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異世界に来たら召 喚スキルがありました  作者: ふぅみ


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第18話

 朝の目覚めは最悪だった。熟睡していたところを叩き起こされたように飛び起き、いったい何があったのか分からず頭がくらっとした。


「……地図スキルで周辺を…え、家のまわりに…」

 危険を示す赤い点に取り囲まれていた。分かった時には血の気が引いた。


 心臓をバクバクさせながら、急いでベッドから出る。窓へ駆け寄ってそっと外を確認してみた。


「なんだ、あれ…」


 黒いサル? 


 サルの集団がそこかしこで群れ、騒いでいた。ギャーギャーキーキー煩いほど喚きながら、家へ飛びかかったりしている。


「ヤバい…」


 恐怖にかられ、部屋の中に引っ込んだが…このまま隠れていていいのか?

 興奮した奴らに家を壊されたり、窓を割って入ってこられたらまずい。いざとなったら殺すしかない。急いで2階の寝室から階下へ降り、リビングの窓から様子を伺うことにした。


 サルといっても蝙蝠に似たメチャクチャ怖い顔だ。目が吊り上がっていて、鼻づらもやや長め。歯を剥き出しにして威嚇しているその口端からは、ヒョウや狼かと思えるほどの牙が二本ずつ合計四本もある。

 体つきは細身だが、大きい奴が立ち上がると一メートル半ぐらいある。身軽で、ジャンプ力もすごい。集団で離れたところから飛びかかって襲われたら、クマよりも怖いかもしれない。


「あれ?」

 よくよく見ると黒いサルがへばりついているのは窓の外ではない。いや、外には違いないのだが…


※この家の防犯機能が働いています。


「やっぱり、そうだよね」


 世界基本知識さんも気が付いたらしい。サルの集団が騒いでいるのは窓から数十センチほど離れた位置。群れのなかには石を手に持って、叩きつけてくるサルもいるが、見えない壁を壊そうとしているように見える。


「結界、か? この家、スゲー。錬金術師スゲー!」


 何をどうしたらそんなことができるのか。この家は見えない壁、つまり結界に守られているようだった。

「錬金術師すごすぎる。やっぱり、憧れる!」


 錬金術スキルを持っているということで特別な存在だと目を付けられる危険はあるが、それよりも自分でもこの力を使いたい。家を守るこの防犯システムを自分でも作ることができたら安心だし…アイテムにして身を守れるのにもぜひ使いたい。


 よくよく見ると、家を襲ってくるサルばかりではなかった。

「あっちにいるのは、カニを捕まえているのか?」


 一部は川に入ったり、河原の石をひっくり返して何かを探す様子が見て取れる。

 増水した川にカニがいたことは昨日見て知っている。どうやらこいつらはカニを狙って群れで川を移動してきて、それでこの家に気が付いたらしい。


「しかし…しつこいな。そろそろ諦めろよ」


 吠えるように喚き、河原の石で空気の壁を何度も何度も壊そうとするサルを見ているうちに腹が立ってきた。

 殺さなくてもいいから追い払おうかと思ったところで、世界基本知識さんがぽつりと呟いた。


※森を探索中にこの大群に遭遇したら危険ですね。


「…………」

 数匹程度なら落ち着いて対処出来るかもしれないが、万が一にもこの大群に囲まれたらシェルターに逃げ込むしかない。すぐにどこかへ行ってくれればいいが、半日も居座られたら困る。


 地図スキルの有効範囲は10キロ。接近前にやり過ごすことはできる、と思うが…群れが一つでなかったら…迂回すらできなかったら……と、悪い想像が膨らむ。


※この数は異常です。溢れる前兆でなければいいのですが…。


「…………」

 溢れる、つまりはスタンピートということか。

 地図スキルで確認すると、なるほどこの河原以外の場所…川に沿っていくつもの赤い点が集まっている。赤い光の帯のようだ。


「家ごとここから移動するとしたら、どっちへ行けばいいと思う? 森の外? 村よりも大きな町の方が安全か?」


 答えが出ないのか世界基本知識さんは黙ったままだった。

「スタンピートが起きるとして、魔物が移動する進行方向を予測できない?」


※大移動が始まっている場合は可能ですが、散発の移動であれば予測は難しいです。過去の記録では村をいくつか飲み込んだところで移動速度が落ち、討伐されたこともありますし、村から町、さらには都市へ向かう流れが観測されたこともあります。魔物たちがなぜ増え、そしてどこへ向かうのか、魔物学者も確かなことは分かっていません。


