学園一年生16月曜日 研究室、 秘密暴露
月曜日の朝、軽く二日酔いな状態で目を覚まし、昨日のことを思い出してベッドの中で悶える。
一日中グダグダだった俺に、フエゴがむけていた呆れ顔が頭に浮かぶ。
どんだけ気が抜けていたんだ!失望していないと言ってくれたものの、王子として昨日の俺はダメなところばかりだった。
馬車に運んでもらってから記憶がないってことは馬車からこの部屋までも運んでもらったのだろう。
今日会えば先日のラファルのような冷たい視線を浴びせられそうな気がする。
今日は武術の授業が4時間目にある。嫌だなあ。行きたくないなあ。と思うが、授業は出ないといけないのでせめてそれまでは会わないようにしよう、と思う。
スルスから腕輪の対価として魔導書の写本を頼まれているので、昼食用のサンドウィッチを食堂でもらい、朝からずっとスルスの研究室に籠った。
朝イチはスルスはいなかったが、途中で来て、少し俺がいることに驚いたようだったが特に話しかけてこず、自分の研究をしているようだった。
昼の時間になってもスルスは何かしていた。
「スルス先生、昼食は?」
話しかけても無反応だった。
「スルス先生!昼食は食べないのですか!?」
大声で聞いてみるとようやく気付いたようだ。
「ふむ、、、今は忙しいので、1人で食べなさい。」
あー、これ、熱中しすぎて食事を碌に取らないタイプだな、と気付いた俺は持ってきていたサンドウィッチの半量を強引にスルスに食べさせようとする。
「何をするんだ?君は。やめなさい。」
「しっかり食べないと倒れますよ。研究も中途半端になります。」
「む、、、倒れては困る。」
割と素直なヤツだな。自分で食べ出した。
研究の手を止めたスルスに質問する。
「先生は、魔法陣のことはかなり詳しそうに見えるのですが、何をそんなに熱中することがあるのですか?」
俺に作ってくれた腕輪にあっさり描いた魔法陣、魔術の授業のための防御結界魔法陣と、知識量、発想力共に3年でここまで極められるとは思えない。
「ふむ、、、シャルル王子は私が魔法陣について詳しいと思っているのだね?」
こくりと頷く。
「確かに、私は学園に入る前から魔法陣について学んできた。学園に入ってからも、貴重な魔導書を見れるようになり、更に研究を進めた。だが、その深淵には遠く及ばん。一生かけても真理を掴めそうな気がしない。」
うん、よくわからん。
よくわからんがら現状まだまだ、と思っていることはわかった。
「奥深い世界なのですね」
と無難な感想を伝えておく。
スルスは嬉しそうにしてまだ語っていたが、よくわからないので笑顔でスルーしながら写本を続けた。
******
4時間目の武術の時間、俺は昨日のことはなかった体でフエゴに接しようと誓い、深呼吸をして武術練習場に向かった。
幸いフエゴはまだ来ておらず、テールが先に来ていたので話しかける。
「さわやかな朝だな。」
「何言ってんの?もう夕刻にさしかかるよ。」
「朝のようにさわやかな日だと言いたかったのだ。」
いかん、既にテンパっているようだ。変な挨拶をしてしまった。
「おはようございます!」
「おう、フエゴ。おはよう!」
テールが変なものを見る目で俺たちを見ている。
昨日のことが恥ずかしくてフエゴの顔が見れない。
「なんか、2人とも今日変だよね?昨日なんかあった?」
『何もない(ありません)!!』
俺とフエゴの声が被る。
訝しげに俺たちをジロジロと見てくるテールの視線に、目を逸らす。
「そんなことより、授業が始まるぞ。講師の言葉を聞くぞ」
と誤魔化し、講師の説明を聞き、今日の授業に入る。
「絶対昨日なんかあったよねー。」
と授業が終わってからもテールに付き纏われる。
フエゴはうまいこと逃げ出した。礼と謝罪、デリアからフエゴに伝えろと言われていたが、デリアに言われずともフエゴに伝えたかった。
「しつこいぞ、何もない。昨日平民街に行っただけだ。」
テールを遇らう。
