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攻略対象者なのに悪役令嬢を溺愛中  作者: のあ
第二章 学園編
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学園一年生37夏季休暇7ポリニャック領訪問3 自衛団同行

79学園一年生37夏季休暇7ポリニャック領訪問3

コンコンとノック音がした後、スルスが部屋に入ってくる。


「良く寝むれたか?本日の予定を説明しに来た。」


侍女達に朝食を運ばせて、今日の俺達の予定を説明するスルス。

王族訪問の実績は昨日だけで大丈夫とのことで今日からは市中で認識阻害の腕輪を使用しても良いと伝えられホッとする。

昨日のポリニャック領民の熱烈歓迎はとても有り難かったし嬉しかったのだが、流石にあれを毎日繰り返すと考えると辟易してしまう。

今日はポリニャック領の警備体制の視察とのことで、スルスが案内してくれるそうだ。


「昨日は大変だったな」

と朝食を食べながらスルスが薄く笑うように言う。


「あそこまで囲まれるとは思いませんでした。」

王都では、貴族街くらいしか行かないが、皆こちらが誰かわかっているため遠巻きにしか見ないし話かけてくる者さえ稀だ。

昨日のポリニャックの街歩きは芸能人にでもなったような気分だった。

多くの民衆が取り囲み、最終的にアイドルの握手会みたいになって、お祭り騒ぎだった。


「ここでは貴族でさえ珍しく、王族ともなれば民は見ることもないので扱いがあのようになるのは仕方ない。」

と、しれっと言ってくるが事前にもう少し心構えをさせてもらいたかった。

まあいいんだけど。

王族と領地の友好関係を民衆に見てもらうことが重要だということはわかる。発案がスルスなのかアルガンなのかは知らないが、領地の思惑通りに乗っかることはこちらとしてもやぶさかではない。


「まあいいです、それよりも今日はどこに行く予定なのでしょう?」

「ポリニャック領の自衛団と共に近隣の森に行く計画なので動きやすい格好で来てくれ。」

「自衛団?」

「王都でいう騎士団と同じような組織だと認識してくれたまえ。領主直属の騎士のようなものだが、その名の通り街を守る、自衛を行い、場合によっては領主の判断を無視することもできる。」

「領主の判断を無視する?」

「そうだ。あくまでも最優先は民の命。領主の判断がそれに倣わなければ無視する権限を持っている。」


王都とは全く違うシステムで運営されているのだな。

王都の騎士団の最優先保護対象は王族、次いで貴族となっている。

平民街には衛兵がいるため、平民の保護は衛兵が守る。

ポリニャック領の場合は貴族はポリニャック領主一家と、観光客くらいだからそこの区別はないのはわかるが、最終決定権も兵に渡しているという点が大きく王都とは違う点だろう。



朝食が終わり、スルスと共に自衛団の事務所に向かった。街の周辺の見回りの後、森まで向かう一団に合流することになった。


「坊ちゃん、危ないですぜ。王子様を連れてくってのはお勧めできやせん。」

自衛団はいくつかの隊に別れており、今回街の外に向かう隊の隊長ジャックは俺の同行に反対した。


「問題ない。シャルル王子は魔法も使えるし剣も扱える。王都の騎士団と魔物討伐も行なっている。自分の身は自分で守れる。何かあれば私が責任をとる。」

「魔法ですかい?!まあ、坊ちゃんもいれば大丈夫と思うんですが、、、なんかあっても知りませんよ。」

と、しぶしぶ応じてくれた。

そうか、王都の騎士団はほぼ貴族で構成されているが、こちらは平民だけ。魔法を使う者がいないのだな、とまた違いを感じる。


その後、馬で移動して街の外周を確認する。

街の外周を囲うのは堅固な石壁ではなく、頼りない木の柵だが、崩れる時に大きな音がするようになっており、周辺のものに魔物の襲来を知らせることができる。さらに、柵が崩れた際には、自衛団の事務所に通知が行く通信用の魔法陣が設置してある。

「前は自衛団の事務所まで、鐘を慣らしてたんだが、坊ちゃんが整えてくれたんですぜ。」

とジャックが誇らしげに教えてくれる。

言われてみると、街中に鐘がいくつも設置してある。以前は魔物が来たことに気付いた者が鐘を鳴らし、その鐘に気付いたもう少し自衛団に近い者が鐘を鳴らし、という形でバケツリレーのように順々に鐘を鳴らして行き、自衛団の事務所に知らせるシステムだったという。

鐘だとすぐに自衛団に連絡が来なかったり、場所の正確な特定が出来なかったり、途中で途切れたりして色々と不便だったが、魔法陣での連絡は早いし、位置が明確で助かっているらしい。

近距離かつ一方向への連絡なので魔石も魔道具と同じようなクズ魔石でいいから費用もかからないとのこと。

「この魔法陣とシステムは売れそうですね。スルス先生は凄いです。」

国境や、他の街でも活用できそうだ。

「いや、売るために作ったわけではない。いつかはクズ魔石で使える防御魔法陣を作りたいと考えている。」

かなり難易度が高いということは俺でもわかる。防御結界を張っている学園や王都の魔法陣には高価な魔石が使われているし、スルスが作ってくれた魔法の授業用の魔法陣も、魔力の消費が激しい。

そのことを考えると、クズ魔石での防御結界というのは実現不可能に感じる。

単純に魔法陣が与える効果と魔力はイコールの関係にある。

クズ魔石はクズと言われるくらい魔力量が少ないので基本的には生活用品くらいにしか使用されていないのだ。

「魔力量に依存しない防御結界、ということでしょうか。」

「もしくは魔力量の増幅か、クズ魔石の多数使用か。色々試しているがどれも上手くいっていないがな。王都くらい貴族が多ければ魔力充填ができるから結界を張るのが容易なのだが。」

