学園一年生15日曜日 平民街3 フエゴ視点
カフェに入って一応注文したあとも椅子に浅めに腰掛けて背もたれに倒れ、足を投げ出してグッタリした体勢をとるシャルル。
こいつ、本当は平民なんじゃねぇか?と思うほどだらけている。いや、そうじゃないことはもちろんわかっているんだが、王子とは思えない体勢だ。
「そんな顔で見ないでほしい。」
俺が呆れた顔をしたのに気づいたんだろう。
「だから頼みすぎだって言ったのに、、、」
シャルルが常人より沢山食べることは知っているが、それにしても、何かに取り憑かれているかのようにどんどん料理を食べ歩いている様子を見て、流石に許容量を超えているだろうと思い制止したが、気にせず頼んだのは自分なんだから自業自得だ。
シャルルは「たまにはいいじゃん。」
と、拗ねて目を逸らす。
可愛いかよ。
何なんだよ、今日のシャルルは。
いつも完璧王子様キャラのくせに、今日ははしゃいだりダラけたり。口調も相まって可愛さが振り切れている。
と、なぜか真面目な顔になり、
「、、、失望した?」
と上目遣いで聞いてくる。
やめてくれ、本当に。
顔が赤くなるのを感じ、慌てて顔をそらす。
「いや、、、今日のシャルルは、人間臭くて、良いんじゃないか?」
普段、あの王子様キャラは作ってるんじゃないか、と思うほど今日のシャルルは人間臭い。
「良かった、、、」
と呟いて安心したように微笑むシャルル。
ああ、もう。そういう顔をするのはやめてくれ。
周りから見たら一人で何かを想像して顔を赤らめているように見えているのだろう。
恥ずかしくて周りを見れないが、他の客席から俺の方に視線を感じる。
そのまま黙り込んだシャルルを良いことに、俺は顔を隠して下をむき、周りの視線を無視した。
そうして、しばらくカフェにいた後、シャルルから街歩きを提案された。
顔の熱もだいぶ治まり、周りの視線も俺に向けられていないことに安堵しつつ、特に目的もなく街をぶらぶらと歩いた。
平民街は大通りは健全な店、裏路地には妖しげな店が並んでいるが、シャルルが裏路地にふらりと入ろうとしたので大通りに連れ戻したりした。
平民服を売っている服屋の前を通りかかった時に、次回街に来る時用の服を買いたいと言われて中に入る。平民服はいつも侍女に買ってきてもらうので、服屋に入ったのは初めてだった。
貴族街の服屋は、基本的にオーダーメイドなので見本品の数点が飾られているだけだ。俺は、こんなに大量に服が掛けてある状態は初めてみる。
似たように見えて、色々な種類の服があるもんだな、と思いながら服を見ているとシャルルがアカサンドリア風の服を試着していた。
吹き出すのを必死に堪えた。
今朝、平民服を着たシャルルを見た時にも感じたが、首から上と下の違和感が凄すぎる。
まだサファリアの平民服は、貴族服より装飾がないものの形は似たようなものだったから多少の違和感で済んだが。
風呂着とも似た簡素なアカサンドリアの服は、どうみても外に来て歩いてはいけない部類の服にみえる。普通にアカサンドリアの者達が着ているのは問題ないが、シャルルが着ると違和感の固まりだ。
俺が感想を言い淀んでいるとムッとした表情で
「フエゴも着てみろ」
と言いつけられた。
俺にあったサイズの服を店員にきいて、試着したら、俺をみたシャルルがさらに仏頂面になった。
「何で不機嫌なんだよ?」
「知るか!」
なぜか怒られた。よくわからない。
結局俺たち2人はサファリアの平民服を買って店を後にした。
そろそろ帰るか、と思っていると、シャルルがとんでもないことを言い出した。
「平民街の酒場に入りたい」
は?!と喉元まででかかった声を抑え、冷静に返す。
「さっきまであんな状態で、、、よくそんなこと言えるな。」
「もう大丈夫だ。むしろ腹が減った」
何言ってんだコイツ、と思わなくもない。数刻前まで食べ過ぎて動けなかったくせに。どんだけ消化いいんだよ?と突っ込みそうなところを必死に抑える。
シャルルはそんな俺の葛藤を無視してさっさと店を決めて入ってしまう。
シャルルは店に入ると目を輝かせた。
こういう賑やかな場所が好きなのか、キョロキョロと周りを見渡しながら満面の笑みを浮かべ、次々と酒を注文し出した。
楽しそうに酒を飲んで、平民の店でニコニコと嬉しそうにしているシャルルを見ると、王子としての立場を意識しているだけで、実は通常はかなり気を張って生きているのかもな、と同情し、シャルルの酒に付き合った。
そろそろやばいかな。
半目になり、眠そうな顔になり出したシャルルに酒を持ってくるのをやめた。
「俺はー。もっと飲めるぞー。」
どんだけストレス溜めてんだよ、とくだを巻くシャルルを眺めてため息をつく。
シャルルのこんな姿を見たらベアトリス様ならどう思うかな、と考える。
宰相の娘でいつもきっちりされていて、高貴なベアトリス様。
酔っ払ってグダグダになっているシャルルを見たら軽蔑されるかもしれない。シャルルもベアトリス様にこんな姿は決して見せないだろう。
シャルルは昼過ぎに、カフェで俺に「失望したか」と聞いてきた。
きっと本当のシャルルは今日のような、人間臭いヤツなんだろう。長いこと一緒にいたのに分かってあげられなかったことを申し訳なく思う一方。
ベアトリス様にも見せられない素の状態を俺には見せてくれているんだ、という優越感に浸り、つい頬が緩む。
半目から、ついにはテーブルの上に突っ伏したシャルルを見守っていると、急に周りのテーブルから視線を感じるようになった。
店に入った時は疎らだった客席も、この時間には満席になり、それぞれが盛り上がっている状態で、他のテーブルの様子など気にするはずもない。
それなのに、近くのテーブルの客が明らかにこちらを見ている。
まずい!