「そうか。…まあ、これがスタンピートの前兆とはまだ決まっていないか」


 にしても、しつこいな。このサルの群れ。歯を剥き出しにして怒っている顔は正直怖いが腹も立つ。家を護る力が働いているから実害はないが、万が一ということもある。

 何匹か討伐したら逃げていってくれないかな。

 この家に近寄ると危険だということを学習してもらうためにも、追い払うことにした。


 家の中から水魔法を使おうとしたが、使えない。

 それなら、と窓を開けてみて同じように試してみたがやはりだめだった。家の周囲は魔法の使用が無効になっているらしい。


「結界があるせいだよな」


 魔法攻撃がだめなら、とアイテムボックスを利用した攻撃を試してみることにした。そう。アイテムボックスに収納してある石を奴らの頭上から落とす…というシンプルな攻撃だ。


「あ、出来た」

 石を狙ったところから落下させるのは、魔法ではないと認識されたみたい。

 突然一匹のサルが倒れる。周囲にいたサルが驚き、仲間をつついて様子をうかがっている。


「どこまで…離れたところでも落とせるのかな」

 倒れたサルの隣にいたやつにも落として…少しずつ離れた場所にいるサルを狙ってみる。だいたい有効射程距離50メートルくらいか。結構いけるものだな。


 サルが次々と倒れていく光景に、危険を知らせるような鳴き声が一斉に上がる。サルどもはひときわ大きく吠えた後、一目散に逃げだした。


 ギャーギャー煩い集団がいなくなりホッとした。結局あいつらを追い払うまで二十分近くもかかってる。この家の防犯システムが途中で切れなくてホント良かった。

 河原に残されたサルを見たくなかったので仕方なくアイテムボックスに収納する。


「黒毛森林サル…見たままなんだ」


 アイテムボックスの鑑定で確認すると、食用可になっていた。絶対に食べたくはないが、内臓のいくつかが薬の材料になっていると薬師スキルが教えてくれて…涙が滲みそうになった。


「とりあえず、売り物にできるみたいだからその辺に捨てるのはやめておこう」


 朝からどっと疲れたが、一日はまだ始まったばかりだ。部屋へ戻って着替えることにした。

「見つからなければいいんだよな」

 錬金術師さんの服を借りることにした。防御の付与がかかっている。


「おお…」

 ズボンを履くと自動で服のサイズが変わった。丈は短くなり、ウエスト周りは小さく縮んだ。不思議過ぎる。シャツのサイズも着てしばらくすると変化する。


「こんなの、自分で作れるようになったらすごいよな」

 身支度を整えてキッチンへ入ると朝食にした。

 パンを作る気力はなかったから作り置きのおにぎりとみそ汁を食べることにする。

 食後のフルーツを食べ、ハーブティーを飲み干す頃には気持ちの切り替えができていた。


「森を移動中、奴らに遭遇しそうで怖いけど、引っ越し先を決めないと…」

 河原には危険がある。生活用水に困っていない今なら、別の場所に移動したほうがいい。


 咄嗟に魔法での攻撃が間に合わない可能性もある。威嚇の意味でも剣を持っていくことにする。地下の作業場で見つけた片手剣4本は依頼品なのだが、もう発注者はこの世にいない。一番軽い一本を剣帯から下げた。腰のベルトにこんなものを吊り下げたことはないから一番軽いものといっても実際には重いし、違和感あるし、はっきり言って邪魔なのだが…この世界では武器の携帯に慣れる必要があると思う。

 念のための予備として、残りの剣3本もアイテムボックスに入れて持っていくことにする。


「魔法と剣の両方ができる冒険者って少ない?」


※いえ、階級が上の者ほど複数の攻撃手段を修得しており、その能力も高いです。


「それなら、召喚タイムになったら剣術スキルを修得しよう」


 リビングへ戻り、地図スキルで引っ越し先候補について考える。

 実はリビングにいる時間よりキッチンにいる時間の方が長いんだよな。向こうの世界と違ってテレビがないから、リビングでやることってなかったりする。くつろぐためのスペースなんだろうけど、くつろぐなら二階の部屋もあるし、ね。


