学園一年生10 金曜日 ランチタイム
本日2話目です。
まだご覧になっていない方前話ご覧くださいー。
注:スルスの研究室を訪れて、腕輪をもらった後の話になります。
午前の授業が終わる時間になり、スルスに断りを入れ写本を中断する。
スルスの研究室で手に入れた腕輪を身につけ、食堂に向かいながら、俺は腕輪の効果を試してみた。
「おお、、、」
思わずその効果に感嘆の声が漏れる。
いつもなら、行き交う生徒達が俺に気付いて道をあけ、遠巻きに見ているが、今は食堂に向かう道で俺に気づく者はいない。
まるで空気にでもなったようだ。
今まで、皆に気を遣わせていたのだな、と反省する。スルスに確認して許可がもらえれば、日常生活でも使っていきたい。
食堂に着くと、既にフエゴ、ラファル、テール、ベアトリスが料理のトレーを前に席についていた。和やかそうな様子に安心して、俺も食事を取りに行った。
認識誤認、というのがあまりイメージできなかったが、ランチの内容を伝える職員に誤認しろ、と念じてみて話しかける。
「あんた、見た目によらず、よく食うね」
おお、軽口を叩かれた。
「俺はどういう風に見える?」
「ん?気を悪くしたかい?そんな小さくて痩せっぽっちで、勉強だけしてる、みたいな感じだとちゃんと食べてるか心配しちゃうよ。」
「ありがとう。しっかり食べるよ」
完全に別人に見えているようだ。
凄いな。
俺が認識誤認の効果を4人に与えながら近づくと、4人とも俺に対して怪訝な顔をしている。
普段、俺たちに近づいてくる者はいないから警戒しているのだろう。
近づいて誤認の術だけ解くと、4人とも椅子から落ちそうなほど驚いている。
「シャルル様!?」
可笑しくなって、くくっと笑ってしまう。
「すまんすまん、これの効果を試したくてな。」
そういって腕輪を見せる。
当然ながら4人は俺を質問攻めにする。
魔法陣による効果で腕輪に認識阻害、認識誤認効果を付与していることを説明しながら食事をとる。
「面白いなあ、これがあれば、、、」
とテールがよからぬ事を考え出すので
「テールは女風呂を覗きにいくのでダメだ」
と、軽口で突っ込む。本当はもっと物騒なことを考えていそうだからな。
「酷いなあ、そんなこと考えもしなかったよ。シャルルは覗きにでもいったのかな?」
「そんなことするか!」
くそー。
「でも魔法陣、面白いね。俺もとればよかったな。」
「講師のスルス先生は手伝いを求めているから、授業をとっていなくても研究室に行けば会えるぞ。俺は来週通うつもりだから一緒にどうだ?」
「じゃあ行ってみようかな」
よし、写本要員ゲット!と心の中でガッツポーズを決めたが、残念ながら写本は俺の腕輪の対価だから、と正論でテールに逃げられてしまうことをこの時の俺は知らない。
「これー。シャルル様にーピッタリですねー。」
とニコニコ笑うラファル。
「昨日はテールがすまなかった。誤解が解けているようでよかった。」
昨日から内心冷や冷やしていたが、俺が姿を現してからも4人がいつも通り接してくれているのでなかなか切り出しにくかった。ラファルがいつも通りに笑いかけてくれたので、昨日の件を切り出した。
「んー。テール様だけでなくー。シャルル様も反省されましたかー?」
あれ、誤解解けていない?
チラリとテールを見ると目を逸らされる。
困った顔でベアトリスが
「シャルル様が女性に話しかけられて喜んでいらっしゃった、というのはテール様が嘘をつかれていらっしゃったのだとご説明いただきましたわ。」
誤解は解けてるってことだよね?と俺が困惑して皆の顔を見ていると
「ベアトリス様、問題点を申し上げないと、シャルル様は永遠に気づかれないかと。」
とフエゴが注進する。
ふう、とため息をつき、ベアトリスが俺の顔を見て話し出す。
「シャルル様の婚約者は誰でしょうか?」
「それはもちろん君だ。ベアトリス」
「女性の方と話すな、とは申しません。学園生活を送る上で、ご学友になることもございますでしょう。ただ、邪な目的でシャルル様に近づいてくる女性もおります。シャルル様は、そういった女性であっても無碍になさらない、ということは良い所でもあるのですが、、、」
そういって俺から目を逸らし、顔を赤く染めて俯くベアトリス。
「殿下のお傍は私の場所です。」
頭が真っ白になる。
「すまん。席を外す。」
と3人に謝ってベアトリスの手をとり、校舎裏の人気のないところまで何も言わずに引っ張っていく。
よく、ここまで耐えた俺。
と思いながらベアトリスを思い切り抱きしめる。
あのセリフを言われた途端、なんて可愛いことを言うんだ!と抱きしめそうになったが、流石に人目のあるところで抱きしめる訳にはいかない。
「不安にさせてしまっていたんだな。本当にすまん。」
俺の腕の中におさまったベアトリスは、言葉を発しない。そのまま言葉を続ける。
「ベアトリス以外の女生徒は俺にとっては全部同じようにみえている。」
まあ、マリアは違う意味で他とは違うけど。
「正直、邪な目的で近づいて来ているのか、俺には判断がつかない。」
ベアトリスが思っているほど俺に近づいてくる女なんかいないのだが。女生徒どころか、男子生徒からも敬遠されていると感じている。
「けれど、俺の傍らはベアトリスだけの場所だ。他の女がどれだけ近づこうとしようが、俺にとってそれは変わりがない。」
はっとした顔で俺の顔を見上げるベアトリス。
紫色の瞳から涙が溢れる。
「泣かないでくれ」
流れる涙さえも美しいな、と思いながらその頬を伝う涙を指で拭う。
「嬉しくて、、、」と言ってくれるベアトリス。
「シャルル様のお気持ち、分かりましたわ。もう不安になったり致しませんわ」
凛とした態度で、輝くような笑顔をむけてくれる。
「不安にさせたくはないが。
俺としては、ヤキモチを焼いてくれると嬉しいのだがな」
と笑いかけると、
「やっぱりシャルル様は意地悪ですわ、、、」
と顔を逸らしてしまう。
可愛い。
俺が女性に話しかけられて、不安にさせてしまっていた、という事実には申し訳なく思うし、不安な気持ちにさせたくはない、安心して欲しい。というのは本当の気持ちだ。
ただ、俺のことを想ってくれているが故に不安にさせている、という事実が俺を歓喜させていることにも気付いている。ベアトリスの言う通り俺は意地が悪いようだ。
俺はしばらくベアトリスを抱きしめていた。
愛おしい。
「そろそろ、午後の授業が始まりますわ。お離しくださいませ!!」
とベアトリスが中断しようとしても、
もう少しだけ、と抱きしめていたので午後の授業にはだいぶ遅刻してしまったのだが。
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