学園一年生51 学園祭準備2
92学園一年生51 学園祭準備2
「できましたわ!」
目の下に隈を作ったベアトリスが俺たちの前に脚本と思われる冊子を置いて高らかに宣言した。
劇の時間は制限時間1時間の筈なのに明らかにそれを越えそうな厚みがある。
「あのーベアトリス様ー?この台本、制限時間内に収まりますかー?」
流石ラファル。
誰もこの憔悴した様子のベアトリスの気持ちを汲んで言えないことを言ってのける。
「大丈夫よ、中身を見て貰えばわかるけれど、通常の台本に加えて心理描写や演技のポイントも記載したから分厚くなってしまったの。」
そう言いながらも半目でうつらうつらと眠たそうにしているのを見て心配になる。
「ベアトリス、また睡眠を削ってしまったのだろう?俺たちで台本を確認するから君はもう寝たほうが良い。」
「お言葉に甘えて戻らせてもらいますわ。気になる点があればおっしゃってくださいませ。」
ベアトリスにしては珍しくあっさり引き下がってくれた。本当に限界だったのだろう。
寮まで送って行こうと思ったが、学舎前の馬車寄せでベアトリスの希望通り見送り、食堂に戻った。
食堂に戻ると3人はベアトリスから渡された台本を読み込んでいた。俺も自分の台本に目を通し愕然とした。
「こ……これは…………」
********
風呂場にて。
いつものテールとフエゴ、俺は意気消沈していた。
「……なんか、想像していたより……」
「……………………5割増しでキツい。」
小説を読んだ限りでは、主人公の男装令嬢が騎士として成長する過程が描れる、いわば騎士としてのサクセスストーリーが主軸だった筈なのだ。
今日ベアトリスから渡された台本では、騎士としての話より、恋愛模様を主軸に置いており、俺と3人との絡みが多い話となっていた。
劇に与えられた時間内に収めるため、ストーリーの大半を削らなければいけないことは理解しているが、削る部分を間違えていないか!?と突っ込みたい。
それでいて、うまく時間内に収めるような場面の削り方、ストーリーを感じさせる台詞回しを残しているため秀逸な出来になっていた。
「いや、でもこれは恋愛要素に偏りすぎだろう!?」
俺が突っ込むのもご容赦いただきたい。
劇のストーリーの大半が恋愛要素なのだ。
しかも劇で演じるのは実質男同士なんだぞ!?
「いやー、シャルルが引くのもわかるけど、恋愛ものは見ている方からすると受けがいいからねー。」
「とは言いますが、皆このヒロインがシャルル様だとわかってみるわけですし、男性同士になりますよ?」
「うーん、それがより受けると思うんだけど。」
「なるほど、コメディとして、ということですね。」
「えっ……あーうーん、そうかもね?」
テールとフエゴのやり取りを聞いて納得した。
前世でも学園祭で女装カフェなんかでムキムキなのに化粧の濃い女装をした化け物みたいな奴らがいて笑いを取っていた。ウケ狙い、というやつだ。
「それならフエゴと俺が役かわった方が良くないか?」
明らかにムキムキなフエゴの女装の方が笑いが取れると思うんだが。
「嫌です。」
「そういうんじゃないから。」
2人同時に却下が入る。
解せぬ。
**********
「ベアトリス様、素敵な脚本ですわ。」
翌日、5名ほどのご令嬢と共にベアトリスはお茶会を開いていた。
流石のベアトリスといえども、1人で脚本を書くことは出来なかった。
もっと時間があれば1人でじっくり仕上げたかったのだが、学園祭までの短期間で、芝居をしてくれる役者の皆のことを考えると時間をかける訳にはいかない。
主軸のストーリーの脚本は自分で担いつつも、外せないシーンのセリフの書き出しに始まり、その心情描写についてもご令嬢方に相談しながら書き進めていったのだ。
最後に皆で読み進めながら確認し、台本に纏めたのも彼女たちの協力があってこそ。
ただ、皆の「推し」が違うことから、どのシーンを削るべきかについて、想定外の時間を要してしまったため、皆寝不足になってしまったのだが。
「ああ、このテール様とのシーン削ってしまわれたのですか」
「それをいうならフエゴさまとのこのシーンこそ至高だったのに」
「いえ、ラファル様とのこのシーンこそ切ってもきれないものだったのに!」
もう、劇の上での役どころではなく、現実の名前を上げてしまっていることに突っ込みを入れることもなく、達観した様子で見守るベアトリス。
ベアトリスからすると、どのお相手とも素敵な妄想が出来る。それぞれの実際の人物もよく知っているため、掛け合わせることは造作もないことだ。
もちろんベアトリスは現実のシャルルのことを知っていて、彼に対して恋情と愛情を持っているし、彼が男性に対し友情しか持っていないことも知っている。
ただ、それとこれとは別のことなのだ。
妄想上では彼はベアトリス以外の男性と愛し合っているし、嫉妬の対象ではない。
そしてそれを好む女生徒達の気持ちも理解し、今回の劇の上で存分に皆の妄想力を発揮してもらいたいと考えている。
ベアトリスは元々引きこもりだったので王太子妃として社交が足りていないと理解している。
他の貴族令嬢や子息との交流を学生時代になんとか増やしたいと思っている。
この劇はまたとない機会なのだ。
それは、ベアトリス自身のことでもあるが、同時に未来の夫であるシャルルも同様だとベアトリスは懸念している。
シャルルが学園でカリスマとなってしまっていることは良いことでもあるが、敬遠されすぎていることを重々理解しているからだ。
これを機にシャルルに直接関わる人材を増やし、その仲介をすることにより自身の存在感を高める。
そして、女装という普段とは違うシャルルを見せることにより、彼と生徒との距離を縮めることに注力する。
ベアトリスが自身に課したミッションは着々と進みつつあった。
はずであった。
確かに、「劇」を成功させるためにそれに協力する人材は跡を立たず、脚本の制作を含め、舞台制作、衣装制作、照明、音響と協力者は多数手を挙げてくれた。もちろん端役の役者も滞りなく立候補者が現れた。
なのに皆シャルルとは距離を置いて接していたのだ。
(困りましたわね…………)
ベアトリスは悩んでいた。
シャルルがそのカリスマ性というか、キラキラ性のせいで一般生徒から距離を置かれていることはわかっていたものの、一つの劇を作り上げる中である程度は解消されると思っていた。
衣装係りの面々は衣装の合わせ等では臆せず飛び込んでいたので、それを見てなんとかなると踏んでいたのだが、衣装係りでさえ、素にもどると
「なんであんなことを言ってしまったのか……」
と怯える始末。
シャルルのお着替え中はナチュラルハイになってしまっていたのは傍目から見てもわかったものの、終わった後の夢から覚めて現実を見出す彼女達の青褪めた顔を見て、なんともならないかもしれないと諦めそうになった。
私も見慣れれば最初よりだいぶ耐性ができたから、貴方たちも臆せずにシャルル様を直視して、とスタッフ皆を鼓舞し、気付けばスタッフ皆の団結力は上がっていった。
こんな舞台設備じゃシャルル様には釣り合わないと言って舞台設備がやたら豪華になったり、音楽が当初簡素なものが変に効果音にこだわったり、照明がムーディーになったりと、熱血した彼等のお陰で劇の裏方がやたら盛り上がり、この学園祭までの間にベアトリスと彼等の間には単なる学園祭のチームというより、1つの芸術作品にチームで挑戦する者たちの熱い絆が生まれたのだった。




