学園一年生38夏季休暇8ポリニャック領訪問4 港訪問
80学園一年生38夏季休暇8ポリニャック領訪問4
翌朝、ポリニャック領主アルガンとスルスと一緒に朝食をとっている際、食堂のドアが勢いよく開かれた。
「おはよう!シャルル王子が来ているのですって!?」
ふわふわとした癖毛の長い桜色の髪をツインテールにした、活発そうな少女が入ってきたかと思えばキョロキョロと室内を見回している。
ノックも無しに朝食の場に乱入してきた少女に呆けているとツカツカと俺の方に歩み寄ってきた。
「エスタニアの第一王女ミラドーナよ。よろしくね!貴方がシャルル様ね。噂通りお綺麗な方ね!」
そう言って右手を差し出す。
この体制は握手かな?
と思い手を握り返す。
「あら、エスタニアの挨拶をご存知だったのね。」
ふふっと笑う。
「ミラドーナ、急に来てその態度はいかがなものかな。」
スルスが凍りつきそうな眼でミラドーナを睨み、ミラドーナはそれに気づきビクッと体を震わせる。
「ご、ご、ごめんなさい。昨日こちらについたら、街中シャルル王子の噂で持ちきりで、早く見たかったものですから、、、」
「貴方はエスタニアの王女ですよ?そんな礼儀知らずでどうします。」
延々と怒られ出してそれに従うミラドーナ。
そんな2人の異様な光景を何も言えずぽかんと見ていると、アルガンから
「あの2人は幼なじみでして。スルスの態度が不遜なのも、エスタニア国王と王妃からも、逆に躾けて欲しいと請われているくらいなのです。押し付けられている、と言った方が正確ですがね。」
と言われ納得する。兄妹なような関係のようだ。
スルスが学院生でありながら教師として様になっているのは長年ミラドーナの教師役でいたからなのかな、と思いながら2人のやり取りを見守っていた。
しばらくお説教された後、ミラドーナは最初の勢いはどこにいったのか、すっかり大人しくなっていた。
「改めまして、サファリアの第一王子シャルル・ド・リュミエールです。初めまして。」
「先程は申し訳ございません、スルスにもいつも怒られ、指導していただいているのですが、興奮すると抑えられない性質でして。」
と、照れ臭そうに挨拶を返してくれる。ちゃんとしていると可愛らしいのに。平民みたいな子だとスルスから事前に聞いてはいたが、なかなか衝撃的な登場だった。多分あちらの方が素なんだろうな。
「シャルル王子が寛大な方だったから良かったものの、、、」
「スルス先生、今日の訪問予定が聞きたいです。」
またスルスの小言が始まりそうだったので強引に話を切る。
「今日は港の方に行こうと思っていたのだが、ミラドーナも来るのか?」
「行く!あ、行きます!」
年齢は俺と変わらなそうだけど、第一王女がこんなんで大丈夫なのかな、とつい心配してしまう。
******
馬車で港までやって来た。港には大小様々な船が停泊している。
「あちらの区域は旅船、あちらは貿易船、遠くのあちらは漁港と区域を分けて運営している。それぞれ手続きが違うからな。」
旅船の区域には大きく、装飾が施された白い船が数台、貿易船の区域には無骨な船が多数並んでいた。
「サファリアとうちの貿易はポリニャックが一手に引き受けているから貿易港は立派なものでしょう?」
何故かエスタニア王女のミラドーナが自慢げだ。
「こうやってみると、エスタニアとの取引量の多さが実感できるな。」
「当然よ!うちとポリニャックはとっても仲が良いのだから!」
スルスが、まずい、という顔をする。
「スルス先生、エスタニアとポリニャックが良い関係を築かれていることは良いことです。ミラドーナ様も他意があって言われた訳ではないことを理解していますので、お気になさらず。」
聞きようによっては、エスタニアはサファリア王国ではなくポリニャック領と取引をしているのだ、という発言に聞こえる。
「シャルル様、ご配慮感謝いたします。ミラドーナへの指導が足りていないようで、不徳のいたすところです。」
スルスが改まって俺にミラドーナの言葉を謝罪する。
「え?なに?私なんかまずいこと言った?ごめんなさい!」
「ミラドーナ、お勉強が足りていないようですね。甘やかしすぎたようです。」
「いや、あの、甘やかされたことないんですけど!?」
もっと厳しく躾けた方が良さそうだな。
「安心してくれ、エスタニアの王子はまともな方だ。エスタニアの王族の中でミラドーナだけ、こんな感じなのだ。」
「ちょっと、スルス!酷いじゃない!私がまともじゃないみたいじゃない!」
スルスと俺は顔を見合わせる。
まともな王女だと思っていたことに驚くぞ。
その後、停泊中のエスタニア航路の大型船に乗らせてもらった。
前世の大型クルーズ船とまではいかないものの、なかなか立派な船だった。
「エスタニアまでは何日で着くのでしょうか。」
「ふむ、船によるな。」
最速の船だと、特殊な帆に風魔法を当てて1日で着くらしい。船の運航に2人の風魔法使いが必要になるため、非常に高価になるし、船の大きさも中程度までとなる。
その次に早いのが風魔法の魔法陣とスクリューを回す為の魔法陣が施されたもので、大型船の主力はこのタイプだ。3日ほどで着くことができる。魔石が必要なため、このタイプの船も船賃は高価になる。
完全に自然の風任せの帆船だと10日程度かかるが、1番安価で、船の旅を楽しむこともできるため、一般的にはこのタイプを選ぶことが多いらしい。
「風魔法が使える貴族の方は小型のボートを持っていらっしゃる方もいるのだよ。かなりのスピードで走るので、とても面白いぞ。」
