学園一年生21 水曜日午後 魔法陣学、図書館、風呂
午後の授業 3時間目は魔法陣学。スルスが講師を務める授業だ。
今回は前回と逆に冷やす効果のある魔法陣の実技だ。
グラスに魔法陣を書き込んで、飲み物を冷やす。
「あら、うまく冷えないですわね。」
「ここの線が少しずれているよ。」
この1週間、スルスの研究室に通い、写本でもっと複雑な魔法陣を書いていたので目が慣れていた俺はベアトリスに間違った部分を指摘できるようになっていた。
2限目に覚える、小さな対象物を冷やす魔法陣はシンプルな形状なので、すぐに自分の分は終わってしまった。
とはいえ、前回も今回も、魔法陣の中ではシンプルな構造なのは分かるが、魔法陣を覚えることは難しい。書き溜めておいてあとで見本を見ながら書くか、魔導書を見ながら書くかしないと無理だろう。
呪文の詠唱を覚える方が簡単なので、あまり魔法陣を使うものがいないのだろうと推測する。
スルスは生徒が書いた魔法陣を一つ一つ確認して、俺が写本をしている時にしたように細かい指摘を行っている。時折顔を歪めているところをみると、著しく間違えて書いている生徒もいるようだ。
俺たちの近くにきて、確認をする。
「よろしい。」
そういって次の生徒にむかう。
先程直したベアトリスもラファルも正しく書けて、グラスは冷えている。
前回の手袋を温める魔法陣より少しだけ複雑になった、というだけで正しく書くことができない生徒が増えた。
このペースで難易度を上げていくのであれば脱落する生徒がでてきそうだな、と少し不安になった。
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ベアトリスもラファルもこの後の授業がないため、一緒に図書館に向かった。
テールが先に来ていて、閲覧場所に数冊の資料を広げていた。
「めぼしい資料は探しといたから読むの手伝ってー。」
「すまぬな、助かる。」
ベアトリスとラファルは物語系の本を探しに行き、俺とテールは史実系を中心に関係のありそうな箇所を探す。
リカルディアの史実では、1000年ほど前の記述を中心に読み込んでみたがらドラゴンの文字を見つける事は出来なかった。
他国の史実も、1000年前に絞って探したが記述はなかった。
引き続き、1000年前に絞らずにリカルディアの史実を読み進めていく。
駄目だ。何も繋がらない。他国へ戦争を仕掛けたという歴史もなく、ドラゴンの記述もない。
「テール、そちらはどうだ?」
テールは砂漠の国 サラストリアの史実を読んでいた。
「うーん、めぼしい情報はないなあ。ドラゴンが出たという記録は載っていないし、他に関係ありそうなのもないね。」
「テールの先程の案から、リカルディアは他国を侵略する意図があったと思ったのだが。一度も、どの国に対しても戦争を仕掛けていなかった。まあ、一般的な史実として残しているものだから、あえて残さなかったのかもしれないが。」
「他国の資料には残っているかもしれないから、また明日にでも他の国も見てみようか。リカルディアがドラゴンを仕掛けたというのもあくまでも推論だからね。」
「違いない。ただ方向が合っていただからな。懸念に終わってくれた方が良い。」
今日はいい時間になってきたので終わりにしよう、と思いベアトリスとラファルを探す。
「ベ、ベアトリス?」
大量の本が積み重ねられ、その本の山に潜むようにベアトリスがいた。
「シャルル様。私が覚えているドラゴンが出て来る本を集めてみたのですけれど。その中から情報に値する本を選ぼうと思いまして。」
いったい何冊あるんだ?
「シャルル様ー。」
「ラファル。」
ラファルは両手に抱えられるくらいの本を持っている。普段なら大量に見えるが、ベアトリスの周りに積み重ねられた本を見た後では少量に感じてしまう。
「リカルディア出身の作者の本を集めてみましたー。かなり少ないのですがー。」
読書家の2人は別アプローチで本を選んでくれたようだ。
ベアトリスの周りの本が多すぎて、ラファルが一緒に選別してくれたがそれでも数十冊になった。
ベアトリスには古書の解読も頼んでいるため、俺とテールも10冊ずつ受け持つことにした。
この量なので、物語の記述のまとめは期限を2週間後にし、くれぐれも無理をせず、皆が纏めた内容を共有することにした。
ベアトリスがとても張り切ってくれているようで嬉しくはあるが、頑張りすぎないように念を押しておいた。
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大風呂にて。
「って感じでベアトリスちゃんが凄かったんだよー。」
先程いなかったフエゴに対してテールが図書館での様子を説明する。
「俺も何冊か受け持ちましょうか?ベアトリス様の負担が大き過ぎるのでは。」
「得意分野の読書でシャルルの役に立てるのが嬉しいんだろうねー。やっぱ可愛いよね、ベアトリスちゃん」
とテールはニヤニヤする。
「こちらでもっと受け持つと言ったんだがな。頑張りすぎて寝不足にならなければ良いが。フエゴが協力したいという気持ちは理解するが、今日は4限とも授業があったのだろう?授業の妨げになってはいかんからな。」
「はい、、、すみません。もっと学園前に勉強しておけば良かったです。」
「本来は学園で勉強をするのが普通だ。気にするな。」
フエゴ以外の4人がたまたま変わっていただけで、フエゴくらい授業をとっている生徒が大半だ。俺たちの中にいると気遣ってしまうのだろう。
「あ、そういえば、前に」
とフエゴが何かいいかけてテールの方を見て口をつぐむ。
「なんだ?テールに聞かれたくない内容なら離れるか?テールすまん、少し遠くで話をしてもよいか?」
「いいよー。俺には聞かれたくないって言われると気になるけどねー。」
とニヤニヤ笑いをしているテールから離れて話を聞く。
「すみません、あのマリアという女のことです。」
「今日、歴史、地理、法律と授業が被る日でして。前にシャルル様に教えてもらった通り、授業開始時間くらいに入って離れることに成功しました。
ただ、どの授業もあの女の周りに人がおらず、クラスの雰囲気を見ると避けられている感じがしました。なんかやったんですかね?」
俺は少し考える。ゲームで悪役令嬢として主人公のマリアをイジメる筈だったベアトリスは、現実ではマリアの存在はテールの冗談話の中でしか知らない筈だ。ベアトリスがいなくてもやはりゲーム通りいじめられているのだろうか。
「いや、俺には思い当たることがないな。平民だから疎外でもされているのか、、、不憫だと思うが、俺も当面関わる気がない。気にさせて悪かったな。」
「終わったー?なんの話だったのー?」
「何でもない。国の話だ。」
「本当ー?」
その後、俺とフエゴが何を話していたか聞きたがるテールに絡まれたが、長風呂し過ぎるとまたフエゴが倒れるぞ、と脅して風呂から出た。




