災グッズの一つだ。

 「いつ起こるか分からない首都直下型地震に備えて、最低一日はひとりで生き抜く準備をしておきなさい」

 そう言って、普段持ち歩いている俺のリュックにあれこれ入れられていた防災グッズ。


 重くて邪魔。余分な荷物になるから、と防災訓練があった日から時間の経過とともに少しずつ放り出していくと、いつの間にやらまた入れられている。そんな攻防を経て、残っているものうちのひとつ。水で元の形状に戻るパンツだ。

 「……あ、もうひとつあった」

 こっちは水で戻るタオルだ! これはいい! 母さんありがとう!


 手が汚れるたびにウエットティッシュやポケットティッシュを使っていたらあっという間になくなってしまう。嬉々としてペットボトルを取り出そうとした手が止まる。そうだ、俺が持っているのはお茶だ。なんで俺は水を買わなかったんだろう…


 はい、安かったんです。大容量でお得だった。ただそれだけ。

 迷ったのは少しだけ。カチコチのコンパクトタオルにお茶をぶっかけた。


 「おぉおお」

 もったいないし、貴重な水分だからぶっかけたといってもちょっぴりね。手で引っ張って伸ばして、ミニタオルの形にする。


「これでよし」

 乾いたら水分で湿らせる。使い捨てでなく繰り返し使えるからいいね。

 タオルハンカチは手や汗の水分をとるだけにして、コンパクトタオルの方は汚れ落としのおしぼり的な使い分けと決めておこう。


 陽が沈む前にもう少し周囲を歩いてみるかな。そう考えて木から降りる。登りよりも降りる方が危険だから慎重に…

 しばらく周辺を歩いてみたが、水分補給やカロリー補給に良さそうなものは何もなかった。ぐるっと回って元の木に戻ってきて、また登った。


 ペットボトル1本分のお茶しか持ってない。トイレの問題もあるから水分摂取は最低限にしているけど、これだけでいつまでもつか…。

 まだ空腹になっていないからと非常食のナッツバーには手を付けないことにする。


 夜になってどのくらい気温が下がるか分からないけど、冷熱遮断シートは銀色で月の光があればぴかぴかと反射してしまうだろう。どうしても我慢できなければ使うことにして、今は様子見することに決めた。

 たまたま今日は体育の授業があるから入れていた体操服。下はハーフパンツだから論外だが、上だけでも着替えておくか。幸い、うちの学校は襟付き体操服だから遠目にはポロシャツっぽい。胸のポケットに刺繍された校章を見て、どこの学校か分かる人がいたら是非お友達になりたい。


 異世界で学生服と体操服、どっちが違和感ないか…答えは似たようなもの。甲乙つけがたし。ただ、体操服の方が汚れや汗に強いはず。洗っても乾きやすくてしわになる心配もない。

 うん、上だけ着替えよう。ささっと着替えてシャツはアイテムボックスの中へ。リュックに入れるとしわになりそうだったから直接収納した。


 「制服も体操着も長袖にしていてよかった」

 とか考えているうちに周囲が暗くなり始めてきた。いよいよ夜がやってくる。


 朝になって明るくなったら、もう少しこの木の上のほうまで登ってみよう。ここからなら、遠くまで周囲を見渡せるはず。進む方角の参考にしたい。


 ぱたっと暗くなるかと思っていたが、まだまだほの明るい。生い茂る枝葉が空のほとんどを覆い隠しているから星は見えないが、それでも隙間から月の光が見える。どうやら風もほとんど吹いてないらしく、微風にさわりさわりとかすかな葉音が聞こえる以外、獣の声も気配もない。



 静かな夜をどれほど過ごしただろうか。


 居眠りしそうになっていた自分に驚いた。



 安心しすぎだ。



 本当は寝たい。でも、いきなり来た世界で…しかも森の中で寝るなんて油断しすぎだ。


 ここへ突然やってきたときのように、寝ている間に別の場所に連れていかれていたらどうしよう…。元の世界に、元の場所に戻れるのならいい。今なら何もなかったかのように、元の世界に戻れないだろうか。


 溜息をついた。


 ライトノベルズで読んだ転移者たちは元の世界へ戻れない者がほとんどだった。

 寂しさが押し寄せてきて、また心が揺れた。泣いてもどうにもならないけど、泣いてしまいたい。


 …泣かないけど。

 泣き声を聞かれたことで誰かに…危険な生き物に、見つかるリスクを冒したくないから。


 今の俺が頼れるのは、召喚スキルだけ。まだまだこのスキルのことはよくわからないが強く念じたことで偶然発動し、アイテムボックスを手に入れることが出来たのだろう。

 うん。だったら、魔法も手に入るかもしれない。少しだけ希望の光が見えた気がする。


 「初回の召喚を変なものにしなくて良かった」


 ラッキーだった。だが、一日にひとつ、あるいは一度…の利用制限があるスキルだ。一日は真夜中の0時切り替えなのか、それとも前のスキルを発動してから24時間後ということなのか? そこはまだ分からない。