「楽しそうですね。俺も風魔法が使えれば良かったのですが。」
モーターボートみたいな感じになるのかな。風魔法が使えるラファルは絶対やってくれなそうだ。
「シャルル王子が頼めば誰でも乗せてくれるだろう。」
「いや、こんなことで権力を振りかざしたくはないですね。」
「シャルル王子なら、可愛くおねだりすれば王子でなくても乗せてくれると思うわよ!」
「ミラドーナ!失礼だぞ!」
可愛くおねだりって。俺は男だぞ。
「ミラドーナ様はなかなか奔放な方ですね。」
「エスタニア国王夫妻にとって初めて生まれた女児だったので、甘やかして好き勝手にさせていたのだ。ミラドーナはそれをいいことに市中で育ったようなものなのだよ。気まぐれにこちらにも頻繁に遊びに来るし、私のいうことなら聞くからと、教育係を押し付けられて。」
「酷いわ、スルス!押し付けられたなんて!」
とぷりぷりしているが、流石に国王夫妻もこれではまずいとわかったのだろう。
「あまり教育の効果はなさそうですね。」
「耳が痛いな。信じられないと思うがこれでもましになったのだ。」
「ちょっと、、、2人して酷くないかしら。」
その後、貿易港の倉庫、貿易事務所を見学させてもらったところで、済まなそうな顔でスルスから話しかけられる。
「シャルル王子、すまない。少し混み入った話が必要なので私は事務官と話し合いが必要になった。先にミラドーナと昼食の店に行っていてもらえないか?」
「お断りします。婚約者のいる身で女性と2人というのは。こちらで待たせてもらいます。」
「認識阻害の腕輪をつけているだろう?こちらは王子を待たせるような部屋がない。」
「シャルル様、心配いりませんわ!襲ったりしませんので。スルス、いつもの店でしょう?先に行っているわ!」
いや、君と2人になるのが嫌なんだってば。と思いながら仕方なく引きずられていく。
港からすぐのレストランの個室に通される。
「シャルル様、このレストランは見晴らしが良いのよ。海を一望できるし、この部屋にはテラスもあるからどうぞご覧くださいませ。」
3階に通されたこともあって、港の全体像を見れる、確かに良い景色だ。願わくばミラドーナではなくベアトリスと来たかった。
「がっかりなされたでしょう?エスタニアの王女がこんなんで。」
つい図星を刺されて体が強張ってしまった。
「いいのよ、今さら。さっきは散々言ってくれたじゃない。」
「それでは遠慮なく。流石に王族としてどうかと思うぞ。」
「あら、お綺麗な顔で辛辣ね。でもその通りね。向いていないのよ、王族なんて。」
「確かにむいてないだろうが、それでも王族として生まれてしまったのだから受け入れるしかないだろう。」
「早く嫁に行って王族という立場を捨てたいわ。」
「嫁に行こうと、相手は貴族になるだろう?君が礼儀を学ばないと夫になる者が大変だろう。」
「そうね、わかっているから頑張ろうとしているのだけれど、なかなか上手くできないのよ。何か良い方法はないかしら?」
「一つ一つ身につけるしかないだろう。俺は当たり前に教育されてきたからある程度の礼節は意識せずとも身についてきたからな。」
「両親を恨むわ。市民からはとっつき易い姫様だと人気はあるのだけれど。」
確かに、人気はありそうだ。貴族社会では厳しそうだが。
「エスタニアでは、王族と平民は婚姻できるのか?君の場合はいっそ平民になってしまった方が楽だと思うが。」
「それはダメよ!私はスルスと結婚するの!」
あっと失言に気がついたミラドーナが慌てて自分の口を塞ぐ。
ミラドーナの衝撃発言にしばし黙り込んでしまう。
「・・・君たちは婚約者だったのか?」
「違うわ、私が勝手にそうしたいと思っているだけ!スルスは知らないわ。言わないでね。」
顔を赤くしちゃって可愛いことだ。
「わかったよ、言わないでおく。」
「本当?!口止めのために何か要求したりとか、、、」
「なるほどな、何が良いかな。」
エスタニアの工芸品とかもらっておいても良いけど、人の恋心を黙っておくのに対価なんて必要ない。面白いので少し揶揄っているだけだ。
俺がしばし考えているふりをしていると、はっと気付いたようにミラドーナが自分を抱きしめる。
「わ、私はダメよ!」
とんでもないこと言い出したぞ。
「それはない!俺には愛しの婚約者がいる!冗談でもやめてくれ。」
「婚約者?そういえばそうだったわね。確か宰相の娘でしょ?」
安心したような顔をしないで欲しい。最初からこちらはミラドーナなんか望んでいない。
「そうだ。濡れたようにしっとりとした黒髪と美しく煌めく紫色の髪、整いきった顔、完璧なマナー。世界で一番美しい自慢の婚約者だ。」
「へ、へえ……」
「なんで引いているんだ。」
「婚約者のことをそんなにべた褒めする人初めて見た」
「そうか?事実を述べただけだ。」
「あ、うん、そうね。」
変なものを見るような目で見られ釈然としない。
よりにもよってミラドーナにこんな目を向けられるとは。
「お待たせしてしまい、申し訳ない。」
スルスが入ってきてくれて、変な空気を終わらせてくれた。
レストランの食事は取れ立ての魚介類を調理したもので、とても美味しかった。
スルスがミラドーナから、エスタニア王国の魔法陣技術を教えてもらったと聞いた時は驚いた。
「私のこと馬鹿だと思っているんでしょ?」
とジト目で睨まれた。
ミラドーナは礼節はなっていないものの意外と勉強熱心で、頭が良いらしい。意外だ。
エスタニアについても色々と教えてもらい、逆にこちらもサファリアについて語った。
すっかり話が盛り上がってしまい、長居してしまった。




