学園祭当日2
95学園祭当日2
魔法演技のあと、皆と別れ馬術部に向かう。
と思っていたのだが、フエゴとテールは特に見たい出し物が他にないとのことで俺に着いてきた。
ラファルは複数のお姉様方から自分達の展示を見に来て欲しいと言われているそうだ。あいつは可愛い顔して1番リア充な気がする。
同じ攻略対象者というくくりのはずなのに、俺そういうの体験したことないんだけど。自分で言うのもなんだが、結構イケメンに生まれ落ちたと思うんだけど、モテモテキャーキャー的なのないのだけれど。
まあ、ベアトリスっていう超絶可愛い婚約者がいる時点で勝ち組だからいいんだけどさ。もっとイケメンてモテるんじゃないの?と思わなくもない。婚約者がいる時点で貴族社会の中ではそういうのないのかもしれないけれど、ラファルもなんならテールもモテているっぽいのにこの差はなんなんだろう。ちなみにフエゴは男にモテているようなので、あいつの方が悲惨だと自分を慰めることにする。
馬術部の出し物は、基本的に馬に乗ったことがない初心者に馬と触れ合ってもらおう、という目的の乗馬体験と、馬の格好良さを知って貰おうぜ!という目的の流鏑馬的な的当て見学の2種類になっている。
俺達が到着した時は和やかな乗馬体験タイムだったのだが、俺を見つけたペドロ先輩がニカリと笑い、強制的に馬上試合タイムに突入した。
「……俺の仕事は流鏑馬の的交換だけだったはずですよ?今日は馬上試合はスケジュールに入っていないはずですが。」
と、事前に言われていた役を口にして軽く抵抗したが、
「流鏑馬なんかお前がいなくてもいつでもできるだろ?」
と返され、そのやる気満々な様子に即刻諦めた。
「午後に演劇にでるので怪我はドレスの中まででお願いします。」
とお願いする。
顔とか腕とかにくらうと青痣になるし、ドレスから見えるところだときついからなあ。シャインヒールで治るとは思うが、折れたりすると完全に治らないからなあ。演劇に支障がでたら皆に迷惑をかけてしまうだろう。
ぷはっと笑いながらやる気満々のペドロ先輩が馬に飛び乗る。
「本気でやりあうのは今度にしておいてやる。
今日は演舞だけだ。」
いや、本気でやるつもりはサラサラないんだが。
正直、地上では俺の方が強いと思うが、馬上の戦いとなるとペドロ先輩に勝てる気が全くしない。
馬上での戦力差が埋められるまでペドロ先輩にはこの学園にいてほしいが、彼はもうすぐ卒業するのだ。
では、模擬試合として、直ぐに決着をつけない方が観客に馬上試合をアピールできる今のこの機会はまたとないチャンスではないだろうか?
ペドロ先輩は、すぐに決着がつかないよう、わざと手を抜くだろう。かといって、俺にわざと負けるということはしないはず。試合が長引けば、俺とペドロ先輩の差を見極めることができるかもしれない。いつもあまりにも一瞬で負けてしまうので敗因分析が出来ていないのだ。
「シャルル、顔が強張っているけど演劇の前に馬上試合なんかして大丈夫?」
テールから疑問の声がかかり正気を取り戻す。少し俺もペドロ先輩に当てられて興奮状態になっていたようだ。
「大丈夫だ。先輩も手加減してくれるはずだし。ペドロ先輩、よろしくお願いします。」
俺は騎乗し、ペドロ先輩と馬上で向き合う。
乗馬部に参加してから幾度となく馬上試合を挑み、一度として勝てなかった。
というか勝てるはずが無いのだ。
彼は生まれた時から馬と育ってきた。
たまにしか馬に乗らず、乗る馬も固定してこなかった俺と同じではない。
いつからペドロ先輩とコンビを組んでいるかは知らないが、ペドロ先輩と愛馬とは並々ならぬ信頼関係を築けているのは最初からわかっていた。ペドロ先輩が指示している様子がないのに、最適な方向、スピードを見極めて馬が自分の意志で動いているように見える。馬に乗っているというより、体の一部のように見えるくらいに動きがスムーズなのだ。
