表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
486/491

三人集まれば話すことは自ずと決まる【前編】

「……ふむ、そうなのですね。相変わらず昴様は校内で目立っているようで……」

「悪い意味で、ですけど」

「あはは……。この間、一年生の子にも聞かれました。『なんであの先輩って変なことばかりしてるんですか?』――って」

「あ、それわたしも聞かれた。晴香と一緒にいるときに」

「中学の頃から経験しているので慣れてはいますが……。一度転校したから、余計に目立っているのかもしれませんね」

「かもね。……ほんとに呆れる」

「た、たしかにほどほどにしてほしい気持ちはあるかも……」


「ですが――そんな彼だからこそ、お二人は心の底から好きになったのでしょう?」


「え」

「えっ」


 日曜日の夕方。


 駅周辺に位置する、大型ショッピングセンター内にある喫茶店にて。


 目の前に座る美人――星那椿さんが、わたしと志乃さんをジッと見つめて言い放った。


 決して冗談を言っているように見えず、声音は真剣そのもので。


 突然の問いかけにわたしたちは同時に固まり、すぐに答えることはできなかった。


 コーヒーの香りが、わたしを逃がすまいと鼻孔をくすぐる。


 ――そもそもの話。


 なぜわたし、志乃さん、星那さんという『珍しい三人』で喫茶店にいるのかというと……。


 時間は少し遡る。


 × × ×


「あっ、見てください! このスカート、絶対留衣さんに似合いますよ! かわいい……!」

「ス、スカート……」

「落ち着いた色合いとか、特に似合うと思いますよ?」


 『The・若者らしいスカート』を手に彼女――朝陽志乃さんがにこりと笑う。


 日曜日の昼下がり。


 わたし、渚留衣は志乃さんに誘われて二人でショッピングモールに遊びに来ていた。


 志乃さんとの付き合いも、あっという間に一年を越えて……。


 去年起きたさまざまな出来事を経て、今ではこうして休みの日に一緒に遊ぶまでの仲になっている。


 呼び方も『渚先輩』から『留衣さん』へと変わっていて、正直まだちょっと慣れない。


 わたしのような陰キャが、天使みたいな年下の女の子と、こんなにも仲良くなれるなんて……。


 ほんと、人生というのはなにがあるのか分からないものだ。


 数年前の自分に言っても、絶対に信じないだろう。


 当時のわたしには、晴香以外に仲の良い友達なんていなかったわけで。


「留衣先輩、あまりスカート好きじゃないんでしたっけ……?」


 現在、わたしたちがいるのはショッピングセンター二階のアパレルショップ。

 

 ここは去年の七夕頃に、青葉と生徒会長さ……じゃない、星那先輩と一緒に来たところでもある。


 あのときは朝陽君たちのデートを覗き見てたんだっけ。


 あれももう、去年の出来事なんだ……懐かしい。


「好きじゃないというか……露出苦手だし、そもそもわたしにはスカートは似合わないっていうか……」


 志乃さんが持っている膝丈程度のスカートを見ながら、わたしは首を振った。


 たしかに可愛いし、デザインは好きだけど……。


 そもそも、スカートなんて制服以外で着ることはほぼ無い。


 晴香や志乃さんは履いていることが多いし、可愛いからすごく似合っている。


 わたしは……そもそもこんなだし……うん。とても似合いそうにない。


「そんなことありませんよ……! 絶対留衣さんに似合います!」

「し、志乃さん……?」


 わたしの答えに対して声を張り上げ、志乃さんはずいっと距離を縮めてきた。


「いいですか? 留衣さんって自分が思ってるよりずっと可愛らしいんですよ? 見た目だけではなく、内面的な意味でも」

「あ、えっ……」


 突然の攻撃に、わたしは思わず動揺状態に陥る。


「だから、似合わないなんて言わないでください。もちろん、それぞれ好みがあるので無理強いはしませんけど……」

「えっと……」

「分かりましたか?」

「わ、わかりました……」


 圧に負け、わたしは情けなく頷く。


 「留衣さんはもう少し自覚を……」と、志乃さんはため息混じりに言いながらスカートを棚の上に戻した。


 ……すぐタジタジになる自分が恥ずかしい。


 いつも正直で堂々としている川咲さんや晴香が、こういうとき尚更羨ましく思う。


「それに──」

「ん……?」


 志乃さんはわたしを見て、にこっと笑う。

 

