水の攻略者スルス・ポリニャック1
私の名はスルス・ポリニャック。
サファリアのポリニャック家の長男として生まれた私は幼少の頃からこの髪色の濃さから魔道士になるだろうと言われて育ってきた。
父は領地経営に注力するタイプの貴族で、王都には年に一回ほどしか行かず、大半の時間を領地で過ごしてきた。私も父が治めるポリニャック領で生まれ育った。
ポリニャック領はサファリアの南東端にあり、海に面していて、海を挟んで南にある島国エスタニアとの交易で栄えている港町だ。
ポリニャック領の北側には森があり、王都へ向かうには森を避けて一度西に抜け、リセドール学園と王都を結ぶ主要道路まで出る必要がある。
父は年に一度は王都まで仕事や社交で向かうが、私には王都へ行きたいという欲求がなかったこともあり、ポリニャック領の中だけで過ごしていた。
ポリニャックは交易で栄えていて活気があり、人口も多いため、退屈する事はなかった。
10歳の歳に王への謁見がある王族のパーティーに出席することが義務付けられているため、初めて王都へ行った。
王都は平民街と貴族街、城内とそれぞれ城壁に囲まれて区別されていた。
ポリニャック領は私の親族のみが貴族で、領主の城はあるが、大半が平民ということもあり、勿論その間に壁はなかった。領内では平民は近しい存在だったので王都の様相に激しく違和感を感じた。
父が王都に滞在するための屋敷が貴族街にあり、数日をその屋敷で過ごした後、身支度を整えて王族のパーティーへと向かった。
城内は、小さな村がすっぽり入ってしまいそうな広さがあった。
王族が住まう王宮以外にも様々な施設があるためだとはわかったが、それにしてもここまでの広さが必要なのか、騎士団や魔道士といった武力が中央に集中する必要があるのか、と疑問を抱いた。
ポリニャックの周辺は魔物が少ない方だとは聞くが、それでも少ない戦力で領内の衛兵が対峙している。王都の騎士団や魔道士を各領地に分散してくれれば、もっと楽になるだろうに。
サファリアでは、王宮魔道士は花形の職業で、優秀な魔道士は皆王宮魔道士として中央に集まり、各領地は基本的には領主一族しか魔法を使えないという状況だ。ごく稀に平民でも魔法を使える者がいるが、基本的には貴族しか魔法を使えない。魔道士が中央に集まらなければ、魔道士である貴族も、地方の領地に雇用される状況が生まれただろう。
当時10歳ではあったが、王都と地方領地の格差を目の当たりにした私は悶々とした気分になった。
パーティー会場の王宮は、人が住むところなのか?と感じるほどの広さと煌びやかさを兼ね備えていた。
初めて親族以外の貴族たちが集まっている場に立ったため、脚が竦むのを感じた。
落ち着いて周りを見渡すと、流石に貴族の集まりだけあって、自領の平民たちより髪色が皆濃く、貴族の魔力の濃さを実感させられた。
その中でも特に髪色の濃い私は、
「将来が楽しみですな。」
「やはり魔道士を目指されているのかな?」
「王宮魔道士を確約されているとは羨ましい」
と、初対面の貴族たちから次々と声を掛けられた。
辟易しながらも笑顔で無難に返していたところ、椿の葉のような濃い色の緑の髪濃い、柔らかな笑顔の男に話しかけられた。
「こんぱんは。ユアン・ドルブリューズという魔道士だよ。将来有望な魔道士候補がいると聞いて挨拶にきたんだ。」
「初めまして。スルス・ポリニャックと申します。まだ魔法も習っていない身です。魔力量は優れているかもしれませんが、将来のことはわかりません。」
皆私が魔道士を目指していると思って話しかけてくるが、私はまだ魔道士になるとは決めていない。
「君がなろうと思えばなれるとは思うけどね。他にやりたい事があるようにも見えるね。」
ユアンは花形の職業である魔道士になりたいと言わなかった私に驚きもせず、私の心を見透かしたかのように返した。
「やりたい事は、あります。」
魔力量が多いというなら、この力は初めて来た王都よりも、生まれ育ったポリニャック領の自衛と発展の為に使いたい。王都に来て、その思いが明確になった。
「周りが何と言おうと、君は君のやりたい事をやればいい。君が望まないなら、王宮魔道士への強引な勧誘は学園卒業後も行わないから安心したまえ。」
と、にっこりと笑いユアンは立ち去った。
後々知ったことだが、ユアンは王宮筆頭魔道士だった。
学園卒業後、王宮魔道士への勧誘があれば、普通の貴族は断る事が出来ないというのが常識だそうだ。
ユアンは私が王宮魔道士になることを望まない、という想いを尊重して、強引な勧誘を行わないとあの場で約束してくれたのだ。




