学園一年生50 学園祭準備1
91学園一年生50 学園祭準備
「ベアトリスちゃんの様子はどう?」
「凄い勢いで書いているようだな。最近顔を見れていないが、ベアトリスの侍女が様子を教えてくれている。」
演目が決まって以来、ベアトリスは脚本と企画書を同時並行で進めている。
ドラゴンを調べた時もそうだが、彼女は作業に没頭しすぎるきらいがあるため、テールに聞かれるまでもなく体調が心配だ。
「ヒロイン、頑張ってね。」
にやにやするテールを睨む。
「お前だってセリフが多い役どころだろ?もう原作は読んだのか?」
「もちろんー。なかなか小っ恥ずかしいね。」
「そう思うなら変わってくれ。」
俺も勿論原作を読んだが、これを俺がやるのか?と読みながらむず痒くなった。恋愛小説自体苦手なのだ。
「いや、これ、シャルルしか無理でしょ。女性は剣技のシーンできないだろうし、俺とかフエゴに女装は無理でしょ。」
「フエゴは無理でもテールと俺だと体格変わらんだろう!?」
「いや、無理。」
確かに身長と筋肉的にフエゴが女装は有り得ないけど俺も無理だろ?線は細身だけど結構細マッチョだし、ドレスシーンどうするんだよ!てか、単純に女装ならラファルだろ!いや、剣技が無理か。
普通の女性なら、剣技は無理だろうしとも思ったがたかが舞台だ、アカサンドリアの女性なら剣技もできる人材がいるんじゃないか?
「まあまあ、もう決まったことだし楽しもうよ。」
「お前はいいだろうよ、対して演技もしなくて良いだろうし。」
ベアトリスがこの小説がピッタリだと言っていた通り、テール、ラファル、フエゴの役どころはそれぞれの人格に合ったものだった。
テールの王子役はチャラく、ラファルは研究者のような無口な役、フエゴも真面目な騎士役。台詞さえ覚えればなんとかなりそうだった。
だが、俺の場合は女性の役。男装しているとはいえ女性の役なので素のままでは難しい。
しかも、ちょいちょい女性としても演技する必要がある。
男装するならずっと男役に徹してくれれば良いのに、なぜドレスを着て夜会に出たり街娘として女装?するのか理解に苦しむ。
ベアトリス曰く、バレそうでバレないのが男装令嬢ものの小説の魅力らしいが、男装して騎士になると決めたのなら最後まで断念で貫き通してほしい。
そして、そもそもなのだがバレるだろ!?
と突っ込みたい。
騎士団の男共をよく知っている俺としたら、あそこに女性が混じっていたらかなり浮くと断言できる。
ゴリマッチョの集団に女性、、、。
狼の群れの中に羊を放り込むような物だ。
いや、それは真面目に職務に当たってくれている皆に失礼だ。
だけど、確実に体格差で浮いてしまう。
そんなことをフエゴにもツラツラと愚痴ったが、
「シャルル様……、いつも騎士団に混じって演習に行っている時、1人だけ見た目浮いてますよ?」
とため息混じりに言われてしまい、固まってしまった。
え、俺、そんな感じなの?
「そんなことないだろう?少し皆に比べたら線が細いかもしれんが」
「え!……ああ……まあ……皆と比べて少し?」
「お前らがおかしいだけだ!なんだ、その筋肉は!?同じくらい食っていて運動もしているのにおかしいだろう?そもそも、魔術寄りの騎士団の団員なら俺と体格が変わらない奴も多いだろ!?」
「そんなにキレなくても……もしかして、気にしてました?」
気にしてるに決まっているだろ!
なんで俺には筋肉がつかないんだ!
乙女ゲーのメインヒーローがゴリラってのはまずいのかもしれんが、かなり鍛えているし、力もそこらのゴリラに負けていないのに見た目が変わらないのは本当に解せん。
絶対に俺は女には見えないはずだ!鍛えているからな!
**********
「まあ……素敵ですわ、シャルル様」
俺の顔色は確実に悪いはずだ。
俺の顔色と違い、ベアトリスは頬を染めて顔色がとても良い。
俺が正装でダンスに誘った時でさえ、こんなにうっとりとした顔を見せてくれていなかった。
俺は今、仮のドレス姿でベアトリスと衣裳係の女性達に囲まれている。
まだ芝居稽古にも入っていないのに、ドレスの仮縫いのために女装させられているのだ。曰く、ドレスの調整には時間がかかるため、今からでもギリギリなのだとか。正直、ドレスなんか適当でいいと思うんだが、女性陣にそう告げる勇気はない。
「シャルル様にはこのカツラがお似合いになられるかと」
「いえ、やはり元の金髪通りに」
「ああ、でもピンクブロンドも捨てがたいですわ!」
「アクセサリーは……」
「ドレスはやはり……」
「ああ、でもそうしたらメイクは……」
数時間かけてああだこうだ言い合う女性陣にげんなりしつつ、口を挟むと更に長引く女性の習性に逆らわずに言われるがまま着替えたりし続けた。
ドレスは俺の二の腕は出さない方向で決まったようで何よりだ。俺が細身だとしても流石にこの腕は隠しきれないだろう。
女性の身支度に時間がかかるとはいえ、芝居の中のドレスを選ぶのにここまで時間がかかると思わなかった。
半分以上ドレス以外のカツラやらアクセサリーやらメイクやらの話だったが、それも合わせてドレス選びだと言われてしまえば、俺は反論する余地はない。
ベアトリスが楽しそうだったからなんとか耐えたが、もうあとは勝手にしてくれ、というのが本音である。
終了後、少しベアトリスと話をする。
「ずいぶんと楽しそうだったな?」
俺は疲れもあり少し冷えた声になった自覚がある。
「ええ、とても素敵でしたわ。今日参加してくださった皆様も色々と意見をおっしゃってくださって、必ずこの劇を成功させるために私頑張りたいと思います!」
キラキラとしたベアトリスの笑顔にすっかり毒気を抜かれる。
ベアトリスが真剣にこの劇に立ち向かっているのに、俺が斜に構えていてはいけないと思い直す。
「ベアトリス、ありがとう。僕も頑張るよ。」
笑顔で労いながら腕を引いて抱き締める。
「ベアトリスは根を詰めすぎるから頑張りすぎずに何かあれば頼ってくれ。」
頭を撫でながらそう囁くと案の定真っ赤になってくれる。
ああ、癒される。
と思っていたら突き放されて暖かい温もりが消える。
「頑張りすぎずに頑張りますわ!」
と、よくわからない返事をしてベアトリスが去っていく。
可愛いなあ、とほんわかした気分で去っていくベアトリスを眺める。
俺も受け身ではなく、劇を頑張ろうと心に決めるのだった。




