96学園祭当日4 演劇男装騎士は月夜に夢を見る2
96学園祭当日4 演劇男装騎士は月夜に夢を見る2
フエゴ視点
わかっちゃいたが、王国騎士団学校の入学式はむさ苦しい男子ばっかりだった。
王国騎士になるのが俺の目標とはいえ、多感な時期だ。同級生に女子の1人もいてほしいと思ってもバチは当たるまい。
そんな思いを心の中で呟いていると、
「男子ばかりだな……」
なんて呟く奴がいた。
おお、同志よ!やっぱりそうだよな、思春期の男子、そう思わなきゃおかしいよな?と嬉しくなってつい声を掛けてしまった。
「本当男ばっかりでこれから嫌になるな。」
俺の声に驚いて振り向いた男の顔を見て思わず心臓が跳ねた。
男?だよな?
そいつはどえらい綺麗な顔をしていた。
「これから3年間は女の子を見ることもない寂しい生活だな。俺はフエゴ、よろしくな。」
そんな俺の内心を悟られないよう笑顔を作り、慌てて手を出す。
握り返された手はほっそりとしていた。細い指先とは別に、剣タコだらけの手は今までしっかりと鍛錬を重ねてきた手だ。見た目で侮ってはいけない。
「タコだらけだなあ。お前結構やるだろ?勝負できるのを楽しみにしているよ。」
「負ける気は無い。」
そう返してきたシャルルの不適な笑みをみて、これは剣に自信があるな、とこれからの学校生活が楽しみになった。
実際、騎士団学校に入学してからの剣術の授業で俺達はいいライバルになった。
気付けばいつも2人で組み合う仲になっていた。
「いやあ、シャルルと試合うと勉強になるわ。さっき避けたのってなんでわかったんだ?」
「フエゴは上段からの振り下ろしが分かりやすい」
「え?どういうことだ?」
俺の後ろに回ったシャルルが俺の腕を取り、俺の振り下ろしのクセを教えてくれた。
「……お前さあ、そんなに手取り足取り教えなくても。」
「実際にやった方がわかりやすいだろ?」
「ちょっと密着しすぎ……くっつきすぎ……?いや、もう少し離れてもできるだろ」
「?いや、効率的に解説しているだけだが?」
「……………………わかった。俺が気にしすぎているだけだとわかった。」
「?」
「なんでもないから………………(はあ、女子がいないからかわかんねえけどこいついい匂いするんだよなあ)」
ここのところ俺は少しおかしい。
女子がいない状態だからか、シャルルのことを意識しすぎている。
別に男同士なんだから、あれくらい密着しても動揺しなくてもいいはずだ。
後ろから腕をとられても、体勢的に抱きしめられているような状態になっていても関係ないはずだ。
密着した時にフワッと良い匂いがするなんて、まるで女子みたいだと思ってしまう俺を殴りたい。
本人も線の細い体と中性的な美貌を気にしているのは知っているので俺がこんなことを考えてしまうのは友人に対して失礼だ。
ある日 ラファル視点
「あぁ〜!!ごめんなさい!!」
校舎内の廊下の曲がり角で生徒さんとぶつかってしまいました!
「なにこれ、スースーする。」
「ごめんなさい〜!人体には有害じゃないけど、冷たくなる薬物を持っていて、それが君に掛かったみたい〜」
「いや、みたいじゃなくかかってますが……くしゅん!!」
夏に体や服にかける涼しくなる薬品を生徒さんに掛けてしまいました。
冬じゃないとはいえ、風邪をひかれては困るので生徒さんには服を脱いでもらって体を拭いてもらうことになりました。僕は学校内に研究室を持っていて、そこから出た直後にぶつかったので、研究室まで近くて幸いでした。
ずっと謝り倒していたので気付きませんでしたが、とても綺麗な子でした。僕は魔術のことばかり考えてしまういわゆる研究バカ、というやつで人に興味を持つことがほとんどありません。でもこの子は外見も綺麗なのですが、魔力がなんかキラキラしています。
「本当にごめんねぇ〜。服が乾くまでおしゃべりしよ?」
本当は、薬品も揮発性ですぐに乾くし、濡れた髪の毛も直ぐに魔術で乾かしてあげられます。
でも、この子ともっと一緒にいたくて、そんなことは話しません。
幸い騎士団学校に入る子は魔術のことはあまり知らない子が多いので上手く誤魔化せました。
僕のことをたくさん聞いてくれました。
僕もたくさんこの子、シャルルのことを聞けました。
よりにもよってヴォルスナー家ですか。
あそこは武力一辺倒の脳筋の家。僕の対局ですね。幸いシャルル君は僕が魔術師団長ときいても、凄いですねーくらいの一般的な反応なのであの家に毒されていないようです。
なら、仲良くなっても構いませんよね?