俺がペドロ先輩に勝てるとすると騎馬スキルの差を超えるだけ、剣術スキルが上げられている場合のみだろう。まあ、ゲームではなく現実にはスキルという概念は無いんだけれど。そして、剣では勝てても馬上戦では槍で戦うんだけれど。
つまり、俺が勝つ可能性は限りなくゼロに近い。
順当に、それはもう順当に。
ペドロ先輩が勝つ形で馬上試合は終わった。
お願いしていた通り、ドレスで隠れない場所に傷がつかないよう胴体を狙った一撃で。
「おいおい、だいぶ不服そうだな?」
「もう少し粘れると思っていたんですがね。」
俺の思惑に反して、観客に見せるためにペドロ先輩が試合を長引かせることはなく、最初の一合で試合は終わった。
お願いした通り、手足や顔に傷はつかなかったが、恐らく肋骨が折れていた。
打ち合ったと思った瞬間に俺の槍は弾かれ、そのまま胴体にペドロ先輩の槍が到達した。
本当の槍の穂先ではなく、槍の棒の先を布袋で包んだ形にしているものの、馬のスピードが乗った棒が胴体に入るというのはかなりの衝撃だ。
痛みと衝撃で落馬し掛かったが何とか耐えてシャインヒールで怪我を治療した。魔法便利。
とはいえ、1発でやられたのはかなり不服だ。
「なんか長引かせたらダメな気がしてな。」
とヘラリと笑う先輩。
「シャルルからの殺気が尋常じゃなかったからつい本気になっちまった。」
いや、殺す気はなかったから殺気なんて出してないはずなんだけど。
気合が入りすぎていたのかもしれない。
「先輩、卒業までに一本取らせてもらいます。」
「楽しみにしている。」
あーくそ、勝てる気がしない。
結局流鏑馬の的交換、という誰でもできる仕事は特にやらなくて良いと言われて皆に謝りながら馬術部を去った。さっきの試合の感想を部員や観客から、カッコよかったです、と言われたけれど、負けたのにそう言われるのは余りにも情けなかった。
その後フエゴとテールと昼食のため、教室で出店している喫茶店のような店に入った。先程の試合について、フエゴに励まされ、テールに揶揄われ、もやもやした気持ちが抜けない。実力差が分かってはいるが、やはり負けるのは悔しい。
ずっと撫然とした表情を浮かべているだろう俺に呆れてテールが、
「負けず嫌いも程々にして、午後の劇に気持ち切り替えたら?」
なんて言うものだからこれからのことを考えて更にテンションが下がる。
いや、もう、完全に今更なんだが、本当に今更なんだが一国の第一王子が女装するって何?
話を受けてから今日まで学生時代の笑い話、みたいな感覚だったけれど、今日登校してみて、学園祭の参加者に大人が多くて現実に引き戻された。
うちの国だけでなく、アカサンドリアの大人もくるし、学園の保護者ならもれなく貴族だし、サファリアの後継ぎやべえんじゃないの?みたいになったら、国際問題になったりしないかな。
学生時代のことだと皆笑って多目に見てほしいけど、事前に父上(サファリア国王)とか、宰相(未来の義父)とかに相談してから引き受けるべき案件だったのでは?
「シャルル様?だいぶお顔色がお悪いようですが。」
フエゴに心配されて少し冷静なふりをする。
「いや、そういえば今回の劇について父上に相談もしなかったのは不味かったかと思ってな。」
「大丈夫ですよ、ベアトリス様からお父上の宰相ベルナール様に伝わっていますし、そこから主要な方々にご連絡がいっていると聞いています。本日も多数の重鎮の方々がお越しになっているそうですよ。」
え?
聞いてないけど?
「ぷはっ。面白い顔になってるよ?全然知らなかったの?うちからもいっぱい重鎮きてるみたいだから張り切って演じてねー。」
面白くて仕方ない、という感じのテールの発言に俺は益々顔を青白くさせるのだった。




