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異世界に来たら召 喚スキルがありました  作者: ふぅみ


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第17話

 午後から出かけようと思っていたのだが、外を見ると降りそうな空の色をしていたため、錬金術師の家の地下で過ごすことにした。地下で唯一何もない、ただ広いだけの部屋で柔軟体操をして、ゆっくりペースでランニング。身体が充分温まってじわじわ汗が出てくる頃になると、気持ちがすっきりした。

 クライミング用の施設があればもっとよかったのだが、壁を利用して腕立てしたり逆立ちしているだけでもいいトレーニングになったと思う。


「音楽が欲しい気もするけど…この世界に自動演奏機能の魔道具ってあるのかな」

 明日の召喚タイムに試してみてもいいかも。盗まれたものがあるかどうかは疑問だけど…


 クールダウンを兼ねてゆっくり走り、最後にまた柔軟体操。身体の疲れをシャワーでほぐし、汗を流してさっぱりした後、キッチンへ移動した。

 水をコップ一杯飲んでホッと一息。甘いものが欲しくなったので飴を作ってみることにした。


 砂糖と水で作る基本のべっこう飴はもちろんのこと、レモンっぽいフルーツの汁を絞って加えたレモン飴、ゆずっぽい飴、ハーブティー飴…とここまでバリュエーションを作ったところで小リンゴがアイテムボックスにあることに気が付いた。


「小リンゴというか、姫リンゴ? 姫リンゴといえば…りんご飴が出来るよな」

 祭りの屋台で売ってる、綿菓子と甲乙つけがたく欲しかったあれ。外側の飴をぱりぱり噛み砕きながら食べるのが、妙に楽しかったんだよな。


 りんごに突き刺す棒がいるな。


 何か適当な木がないかとアイテムボックス内を探すと、竹があるではないか。肉の串焼き用に作った竹串は細すぎるから、もう少し太く、手に持ちやすい長さの専用串を削って作ることにした。

「美味しくできるかどうか分からないから、お試しで4本作っておけばいいか」


 サバイバルナイフで削って出た竹の削りかすはまた収納しておく。屋外で焚火をするときの炊きつけに使うからだ。


 出来たばかりの竹串は洗浄スキルで綺麗に。姫リンゴの真ん中になるように刺して、鍋で溶かしたべっこう飴の中にしっかり浸す。くるくる回しながら周囲がまんべんなくコーティングされているのを確認して、鍋から引き上げる。滴る飴をくるくる回しながら飴を風魔法で乾かしていく。強すぎず弱すぎず…これは微風を続けるコントロールのいい練習になるかも。


「これでよし」

 完全に固まるのを確認。突き刺して並べておく用意が出来てないからすぐにアイテムボックスに収納した。

「アイテムボックス、便利~」

 小リンゴあらため姫リンゴ4個がりんご飴になった。


 早速味見してみると飴の甘さと姫リンゴのさわやかな酸味がいい感じで、すぐに追加制作決定。20本の串を作り、飴が足りなくなると飴から作り足し追加20個のりんご飴を完成させた。作りすぎたかもしれないが、アイテムボックスに入れておけば腐らないから気にしないでOK。


「雨、まだやまないなぁ」

 窓の外を見ると、まあまあ強い降り方で雨が降っている。


「…まてよ、ここ…河原だけど大丈夫か?」

 雨は降り終わってからでも上流から流れてくる水で下流の水かさが増える。と、災害講習で聞いた注意事項を思い出した。


 以前住んでいたところだとハザードマップで水害の危険や避難所などで知ることができた。警報も出るし、ニュースでもネットでも変化していく情報を知ることができた。だが、ここではすべてが自分で判断して行動する必要がある。誰も教えてくれないのだ。