 まずは0時切り替えと仮定して、先に望みを決めておこう。あれこれ考えているうちに、思いがけないものを選んでしまったら、一日無駄にしてしまう。生き延びることを第一目標にして、気を引き締めないと。


 そういえば、テレビ番組で無人島から脱出する番組があったな。

 飲み水を確保し、火をおこし、料理を作る。寝床を作って一晩過ごしたら、翌朝からは島から脱出するためのいかだを作って陸地を目指す。


 ここは森の中だからいかだは必要ないが、流れとしては似たようなものだろう。


 まずは飲み水。森の中に川か泉がないか探す。ついでに食べられるものがないかも探す。小動物が木苺などを食べているところに出くわし、その木苺を食べたという転生者もいたな。ライトノベルズの中の人の話だけど。

 森の中をさまよっていて、温泉を見つけたパターンもあったな。


 一日二日は我慢できるけど、飲み水だけじゃなく身体をきれいにする水も欲しくなるな。

 と、すれば生活魔法のクリーンとか光魔法の浄化があったらいいのにな。


 いやいや、身ぎれいにするより先に安全確保だろう。


 無人島の例に話を戻すけど、火をおこすなら手っ取り早くライターか? 異世界なら魔法の火があればいいのか。…けど、火をおこしたところで俺に料理は作れないしな。


 魚ならまだしも、獣を捌いて串焼きやらステーキやら…切って焼くだけの料理ですらできっこない。

 家族で時々行くのは手ぶらでキャンプ。食材と炭だけは買って持ち込むほうが安いって母さんが近くのスーパーで買い込むけど、基本は全部揃ったお手軽キャンプの経験しかない。

 しかも、家と同じで調理するのは母さんと妹が担当してくれていた。俺は洗い物や後片付けぐらいしかしなかった。今になって、料理を習っておけばよかったと後悔してる。学校の授業でご飯の炊き方とみそ汁の作り方は習ったが、日々の生活ではレンジでチンとかお湯を注いで待つだけとか、そんなことしかしてこなかった。

 空腹に耐えられなくなったらやるしかないんだろうな。狩りも解体も……。アイテムボックスで解体してた主人公もいたな。いいねぇ。手を汚さず、グロいのも見ずにすむのはとってもいいじゃないか。羨ましい!

 鶏でも手に入ったら試してみたいけど、そもそも…どうやって家畜を手に入れる? って話だよな。買えるものなら、はじめから肉になった状態のものを買うって話だよ。

 そうすると、優先順位は安全な寝床づくり、つまり拠点作りか?


 拠点? …俺はいつまで一人で隠れ住めばいい?


 そうだな。先に決めたほうがいいか。森の中に隠れ住むか、それとも森を抜けて人里を目指すか…って…。いま人里を目指したらマズいじゃないか。

 未知との遭遇をしても、会話が成り立たない可能性がある。第二言語として勉強している英会話ですら自信ないのに、この世界の言語を覚えなきゃいけないって、これ…無理じゃね? 

 のほほんと村人に会いに行って…言葉も分からない野蛮人は家畜扱いだ、ってことになったらどうする? 多勢に無勢。しかも相手は魔法が使えたり、ゴリゴリの筋肉マッチョだったら…ジ、エンド。人権なんてこの世界にあるかどうかも分からない。


 決定。俺は森に隠れ住む。


 「…………」



 しかしなぁ…。たった一人で生き抜く自信もない。

 なんで、こっちの世界に来た時に異世界語を話せるようにしておいてくれなかったんだよ!


 って、そもそも誰に文句を言えばいいのか分からない。なんで俺がこんな目に遭っているのか、遭わなきゃいけないのかがそもそもわからない。

 愚痴はひとまず横へ置いておいて。

 スキルで次に願うとしたら『言語翻訳』か? それでいいのだろうか?

一日にひとつ、じゃなきゃいいのに。ホントにもう、どうすりゃスキルが成長するんだよ。


 ……成長? そう、この召喚スキルは成長する。


 例えば…スキルを使えば使うほど成長する? うん、ありそうだ。でも、その場合だと十日で上がるかもしれないし、一か月経っても上がらないかもしれない。なにせ、一日に一回だけしか使えないんだ。そのペースで果たして、生き残れるのか?


