学園一年生45 月曜日シャルル頑張る
86 学園一年生45
「ベアトリス」
「あ、あら、シャルル様。珍しいですわね。」
今日は月曜日。
午前中は俺は授業をとっていない。
大体月曜日は皆で食堂で会うことになっている。
1限にベアトリスは槍の授業を受けているので、遠目で見学して終わるのを待って声をかけたのだ。
「たまにはベアトリスの様子を見ようと思って。隣は友人か?」
ベアトリスの隣には一緒に槍の授業を受けていた女学生が顔を真っ赤にして固まっている。
「ええ。同じクラスの……」
「わ、私!失礼します!!」
逃げてしまった。
2人で呆然としてその様子を見送る。
「すまん、せっかく友人といたのに。」
「構いませんわ。後ほどフォローしておきます。」
逃げなくても良いのに……。
「なんだかすまんな、そんなに畏まらなくてもよいのに。どうも俺は一般生徒に嫌われているらしい。同じ王子でもテールは皆気さくに話しているのにな。」
「いえ!嫌われているわけでは……」
「いいよ、慣れている。」
本当にごめんな。婚約者に気を遣ってそうやってフォローしてもらうのも居た堪れない。
なんだか必死に言い繕うとしてくれているようだが、余計に自分が哀れになるからやめてほしい。
「それより、授業を見ていたがだいぶ槍の扱いに慣れてきたみたいだな。」
「はい!最初は持つだけで手が震えていたのですが、少しずつ慣れてきました!」
と言って腕をまくり力瘤を見せてくれる。
白くて華奢な腕のままに見えるが、薄らと二の腕に力瘤らしきものが見える。
「こんなに細い腕でよくあんな槍を振るえるものだな。」
「だいぶ筋肉がついたと思ったのですが。」
へにゃりと情けない顔を見せられる。
可愛い。
「いや、もちろん、頑張っているのはわかったぞ!先程の授業でもとても優雅だった!」
「優雅?」
「ああ、払いの練習だっただろう?体幹がしっかりしているからブレずにうまくこなせていた。ベアトリスは今まであまり運動をしてこなかっただろう?ダンスの練習の成果かな、と思いながら見ていた。」
「まあ。私としては優雅というよりついていくのに必死でしたのよ。」
「そうは見えなかった。綺麗だったよ。」
実際ベアトリスの立ち姿は美しかった。
まるでダンスの前みたいに背筋が伸びて凛とした雰囲気の彼女に、槍を携えていなければダンスに誘うように手を差し伸べてしまいそうだった。
先程一緒にいた、数少ない女子生徒以外の男子生徒とも手合わせをしていたのを見ていたが、彼女の前でふにゃりとダラけた奴等も多かった。思い返すとイライラする。
「あれー。シャルル様ー?」
「おはよう、ラファル。弓は上達したか?」
突然ラファルに声をかけられた。
一時限はラファルも弓の授業を取っていた。
ベアトリスの槍の授業とは離れたところで授業を受けていた筈だ。話し込んでいる俺たちに気づき声をかけてきたのだろう。
「はいー。僕の場合は風魔法でコントロールしてしまうのでー。実際の技術はそこそこでも大丈夫ですー。」
とニコニコしている。
もう怒っていないのかな?
「ベアトリス様ー?どうかされましたかー?」
ラファルに声をかけられたベアトリスは何故か固まっている。
「ベアトリス?」
「……は、はい!大丈夫です!」
なんか考え事でもしていたのかな?
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ベアトリス視点
槍の授業を終えて、着替えに帰ろうと思ったら何故か運動場の外にシャルル様がいらっしゃった。
汗もかいたと思うので近寄りたくない。友人とこっそり気付かないふりして立ち去るつもりが声をかけられてしまいましたの。
「あ、あら、シャルル様。珍しいですわね。」
今気づきましたよー。という風を装ってみましたが、今は運動着でお洒落のカケラもないですし、汗と土埃に塗れた状態なのであまり近くに寄りたくはありませんのに。
お会いできるのはとても嬉しいのですが、好きな方に汚い自分を見せたくない乙女心をご理解いただきたいのです。
数少ない槍クラスの女生徒かつ友人のクララはシャルル様に声をかけられた途端逃げてしまいました。
私の友人は皆、シャルル様は「鑑賞用」という位置付けですの。
とても麗しすぎて、身近で接するには畏れ多い存在。離れて拝む?のがちょうどいいとかどうとか。
それは彼が王族でなくても同じだと思うのですけれど、王族だから持ちうる容姿とオーラのせいだと思うと王族だから、とも言えなくはないのでしょうか?シャルル様は自分が敬遠されるのは王族だからだ、と思い込んでいらっしゃるのです。
とにかく、普通の学生は近寄り難い存在、ということなのでしょう。
なんだかここ最近はシャルル様も一般生徒が自分に近寄らないことを気にしているようで、自分は一般生徒に嫌われているなんてことを言い出し初めてしまいましたが、どうご説明すれば良いのでしょう?
キラキラし過ぎて近寄り難い、と直接的な言い方をしてもご理解いただけると思えないし。
どうもシャルル様はご自分の麗しさを正確にご理解いただいていないようですし……
最近は新たに友人を作りたいと言い出されて、皆困っているのです。
テール様、フエゴ、ラファルとその話をしていて、結論は「無理」の一言に尽きましたの。
あのシャルル様に普通に話しかけられる一般生徒がいるとも思いませんし、、、
なんて私が考え込み中も、槍の授業をご覧になっていたシャルル様からご意見を賜ったので、私もお話しさせていただきました。
自分ではだいぶ腕に筋肉がついたと自負していたのに細いと言われてしまい残念でしたわ。
唯一と言っていい運動がダンスの練習でしたのに、ダンスでつくのは下半身の筋肉だけだったので、私の腕はヒョロヒョロだったのが、槍を始めてからかなり逞しくなった、と自分では思っていましたのに。
落ち込んでいると、槍を持った立ち姿を褒めていただけましたの。
自分では姿勢がどうとかよりも、槍を落とさないように、とか、相手の方の槍がどう来るのかを見極めるため、いっぱいいっぱいでしたのに。
「そうは見えなかった。綺麗だったよ。」
そういって微笑まれたシャルル様の顔が本当にお優しくて。お美しくて。
「綺麗」という褒め言葉が、私の槍を構える姿勢のことだ、と分かっていても。
完全なるキャパオーバーでした。
ラファルがきて話をされているのは目に入っているものの、耳から音声情報として入っても脳では処理しきれず「綺麗だったよ。」のシャルル様の声と、笑顔のみが脳を埋め尽くして。
数秒なのか数分なのか分からない時間、固まってしまっておりました。
直接名前を呼ばれて、不思議そうに私を見るシャルル様とラファルに気付いて。
正気に帰った私は2人に着替えに戻る旨と、ランチに戻る旨を伝え、急いで別れました。
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再びシャルル視点
「ベアトリスが帰ってしまったんだが。」
「声をかけるのはいいと思うんですがー。女性は運動後に男性と会いたくないと思いますー。」
「どういうことだ?」
「………………さあー?」




