学園一年生32夏季休暇3 妹弟の時間、ドラゴンについて父との会合
父上との会合の時間まで、妹のシャルロッテとアンリの勉強をみてやることにした。
王宮の中の勉強部屋で教本とノートをテーブルに広げる2人を眺めながら、もし俺が命を落としたら2人がこの国を背負うのだ、しっかり勉強してもらわないとな、と切なく感じる。
そんな俺の目線が気になったのかシャルロッテが不安そうに尋ねる。
「兄様、どうかなさいましたか?」
「いや、なんでもない。2人共離れている間に大きくなったな、と思ってな。」
「半年しか離れていませんわよ。」
ぷくっと両頬を膨らませるシャルロッテ。なんとも愛らしいが、シャルロッテももう11歳だ。子供らしい仕草を注意すべきだろうか。
「姉上、淑女らしくないですよ。ベアトリス義姉上はそんな顔なさりませんよ。」
10歳の弟アンリに言われて顔を赤らめるシャルロッテ。
「アンリはすぐにお義姉様と比べるんですもの。兄様、注意してくださいませ。」
「シャルロッテ姉上が子供っぽすぎるからです。」
2人共仲が良いと思っていたのに、口喧嘩をしだすとは意外だった。
「2人とも、喧嘩はよせ。アンリもシャルロッテとベアトリスを比べるのは良くないぞ。」
「シャルロッテ姉上はベアトリス義姉上を見習うべきだと思うのです。」
....なんでアンリも顔を赤らめているのか。
「ベアトリスも小さい頃からしっかりしていたわけでは、、、いや、5歳の時には既に淑女らしかったな。」
初めて会った時のことを思い出す。
あの頃から綺麗な礼をできて、知らない相手と話さない立派な淑女だった。
「兄上はそんなに前からお知り合いだったのですね。」
なぜか拗ねてしまうアンリ。
「ベアトリス様と兄様の出会い、ぜひ聞きたいですわ!兄様、教えてくださいませ!」
「秘密だ。雑談をするためにいるんじゃないぞ。勉強をするぞ。」
あの時のことは良い思い出だ。話しても良いが、2人に話すとするとただ庭園で会った、という事象だけになる。その時に俺がどう感じたかとか、そんな話は聞かせる気もない。
質問に答えてもらえず不服そうな2人だったが、無視して勉強に入る。2人とも勉強は普段からしっかりやっているようで、あまり教えることはなかったが、わからないところをみてやることができた。兄としての尊厳は保たれたようで、2人とも目をキラキラさせてくれていた。
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昼になり、父上との約束の時間になったため、父の執務室を訪れた。
執務室は落ち着いた雰囲気の装飾で、大きな黒檀の机には書類が山積みになっており、父の忙しさが伺えた。机の後ろには書棚、前には一段下がったところに応接スペースがあり、そこで待つよう指示された。宰相のベルナールが椅子に座った父の後ろに控えて立っており、2人で何事かを話し合っていた。
「すまん、もう少し待ってくれ。ベルナールは外した方が良い話しか?」
少し考えたが、ベルナール宰相がいても問題ない内容だと考え、そう伝えた。
2人の仕事がひと段落し、侍女に飲み物を頼み、場から下げさせた後、執務室に居るのは父、宰相、俺の3人となった。
「本日はお忙しいところ、お時間いただき有難う御座います。」
「この場にいるのは気軽い者だけだ。前置きはよい、本題を話せ。」
父の言葉に甘え、早速本題に入った。
俺は学園にいる間に知ったドラゴンの話をかいつまんで説明した。
荒唐無稽な御伽話だと思われないように、サファリアだけでなくアカサンドリアの史実にも残っており、実在の魔物としてドラゴンは存在する可能性が高く、いつ現れてもおかしくないと考えている事。防衛についてどう考えているか知りたい事。王族にだけ伝わる伝承が残っているなら知りたいという事。俺だけでなく、学友も含めて話し合った事。