 優先すべきは生き残りとスキル上げの同時狙い。二兎を追う者は一兎をも得ず、なんて昔の偉い人が言ったかどうか知らないけど…両輪で前に進まなきゃくるくるその場で回る駒になりそう。


 獣を狩る。

 経験値あるいはスキルポイント上げに効果があるかどうかを確かめるためにも、生き残るためにいつか肉を食らうためにも…獣を狩ってみよう。戦ってみよう。

 そのための、戦いの道具。あるいは戦うスキルが明日の願い。


 いや、もう少し考えを煮詰めよう。明日の願いが予定通りいかなくて叶わなかったときのために、第二第三案まで先に決めておこう。その時になってから慌てずに済むように。


 さて、確実に獣を狩るためにはどうすればいいか。道具? スキル? 

 道具だとしたらナイフとか、拳銃とか? ナイフを戦いの道具にしたことはない。もちろん一般高校生に戦いの経験があったらおかしい。拳銃も同じでモデルガンすら手にしたことはない。

 殺傷能力は高いだろうが、拳銃とかライフルとかは使いこなせる気がしない。うまく扱えないと暴発しそうで、戦う前に自滅しそう。無難なところはやはりナイフかな。


 そういえば、無人島脱出の芸能人のひとりが大きなナイフを唯一の荷物にしていたことがあった。ナイフで木を切り倒したり蔓を切ったり、木を加工したり、魚を捌いたり…とナイフの使い道はいろいろある。

 スキルの場合だとなにがいいだろうか。火魔法や風魔法ってスキルになるのかな? 仮にスキル扱いとして、どの魔法がいいのか…。

 火、風、水、土あたりが四大魔法ってよくいわれているよな。これに光と闇を加えた六種類とか、さらに妖精魔法とかドラゴン固有魔法とか…あーもう、この世界のことがそもそも分からん!



 早いうちに常識というかこの世界の知識を何とかしたい。



 頭ぐるぐるしてきた。どの順番で強くなればいいのか教えて欲しい。だけど、アドバイスをもらったところで、その日はお預け。翌日になるまで習得できないのなら、明日を無事に過ごせる確率を下げることになりそうだ。

 とにかく明日。そして、また明日。毎日を確実に生き残らないと…。




 梢の合間から降り注ぐ月の光。元の世界の月よりもひょっとしたら光が強いかもしれない。気のせいかもしれないけど。陽が落ちてから…二時間くらいは経ったか? ハッキリは分からないけど、まだ真夜中には早いと思う。


 深呼吸。深呼吸。

 落ち着いて考えろ。まだ考える時間はある。召喚スキルの解禁が24時間サイクルだとしたら、タイムリミットは明日の昼過ぎだ。

 ………長い。24時間だとしたら正直なところかなり不安だ。


 ここに辿り着いてから獣の気配も人の痕跡もないから、思い切って2晩くらいこの木の上で過ごしてもいいかもしれない。だけど、それ以上になればなるほど飢えと渇きで身動きが取れなくなりそうだ。


 落ち着け、考えるな。いや、考えるのはいいが恐怖を感じるな。身動きできなくなる恐怖は要らない。思考を停止させるな。


 ああ、ダメだ深呼吸しよう。…深呼吸、深呼吸。


 魔法を望むとしたら何がいいか。攻撃的なのは火とか風っぽいが、スキルにレベルがあったことが気になる。成長すれば強くても、初歩の初歩から使える魔法でなければ困る。

 弱くても役に立つ魔法。攻撃して、確実にとどめがさせる魔法。


 …とどめ? 首を切り落とす。失血死。心臓が止まる。息が止まる。


 息が止まる? そうか、風魔法で呼吸ができないようにすればいいのか! …ん? 出来るのか? そんなこと…。風を止める。空気を固定する…いや、これってかなり大変そう。

 そもそもの話として、俺に魔法は使えるのか? 魔力はあるのだろうか? うーむ。


 ……いや、召喚が使えるということは魔法だろ? 魔法とスキルが違うのか同じ扱いなのか分からないが、使える! 使えると話を進める。

 で、だ。魔力があって魔法を使える前提で考えるが…魔力量の問題は最悪を考えておいたほうがいい。レベル上げにも関わってくるが、初歩の弱くても役に立つ魔法が何かを考えよう。



 火、燃やす…熱エネルギー? もちろん、炎が出るのは定番だな。


 風、空気の流れ…空気圧とか? 風で…何が出来るんだ? あ、かまいたちが定番か。


 水、水の流れ…水圧…氷の刃? 風と被りそう。だけど、水は飲める。うん、いいね。


 土、礫や石…投石や落とし穴? 土と石は違うよな…うーむ…


 光、光って目くらまし…いや、回復魔法が光だっけ? なぜ回復なんだろ。殺菌なら分かるけど。


 闇、闇って暗闇の中に姿を消すとか? 他に何が出来そうなのか思いつかないぞ。


 ん…んん……いや、どれも使える。使えるはず。

 でも、水がいい。水はいろんなことに利用できる。汎用性が高い。うん、一番は水にしよう。

 道具のサバイバルナイフと水魔法、どちらを優先するべきか…。


 明日もこの木の上で夜を過ごすなら水魔法を優先して、練習もかねてこの木の周辺から移動しないでおこう。森の中を移動して水辺を探しつつ狩りをするなら、サバイバルナイフにしよう。

