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三人集まれば話すことは自ずと決まる【中編】

「ふむ。お二人は洋服を見ていたのですね」

「は、はい。わたしだけでは選べないので、志乃さんに手伝ってもらいながら……みたいな」

「えっと……星那さんもお買い物ですか?」

「いえ、私は仕事の都合で少し足を運んでいたところです。その用事ももう終わりましたが」


 志乃さんの質問に、星那さんは淡々と答える。


 スーツがあまりに似合い過ぎている、スタイル抜群の超絶美人。

 絵に描いたようなクール系で、大人の雰囲気で溢れている。


 まさか、こんなところでこの人に遭遇するなんて……素直に驚いた。


 星那先輩が今年卒業したことで顔を合わせることが少なくなった分、星那さんとも会う機会は減っていた。


 とは言っても志乃さん含め、もともと私たちは星那さんと交流が多かったわけではないけど……。


 それでも、久しぶりだということには変わりなかった。


「なにか良い服は見つかりましたか?」

「それはこれからなので……まだ……」

「そうですか。お二人とも可愛らしいので、似合う服もたくさんありそうですね」

「あ、ありがとうございます……! 星那さんのような綺麗な人にそう言ってもらえると、少し恥ずかしいですね……」

「おや。お上手ですね、志乃様」


 柔軟な対応をしている後輩の隣で、わたしは情けなく無言になっていた。


 相手が年上、それも社会人となると、わたしのパッシブスキル『コミュ障』がフル稼働する。


 喋るとしても『あっ』とか『えっ』とか、なにかしら言葉の前に付いてしまうわけで……。


 これ、とんでもないデバフだから誰かなんとかしてほしい。たすけて。


 とはいえ今の状況に関しては、全然知らない相手じゃないからまだマシな方だ。


「……」

「……」

「……」


 会話が途切れ、無言の時間が流れる。


 わたしよりはコミュニケーションが上手だけど、志乃さん自身も人見知り寄りの性格なのは知っている。


 それに、タイプ的に星那さんも口数が多いほうじゃないだろうし……。


 《《こう》》なってしまうのも必然的だと言える。


 こういうとき、晴香や青葉みたいな人がいれば話題に困ることがないのだろう。


 ――陰キャ、ここに極まれり。


 ……えっと、実際どうしよう。


「お二人が一緒だったので、『彼』も一緒なのでは……と少しだけ思いましたが……」


 沈黙を破ったのは星那さんだった。

 

 呟かれたような声だったけど……言葉自体はハッキリと聞こえた。


 今の言葉の《《意味》》って――


「え……?」


 志乃さんも同じことを思っていたのか、小さく声を漏らしていた。

 

 ……わたしの勘違いじゃなければ『彼』ってあいつのことだよね?


「いえ、なんでもございません。……では、私はこれで。あまりお二人の邪魔をするわけにはいきませんから。失礼します」

「あ、あの――!」


 こちらに背を向けようとした星那さんを呼び止めたのは、志乃さんだった。


 あと少し遅ければ、わたしも反射的に声を出してしまっていたと思う。


 開きかけた口を閉じ、わたしは志乃さんの言葉を待った。


 呼び止めた理由は――分かる。


「なにか?」

「あっ……その……」


 志乃さんがわたしをチラッと見る。


 多分、わたしを無視して勝手なことをしちゃった……とか思ってるんだろうけど……。


 ――大丈夫だよ、志乃さん。


 そう答えるように頷くと、志乃さんは安心したように息をついて再び星那さんへと目を向けた。


「……星那さんよければ、なんですけど」

「なんでしょう」

「私たちと一緒に……どうですか?」

「……私も、ですか?」

「はい。私……知りたくて」

「知りたい……?」


 『知りたくて』。


 やっぱり、わたしたちが思っていることは同じだった。


 先ほどの星那さんの呟き――


 言葉だけを聞けば、別になにもおかしな発言じゃない。


 でも、言葉以上の『特別な意味』を感じてしまった。


 あいつ……青葉と星那さんが話す姿を見たことは何度もある。


 去年はなにも思わなかったのに、最近はなんだか……二人の間に不思議な距離感があるように見えてしまうのだ。


 上手く言葉にできない――なにか特別な距離感。


 だからこそ。

 言葉にできないからこそ。


 わたしも、知りたいと思っていた。


 ほかでもない……『好きな人(青葉)』に関わることだから。


 恋というのは、本当に厄介な感情だ。


 あいつに関わるものを……知りたいと思ってしまうから。


 本当に……厄介だ。


「私がいても、お二人の邪魔になってしまうのでは?」

「そんなことありません。もちろん都合がよければ……ですけど。さすがに無理に誘うことはできませんし……お忙しいのも分かっていますから」

「留衣様はよろしいのですか? 私が一緒にいても」


 星那さんの視線がこちらへと向く。

 わたしは悩むことなく、すぐに頷いた。


「はい。むしろ……わたしも志乃さんと同じ気持ちです」


 基本的に星那先輩絡みじゃないと、星那さんと接する機会はない。


 だから、こうして話せること自体が貴重だったりする。


 次にいつ会えるか分からない以上、機会を逃したくはない。


 それに、わたし自身星那さんとはいろいろ話したいことがあったから。


 だって……ゲーム関係に超詳しいから。

 気にならないわけないって話。うん。


「……なるほど」


 わたしと志乃さんのお誘い、星那さんは顎に手を添えて考え込む。

 

 星那先輩もそうだけど、行動のひとつひとつがどれも本当に絵になる人たちだ。


 見た目といい、能力といい、なんかもう……ゲームキャラとして存在しててもおかしくないスペックの持ち主だよね。


「それに、私個人も星那さんに聞きたいことがあって……」

「……わたしもです」

「そうなのですね。《《聞きたいこと》》……ですか」


 相手がわたしたちである以上、その『聞きたいこと』の内容はある程度予想できるだろう。


 そのうえで、どうするのか……。


「――私としても《《ちょうどいい》》かもしれませんね」


 ……ん?


