学園一年生41 後期授業再開
82学園一年生41 後期授業再開
サファリア王都への帰還、初めてのポリニャック領訪問、エスタニア王女ミラドーナとの出会いと、有意義な夏季休暇も終わり、学園一年生の後期授業が始まった。
なんとなく、休みボケして最初の1週間はあまり身が入らなかったのは、俺だけではなかったようで、講義の時間に寝ている人数も多く感じたし、休み時間にはどんな風に休暇を過ごしたかで盛り上がる学生も多く見られた。
といっても、流石に貴族の子息令嬢ばかりだからか前世のように大きくイメチェンするような者は見られなかった。
この世界は髪色を変装以外では染めたりしないし、服装を着崩すような者もあまりいないから仕方ないが。まあ、1ヶ月くらいでイメチェンされてもな、とは思う。
思ってはいたが、なんとマリアがイメチェンしていた。見た目ではなく中身が。
火曜日の魔道具学の授業では、いつも近くの席を避けていたのだが、休み明けで何も考えずに席に着いたらマリアの近くで、数人のグループで行う魔道具製作が同じグループになってしまった。
休みボケしていたな、と後悔したが、数人のグループだからベタベタされることもないだろうと思い、他のメンバーと同じように接することにした。
マリアは以前のように俺に馴れ馴れしく話しかけてくることもなく、言葉遣いも礼儀正しくなっていた。礼儀作法の授業を取っている筈なので、以前の自分があまりにも無作法だったと気付いたのだろうか。
淡々と作業を進める手際を見ても正確で早い。
夏季休暇中は前期の復習をしっかり行なっていたのだろう。
「マリア嬢は夏季休暇中は家に帰っていたのか?」
授業が終わった後、俺から話しかけると驚いた顔をされたが、マリアは直ぐに表情を引き締めた。
「私は元から寮には入っておらず、麓の街で下宿していますので、そのままこの街に残っていました。」
「そう言われてみると寮で見かけたことはないな。」
「貴族の方が住まわれる寮ですので、私には入寮資格はないのです。」
知らなかった。貴族しか入れないのか。学園自体基本貴族が通うとはいえ、生徒なんだから平民が過ごしても良いのではないか。
「そんな顔をなさらなくても大丈夫です。気楽で良いですよ。街にいると働くこともできますし。生活費もなんとかなっています。」
「偉いな、マリア嬢は。」
「そんなことはございません、平民の私達くらいの年齢だと皆何かしら働いているか家の仕事を行うのが普通です。私は無料で学園に通わせていただいているのですからとても恵まれています。」
と言い、乙女ゲームのヒロインらしいふわりとした笑顔で微笑んだ。
ごめん、ちょっとドキッとした。
「見たよー。浮気?」
マリアと少し立ち話をした後、スルスのところに向かっていたら急にテールに話しかけられた。
「違うよ、魔道具の授業の後少し雑談しただけだ。」
「ふーん?前は毛嫌いしていたみたいだったけど、さっきは普通に接していたじゃん。」
「久しぶりに話したらまともになっていて驚いた。」
「ああ、大分ダメなとこ指摘したし、彼女も努力していたからね。」
そういえばテールはマリアと友人になっていたのだっけ。
「で?鞍替えするならベアトリスちゃんは俺が引き受けるけど?」
とニヤニヤ笑いながら言うテールを軽く睨む。
「馬鹿なことを言うな。絶対やらん。マリア嬢はただのクラスメイトだ。」
「シャルル、怖いよ。冗談だって。」
そんなに強く睨んだつもりはなかったのだが。
この後の予定を聞かれてスルスのところに行くと告げると何故かテールもついてくることになった。
コンコンと研究室の扉をノックし、
「シャルルです、先生いらっしゃいますか?」
と声をかけると中からバサバサっと大きな音がした。
「大丈夫ですか?!」
「なんでもない!入ってよろしい。」
扉を開けると積み上げてあったであろう本が机の上と床に広がっていた。
「すみません、驚かせましたか?」
「いや、考え事をしていたので少し驚いただけだ。気にしなくてよろしい。」
なんだか少し焦りを感じるスルスの態度に不自然なものを感じるが、本を拾い集めるのを手伝う。
入り口で立ったままだったテールが、本を拾い集める俺達を見ていたが、すぐに拾い集めたところでスルス先生に声をかける。
「ご無沙汰しております。アカサンドリアのテール・ロドリックです。シャルルがスルス先生のところに行くと聞いて、同行させてもらいました。私もサファリアについては興味がありますのでお邪魔にならない程度にお話が聞ければと存じます。同席よろしいでしょうか?」
誰だよ。先生には丁寧口調なのか?
「あ、ああ。もちろん構わない。シャルル王子の学友だったな。」
テールの存在に気づいていなかったのか、スルスは少し動揺しているようだ。
「ええ、シャルルとは親しくさせてもらっています。」
おお、ニヤニヤ笑いだけでなく優雅な微笑みなんかできたんだな、テール。
3人で腰掛けて話をする。
「スルス先生、急な話であったのに私のポリニャック滞在を引き受けていただき、誠に有難う御座いました。お陰様で充実した数日を過ごさせていただきました。」
「構わない。シャルル王子が来てくれたことで、領民も王族への敬意と親近感が深まったようだ。こちらとしても助かった。」
「シャルルはポリニャックで何をして過ごしたの?」
テールが口を挟んでくるので、俺から視察内容を説明する。
「え!?街中で握手会!?そりゃあ大変だっただろうに。」
と、テールがスルスに同情的な視線を送る。
スルスはコホン、とわざとらしく咳払いをすると、
「シャルル王子が来る可能性があることは分かっていたから事前にしっかり対策しておいた。大きな混乱は起きなかった。」
と説明する。
「あれほど王族が珍しがられるとは思いませんでした。もっと王族は各領地に足を運ばないといけませんね。」
あれ?俺真っ当なこと言ったよね。
なんでスルスもテールも苦虫を噛み潰したような顔してるの?
はあーっとため息をついた後、教師らしく諭すように言われる。
「シャルル王子が他領を訪問する際の注意点について、各領主に伝達しておく。くれぐれも、いきなり数日前に領地に連絡するのではなく、最低一月前には通達するように。」
そうだよな、王族が領地に行くなら色々と準備があるよな。今回も準備期間が少なかっただろうし。
……あれ?
「ミラドーナも王族ですよね?しかも他国の。」
「ミラドーナは別枠だ。エスタニアの他の王族が来る時はちゃんと事前に予定が組まれる。」
「ミラドーナって誰?」
あ、そうか。視察内容は説明したが、テールにはミラドーナのこと話していなかったな。
「エスタニアの王女だよ。」
と前置きし、スルスとミラドーナの関係、突然のミラドーナの訪問と、友達になったこと、お互いの国を訪問する約束をしたことなどかいつまんで説明する。
「それはまた……型破りな子だね。」
「お前も大概だと思ったけどな。」
「まあね」
ヘラリと笑うテール。笑うところか?褒めてねえよ。
「ミラドーナとシャルル王子はかなり仲良くなっていて、ベアトリス嬢との婚約破棄の仲立ちをしてしまったかと思ってかなり焦らされた。」
とスルスがさらっと爆弾をぶっ込んでくる。
「マジで!?シャルル最低だな。」
「先生!誤解は解けてますよね?」
この後しばらく揶揄われた。
帰り道でもテールにしつこく揶揄われたので、ミラドーナはスルスのことが好きだと暴露しておいた。