 笑ってはいるけれど、その瞳の奥には別の思惑があるように──


「昴さんもきっと、いろいろな留衣さんを見られて嬉しいと思いますよ? 服装ひとつ、髪型ひとつ違うだけで、印象ってすごく変わりますから」

「……」


 ふいっと、わたしは視線を落としてしまった。


「……そこであいつの名前を出すのはずるくない?」

「ふふっ」

「……もう」


 いたずらっぽく笑う志乃さんに釣られて、わたしも笑みがこぼれた。


 服装ひとつ、髪型ひとつ──か。


 去年のわたしの誕生日、髪型を変えたわたしを見てすごく驚いていた青葉を思い出す。


 あいつ、最初はわたしだって全然気が付かなかったよね。別人だと思ってたくらいだし。


 それに……現在の志乃さんの姿を見て思う。


 去年までの志乃さんと言えば、長くて艶やかなロングヘアーが印象的だった。


 でも今は、その髪を肩までバッサリと切っている。


 それはきっと、前に進むための決意。

 それはきっと、一歩踏み出すための勇気。

 それはきっと、再び『あいつ』と出会うための覚悟。


 あいつがいない苦しさを受け入れられず、『停滞』を選んでしまったわたしとは違う。


 本当に……本当に立派だと思う。


 だからこそわたしも……負けていられない。


 ──負けたくない。


 それに、わたし自身を否定するということは、わたしを支えてくれたみんなも否定することになる。


 わたしと『友達』だと言ってくれたあいつを否定することになる。


 それだけは……絶対に嫌だ。


 シャキッとしろ、わたし。


「わたしは……洋服のこととか全然詳しくないから……」

「……?」


 ポツリと呟かれたわたしの言葉に、志乃さんが首をかしげる。


 洋服の組み合わせとか、印象とか、ブランドとか……ゲーム以外のことになると全然分からない。


 普段着ているワンピースだって、なんとなく『着やすそう』という意味で買っているものばかりで、こだわりもない。


「だから――」


 服をキュッとつまみ、わたしは絞り出すように言葉を伝える。


「ふ、服を選ぶの……手伝ってもらっても……いい?」


 オシャレは苦手なだけであって、嫌いなわけではない。

 ゲームほど関心が向かないだけで、興味がないわけではない。


 わたしだって一応女子なのだから……その、一定以上は興味ある。


 可愛い服とか、かっこいい服とか……着てみたいなって思うときは……ちょっとだけある。


 わたしの言葉に志乃さんはパチパチと瞬きをしたあと――


「はい……! もちろんですよ! むしろ、お手伝いさせてください!」


 パァっと表情を明るくさせ、嬉しそうに頷いた。


 なにこのエンジェルスマイル。可愛い。浄化されそう。


「蓮見先輩や日向みたいに流行に詳しいわけじゃないですけど、私なりに留衣さんに似合う服を選んでみせます!」

「うん、よろしくね志乃さん。……あ、志乃先生って呼んだほうがいい?」

「せ、先生って……。それはちょっと恥ずかしいですよ……」

「それじゃ、改めて先生にオシャレってものを教えてもらおうかな」

「る、留衣さん……! からかわないでください!」

「ふふふ」


 ……なんで志乃さんってこんなに可愛いんだろうか。


 晴香と同じ太陽タイプの可愛らしさだと思うけど、厳密にはちょっと違う気もする。


 晴香は母性的なもので……志乃さんは……庇護欲的な?


 立派で強い子だということは当然分かっているけど、思わず守ってあげたくなるし……。そういう可愛らしさなのかな。


 とりあえず言えることは、間違いなく志乃さんは正ヒロインタイプの子だろう。


「あっ」


 店内をぐるりと見回したあと、志乃さんがなにかを思い出したように声をあげた。


「せっかくだから、私用の服も見ていいですか? 新しいの欲しいなぁって思ってて……」

「それはもちろん。むしろわたしの服はついででいいから、志乃さんの好きなように見て回ってほしいかな」

「ついで……? そんなこと言っていいんですか?」

「え?」


 志乃さんは人差し指を顎に添え、こてんと首をかしげた。


 あれ、わたし変なこと言った……?