 念のため外へ出て様子を確認することにした。雨に濡れてしまうが、それよりも家の周囲が危険かどうかを確認するほうが重要だ。


「水かさは増えているけど、微増って感じか。…大丈夫そうだな」

 雨に打たれながら空をじっと見上げ雲の流れを確認してみる。空は全体的に明るく、遠くに青空の切れ間も見えた。

 あと1時間ないし2時間もすれば晴れるだろうと予測を立ててみる。


「早めに河原から移動することを考えたほうがいいかも」

 今はよくても、今後、最悪のパターンだと寝ている間に線状降水帯が来る可能性だってある。そしたら河原は濁流にのまれる危険がある。

 明日からは引っ越し先を探して周囲を探索しようと心に決め、家に戻る。濡れた服は洗浄スキルでは乾かせなかった。


「水魔法で…いけないかな」


 服から水分を移動させる…つまり乾燥しろとイメージしながら魔力を使ってみる。

「出来そうな感じもあるけど、うまくいかないな」


 手のひらで服を撫でてながら水分を抜くイメージを繰り返すうちにコツがつかめた。

「服と髪は乾かせたけど…」


 厳密には水分を移動させただけだ。乾燥させることはできなかった。つまり、床が濡れてしまった。

「この辺は火魔法との合わせ技ってことかな」


 うーん…ライトノベルの主人公は髪を乾かすドライヤーの風とか簡単に使っていたんだけどな。


「風…温風で吹き飛ばす…風を移動させるだけでは熱は生まれない? 火と風を組み合わせる? 火と風と水…」


 いや、水だ。水魔法を使えばいけるかも。

 水魔法にミストウォールという技がある。霧を発生させて視界を遮ったり、姿を隠すのに使える技だ。

「空中から水を霧状に変化させることができるのなら…」


 床の濡れた部分の水分を霧状に変化させ、風でそれを吹き飛ばしてみる。

「やった!」

 床の濡れた部分が乾燥していた。


「これ、洗濯物を乾かすのにも応用できる!」

 嬉しい発見に思わずにこにこしていたが、ハタっと気が付いた。

 あれ? 俺には洗浄スキルがあるから、わざわざ水で洗う必要はないのか。


 汚れを落とすために水洗いし、汚れを水で洗い流すというのは前の世界でのこと。こっちの世界では水で洗わなくても洗浄スキルでキレイに汚れを落とせる。つまり、水で濡らさないから乾かす必要もない。

「洗濯機がいらない。洗濯物を干す手間も必要ない。もちろん、洗濯のたびに衣類をたたむ必要もない」

 おぉ、洗浄スキル最高だ!


「雨に濡れた衣類を乾かしたり、風呂上がりに髪を乾かすときだけこの技を使えばいいのか」


 水分を細かい霧にして風で吹き飛ばすことで乾燥させる小技…ん、乾燥?

「そうだ!」

 キッチンでレモンの輪切りを作り、水分を抜いてみた。使ったのはミストウォールとウインドの2つではない。水魔法のレベル1で使えるようになるウォーターサクション(吸引)で水抜きが出来たのだ。


「やっぱり! 出来た」

 ドライフルーツが出来た。


「これは使える!」

 ドライフルーツがあれば紅茶に入れたり、パンに入れたり、そのままおやつにもなったりする。

「そういえば、森の中にブドウの木はなかったな。あればレーズンができたのに…残念」


「フルーツだけじゃない。この小技を使えば花でも乾燥できる」

 小花は乾燥させてから砂糖をまぶして砂糖漬けにする。ゼラチンがあれば中に砂糖漬けの花を入れてカワイイ感じのゼリーが出来るんだけどなぁ。ゼラチンって何からできていたんだっけ? 知らないや。


「ドライフルーツだけでもいいか」

 やり始めたら楽しくなって、あれもこれもと夢中になってた。…ふと気が付けば、雨が降りやんでいた。念のため外へ出て川の水量を確認してみるが、流れもそれほど変化なく濁りもない。洪水の心配はなさそうだった。


「あ、カニ…」

 増水した水に流されてきたのか、カニの姿が見えた。

「そういえば、アイテムボックスの中に収穫していたけっけ。収穫? いや、捕獲か?」

 ゆでガニにして食べてみてもいいな。


 とりあえず、目の前のカニを捕まえられないかと考えてみるが、水の流れの向こうにあっという間に見えなくなった。

「だよねー。水中のカニが捕まえられるようなら、魚だって捕まえられるって」


 網がなかったかと家の中に戻って探してみるが網も釣り竿もなかった。


 だが、家探ししていていいものを発見した。燻製器だ。

 キッチンではなく、お弟子さんの部屋にあったところを見ると、彼が個人の愉しみにしていたんだと思う。師匠の方はお酒を飲まない人だったのかもしれない。


「お酒を飲まなくても、俺は燻製を作るんだけどね」


 キッチンへ燻製器を持っていき、何の肉を使おうかと考える。

 豚みたいな脂身のある肉がいいハズ。アイテムボックスの中にも肉はあるけど、解体したのは陰竜だけ。大きすぎて解体というより、一部を切り取っただけだけどね。


「あった、豚肉。山猪の肉もあるのか」

 ここのキッチンの食材庫にしているマジックボックスの中からイノシシの塊肉を出す。豚肉の方は他にもいろいろと使い道があるからここはイノシシを選択する。


 肉のカットや下処理は料理スキル、燻製器の使い方は鑑定さんが教えてくれた。

「さすが魔道具!」

 肉を好みの大きさにカットして燻製器の上から入れ、チップを下の引き出しに入れたら…後は魔力を流して放置。完成するのを待つだけでいいなんてありがたい。


「ベーコンも欲しいな。ベーコンやハムがあればサンドイッチや目玉焼ができるな」

 朝食に欲しかった一品だ。

「そうそう、スープにベーコンを入れても美味しいよね」

 料理スキルさんが食材からおすすめメニューを教えてくれる。


 お腹空いてきた。

「少し早いけど、晩御飯にしよう」


 商人の家にあった鍋もアイテムボックスに入れて持ってきている。鍋いっぱいに牛肉のワイン煮を作る。もちろんこれも初めて作った料理。レシピを教えてもらって作ったけど、これはご飯よりもパンの方が合う感じがした。

