学園一年生13 日曜日 平民街1 フエゴ視点
フエゴ視点です。
日曜日。
学園生活が始まってから、初めての休日。
俺はサファリアの他のみんな、シャルル、ベアトリス様、ラファルと違ってあんま勉強をして来なかったから基礎的な授業をたくさん取っていて、この1週間で正直頭がパンパンだ。
他の3人は学園に入る前から家庭教師や、独学で学んでたっていうけど。俺からしたら異常だ。
実際、高位貴族でも俺と同じ授業に出ている者が多い。
あんなに適当そうなテールでさえ、全て理解しているというのには驚かされた。特殊な事情があるんだっていうのはこの間聞かされたからわかった。
サファリアはシャルルが圧倒的な存在で、シャルルの弟妹を持ち上げようとする話なんか聞いたことがない。アカサンドリアでは熾烈な派閥争いがあり、それに巻き込まれないよう立ち振る舞っているテールの立場を知り、こいつ、見た目より苦労してんだな。と同情しかけたが。テールはその話をした後もいつも通りだった。相変わらずな態度にムカついたけれど、少しホッとした。
さておき、俺と変わらないと思っていたテールでさえ学があり、俺だけ4人から置いていかれそうで焦りがある。
授業だけでは理解しきれず、帰寮後も授業内容をしっかり復習していると、あっという間に1週間が過ぎた。
ただでさえ、頭の中がパンパンなのに、今日はシャルルと街に2人で遊びに行く予定だ。
勉強内容が吹っ飛ばないように気を引き締めねぇとな。
数日前に街に行きたいとシャルルに言い出された時はどうしようかと思った。
女の叫ぶ声なんか聞きたくねぇし、倒れた人がいたら俺がどうにかしなきゃなんねぇのか、と考えるだけで頭が痛くなった。
幸い、スルス先生に認識阻害効果のある魔法陣を腕輪に描いてもらって、その点、心配しなくてよくなった。便利なもんがあるんだな。
*******
朝は市場が出ているだろうから、市場でなんか買って食べようと思い、朝から寮の入り口で待ち合わせた。侍女に辻馬車の手配を依頼してある。俺やシャルルの馬車なんかで乗り付けたら目立って仕方がないだろう。乗り心地は悪いだろうが、平民街に行くなら目立たないのが1番だ。
腕輪で隠せるのかもしれないが、街にいる間は置いておくので、シャルルが馬車から離れるし、腕輪の効果も効かないだろう。
「待たせたな。行くか。」
平民が着るような、刺繍も装飾もない服を着たシャルルが現れた。
服はシンプルなのに、首から上だけが取ってつけたように整っている。髪も結局腕輪があるからといつも通り黄金色だ。
「腕輪があって良かったあ、、、」
つい口から感想が出てしまう。平民服に身を包んでいても、明らかに平民ではない高貴なオーラが出てしまっている。
「そうかな?平民に見えると思うが。」
俺の呟きが聞こえたようで、自分の体をキョロキョロと見回して確認するシャルル。
「念のためです。馬車から降りる時に腕輪使ってくださいね。」
本人が平民に見えると思っているなら、突っ込まずにいてやろう、と思う。
街までの道は舗装されていたが、とはいえ馬車の車輪も座席のクッションもいつも乗っているものとは違う安物なので揺れがひどい。
「シャルル様、大丈夫ですか?」
「楽しいぞ。よく揺れるな。アトラクションのようだ!」
「アトラクション?」
「む、何でもない。それよりフエゴ、街に行くのにかしこまった言葉使いはやめてくれ。周りの者に聞かれたらおかしく感じられるだろう?」
言葉に詰まった。以前からシャルルに普通に接してくれ、と言われていたものの、流石に敬語を使わないことには抵抗がある。
「これは命令だ。今日は敬語禁止。」
「ですが、、、」
「ほら、もう命令は始まっているぞ。」
シャルルは嬉しそうににやりと微笑む。
「わかったよ、、、いつものクセで間違えるかもしれねえから、それは勘弁してくれ。」
「うむ、良いではないか。」
満足そうなシャルル。
「シャルルさ、、、シャルルも、話し方変えられないか?王族か、高位貴族だってすぐにバレるぞ。」
俺はサファリアで平民街に出る事も多かったし、親父も粗野だったからこっちの話し方の方が自然なくらいだ。シャルルは無理だろうなあ、、、
「大丈夫。練習してきたよ。」
「、、、変な方向にも努力家だな。」
街に着くまで話してみたが、シャルルは見事に平民らしい話し方をマスターしていた。この顔で平民ぽく話されると違和感が凄い。
*******
平民街の広場につき、辻馬車を降りる。もちろん降りる前には腕輪の認識阻害効果を発動していた。
「うわぁ、、、」
シャルルは目の前の光景に感動しているようだった。サファリアでも、平民街は馬車で素通りして、馬車の窓からしか見たことがないからだろう。
この街はそれほど大きくはないものの、学園が近いことから田舎の街にしては賑わっている。
貴族街と違い、道の舗装はされていないところも多いし、家も雑多で一軒ずつは小さい。ただ、賑やかだ。広場には予想通り天幕を貼った露店が立ち並び、店員が大きな声で呼び込みをしている。
露店の中には、商品を売る傍ら、椅子やテーブルを出して食事を出している店もある。
朝だというのに酒を飲んで酔っ払っている集団もいる。
何れをとってもシャルルには縁のない世界だろう。
目をキラキラさせて、辺りを見回している。
子供みたいだな、と思いクスリと笑う。
