学園一年生25 ランチタイム テールとフエゴ
月曜日ランチタイム。
シャルルは昨日ベアトリスから受け取った1000年前
の恋愛小説を読んでいて学園に来ていない。ベアトリスとラファルは1時間目の武術、それぞれ槍と弓の授業を受けた後帰寮したため、食堂にいるのはフエゴとテールだけだ。シャルルがいる時はシャルルが中心となって話をすることが多いが、いないなら、いないなりに話ができる程度には仲良くなっている。
「やっほーフエゴ。シャルルがいなくて残念だったねー。」
「別に。ベアトリス様が訳された本を読んでいらっしゃるのでしょう。今日は午後の授業までは学園にいらっしゃらないと思っていましたから。」
「とかいいながら、ガッカリしているように見えるよ?」
「テール様と2人、というのが釈然としないだけです。」
言葉は丁寧だが慇懃無礼な態度でテールに接するフエゴ。
「フエゴ、態度に出るんだから口調も普通でいいよ。様付けで呼ばれるとむず痒いんだよね。」
「ならそうさせてもらうわ。シャルル様がいないところまで敬語使うの疲れるし。」
「、、、えらくあっさりだね。シャルルにも敬語使うなって言われてんでしょ?」
「シャルル様は別だ。」
「たまに間違って普通に喋ってるくせに。」
「!そ、そんなことはない!」
「ふーん。」
「テールこそ、まだ会って一月くらいなのに随分親しげだよな。」
「なに、妬いてんの?」
とにやにや笑いかけるテールにイラッとしたのが顔に出るフエゴ。
「しゃあないじゃん、アカサンドリアでは友人なんて作れなかったし、同じ王族だから話しやすいんだよね。」
そう言われると、テールの国での内情を聞かされている立場としては何も言い返せなくなる。
「、、、王族って大変そうだな。」
「まあ、俺はともかく、シャルルは王族ってことにプレッシャーとか、ドロドロしたこととか背負ってないから大分立場は違うけどね。むしろ、あの能天気さが羨ましいよ。」
「能天気というか、鈍感というか。シャルル様は独特な方だな。」
と、2人で苦笑いする。
「学園でもさあ、あれだけ周りから注目集めているのに本人は気にしていなさそうだし。昔からあんななの?」
「俺はほとんど騎士団で剣の相手か、魔法の練習でお会いするくらいだったんだけど。たまにパーティーとか行くと周りの反応が酷かったな。」
「だろうねー。想像できるよ。」
「本人は王族だから注目されると思ってるみたいだけどな。」
「それにしたってあんなに熱のある視線を受けたらわかりそうなものだけどね。」
明らかに友人のものではないフエゴの視線にも気付いていない様子だからな、と不憫に思うテール。
「そういえば、数週間前2人で街に行ってたじゃん?腕輪の効果どうだった?」
「あれは凄かったな、、、。あのシャルルが全く注目されなかった。俺が1人で喋っているみたいで、俺は変な目で見られちまったけど。
あ、でも酒場でシャルルが酔っ払っちまって寝ちまったら効果が切れた。」
「えーいいなー酒場とか楽しそー!今度俺も一緒に行く!」
「シャルル様にあまり飲ませすぎないならな。2人も担ぐのは俺でも厳しい。」
「なんで担ぐ前提なんだよ。俺は酒強いから大丈夫だし。シャルルそんな弱いの?」
「いや、そんなに弱くはないと思うぜ。ただ、飲んだ量とペースが、、、多分初めての平民街でテンションがおかしかった。」
「サファリアは平民街、貴族街、王城でかっちりわかれてるもんねー。初めての場所ってテンションあがるよね。」
「庶民料理がえらく気に入られたみたいで午前から食べ過ぎて動けなくなってた。」
想像して吹き出すテール。
「あはは、シャルルも可愛いところあるじゃん。」
「いつも王子として気を張っているんだろうな。あの日はシャルル様も普通の同い年の少年みたいだった。」
と言いながら思い返しているのだろう、幸せそうなフエゴの表情に、揶揄う気が失せるテール。こんな顔でシャルルのことを語ったら、本人にもベアトリスにも気づかれそうなものだけれど、あの2人が全く気づいていないというのは凄いな、と思う。
「あのさあ、話は変わるんだけど、もしシャルルと出会ってなかったとしたら、フエゴはあのマリアという女と仲良くなってたと思う?」
「ありえん。」
「いや、ちょっと真面目な話なんでもうちょっと考えてから話して。」
シャルルから以前打ち明けられた夢の話の中で、マリアが中心となってドラゴンと戦うという点がテールの心に棘のように引っかかっていた。
自分は、シャルルに絡む女という第一印象が悪すぎて、仲良くなるところがどうも想像できない。シャルルの夢が予知夢なら、マリアと仲良くなる可能性があったのだろうか、と想像しようとしても難しい。
シャルルに惚れてしまっているフエゴも、もしシャルルに会う前にマリアと会っていたら心惹かれていたのかもしれない、という思いから聞いてみたかったことだった。
「何の意図があるかしんねぇけど、いくら考えてもああいう女は苦手なんだよ。」
「ごめんね、俺も苦手なんだけどさ。もしシャルルと会ってなくて、普通に出会ってたらどうだったかな、と思ってさ。」
「なんかシャルルに聞いたのか?」
「え、フエゴも何か聞いてる?」
「いや、あの女のこと、気にしているみたいだったから。」
失敗したな、と思うテール。恐らくシャルルの感じからして誰にも、夢の話もマリアのことも話していなかっただろうに、フエゴはシャルルの様子からマリアに何かあると察していたようだ。自分がシャルルから、フエゴの知らない情報を聞いていることを今の迂闊な発言でバレてしまったことに気付く。
「ごめん、内容は言えないんだけどさ。俺に話したのは王族という立場だからで、シャルルがフエゴのことを信頼してないとか、そういう事ではないよ。」
一応フォローはするものの、明らかに沈んでしまうフエゴにこれ以上何か言っても言い訳にならないのがわかり、口を閉ざす。
しばらく重苦しい沈黙が続き、耐えきれずテールが口を開く。
「シャルルはさ、色々と鈍いやつだけど、抱えているものがある。お前とかラファルとか、友人がいて救われているところもあると思うよ。ベアトリスちゃんみたいな可愛い婚約者もいるし、心配することはないと思うんだけど。」
「抱えていることを話してくれないのはなんでなんだろうな。ドラゴンのことがその一つだろ?存在するかも、という可能性だけであんなに固執するのはおかしい。」
「、、、まあ、そうだよね。わかりやすいよね。」
「王族にしか言えないっていうなら俺が直接シャルルに聞く事はできねえけどさ。なんか抱えてるなら言ってくれりゃあいいのに。」
「お前、可愛いな。」
「はあ?気持ち悪いこと言うんじゃねえよ」
微笑ましい気持ちになるテールと、疎ましく思うフエゴ。
シャルル以外の学友達も充分に見目麗しいため、シャルルがいない時でも注目を浴びていることを彼等は気付いていない。2人の様子は、何を話しているかはわからなくても、遠目に暖かい目で見守られているのだった。