 一番近い街へ向かうなら進路は北側。ただし、移動距離は徒歩で3か月弱…か。遠い。

「けど、森さえ抜けて平地があれば家を出すことはできる」

 森を抜けるのに2か月ぐらいか。レニンラード大森林、どんだけデカいんだよ。


 西側の方が森を抜けるのは早い。ただし、森の先は崖になっているみたいだから進路を途中で南西へ変える必要がある。40日ぐらい移動すると小さな漁村に着けるらしい。この辺の計算は世界基本知識さんと地図スキルさんが協力して計算してくれた。


「ちいさな漁村て、人口どのぐらい?」


※60から80ほど。戸数にして20軒ほどではないでしょうか。


 答えてくれるのは世界基本知識さん。一番の相談相手だ。


「20軒……」

 少なすぎて、さびれた漁村のイメージしか沸かない。

「下手したら、もう誰もいない可能性があるよね」


 そうか…それならそれで俺にとっては好都合だ。

 空き地の好きな場所に家が出せる。


「よし、第一目的地はその漁村にしよう」


※設定されたアラームが鳴るまであと五分です。


「ん?」


 召喚タイムの解禁まであと五分になったみたい。


 錬金術に関する本で同じ装丁の本、一冊を本棚から抜き出して机の上へ準備する。剣も一番重くて付与が付いていないものを選んでその横に用意する。剣は剣術スキルを得るためだ。


「他には…何にしようかな」

 部屋の中をぐるりと見まわして考えてみる。


 が、なにも思いつかないまま五分が過ぎた。


 とりあえず、錬金術スキルを習得しておこう。


 お願いします、錬金術スキルを習得させてください。錬金術スキルに【換】!

 

 用意した本が消えると同時にふらっとした。


「なんだろ…少し気持ち悪い」

 三半規管は強い方だけど、遊園地のアトラクションのコーヒーカップを回転しすぎた時と同じふらつきを感じた。そして少し気持ちが悪い。


「スキルでこんなことになるというのは…集大成のスキルといわれる錬金術だから、なのか?」


 頭がぐるぐるするというか、ぼわんぼわんというか…うまく働いてない。

「知恵熱?」

 額に手をやってみるといつもより熱い。


「ダメだ、座ろう」

 リビングのソファに座り、しばらくしてから、ステータスカードで現在の状態を確認してみた。

 錬金術スキルが表示されていた。つまり、無事習得出来たということだ。


「魔力は家を召喚したほどには減ってない。…このまま召喚を続けても大丈夫かな」


 いや、やっぱりやめておこう。


 さらに十分ほど安静にしていると気持ち悪さも消えた。恐る恐る剣術スキルを修得してみる。こちらはあっさりとしたもので、目の前にあった剣が消えたからそうと分かったが何も違和感を感じないほどだった。


「欲しいものはいろいろあるけど、泥棒にならないように気を付けなきゃ」

 ダメもとでチャレンジしてみるしかない。


 欲しいものはコーヒー、自動演奏機能の魔道具、庭付きの家で使うためのカーテン、絨毯、クッション…そうだ、鞄も欲しいんだった。俺が持っているリュックは向こうの世界のものだから、素材自体がナイロンだしファスナーも見られたら困る素材でできている。ということは…布とか生地ってリクしてみるか? つまり、布から加工して自作? ん~それはそれで面倒くさいかも? 裁縫スキルとか、モノづくりスキルがあれば面倒だと感じない? どうしようかなぁ。


 家丸ごと手に入れてから、一度にあれこれが揃う快感を覚えてしまったんだよね。ピンポイントで一つだけを取り寄せるのがもったいないというか…贅沢なこと言ってるけどね。


 どうしようかな。優先順位としてはリュックか。向こうの世界のものは隠しておいた方がいいと思う。森の中で採集するときには肩掛け鞄の方が違和感ないのかな。実際にはアイテムボックスにぽいぽい収納しているんだけどね。誰にも見られなかったら、鞄はリュックタイプの方がいい。歩いたり走ったりするのにも違和感少ない。


 ウエストポーチタイプのマジックバッグも便利そう。あれ? そういえば、お弟子さんの部屋にウエストポーチがあった気がするからそれをもらってこよう。これでマジックバッグの偽装問題は解決か。


 次に望むのは、コーヒーか?


