学園一年生28 ベアトリスとシャルル2
お茶のおかわりをもらい、寛いでいる最中、嫌な感覚がして、そちらに目を向ける。
草原に出る魔物の一種、イエローバタフライが近くまで飛んできていた。
どちらかというと弱い魔物だが、ベアトリスと一緒にいるため慎重に対処しなければ、と思い無言で立ち上がり剣を抜いて身構える。
20mは離れているため、今のところ襲ってくる様子はない。
「シャドウエッジ」
黒い刃がイエローバタフライの羽を無惨にもズタズタにする。
地に落ち、破れて、ほとんど原型を留めていない羽をバタつかせて逃げようとする。
俺は駆け寄り、剣でトドメを刺す。
「シャルル様、鱗粉が薬に使えますので魔石はまだ取らないでくださいませ。」
そう言ったベアトリスがイエローバタフライの死骸に近づき、手持ちの小瓶に羽から鱗粉を採取する。
「えらく冷静だったな。」
「はい、魔物については図鑑や書物で読んでおりましたから。」
イエローバタフライから魔石を取り、忘れていた腕輪の認識阻害効果を発動してベアトリスに話しかける。
内心物凄く驚いている。恐らく彼女は魔物と戦うのは初めてなはずなのに、なぜここまで冷静でいられるのか。
「本と実物では全く違うだろう?怖くなかったか?」
唇に指をあて、首を傾け少し考えるベアトリス。
その仕草可愛いな。
「見たところ、あまり怖そうに見えませんでしたし、魔物図鑑でも最低ランクの弱さ。攻撃内容も鱗粉を飛ばした麻痺攻撃くらいでしたでしょう?羽を落として動けなくすれば、全く問題ないかと存じましたの。シャルル様もいらっしゃるし、特に怖くは感じませんでしたわ。」
ぷっと吹き出してしまう。
「私何かおかしいことを言いまして?」
困った顔のベアトリスが余計に面白く感じてしまう。
「いや、弱いとはいえ、魔物だろう?そこまで生態を知っていたとしても、普通は怖がると思うのだが。」
「と、言われましても、、、。大きな蝶々だとは思いましたけれど。見た目が怖くなさすぎるのが悪いのですわ。私のせいではございませんわ。」
「確かに、ただの大きな蝶だ。」
実際は大きな蝶どころではない。羽を広げたら3mくらいはあるのだ。
ベアトリスの感覚は一般人のものではない。
しかも、魔物学の授業で習った通り、鱗粉の採取まで意識がいっている。
「ベアトリスは豪胆だな。」
「そんな風に言われたことはありませんわ。でも、悪くないですわね。」
ふふふ、と優雅に微笑むベアトリスは、確かに悪役令嬢としての役どころに合っているように見える。
俺にはその微笑みはとても魅力的に感じた。
「魔物学の授業もあと数回で実技に入るが、ベアトリスは問題なさそうだな。」
学問として魔物の生態を勉強する魔物学の授業は、実技に入ったら少なくない脱落者が出ると聞いている。
実際に魔物と対峙するとすくみ上がってしまう者は少なくない。
本能で恐怖を感じてしまうのだ。
例えそれが、最弱といわれ、動きが鈍いスライムだったとしても、魔物と戦う経験など、大半の者が持っていない。
騎士団関係者以外なら、逆に平民の方が、採取に行った時に遭遇する機会があるだろう。
親が地方領主で、領地の魔物討伐に付き合わされていたならともかく、中央に属している貴族では、街中から出なければ魔物に会う機会はない。
ましてや、ベアトリスは深層の令嬢、またの名を引きこもりとして過ごしてきたのだ。魔物に初めて出会ってまともに動けるとは考えなかった。
「色々な魔物に出会えるのは楽しみですわ。図鑑や授業の通りなのか、とても興味深いですわね。」
薄々気付いていたが、ベアトリスはスルスのような、研究者気質、もしくはもっと奥の深いヲタ気質があるようだ。
本も然り、魔物も然り、熱中するとそのことを考えすぎ、他のこと、恐怖心なんかも捨てているようだ。
俺としてはそういった気質は全く気にならないというか、寧ろ美徳だと思っている。
「ベアトリスのその前向きな姿勢、俺はとても好ましいと思う。」
と。率直に思ったことを投げかけ、ベアトリスに微笑みかける。
ベアトリスは照れてしまうとうつむいてしまうので顔がちゃんと見れなくて残念だ。真っ赤な顔で俯いているベアトリスはとても可愛いので、その顔を眺めるのも楽しいのだが。
帰りの馬車の中で、一月に一度くらいはこうやって2人きりの時間を過ごしたい、と願い出たら、こくこくと頷いてくれた。
「本日もとても楽しかったですわ。まだ、シャルル様と2人きり、というのは緊張いたしますが、これからもよろしくお願いいたします。」
「数年後には一緒に暮らすことになるのだから、緊張していては身が持たないぞ。」
と言ったら顔を赤くして俯いてしまった。
照れるベアトリスはとても可愛いが、もう少し慣れてくれても良いと思うのだが。