慌てて上着を脱ぎシャルルの頭に被せる。
シャルルが寝て、腕輪の効果が切れたのだと気づいた。幸いシャルルは突っ伏したので顔は見られていない。
黄金色の髪色が珍しくて見られていただけだろう。
平民とはいえ、何名かはサファリアの王族だ、ということまで察しているかもしれない。
「んー?フエゴ?」
やべえ、起きたのか?
シャルルが俺の上着を払おうとするので、慌てて押さえつける。
「何をするー?」
くそ!暴れるな!酔っ払い。
「シャルル!腕輪!効果切れてる!」
と、小声でシャルルに告げる。
「んー??そうかー?」
ダメだコイツ。
「おばちゃん!お勘定!!」
俺は腕の中で暴れるシャルルを押さえつけながら勘定をすませ、あわてて店を出る。
店の外も人が多い。
「シャルル、腕輪使えるか?」
「んー。いいぞー。どうだー。」
どうだ、じゃねえよ。上着で顔と髪を隠したものの、隠している様子が不審なのだろう、周りの者はこちらに注目している。
明らかに腕輪の認識阻害効果は発動していない。
仕方ないので一刻も早く馬車に乗り込むしかない。
酔っ払っているシャルルを担ぎあげ、辻馬車を探す。
バタバタと暴れる酔っ払いにため息をついて、低い声で脅せば静かになった。
幸い空いている馬車を見つけ、御者に学園まで頼んで馬車に乗り込む。
シャルルを抱えたまま馬車に乗って、隣の席に座らせ、シャルルに掛けていた上着をとってやる。ちょっと正気に戻ったのか、掛けていたのが俺の上着だと気づいたシャルルが申し訳なさそうに
「すまん、、、寒かったか?」
と言ってくるので、
「もう酒は飲まない方が良いですよ。」
と釘を刺しておいた。
目を伏せて申し訳なさそうな顔をしたと思った瞬間、俺にもたれかかり爆睡しだすシャルル。
「おい、シャルル、寒くないか?」
夜になり馬車の中もかなり冷えてきた。
返事はなく、俺の肩にもたれかかりながら寝息を立てている。
ふと、魔が差した。
ここには俺たち2人しかいない。
シャルルは酔って寝ていて起きそうもない。
こんな状況、もう訪れないのでは。
そう気付いた瞬間から、自分の心臓の音が早くなるのを感じた。
寒くなったから、と自分に言い訳し、俺の肩にもたれかかっていたシャルルの肩に手を回す。シャルルはなんの抵抗もなく、そのまま頭を俺の胸に移動させ、気持ちよさそうに寝ている。
暖かい。シャルルの体温を感じる。
俺の胸の中で無防備に寝息を立てているシャルル。
伏せられた長いまつ毛も金色だな、と思いながら寝顔を眺めていると、目がその口元に吸い寄せられる。
ベアトリス様とはもう接吻くらいはしたのかな、という考えが頭に過ぎる。
そんな考えが頭に過ぎると、シャルルの少し開いて寝息を立てている柔らかそうな唇から目が離せなくなる。
ダメだ、絶対にダメだ。
「無防備すぎる、、って言ってんだろ。」
学園に馬車が到着し、俺は御者に少し待つよう伝え、駆け足でシャルルの部屋にむかう。
シャルルの侍女のデリアさんにシャルルが泥酔して寝てしまっていることを伝え、シーツを受け取り、馬車で寝ているシャルルをまるっと包み、シャルルの寝室まで送る。
遅い時間とはいえ、誰に会うかわからない状態でシャルルを寮の中担いで行くのに、そのままでは憚られたからだ。幸いシーツで包んだシャルルを抱えている姿を誰にも見られずに済んだ。
爆睡しているシャルルはベッドに寝かせても起きなかった。
ベッドに運び込んだ横でデリアさんが恐縮し、俺にお茶でも、と言ってくれたが、俺は1人になりたかったので申し出を辞退し自室に戻った。
物凄く幸せで、且つ物凄く心臓に悪い1日だった。
今回でシャルルとフエゴのデート回終了です。
学園での1週間が終わり、今後ストーリー一気に進めていく予定です。
予定は未定。
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