「泥棒に盗まれてしまって、持ち主がいなくなったコーヒー豆があれば【召】!」


 ダメもとだったが期待していた。けど、ダメだった…残念ながら。

 ふうっとため息をつき、切り替える。


※誰にも収穫されずに落下した、持ち主がいない…と指定してみては?


「それ! いいな。試してみる!」


※この場合も、量に制限を設けるのを忘れずに。


「あ、ああ。そうだね。そうしよう」


 えーと…米袋が50キロサイズくらいだから、そのぐらいのを一つでいいか。

 世界基本知識さんのナイスなアドバイスに従ってチャレンジしてみると、50キロほどのコーヒー豆の山が目の前に現れた。


「あ…失敗した」


 そうなのだ。販売されているものは品質が整っている加工品といっていい。つまり、俺が取り寄せたコーヒー豆は未加工の実。熟したもの、未熟なもの、腐りかけのものすらあったのだ。


 ごちゃまぜのコーヒー豆を、しかも寝室に使っている部屋に取り寄せてしまった。


「洗って、分別して…確か、焙煎しなきゃいけないのか。失敗したなぁ」

 余分な仕事を増やしてしまった気がする。取り急ぎコーヒーの山をアイテムボックスに収納し、部屋を洗浄スキルで綺麗にして、窓を開ける。風スキルで室内の空気を入れ替え、マジックボックスの中に入れていたいい香りのする花を取り出す。


「コーヒー豆は後回しにしよう」


 本日最後の召喚は何にしよう。


「ああ、自動演奏機能の魔道具が欲しいんだった」


 けど、これも持ち主がいないなんてこと…なさそう。いつか大きな街に行ったときに魔道具屋で買う方がいい気がする。

 ダメもとでお願いしたみたが、やはり反応はなかった。


「やっぱりな…じゃあ、次はカーテンとか絨毯か」


 こちらも持ち主がいないものは難しいか? 空き家の召喚? 家ばかり増やしてもな…。それに、空き家に残されたカーテンとかって、すでにボロボロになっている可能性が高そう。


 新品同様の状態が嬉しいんだけど…海賊や山賊たちも強奪するならもっと金目の物を狙う気がする。と、なると…沈没船狙いか。海水に浸かっていればダメになっていそうだし。


 コーヒー豆の二の舞になると面倒なので、念のため召喚場所をシェルター内に変える。


「沈没した船…いや、沈没しかけているけど、まだ完全に沈没してなくて塩水に漬かってない積み荷で、持ち主が船から逃げていてすでに所有権を放棄した、そんな商品があったら俺に下さい! カーテンなどの布類が含まれているとなお嬉しいです。お願いします。【召】!」