「明日はパンを焼いてみよう」


 ふと思い立ち、一番弟子さんの方の本棚を確認してみれば、料理の本がいくつもあった。

「いいね、これ」

 初心者向けの本もあったから、もしかしたらお弟子さんも初めは本で料理を勉強したのかもしれない。


 料理スキルを使えば身体が自然と無駄のない動きをしてくれたり、レシピを教えてくれたりするが…うまく使いこなせていない感じがする。たとえるなら、分厚い辞典がある。知っている言葉を探して意味を確認することはできても、知らない単語やあいまいな知識から辞典を活用するのは難しい。それに近い感覚なのだ。


「パンのレシピもあるし、この一冊だけでもキッチンへ持っていこう」

 他にも夜寝る前に読むのに良さそうな本を探そうとして、錬金術の初級本を見つけた。


「そういえば、錬金術スキル修得を先送りにしていたんだった」

 スキル変換することによって変換元のアイテムは消えてしまう。消えても問題がない本を探そうと思って、後回しにしていた。


「なにか二冊同じ本がないかな」

 あ、そうだ。黎明の錬金術師さん自身が書いた本があったら、本人とその一番弟子さんの二人とも同じ本を持っていてもおかしくない。


 カーサイノ著の本を探してみると、思った通りあった。6冊も。さすが伝説の錬金術師自分で本を出していた。

 どれにしようかなとパラパラと中を眺めてみると、マジックボックスについて書かれた本があった。

「これ、これ。これで勉強したら、俺にもマジックボックスが作れるようになるかもしれないんだ」


 スキルがないからなのか、書いてある文字は分るのに理解ができない。読んでいるはずなのに頭の中に入ってこなくて、何が何だかさっぱり分からなかった。

 こうなってくると文字を読めるとはいえない。ギフト全人語が働いているはずなのに、ダメなのだ。


 スキルがないというのはこういうことなのか。


 水魔法のスキルがないと水魔法が使えない。薬師スキルがないと調薬できない。

「なるほど…」


 スキルがあるなしで人生が変わる。俺の召喚スキルは本当にチートだ。スキルでスキルを増やせることは絶対に隠しておかなくては。


「あ、そだ。昨日と今日修得したスキル、まだ隠してなかった」


 ステータスカードで【鋳造】【付与】【商人】を隠しておく。風魔法は使えば一発でバレるだろうから残しておくことにする。


「と、なると…他の魔法を修得するのに躊躇するな」

 魔法を3種類も4種類も使えるというのは目立ちすぎる気がした。目立つことで危険が迫るのは回避したい。


「火はライターに似た魔道具もあるし…ライトは明かりの魔道具があるし…ケガを治すのはポーションでいい」

 うん。水と風以外の魔法はしばらく様子見で修得しないことにしよう。


 薬師と錬金術の両方っていうのはまずいかな。でも、欲しいんだよな錬金術。というか、錬金術を修得しないなら、付与と鋳造スキルの使いどころも減る気がする。


※錬金術は集大成のスキルといっても過言ではないほど特別です。

薬師、鋳造、付与、対物鑑定、動植物鑑定、鉱物探査、少なくともこれらのスキルを使いこなすことができなければ錬金術師として大成できないでしょう。


「…えーと、つまり。俺が錬金術師の卵だとしたら、薬師、鋳造、付与、鑑定をすでに持っていても異常ではないと思ってもらえる?」


※錬金術のスキルを得る者は希少な存在です。平民であっても国の支援を受け、教育機関へ進むことが可能です。


 国が支援する。つまりは囲い込まれるのと同じかな。

「あれこれ作ってみたいし、錬金術って楽しそうなんだけど…どうしよう」


※希少な存在とはいえ、毎年十数人ほどがスキルの儀で錬金術師としてスキルを開花させていますし使役対策というのでしたらむしろ、誰の制約も受け付けないほど力をつける方が建設的と判断します。


 面と向かってケンカを売る気はないけど…力をつけて服従させられないようにしてしまうのも防御になるよね。


※薬師スキルと魔法の素養両方を持つ者は珍しくないですし、付与スキルと鍛造の組み合わせでも同じでしょう。ですがどのスキルも持っているだけでは十全の力が出せません。ある程度の経験を積み成長するまでは長く同じ場所にとどまらないように気を付け、スキルを偽ることを推奨します。


「そうか。分かった。基本は魔法も使える薬師の卵でいこう。自分で作った錬金アイテムや付与アイテムは商品にしないようにして、やむを得ず売るときは自分で作ったとは言わない。たとえ嘘をついてでも、錬金スキルのことはバレないようにしよう」

 そうすれば、危険も下がるはず。だよな。多分…


 あれこれ考えていたらもやもやしてきた。風呂に入って気持ちを切り替えることにした。


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