学園一年生36夏季休暇7ポリニャック領訪問2
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ポリニャック領に着いた夜の晩餐はスルスの一家が勢揃いしていた。
領主のアルガンとその妻。
スルスの祖父母、スルスの弟妹3名。
スルスも合わせて総勢8名が食堂の席についていた。
俺が入ると皆一斉に立ち上がって挨拶をしてくれる。
人数も多いが皆がちがちに緊張しており、居た堪れない雰囲気になる。
「あの、スルス先生は私の講師でして、そのご家族も私からすると師のご家族、敬うべき皆様ですのでどうか肩の力を抜いてください。」
と、声をかけると、スルスの祖父が
「とんでもございません!王族の方に不敬があってはこのポリニャック家の存続に関わります!」
なんて言ってきて、皆静かになる。
フォークとナイフの音だけが静かな部屋に響きわたる。
耐えられない。
「先生、なんとかしてください。」
とこそっとスルスに助けを乞うが、
「王族はこういう扱いになるものだ。」
と小声で返される。
時折、当たり障りのない話題がスルスの祖父と父から振られ、それに返すくらいで基本無言の食卓。
つらい。
せっかくの海の幸をふんだんに用いた料理も、冷め切った皆の態度の中では堪能できなかった。
食事が終わり、スルスと2人で続きの間に残る。
くくくっとスルスが笑う。
「辛そうなのが顔に出ていた。」
「わかっているなら助けてくれないですか?」
食事中の雰囲気が悪いのがわかっていて、ずっと無言だったスルスにあたる。
「シャルル王子、浅慮すぎるのではないか?」
思いもよらず、冷ややかな目と口調でスルスが言う。
「貴公は王族の代表としてこの地に来ている。地方領主の家族としては歓待すべき賓客だ。一方で滅多に来ない王族が来るなら何か自分たちの咎を見極めに来たのでは、と領主は考える。その内容がわからないから父も祖父も警戒して話題の内容を吟味して話をする。結果先程の夕食だ。君が今回の趣旨を言葉にすべき場だった。もちろん事前の手紙では今回の趣旨を書いていたし、私は君のことをよく知っているが、初対面の者達はどう思うかということを考えるべきだ。」
スルスから、延々とダメ出しされる。
魔法も剣も勉強も人並み以上に出来てちょっと調子乗ってました。
人としてどうなのか、とか、人間関係とか。
言われてみたら当たり前なことなのに出来ていなかった。
そりゃそうだよな、第一王子が急に来ることになって警戒するよな。
先生と仲良いから来ちゃいました、では済まないよな。
「すみません。」
「よろしい。理解したなら明日から頑張るように。」
スルスはこの機会に魔法陣だけでなく、社交の講師も兼ねてくれるようだ。
「ありがとうございます。」
*******
ポリニャック領に着いた翌日、明るくなった窓の外からはポリニャック領の街並みと、その先の海を見下ろすことができた。
昨日は暗くなっていてわからなかったが、領主の館は高台に位置するようで、2階からでも景色が一望できた。海まで距離はあるがオーシャンビュー。赤い屋根と白い壁の民家が並ぶ街も見下ろすことができる、良い部屋だ。
しばらくバルコニーで街の様子を楽しんでいるとノック音の後にスルスが入ってきた。
「失礼、まだお着替え前でしたか。」
「すまんな、街を見ていた。すぐに着替える。」
そう言って着替えようとすると、
「侍女を呼ぶのでお待ちを。」
と、止められたが
「滞在中は迷惑をかけるつもりはない、ゴテゴテした夜会着を着るわけではないから侍女は必要ない。」
と断っておく。
護衛は数名連れてきているが、侍女は今回連れてきていないので、ポリニャック領に面倒をかけることになるのは申し訳ない。
「明日は腕輪を発動しても良いのですが、本日はそのままで街を散策いただく予定です。」
スルス曰く、第一王子が視察に来た、という事実を民に知ってもらうことが今日の最大の目的だという。
俺がどこかを見るのは明日以降、今日は客寄せパンダばりに、俺が見世物になる日らしい。
地方では王族を見る機会がほぼ無いから、雲の上の存在というか、存在自体怪しまれるくらい遠い存在だとか。
1日だけでも来たぞ!と見せつけることで本当にいたんだなあ、と存在を認識してもらえることが重要だとかなんとか。
1日で回れる場所なんか限られているし、どこまで効果があるかわからないが、スルスの言う通りにくっついて回って色んなところで挨拶をして回る。
握手なんかして、ぷるぷる震えるお爺ちゃんが泣きながら手を握り締めてきたりなんかして、某アイドルグループみたいだな、と思ったりする。
王族=アイドル、といった感じの1日だったが、ずっと一緒にいてくれたスルスに対する民の反応の方が好ましいな、と思う。
俺はひたすら握手していたが、民はスルスに色々と話しかけていた。
領主の息子、時期領主として皆が認識していた。
人口はもちろん王都より少ないが、それでも王都より民と近い感じが羨ましかった。
俺は身分階級のない日本で育ったというのもあるが、サファリア王都での高い壁を隔てた階級の差に違和感を感じつつ、こういう世界だから、と納得していた。
でも同じ国でも王都以外では、階級の垣根のない関係が築けるのだと知ることができた。
とはいえ、階級差を取り払うべきかは現段階では考えるべきではない。
日本の感覚では皆平等に、となるが、この国では階級があるからこそ成り立っている面もある。
貴族は魔法と領地経営の知識があり、平民は学がないし魔法も使えない。
現時点においては、国はうまく回っているし身分格差は考えなくても良いだろう。
ただ、以前からスルスが口に出す地方と中央、王都との格差については是正すべきかどうか、今回の視察で見極めたいと思っている。
とりあえず今日は我慢の日、と思いながらマネージャーばりに横でニコニコ時間制限を管理しているスルスと、途切れる先が見えない握手待機の人並みを見ながら、表情筋の筋肉痛を心配するのであった。
誤字脱字報告ありがとうございます!いつも助かっております!