 星那さんはそう言ったあと、顔を上げて頷いた。


「かしこまりました。そこまでお誘いいただけるのなら、私もご一緒させてください。仕事の用事も終わりましたからね」

「やった……! 本当にいいんですか?」

「はい。いい機会なので、若いお二人からエネルギーを頂戴することにします」

「わ、若いエネルギーって……」


 苦笑いする志乃さんの隣で、わたしはふと思った。


 実際のところ、星那さんっていくつくらいなんだろう?


 三十代にはまったく見えないけど、立派な社会人だし……。

 かと言って、あまり年の差があるようには感じないし……。


 ……いろいろ謎すぎる、この人。


「あ、じゃあせっかくなので星那さん。私たちの洋服選びを手伝ってください!」


 パンッと両手を合わせて、志乃さんは言った。


 ……あ、星那さんとの遭遇がインパクト強すぎて洋服のこと忘れてた。


「洋服ですか? ファッション関係は専門外ではございますが……私にできる範囲であればお手伝いしましょう」


 そういえば、星那さんの私服姿を一度も見たことがない。

 会うときはいつもスーツだし……。


 去年の夏、水着姿を見たことがあるくらい……?


「ありがとうございます! 早速なんですけど……留衣さんに似合いそうな服ってなんだと思います?」

「……あ、え、わ、わたし? 志乃さんじゃなくて……?」


 話の矛先が突然こっちに向いたせいで、反応が遅れてしまった。

 

「ふふ、もちろんまずは留衣さんの服です!」

「留衣様は……そうですね、ひとまず露出の多い服を選んでみましょう」

「え」


 今、なんて――?


「それこそ……あそこに飾られている服はいかがですか? お似合いかと思いますよ」


 星那さんが淡々と話しながら、店内に飾られているマネキンへと目を向けた。

 そのマネキンの着用している服を見た瞬間、わたしは思わず目を見開いた。


「わ、わっ……留衣さん大胆っ……!」

「ちょ、ちょっと待ってください……! わたし着ませんからね……!? 志乃さんも変なこと言わないで……!」


 薄手のシャツに、大胆に開かれた胸元。

 スカートの丈は膝上で、なんとも『今時』っぽいデザイン。


 たしかに晴香や月ノ瀬さんが着たら、すごく似合うと思う。


 でもわたしのように貧相な身体の陰キャが着るとか――


 着るとか……。


 むりむりむりむりむり。


「おや、それは残念です」

「ふふ、本当に残念ですねっ」

「では……代わりに志乃様に着ていただきましょう。我ながらナイスアイディアでございます」

「賛成です」


 星那さんの提案にわたしはすぐに乗っかった。


「えぇ私……!? さ、さすがに無理ですよ! 似合いませんし、恥ずかしいです……!」

「わぁ、志乃さん大胆」

「留衣さん……!?」


 ふふ、さっきの仕返し。


「それは残念です」

「残念です」

「お二人とも楽しんでません……!?」

「では、真面目に探すとしましょう。まずは留衣様に似合いそうな服を――」


 何事もなかったかのように話を切り上げ、星那さんはそのままスタスタと店内へと入って行った。


 そして、ひとつひとつ女性用の服をジッと見つめ始める。


「ねぇ留衣さん、やっぱり星那さんって……」


 星那さんのそんな姿を見て、志乃さんはわたしに声をかける。


「……うん。表情の変化が無さすぎるから全然感情が読めないけど……」


 これまでの経験から、薄っすら思っていたけど……。

 やっぱり星那さんは――


「絶対、面白い人だと思う」

「……ですよね」


 星那先輩も面白い人だったけど、やっぱり血が繋がっているだけある。


「留衣様、見てください。こんな薄い布を纏うだけなんて……最近の若い女性たちはすごいですね。……あそこに試着室があるのでぜひ――」

「着ません。絶対着ません」

「………………残念です」


 ……表情と言動の差がとんでもない。


「あとそれ、多分そのまま着るやつじゃないと思いますよ。上着とかに羽織るのかと……」

「…………なるほど。留衣様はお詳しいのですね」

「いや、この場合はどちらかと言えば星那さんが……」

「ではこれも志乃様用ということで……」

「星那さん……!? また私ですか……!? あの……私も一緒に見ますから!」

「あ、司様にはご内密でお願いいたします。バレてしまったら、明日の太陽を見られないかもしれませんから」


 ――ここまで一切、星那さんの表情は変わっていないわけで。


 二人のやり取りを見ながら、わたしはふっと息を吐いた。


「というか星那さん、あの……どうしてそんな露出のある服を推してくるんですか……?」

「『とりあえず露出の多い服を着るといい。そうすれば周りの目を惹きつけられて優越感に浸れる。ふっ、美貌とは罪なものだな椿』……と、沙夜様が以前仰っていましたので」

「い、言ってそうで困ります……。それに真似もすごく上手ですね。ビックリしちゃいました」

「ありがとうございます」


 どうしよう。

 

 ちょっと不安になってきた。

 

 服的な意味で。


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