 沈没しかけている船ってなんだよ。持ち主が逃げているってなんだよと自分で自分に突っ込みを入れながら、お願いします! と強く念じてみた。


「…………」

 空振りではなく、手ごたえを感じ…恐る恐る閉じていた眼を開いてみた。


 ひっ! 硬直した。


 驚きすぎると声が出なくなる。

 身体が硬直したように固まってしまった。息を無意識に止めていた。


 箱の山、山、山…。袋の山、山、山……。

 絨毯らしき大きな巻物も十本ぐらいある。荷車もある。建材っぽい丸太もある。袋に入った穀物っぽいものもある。


※タイミングよく、沈没寸前の商船があったようですね。


 世界基本知識さんもあきれ返っているみたいな呟きに、俺は止めていた息を大きく吐き出した。


「は、ははは…」

 世界は広いナー。俺も無茶振りしたナーと思ってた。その無茶ぶりが、まさか叶うとは…


「やりすぎてしまった……」


 よく考えたら、行商人が荷馬車で運ぶ商品よりも貿易船で運搬する商品の方が種類も量も多い。冷静に考えると当たり前のことだった。


「ごめんなさい」

 もう、誰に対して謝っていいのか分からない。

 思わず、土下座してしまう。


「…………ありがとうございます」

 しっかり反省して、感謝して、ありがたく有効活用させていただこう。


「もう一度お礼を言わせてください。ありがとうございます」

 沈む船から海底へ消えてしまうはずのあれこれを頂きました。


 では、気持ちを切り替えて…お宝さがし、始めるよ~。


「どこから手を付け…いや、端から順に確認していくか」


 荷車と建材はこのまま残しておくことにして、袋のひとつをアイテムボックスに収納してみる。中に入っていたのは小麦だった。

 袋の口を開いていちいち中を確認するより、アイテムボックス収納による簡易鑑定の方が手っ取り早い。


「小麦。蕎麦。押し麦。…やった、豆だ」

 中身と数を確認しつつ、アイテムボックスに次々収納していく。


「おっ。これ、食器だ」

 箱ごと収納しても、箱の中身がパン皿やコップ、スープボウルなどだと分かる。これ便利。


「どこかで食堂とか宿屋でも始める予定だったのかな」

 鍋や包丁、食材や調味料。シーツやテーブルクロスといったリネン類。絨毯やカーテン。木の桶やたらい。蔓っぽい植物で編まれた籠、陶器っぽい花瓶。木製の衝立や引き出し。タペストリー。洋服。欲しかったものばかりでテンションが上がる。


「すごい。お宝ばかりだ…」

 沈みゆく船から金銀財宝は持ち出されたようだが、今の俺には現金よりも商品のほうがお宝だ。スゲー嬉しい。


 絨毯は商人の店舗付き家に三つ、庭付き石造りの家に二つ、錬金術師の家にも二つ運び込む。

 食材は全てアイテムボックスに入れたが、使うのは多分錬金術師の家のキッチンだ。食器類や包丁は商人の店舗付き家の方に持っていく。


 花瓶が手に入ったから、いつも使っている二階の寝室に戻って花を飾っておく。

「ああ、錬金術で隠密スキルを誤魔化すためのアクセサリーを早く作りたいと思っていたんだった」


 それに、この家の防犯システムがどうなっているのか分かれば、自分自身の防御アイテムを作るヒントがもらえるはず。


「他にも便利なアイテムづくりやスキルについて勉強したいんだよな」


 部屋の模様替えよりも錬金術のための勉強を優先した方がいいかも。

 本棚から入門書と書かれた本を抜き出す。

「ん? なんとなく、書いてあることが分かる。…気がする」


 スキルを得る前には理解できなかったことが、すっと頭に沁み込んでいく気がする。


「錬金術を使えば調薬作業が簡単になるのか」


 細かくナイフで素材を粉砕する作業が、錬金釜に入れて魔力を注ぐだけで思うように形を変えられると分る。温度も変えられるから素材を乾燥させるのも楽だし、抽出や蒸留。分解と攪拌。溶解と分離。スキルをうまくコントロール出来たなら、思うがままだと分る。解ってしまった。


「鉄鉱石から製鉄、鋳造して付与…あぁ、制作の流れがなんとなく分かる。錬金術、すごすぎる!」


 いきなり貴重な素材を使うわけにはいかない。失敗しても痛くないよう、余裕のある素材を使ってアクセサリーを作り、付与まで一通りの流れを練習することにしよう。何度も練習して自信がついたら本番。隠密スキル付きのネックレスを作ろう。


 すぐにでも錬金部屋へ飛び込みたいほどそわそわしていたが、時間的に昼食を先に摂った方がいい。食べ物はアイテムボックスの中に入っていたが、飲食するならキッチンの方が落ち着く。お茶も用意したいし…とキッチンへ移動した。


 たっぷりと湯を沸かし、お茶を入れる。複数のコップにお茶を注ぎ、今飲む一杯以外はアイテムボックス内に収納しておく。よしっ、これでいつでも煎れたてのお茶が飲める。コップがいっぱい手に入ったからこそできる贅沢だ。


「小麦も手に入ったし、夕食にはパンを焼いてみてもいいかも」

 パンの焼き方を教えてくれる本に加え、料理スキルという強い味方もいる。

なんだか、すごくやりたいことがいっぱいある。


 料理スキルで料理。薬師スキルで調薬。錬金術スキルで魔道具やアイテム作り。そして付与スキルで特別な機能を付与して完成。あーわくわくする。何から手を付けよう。

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