俺の話に口を挟まず聞いていた2人だったが、耐えきれなくなりベルナール宰相が笑い出した。
「くくく、、はははっ。」
「宰相!私は真面目に話しているのです。」
夢見がちな少年の戯言と思われてもおかしくないことはわかっていた。わかってはいるが、そう思われないよう話したつもりだったが、やはり面と向かって笑われるとムカつくのだ。
「シャルル様、すみません。やはり親子だな、と思いまして。」
ベルナールの言ったことが理解できず、父を見ると机の上に両肘をつき、両手を組んで頭を垂れていた。
「父上?」
父は無言のままだが俯いた顔が赤くなっているのがわかる。
「ダール、私から話しても良いだろう?シャルル様がおっしゃった内容は私達が若かりし頃、お父上のダール王も私や騎士隊長のアラン、王宮筆頭魔導士のユアンに伝えられた内容なのですよ。」
ベルナールの言葉に父上を凝視する。
父は俯いたままだ。否定をしないということは、肯定しているということだろう。
「いや、驚きました。シャルル王子もドラゴンを脅威と考えられているとは。
ベアトリスが魔法の勉強を熱心にやり出したのはシャルル王子の進言だったとは知っていましたが。
学園入園前からシャルル様はドラゴンと戦うことを想定されていたのですかな。」
ベルナールの目が鋭くなったように感じ、正直に答える。
「すまない、ベアトリスを巻き込んでしまって。宰相の考え通り、昔からもしもの時を想定していた。ベアトリスは魔力が強い。戦力として考えている。ドラゴンの脅威を確信したのはアカサンドリアの史実と照らし合わせた時からだが、例えドラゴンが現れなくてもベアトリスには強くなってほしいと思っている。」
深いため息を吐き、ベルナールが言葉を発する。
「ダールと私は、王と宰相という立場ですが友人でもあります。シャルル様はダールとよく似ていらっしゃる。考えとしては理解できますが、ベアトリスの親としては魔物と戦うなどという危険な事をさせるのは勘弁願いたいところです。」
親としてのベルナールの気持ちがわかるだけに神妙に頷く。
「とはいえ、あの子は信念の強い子です。私が言っても納得しないでしょう。シャルル様があの子に戦うよう仕向けたのであれば、あの子を守っていただけますね?」
「約束しよう。」
ベルナールの真剣な眼差しに間髪いれずに返答をする。
「シャルルは、ドラゴンに対してどう対策をするつもりだ?」
今まで黙っていた父が顔を上げてこちらを見ている。
「はい。私、ベアトリス、ラファルは高等魔術の鍛錬。フエゴと私、アカサンドリアのテールは武術の腕を磨いております。単純な戦力だけでなく魔法陣の勉強をしております。」
「魔法陣?」
「はい。リセドール学園が魔法陣により防御結界を張っていることはご存知だと存じますが、防御以外にも応用がきくことがわかっており、ドラゴンとの戦いを優位に進める上で活用したいと思っています。」
「そうか。俺の世は、アラン率いる騎士団の増強、ユアンの魔法による国の防御率結界と、戦力を増強し、ドラゴンが来た場合に備えていたが、お前も色々と考えていたのだな。もっと早く話し合うべきであったな。」
「父上、、、、」
まさか、父もドラゴンに対処しようとしていたとは。今までいくらでも話し合う機会があったのに、考えもしなかった。
「王族の伝承、というものはないのだがな。史実と物語から、ドラゴンの存在を現実のものと考えるというところがベルナールの言う通り親子だな。」
と照れ臭そうに笑う父。すみません、俺はゲームの内容からで、そっちは後付けです、と思いながら一緒に笑う。
「ドラゴンがいつ来るかはわからん。災害みたいなものだ。そのための備えは国王として考えておく必要がある。これからは一緒に考えていこう。」
そう父から言ってもらえてほっとする。
「ありがとうございます。」
本題は話せた。ここからは別の話になる。