またある日 王宮パーティー テール視点
くだらんパーティーにくだらん会話。
いつもつまらない場に出なければならない。
それは王族としての務め。俺に課せられた義務だ。
今日も、隣国のパーティーへの参加を義務付けられていた。
我が国は大国とはいえ、王族として外交はしっかり行うつもりだ。
何度も訪れているこの国の重要人物は頭に叩き込んでいる。わざわざ隣国まで赴いたのだ、しっかり役割を果たさねばと意気込み、主要な出席者に挨拶をし終わったあたりで会場の一部に軽い騒めきが起こった。
こういった場合、普段パーティーに出席しない主要人物が参加したり、望まれない参加者が参加したり、というようなことがあるため、俺は当然に騒めきの中心人物に注目した。
そこには、女神がいた。
かつて見たこともないような美貌の女性が、困惑の表情で男に囲まれていた。
どうして良いかわからない、という顔で。
社交界デビューを既に果たしているような年齢に見えるのに、あしらい方を知らないようだ。
即座に、俺が助けなければ。という謎の使命感に突き動かされその女性の元に向かった。
幸い、俺の立場をわかっている参加者ばかりだったので、彼女の元には真っ直ぐに辿り着くことができた。
「私と踊っていただけませんか。レディ?」
とりあえず男の群れから彼女を引き離さなければ、と思いダンスに誘うとアッサリと受けてくれた。
ホッとした表情をしていることから彼女の困惑具合を察することができた。
ダンスの途中、遅ればせながら自己紹介をしたものの、彼女からは名前も聞き出すことが出来なかった。
ただ、やはり社交界デビューもしておらず、こういう場でどう振る舞うべきか、なぜ男性に取り囲まれたのかもわかっていないことから彼女は平民なのか、と疑問が湧いた。
それにしてはしっかりとした淑女教育を受けていることは言動とダンスの巧みさからわかる。
この女性は何者なのか、興味が湧いた。
更に会話を続ければ、彼女の方からこの国の王女に挨拶に行きたいと明確な目標が聞けたことから、護衛任務だと察しがついた。
令嬢としてはあるまじき指先の硬さ、ダンス時に触れている部分から伝わる研ぎ澄まされた筋肉、目線の鋭さからもダンスが終わるまでには彼女が武芸を嗜んでいることは安易に読み取れた。
問題は、彼女が王女を狙う暗殺者側という線もあることだった。
そのため、監視の意味も込めて王女の元へ同行し、王女の態度から護衛側だと認識できた。そもそも、暗殺者側だったとしたら彼女は目立ちすぎていたし、俺への態度と言動からもその線はほとんどないと思っていたが念のための確認だった。
王女からは、彼女自体は問題ない人物だから貴方はサッサとどこかに行きなさい、と目配せされていたがその視線を無視して俺はその場に居座らせてもらった。
つまらなかった外交業務に初めて面白い出来事が起こったんだ。堪能させてもらって何が悪い?
暗殺者側サイド
「ええーい!忌々しい!なぜ隣国のテール王子が王女の近くにずっと佇んでいたのか!」
「あれではテール王子の護衛の目もあり事を起こすのは厳しいかと。」
「ふん!わかっておる。だから決行しなかったではないか。王女とテール王子は婚約という話が出ているのか?そういう話は聞いていなかったはずだがあんなにべったり張り付かれているならそういうことなのか?」
「………………!我々の元にはその情報は入っておりません!しばしお時間をいただけませんでしょうか?裏取りをいたします!」
「王女がテール王子に嫁ぐとなると、暗殺理由も無くなるな。我々にとっても好ましい。
…………ところで、あの場にいた王女の友人らしき女性は何者なのか知っているか?」
「いえ、会場入場後はテール王子とダンスをした後王女につきっきりで他に接触したものはいないようで、何者なのかと会場でも噂で持ちきりでしたが誰も知らないようです。」
「ふむ、王女とは知古の関係でこのパーティーに出席できる身分なのに出席していた貴族で知る者がいないか…王女の侍女か、辺境の者か…………」
「何か気になる点がおありで?」
「いや、ワシの妾にでもしてやろうかと。」
「…………………………御大、お歳をお考えください。」