 その次は…言語習得か? だけど言葉が話せるようになっても、誰にも会わなかったとしたら無駄なスキルになる。他には何を優先すればいい? 困っていること。生き残るために早く身に着けたほうがいいこと。

 この世界の常識や知識も欲しいが…周辺地図が分かれば計画を立てやすくならないか?

 例えば、人里が近くにあったら言語やこの世界の常識などの問題を先に解決してから人里に向かえばいい。いつ接近するかはこちらの準備が整ってからにして、それまでは森の中で誰にも見つからないように隠れ住む。

 隠れ住むにしても近くに川があるとか洞窟があるとか分かっていれば森の中を移動しても迷わずに済むから、無駄な体力を使わずに済む。



 問題はやはりスキルのレベルか。地図スキルが弱い可能性もある。卵か鶏か…どっちが先かまた迷いはじめた。

 常識や知識でスキルの上げ方が分かるのなら、地図の前にした方がいい。これが第一候補か?


 根底からひっくり返すと、常識や知識でスキルの上げ方が分かると確実に言えるわけでもない。こちらの勝手な期待だ。

 考えに行き詰って、横になっていた枝からだらりと手足を出して脱力してみた。身体の向きも変え、太い枝に抱き着いてみる。




 さやさやと木の葉が内緒話をしているようなかすかな音が聞こえるが、それだけだ。

 この世界には俺の他には誰もいないような……



 「そうか…」

 鳥の鳴き声は聞いたけど、この世界に人がいると確実に知っているわけではない。獣は確実にいるだろう。あれほど豊かな森に生き物がいないとは思えない。花が咲いていたから昆虫もいると思う。この世界に川がないのはありえないし、川に住む生き物がいないととも思えない。いなかったら不自然だ。


 考えをまとめよう。

 言語習得は後回しにする。これ、決定。

 この世界の一般常識や知識を最優先とする。第二候補は水魔法。第三候補はサバイバルナイフ。

 ナイフの形状は出来るだけ詳しく思い浮かべるようにしよう。ナイフとだけリクエストして、うっかり果物ナイフを召喚してしまったら…泣く。


 ……あれ? 変じゃね?


 俺はアイテムボックスを召喚出来たよな? アイテムボックスってスキル? それともアイテム…品物? 品物だとしたら、手に触れられるはずだから、やっぱりアイテムボックスはスキル?


 ステータスカードを取り出し、確かめる。


 《召 喚レベル1 一日ひとつあるいは一度、召喚できる。》

 やっぱり、説明書きは変わらない。だけど…じっと見ていると…なんとなく使い方が分かってくるというか…

 アイテム、つまり品物を呼び出すか、スキルや魔法を得ることができる…ような気がするのだ。

 不思議に思いながら召喚の文字をさらにじっくり見ていて、はっと気が付いた。


 召と喚の間がわずかに離れている。よくよく見なければわからないほどの隙間がある。

 そっと召の文字だけに触れてみる。すると不思議な説明文が走った。



《招くことができる。希望のものを取り寄せることができる》


  今度は喚の文字だけに触れてみる。



《換えることができる。機能を変換して実装することができる》


 やはり、そうだ。

 【換】のスキルを使えば新しいスキルや魔法を身に着けることができる。


 「俺のスキルは一つだけど、二種類の召喚が出来るのか」

 嬉しくて、にまにまと笑ってしまう。【召】だけでも欲しいものが手に入る使えるスキルなのに【喚】のほうはさらにすごい。スキルでスキルを手に入れられるなんて、これはチートと言ってしまってもいいいかも。


 レベルが低い今は1日ひとつ、あるいは1回という制限があるが、成長すればするほど便利に生きやすくなるはず。


 「生き残れたら…という話だけど」



 ふうっと深呼吸して、心を落ち着かせる。

 そろそろ時間かもしれない。一度試してみよう。




 【換】。この世界の一般常識や知識!




 しーん…。変化なし。




 変化なしは恥ずかしかったけど、まだ0時になっているかどうかも分からないし、24時間待機の可能性もある。




 【換】。この世界の一般常識や知識!




 それからも時間をかけて何度も挑戦するものの変化なし。

 眠気に次第に抗いにくくなってくる。このまま寝てしまってもいいものだろうかと思っているうちに…どうやら寝落ちていたらしい。




 気が付いたら夜が明けていた。

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