学園一年生34夏季休暇5 ベアトリスとのお茶会
75 学園一年生34夏季休暇5 ベアトリスとのお茶会
サファリアに戻り2週間、相変わらず家族サービスに努めたり、アランとフエゴと剣の鍛錬、ユアンとラファルと魔法の鍛錬を重ねてきた。
ベアトリスには驚くくらい会えないでいる。
それが誰のせいかもわかってはいるが、1ヶ月くらい耐えてやろう、と思っていたものの、会えないと会いたくなるのが人情の常だろう。
スルスと、その父のポリニャック領主であるアルガンと文のやり取りをして、明日からポリニャック領に滞在する手筈になっている。王都を離れる前に一回くらいベアトリスに会っておきたかった。
いつも通り母上に助力を願い、王妃からのお誘い、という形を取ってフェルディナンドに邪魔をさせない形でお茶会を開催した。母上をダシにさせてもらったことは申し訳ないが、母上も喜んで協力してくれたし、このお茶会が俺主導だと分かっていてもどうすることもできないフェルディナンドに一泡ふかせたと思うと、溜飲が下がる。
「ベアトリスちゃん、お久しぶりね。」
「お久しぶりでございます。」
今日のお茶会は夏は日差しが強いので庭園ではなく、茶会のために設けられた王宮内の一室だ。
母上と3人でテーブルを囲んで座る。
「ベアトリス、久しぶりだな。義兄上もお元気なようで何よりだ。」
会うことを邪魔するくらい元気で何より。ちっとも怒っていないけどな。
俺の含んだ意図に気づき苦笑いをさせてしまった。
「すまんな、意地の悪い言い方だった。ベアトリスはサファリアに帰ってからどう過ごしていた?」
「いつもお兄様が申し訳ありませんわ。
学園に通う前と変わらず、ユアン様の元で魔法の練習をしたり、友人のお茶会に参加したり、読書をしたりしておりますわ。」
「ベアトリスちゃん、たまには王宮にも遊びにきてちょうだいね。シャルルは明日からいないのだけど、アンリもシャルロッテも会いたがっていましてよ。」
「えっ」
「母上、私から話そうと思っていましたのに。ベアトリス、もっと早くに伝えたかったのだが、直前になってしまってすまない。明日からポリニャック領に行き、そのまま学園に戻る予定だ。次に会えるのは学園になるので、母上に頼んで今日ベアトリスに来てもらったんだ。」
「そうだったのですね、、、」
「せっかくの夏季休暇なのに一度しか会えなかったのは残念だが、来年は湖の近くの別宅にでも行って過ごそう。」
「シャルル、2人ではダメですからね。」
「わかっていますよ、母上。他に友人も呼びますよ。」
本当は2人で過ごしたいけど。この世界男女関係に厳しいんだよな。
「あの、ポリニャック領はスルス先生のご出身の領地ですわよね。視察か何かでしょうか?」
「ああ。スルス先生に案内してもらう予定だ。父上に許可をもらってな。」
「海があって、とても素敵なところよ。エスタニアとの交易が盛んでエスタニアの工芸品が沢山売っているわ。」
「まあ、私もいつか行ってみたいですわ。」
「そうだな。結婚したら色んなところに旅行に行こう。」
その前にドラゴン退治があるけれど。
3人でのお茶会は和やかな時間だった。
途中からは、母上とベアトリスの会話が多くなり、俺は2人の仲の良い様子を微笑ましく見ていた。
前世でも嫁姑問題という言葉があったように、義理の母子が仲良くなれないケースが良くある、という認識だった。うちは問題なさそうだな、と安心する。
「あら、すっかりお茶会の時間が長くなってしまったわね。シャルル、ベアトリスちゃんを送っていきなさい。」
と母上がいい、俺に片目を瞑る。ありがとう、母上。
「かしこまりました。それでは、母上。また夕食の際に。」
「王妃様、本日はお誘いありがとうございました。本当に楽しかったですわ。こちらで失礼いたします。」
母上に挨拶をして部屋を出る。
「行こう、ベアトリス。」
俺が片手を差し伸べるとベアトリスが掌を合わせてくれる。ベアトリスの手は俺の剣ダコができて硬い指とは全然違う、細くて柔らかい滑やかな指だ。
ベアトリスの指の間に俺の指を滑り込ませ手を繋ぐ。恋人繋ぎというやつだ。
「あ、あの、シャルル様。この繋ぎ方は。」
顔を赤くするベアトリスが可愛くて繋いだ手の指で彼女の手の甲を撫でる。
「ひっ!」
「どうかしたか?行こう。」
何も言えなくなったベアトリスを気にせず歩き出す。
ベアトリスは繋いでいない方の手でドレスを摘み、俺についてくる。
2人で王宮の玄関ホールへ向かう。ベアトリスはドアバック家の馬車で来ているので、馬車に乗り込むところまでの見送りだ。2人で過ごせるのは玄関までだ。
「本当にすまん、少なくとも魔法の修練の時には会えると思っていたから、なかなか伝える機会がなくて。出発日が決まったのは数日前なんだが、手紙ではなく会って言いたかった。」
「いえ、先ほども謝っていただきましたし。悪いのは全てお兄様ですから。」
「俺もすっかりフェルディナンド義兄上の存在を失念していた。次の新年の休みの際は事前に根回ししておくよ。」
「根回し、ですか?」
「ああ、次の休みからは義兄上に邪魔されずベアトリスと会えるようにしておくよ。」
そう言って微笑む。
方法は聞かないでくれ。
茶会の部屋から玄関ホールまでの距離はあっという間だった。既にドアバック家の馬車は玄関の大扉を開けた外の車寄せまで来ている。
馬車の前まで来て、後は馬車に乗り込むだけ、という状態で別れを惜しむ。
「別れの時間は毎回嫌なものだな。」
会えない時間も寂しいものだったが、やる事があると、気を紛らわすことができた。でも今、目の前にベアトリスがいて、またしばらく会えないと思うと繋いでいる手を離せなくなる。
「私も同じ気持ちですわ。」
そう言って俺の顔を見上げてくるベアトリス。
顔は赤いが、きりりとした紫色の瞳がしっかりと俺の目を見据える。
吸い込まれそうな色彩だ。
思わず抱き締めそうになったが、王宮の前でまだ日も落ちていない時間だ。理性を保ち、指を絡めるように握っていた手を解き、その手の甲に口付ける。
「毎回名残惜しいが、また会う日の喜びを想い耐えることにする。また学園で。」
「はい、シャルル様。また学園でお会いしましょう。道中お気をつけて。」
ドアバック家の馬車が走り去るまでその姿を見送り、俺は自室に戻るのだった。