「はあ、こっちは国の用で大変だったのに2人は楽しそうだなあ。」
「国の用、か。何があったか聞いてもいいのか?」
「うーんごめん、秘密なんだあ。くだらない内容だけど、他言はできないんだよね。」
そう言われると他国の王族の俺が聞いてはいけない内容だと察する。
俺は話題を変えることにする。
「テールは平民街に行ったことがあるか?」
「シャルルはやっぱり不勉強だね。アカサンドリアは貴族街と平民街は分かれていないんだよ。洞窟の中に街があるからね。」
そうだったのか。だから寮にいるアカサンドリアの貴族も服装が平民みたいなのか、と得心する。
「なんでシャルルは色々と勉強しているのに他国についてはあまり知らないのかな、いや、知ろうとしていなかった、って感じだよね。」
と、心の中を探るように見つめられる。
「数年先に訪れる災厄のことに目がむきすぎて、それ以降のことは考えていなかった。と言ったら信じられるか?」
「数年先の災厄?予言、予知?」
「すまん、戯言だ」
変なことを口走ってしまった。誤魔化してこの話を終わらせようとした。
「シャルル」
今まで見たことがない真剣な顔でこちらを見るテール。
「何を知っているのか、聞かせろ」
「知っているわけでもないし、確証もない。」
俺はこの世界に生まれてから、ずっとこの話を誰かにしたかった。
この世界を滅ぼすドラゴン。
学園卒業後、短期間で発生すると思われる災厄。
前世でゲームでやった、なんていう話は通じるはずがない。
とはいえ、俺の選択次第でこの世界が滅ぶかもしれないという重圧を抱えて生きてきた。
テールの、心の中を見られているような視線に負けて、というより、心の重荷を軽くしたいという気持ちが強かったのだろう。
俺は前世とかゲーム云々は言わず、幼い頃からずっと見続けてきた夢、という体で話をした。
学園卒業後、どれくらいの期間かわからないがこの世界にドラゴンが現れること。
夢を見る度、戦いに参加するメンバーは変わったものの、俺、テール、フエゴ、ラファル、スルスがいたこと。
常にその戦いの中心にいたのが、先日会った平民の女マリアであったこと。
あまりにも何回も同じ内容の夢を見るし、夢に出てくる人物は実際に存在していて、単なる夢だと流すことができなかったこと。
夢の話を誰かにするのは馬鹿らしいと思い、今まで誰にも話したことはなかったこと。
「馬鹿らしいと思うだろう?夢の話だ。」
一笑に付されてもおかしくない話だ。
テールは真剣な顔のままだった。
「なぜ、話した?いや、今までなぜ、話さなかった。」
口調と表情からテールが怒っているのがわかった。なぜ怒っているのかわからない。
「夢の話だと馬鹿にされるとでも思ったか?何度も夢に見て、しかも俺たちが実際にいるとわかっても、まだ夢の話だと思っていた訳ではないだろう?」
「確信が持てなかった、いや、今も持てていないのだが。」
と苦笑する。
「馬鹿野郎」
そう言うと、テールが俺を抱きしめた。
「な、、、」
「お前は大馬鹿者だ」
テールに急に抱きしめられて、反射的に振り解こうとしたが、テールの声が震えているのがわかる。
顔は見えないが、俺を抱いたままテールが泣いているのがわかり、俺は振り解くのを止めて、テールの背中に手を回し、その背を摩る。
「テール、、、」
信じてくれたのだ、とわかり俺も目が熱くなる。
今まで、言っても無駄だと思い、誰にも話ができなかった。
現実ではマリアと疎遠になり、ゲームと展開が変わることへの不安に苛まれた。
信じてもらえなくとも、話すだけで気が楽になったと思う。それなのに信じてもらえた、という安堵と、抱えていた俺の気持ちを察して泣いてくれたであろうテールの気持ちが嬉しくて、俺はしばらく涙を止めることができなかった。
テールと秘密共有しました。
一歩前進しました。
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