王都の結界は魔石も使用しているが、王宮魔道士が魔力を充填している。

豊富な魔力を持つ魔道士が多数在籍している王都と違い、地方領地は魔石に頼るしかない。スルスの研究が進むことを祈ろう。




街の外周を馬で周り、柵が崩れたところがないか、通信魔法陣に不備がないか確認したら昼の時間を回っていたため、一度休憩して森に向かう。


魔物は森に多く存在する。森にずっといてくれれば良いが、放っておくと度々街の方に魔物が出没するため、浅い森の魔物を狩り、魔物の出没を減らすというのも自衛団の仕事になる。


領民が森の中で薬草や木の実を採取する場合も自衛団が同行することになるため、採取の日が設けられているそうだ。


今日は森の浅いところに入り、魔物がいたら狩る、という日常的な業務を見せてもらう。


「坊ちゃん方、馬はここまででさあ。森の中は獣道程度しかねぇんで、馬はここら辺の木に繋いでくだせえ。」

馬の見張りに2人が残る。

ジャックが言う通り、森の中は人が通れるくらいの道しかない。下草が踏まれた程度の道には何度も人が通った形跡があるので採取に使う道なんだろう。

「こんなところで魔物と戦うのは難しそうだな。」

「へえ。おっしゃる通りでさあ。できるだけ森の外に誘き出して戦うようにしねえと、森の中では奴らの方が分がいい、、、って言ってる隙から」

と俺と話しながらジャックが弓を打つ。

同時に自衛団がバラバラっとジャックが矢を放ち落ちた魔物にとどめを刺しに行った。

「良く気付いたな。」

魔物がいることに全く気づかなかった。

「慣れですぜ、王子様。音やら気配やら。何年もやっていると染み付いているんでさあ。」

職人みたいだな。


その後も何匹か魔物を駆除し、危なげなく街へと戻った。

せっかくなので魔物討伐の役に立ちたかったが、俺が魔物に気づくより先に討伐が完了するため、見ていることしか出来なかった。

ジャックと自衛団の皆に礼を言って、領主の館へ戻る。




帰宅が遅くなったため、他の家族は先に夕食を済まされており、夕食はスルスと2人になった。


「何の役にも立てなくてすみません。」

開口一番、今日の討伐で何も出来なかったことを謝る。

「お気になさらず。シャルル王子に怪我がなけらばそれで良い。それより、ポリニャックの自衛団の感想を聞きたい。」


「何より危機察知能力というか、魔物を発見する速度が俺とは段違いだと感じました。王都では出てきた魔物に対処するという姿勢で挑んでいますが、こちらでは狩りに行く、という姿勢なんですね。」

「ポリニャックは外壁もなく、ご覧の通りの拙い柵しか用意できないからな。」

「だから狩りに行くんですね。最初ここに着いた時に頼りない柵で大丈夫かと心配になりました。攻められる前に倒す、という方針だとわかりました。」

「とはいえ、年に数回は魔物が街に来ることもあるのだ。被害を減らすため、もっとできることはないか考えていかないとな。」


スルスは次期領主として真摯にこの問題と向き合っているとわかる。最初はただの研究バカだと思ったが、領地のために魔法陣の開発を真剣に考えていたのだ。ごめんなさい、バカ扱いして。




「お、お食事中失礼します。至急のお知らせが。」

ポリニャック家の執事が急に入室してきた。

スルスは顔を顰めたが、俺がいるのを知っている上で夕食の席に入ってくるということは本当に急ぎの用事なのだろう。チラリとこちらを伺うスルスに無言で頷き、問題ないと告げる。


執事がスルスに耳打ちし、何事か告げるとスルスの顔色が変わる。

執事が去った後も片手で頭を抱え、考え続けるスルスに、何か大事があったのだと察するがこちらからは聞けないのでスルスが話すのを待ちながら夕食を食べる。



「シャルル王子。」

「何でしょう。」

話す気になったようだ。意を決した、という感じで俺の目を見て話しかけてくる。俺にも関係あることだったのかな。


「エスタニアの第一王女ミラドーナ様がお越しになったとのこと。明日貴方にも会いたいと。」

ぶーっと吹き出しそうになったがなんとかおさえた。


「お越しに『なった』?先触れもなく?」

通常一国の王族が来るには多大な準備が必要だということは俺にもわかる。前もって知らされていなかった、ということに驚く。

「そういう方なのだ。自由奔放というか。」

「その口ぶりでは毎度のことなんでしょうか?」

「毎回気まぐれでやってくる。気まぐれすぎて、急に出立するので従者も先触れを出せて前日だ。同じ船に乗ってくるからな。」

頭が痛い、というのを態度で示してくれる。魔導書を読んでいる時のように眉間に皺が寄っている。


「ミラドーナ様とお会いするのは良いのですが、父上に確認をとることもできないので国のことは私には話かねますが。」

1国の王太子と王女の会談ともなれば、事前に話し合う内容が決められているものだと思うが。

「その点は大丈夫だ。堅苦しい話し合いなんかできる人間ではない。ミラドーナは王女だが、この国では平民みたいな女だ。エスタニアは王国ではあるが、政治は民主主義で国民主導だ。王族も皆国民と変わらない。貴族制度もない。」

「もちろん、それは知ってはいますが、、、」

「頭で知るのと実際に見るのは違う。ミラドーナに貴族の礼を求めないでほしい。」

「わかりました。」


最初だけ様と呼んでいたが、敬称をつけないことから親しい仲なのだろう。一国の王女相手にそれで良いのか、と思うが。

楽しみと不安が織り交ぜになった心境で明日を待つことにした。



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