「シャルル、なんか食べようぜ。」
興奮したままなのか、俺を見てこくこくと頷く。
可愛いな。
食事をだす店を数軒見て、一軒選び、シャルルを椅子に座らせて俺が注文をする。
「兄ちゃん、衛兵かい?でけえな。」
「ああ、そんなところだ。この店のお勧めは?俺もツレもよく食べるんだ。」
「ん?ツレ?ああ、もう1人いたのか、きづかなかったな。いっぱい食うならソーセージを挟んだパンと、ジャガイモを油であげたヤツがお勧めだ。麦から作った酒もあるぞ。」
「この後仕事だから酒はやめとくよ。何か飲み物もくれ。」
料理ができたら声をかけてもらうことにし、テーブルに戻る。
「楽しいな。フエゴ。街とは賑やかなものだな。」
本当に楽しいのだろう。パアッと華やぐような明るい笑顔で話しかけられて、俺はテーブルに肘をついて顔をそらす。
「言葉。戻ってるぞ。」
と、自分の顔が赤くなったのを誤魔化すように指摘する。
「あーっと。ごめんごめん。嬉しくてついね。今までほとんど王宮で過ごしていたからなあ。こんなに楽しいならサファリアでも行けばよかったよ。」
ちょっと残念そうに肩を竦めるシャルル。
「腕輪があるから、国に戻っても行けるさ。サファリアの方が街も大きいしな。」
「兄ちゃん、料理できたよ!」
店主から声をかけられ、料理を受け取り、席に運ぶ。
「ホットドッグ!フライドポテト!」
「? なんだそれ。シャルル、このパンはナイフとフォークで食べるんじゃなく、、、」
説明する間もなく、シャルルは手掴みでパンに齧り付く。
なかなかにレアな光景だな。普通の貴族なら、一口サイズに切り分けて食べるもんだが。王族のシャルルがよく知っていたな、と思いながら俺も食べる。
「うま、、、」
ソーセージは血も入っているのか、黒ずんだ色をしていたが、獣くささと香辛料のバランスが絶妙だった。芋を揚げた料理も、ただ油で揚げて塩をかけただけのものだったが、芋自体が美味いのか、止まらなくなり食べ続けてしまう。
貴族向けの料理はソースにこだわりがあるため、このような料理はほとんどない。
「うまいな、もっと食べたい。」
早くも食べ終わったシャルルは満足そうだ。口にあって良かった。
「せっかくだし他の店でもなんかくうか。」
露店は昼には片付けるのでそれぞれの店のメニューは数種程度だ。それぞれの店でおすすめの料理を頼んで、数店食べ歩くのが一般的だ。
「酒が飲みたくなる、、、」
「飲むか」
最初の店で芋を食べた時から、酒を飲みたくなっていたが、シャルルも同じ考えだった。
食べ歩きをしながら酒を飲んでいたらあっという間に昼になった。
「食べ過ぎた、、、」
「軽く朝飯食って昼は普通の店に入ろうと思ってたんだけどな、、、」
俺たちは広場の中央にある噴水の囲いになってる石に座りながら休憩した。
正直食い過ぎて動けなかったのもあり、市場が片付けられていく様を見ていた。
露店の店主達は手際良く品物を片付け、荷馬車に積んでいく。
毎日繰り返されているのだろう、店主も、先ほどまで買い物をしたり飯を食っていた客たちもいなくなり、短時間で広場は静かな空間になった。
「別の場所みたいだな」
先程の賑わいが嘘みたいに、広場には人がいなくなった。
「舞台みたいだな。幕が変わると同じ場所でも光景が変わる。」
確かにな、と思いながら横に並んで座っているシャルルの方を見る。
まだ苦しいのか、後ろに背中を倒したような姿勢で後ろ手を付いてボーッとした目で何を見るでもなく正面を見ている。
普段なら椅子にピシッと背筋を伸ばして腰掛けていることを考えるとくだけた姿勢だ。
酒が少しまわっているのか頬に薄っすらと赤みがさしている。
「そろそろ、他の場所も行ってみようぜ。」
とシャルルに声をかけて立ち上がり、片手を差し出して立ち上がらせる。
億劫そうに立ち上がると、苦しそうな表情のままついてくる。
「フエゴ、もっとゆっくり、、、」
「だらしねぇなあ、食べすぎだ。」
あれもこれもと買っていたからな。酒にも酔っているのか、足取りが重い。
「ほら」
と言って手を差し出し、握り返された手を引っ張りながら進んでいく。
「腹ごなしに少し歩くぞ。気になった店があったら言ってくれ」
とシャルルに声をかけて先導する。
ずんずんと進んでいくとシャルルから声がかかる。
「フエゴ、、早い、、、」
はあ、とため息が出る。
いつもキリッとしているシャルルがグダグダだな。
なんだか今日はいつもなら見れないシャルルを沢山見れている。
「歩かずに休むか?腹ごなしになるから歩いた方がいいと思うけどな」
「うん、、できればどこかで休みたい、、、」
と俯くシャルル。
周りを見回すとちょうど近くにカフェがあった。あそこなら座れるだろう。
俺とシャルルは店に向かった。
「フエゴ、、、手、、、」
握ったままで忘れていた。慌てて手を離す。
「わりぃ、忘れてた!腕輪があって良かった」
男同士で手を繋いで店に入ってきたら皆驚いただろう。
ここでも、シャルルの存在は店員に気づかれない。俺が2名、と言って初めて店員がなんとなくもう1人いる、と認識できるようだった。
フエゴ視点だと書き進んでしまって文字数多くなりがちですね。
1話で終わらすつもりが、平民街の話まだ続きます。
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