学園一年生12 土曜日 魔法の授業
土曜日。
朝から魔術の授業の日だ。
防御結界の強度上の問題で高等魔法の練習は出来ないため、無難に下位の魔法を練習する。
ラファルは学園でも高等魔法の練習が出来ると思っていたのにできなくて不満そうだ。
「王宮は恵まれてーいたんですねー。やっぱり父上はー凄いですー。」
「ユアン様の防御魔法は本当に素晴らしいものなのですね。まさか学園では高等魔法の練習ができないなんて。」
ラファルの父、我が国が誇る王宮魔道士のユアンが張る防御魔法は一般的には規格外だったらしい。
「この件、魔法陣でなんとかならないか、スルス先生に相談してみないか?」
学園全体を包む防御結界は魔法陣により張られている。
それなら、高等魔法を防ぐのは、防御魔法ではなく魔法陣でも可能なのではないか、と思いついたのだ。
俺は既に腕輪と引き換えに写本をする必要があるので、ラファルからスルスに頼んで貰えば、俺の課題が増えなくてすむ、という打算があった。
「なるほどー。きいてみますー。魔法の練習が出来るようになると嬉しいですねー。」
と、何も疑うことなくニコニコされると良心が痛む。
「俺も、腕輪の対価で写本の課題をせねばならんから、この後一緒にいこう。」
「あの、私もご一緒してもよろしいかしら?」
ベアトリスも、魔法陣に興味があるため、ラファルと一緒にお願いしにいきたい、とのことだ。
3人でスルスの研究室に向かうことにした。
*******
都合よくスルスがいた。
「シャルル王子、と、君達は魔法陣学を選択している生徒だね。」
「ラファル・ドルブリューズですー。よろしくお願いしますー。」
「ベアトリス・ドアバックですわ。よろしくお願い申し上げます。」
「ふむ。感心するな。まだ授業は始まったところだが、時間外にもこちらを訪れるとは。」
魔法陣に興味を持つ学生が少ないのか、スルスは2人の来訪を喜んでいるようだ。
「この2人と俺は高等魔法をサファリアで練習していたのですが、こちらの学園の魔法練習場で張られている防御魔法が上級魔法までしか対応できないそうで。高等魔法を打って耐えうる結界を魔法陣で張れないか、という相談にきたのです。」
お、面白い顔になったな。
出会ってから澄ました顔しか見たことがなかったスルスが目を見開いていた。
しばしの沈黙の後、声を発する。
「...3人とも髪色で魔力量が多いことはわかっていたが、高等魔法を使えるとは、、、。」
と言った後、更に考えこむスルス。
「あの、私達は魔法陣について詳しくありませんの。無理なお願いでしたら遠慮なくおっしゃってくださいませ。」
と声をかけるベアトリス。
「いや、無理、ではない。」
「この学園を覆っている魔法陣の結界は広範囲かつ強力なものだ。そして特性として外からの攻撃、物理、魔法両方の攻撃を防ぐ効果がある。
今回君達が望む結界は逆に中からの攻撃、そして魔法に限定されているし、範囲も狭い。理論上は可能だ。魔法陣の内容は学園のものと全く違うものになるため、流用はできない。しばらく時間をもらえれば、新しい魔法陣を開発できると思う。」
おお、魔法陣は開発できるのか。
「そして魔力は、君達が注ぎ込んでもらうことになるだろう。高等魔法に対抗する防御結界を張るとなると、魔力がかなり必要になるし、魔石だと毎週の授業で使用するには高価になりすぎる。君たちの授業のためなら、短時間の使用に限定される。学園の結界のように随時張る必要もないからな。」
魔法陣の設定に必要な要素を明確にして、魔法陣を構築するのか。魔石を使うか、本人の魔力を使うかの判断も勉強になる。便利だな、魔法陣。
「ありがとうーございますー!」
「有難うございます!」
2人とも嬉しそうだ。
「かなり難しい課題だな。さて、3人には何を対価にもらうか、、、」
「やっぱり俺も入っているんですね、、、」
「当然だ。ただしシャルル王子は写本が優先だ。それが終わった後で考えるとしよう。」
「シャルル様、私も写本お手伝いいたしましょうか?」
「いや、写本はこの腕輪の対価だ。俺がやらないといけない。」
「いい心がけだ。シャルル王子。ところで、腕輪は試してみたかね?」
「はい、早速いただいてから食堂に向かう道で試してみました。凄い効果でした。」
俺の発言に一気に顔が曇るスルス。
「君は校則を破ったのかね?」
何のことかわからず、考えていると
「校則で、学園内で決められた場所以外での魔法の禁止という項目があるのを知らないのか?」
と呆れ顔で言われる。
「...もしかして、魔法陣も当てはまるのですか?」
と恐る恐る確認する。
重々しく頷くスルス。
顔から血の気が引くのがわかる。サファリアの代表として来ている俺が校則を破って、しかも全く気づいていないとは。
「、、、君に注意をしなかった私の責任でもある。
このことは不問とする。2人も決して他言しないように。」
ラファルとベアトリスは顔を青くしながら首を縦に振る。すまん、2人とも。
あとでテールとフエゴにも言っておこう。
*******
昼食時、俺は忘れないうちにテールとフエゴに俺が学園内で腕輪の魔法陣を発動させたことは内密にしてもらうよう告げた。
「へえ、あの校則、魔法陣もダメだったんだねー。弱み握っちゃったなー。」
とテールは嬉しそうだった。フエゴは
「決して他言しません!」
と力強く誓ってくれた。
まあ、テールも誰かに言うことはないだろう。
その後、俺たちの話題は自然と明日の日曜日の話になった。学園に来て以来、皆揃っての初めての休日だ。
「僕はーベアトリス様とー。庭園で薬草採取するんですー。」
「部活動なのですわ。採取した薬草から薬を作るのですわ。」
ラファルとベアトリスの2人はいつの間にか、薬学系の部活動を始めていた。学園の庭園には色々な薬草が育てられており、それらを採取して薬を作るそうだ。授業でも2人は薬学をとっているが、授業は講義が中心となるため、部活動で実技を行っていくらしい。休みのはずが、授業の一環のようにも感じるが、2人が楽しそうなので問題ないだろう。
明日の日曜日に俺とフエゴが街に行く話は、認識阻害の腕輪を作ってもらった時にしていた。テールも行きたそうにしていたが、国の用があって今回は同行できないらしい。
いずれ、皆で遊びに行けると楽しそうだが、俺の友人達は皆、平民街では目立ってしまうだろうと思う美形揃い。全員で行動すれば間違いなく街で注目を集めてしまうだろう。
街に行く際は二、三人が限度だろう。
ベアトリスとラファルの2人ならラファルを少女だと勘違いして、2人をナンパする男が後を立たないのではないだろうか。危険なので2人が行くときには俺もついて行こう。
フエゴと明日の待ち合わせ時間と場所を決めて、俺はまた写本のためにスルスの研究室に戻るのだった。