 ついでって言い方が良くなかった……?


 少し不安な気持ちになっていると、志乃さんの口角が僅かに上がる。


「私――昴さんの好きな服装とか知ってますよ?」


 それはまるで──わたしを挑発するように。


 不敵に笑って放たれた言葉に、わたしは一瞬言葉に詰まってしまった。


「服装ひとつで印象が変わるって言いましたよね? 昴さんの好きな服を着て、会いに行ったら……もしかしたら私を好きになっちゃうかもしれませんよ?」

「そ、それは……」

「留衣さんはそれでもいいんですか?」

「……嫌だ」


 自分でも驚くくらい、その言葉はすっと私の口からこぼれた。


「そうですよね? それならついでなんて言わないで、一緒に見て回りましょ? 私の服も、留衣さんの服も」

「……うん。本当に志乃さんには敵わないな……」


 ちょっといたずらっぽく、それでいて寄り添うように……。


 年下とは思えない立ち回りっぷりに、わたしは素直に従うことしかできなかった。


「……ちなみになんだけど、青葉が好きな服っていうのは──」

「それは秘密ですっ。留衣さんには負けられませんから! 妹特権です!」

「ず、ずるいっ……。普段はあいつに妹扱いされたら怒ってるのに……!」

「うーん? そうでしたっけ?」

「青葉も言ってたけど……志乃さん、やっぱり小悪魔レベル上がったよね……?」

「ふふっ」


 ここ一年で、さまざまな出来事を乗り越えてきたからだろうか。


 純粋さはそのままで、以前より小悪魔系に進化を遂げているように感じる。


 でもそれは、志乃さんの心が強くなって余裕が生まれた証拠なんだと思う。


 可愛くて、優しくて、ちょっぴり小悪魔で……。


 ……チートヒロイン過ぎない?


「ほら、行きますよ留衣さん!」

「あっ、うん……!」


 軽やかに歩き出した志乃さんの後を慌てて追いかける。


 朝陽志乃さん。


 わたしと仲良くしてくれる素敵な女の子。

 

 そして――同じ男子に想いを寄せる者同士。


 友人であり、誰よりも手ごわいライバルでもあって……。


 それでも一緒に居て、心が安らぐ相手。


 志乃さんと出会えて本当に良かった。


 そのおかげで──わたしは自分の想いと向き合うことができたから。


「なんとなくでもいいんですけど、留衣さんは気になった服とかありますか?」

「うーん……」


 家の中ではジャージだし、外に出るときは大抵ワンピースだし……。


 気になった服……か。


 ……。


 あいつは、どんな服が好き――


「っ……」

「……留衣さん?」

「な、なんでもない」

「……ひょっとして昴さんのこと考えてました?」

「ノ、ノーコメントで」


 無意識に思い浮かんで顔を振り払う。


 あぁもう……。


 好きな人の好みを知りたいとか。

 好きな人が喜ぶ顔が見たいとか。


 まさかわたしが、こんなことを考えちゃうときがくるなんて――


 『恋』というのは……どこまでも不思議な感情だ。


 でも……。


 あたたかくて、嫌いじゃない。


 この際だから、あいつが驚くような服を選んでみるのも面白いかな。


 そう思い、店頭に飾られていた『おすすめコーデ』を改めて見ようとしたとき――


「――おや」


 冷静な声が、わたしたちの耳に届いた。

 聞き覚えのある女性の声だ。


 名前を呼ばれたわけではないのに、わたしと志乃さんは、その声に反応して声の主へと視線を向けた。


 そこに立っていたのは……。


「奇遇ですね。留衣様、志乃様」


 スーツをかっこよく着こなした美人。

 

 溢れ出る大人のオーラに、抜群のスタイル。


 感情が変わりづらい表情や瞳。


「「星那さん……?」」


 ──同時にその女性の名前を口にした。


「はい、星那でございます」


 星那椿さんがそこに立っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