水の攻略者スルス・ポリニャック3
魔法重視で中央集権。
煌びやかな王宮と鼻もちならない貴族達。
私が抱いていたサファリア王国のイメージは、シャルル王子と接する内に変わっていった。
黄金の髪に、女神のような美しい容姿、強い魔力を持ち、高等魔法の使い手。さぞかし甘やかされて育ち、地方領地の貴族など下に見てくるだろうと思っていたが、彼は煌びやかな外見に反して、内面はごく普通の真面目な生徒だった。サファリアでは軽視されている魔法陣の有用性を理解しており、認識阻害の腕輪の対価としての魔導書写本が終わった後も私の研究室で学んでいる。
ある日、シャルル王子とその学友から、高等魔法を授業で使いたいので魔法陣でなんとかならないかと相談を受けた時は肝が冷えた。
まだ知識のない彼等にはわからないだろうが、非常に難易度の高い申し出だった。高等魔法は使用できる者自体が少なく、果たしてどれほどの高威力なのか、私にも正確には分からない。ただ、上級魔法の数倍の威力、と考えるとそれに耐えうる障壁が必要だろう。
そして、通常の障壁は外からの攻撃を防ぐものなので、反転させる必要がある。
流石に骨が折れる内容だとは思ったが、出来なくもないだろう、と思い引き受けたが、数週間を潰すことになってしまった。
効果が心配で彼等の魔法の授業に付き添ったが、無事発動してくれてホッとした。
シャルル、ベアトリス、ラファルの3人から魔法陣へ魔力を供給しながら高等魔法を発動して、よく魔力切れを起こさないものだ、と感心したが、やはり高等魔法の連発は厳しいようだった。
これだけの強度を持つ障壁を張り続けるには魔力がかなり必要だ。
時間があれば、障壁への魔力供給を手伝いに来ると言えば、3人とも喜んでいた。特にベアトリス、ラファルはまだ高等魔法の練度が足りておらず、もっと練習がしたいようだった。高等魔法が使えるというだけでも充分な気がするが、シャルル王子が前に雑談で言っていた、ドラゴン、は仮定としても強い魔物と戦うことを想定しているのかもしれない。
王妃になるベアトリスまで熱心に魔法を練習しているのは流石にどうかと思うが。
シャルル王子は、魔法陣を書きなれない内は、細かな点で失敗する事が多かったが、たった数日でコツを掴んでいた。普通の生徒と比べ、頭の出来が違うのだろう。
数週間たった今では、手本の魔導書に記述された魔法陣を正確に書き写している。
基本的に私も研究があるため、2人で無言でいる事が多く、ペンの音と本のページを捲る音だけが聞こえる。その静かな空間が最近では心地良く感じている。
シャルル王子が私の研究室に来るようになり、少ないながらも言葉を交わす中で私も勉強になる事があった。
今まで1人で研究をしていると、行き詰まりを感じる事があったが、シャルルと話していると新しい発想が出てくる。先日の魔法を閉じ込める障壁等、1人では考えもしなかった。新しい魔法陣の開発には心が躍る。
彼は認識阻害の件も魔法の授業の障壁の件もそうだが、具体的な課題を持ってくるので、それに対する対応策を私が考える。これではまるで教師と生徒が逆転しているかのようだ。
過去に開発された様々な魔法陣を学ぶだけでなく、課題に対して新しい魔法陣を開発していく、という作業は私に取っては新しい学びの場になるためとても好ましい。
彼の学友は何故か、魔力量が多い者ばかりなので今まで試せなかった魔法陣も試せるだろう。
彼との出会いは私にとって僥倖だといえるだろう。
この後、ドラゴンとの戦いを想定した魔法陣の研究と開発に頭を悩まされることになるとは、この時は考えもしなかったのだが。
ちょっと短かったです。申し訳ありません。




