学園一年生9 魔法陣付与
今回は区切りがよいところで切ったので短いです。
金曜日
今日は武術のクラスが午後にあるだけで、午前が空いているので早速デリアの言葉に従ってスルスの研究室を尋ねることにした。
普通の研究所の学生は、講師が持つ研究室に通う筈だが、一年生でありながら、学園の講師を務めるスルスには一室が与えられている。
「スルス先生、よろしいですか?」
ノックをしても返答がないのでドアを開けてみると、眉間に皺を寄せて、昨日俺たちが運んだ本を真剣に読み耽るスルスがいた。
「スルス先生!」
大きな声で呼びかけると、やっと気付いた、というように顔を上げるスルス。
「シャルル王子。早速研究を手伝いに来たのか?」
俺は街に出かけたいと言ったところ、学友にも侍女にも反対された事を手短に説明した。
王族だと平民街では目立ってしまうため、容姿を隠せるような魔法陣がないか相談した。
「ふむ、、、」
と何かを考えるような態度で、ジロジロと不躾な視線で見られる。
「認識阻害、認識誤認あたりか。そう難しいものではない。何か普段から身につけているものはあるかね?大した魔力は必要ないから君の魔力で十分だ。魔石をつける必要はない。」
俺は着けていた腕輪をスルスに渡す。
鍵の掛かった棚からインク壺を取り出し、見本も見ずに魔法陣を腕輪に描くスルス。
「凄い、、、」
細かい紋様が小さな腕輪に描いていく様は伝統工芸の職人の技のようだ。
「これくらいは直ぐにできるようになる。」
とスルスは言うが、魔法陣を覚えるのも、そんなに小さく書くことも簡単とは思えない。
「これで、この腕輪を着けている時に魔力を注ぐと、自分の周囲にいる者以外には君の存在は認識されない。意図した相手、例えば買い物をする時の店員に存在を認識させながら、違う外見のように誤認させることもできる。」
「凄い、ありがとうございます!」
「ただし」
と一呼吸置いてスルスに注意を受ける。
「君ならこれが危険なものだとわかるだろう。
使い方には充分に気をつけたまえ。」
今回は街に行く、という可愛い用途だが、悪用しようと思えば、犯罪行為、諜報活動に活用できる代物だ。
「肝に銘じます。」
「よろしい。それでは、君の願いを聞いたのだから、今度は私の願いを聞いてもらう番だな。」
昨日運んだ本の一冊をひたすらに書き写す作業をさせられた。
比較的簡単な魔法陣が記載されている、とスルスは言っていたが、まだ一回しか描いたことのない俺にとっては充分に複雑な魔法陣に見え、非常に困難な作業だった。
「ここの紋様が不適切だ。」
「線が歪んでいて効果がなくなる」
と、一見するとわからないような細かな修正が入ったため、午前中には一冊どころか数ページの書き写ししかできなかった。
「あまり長くこの本は借りていられないので早く書き写すように。」
結局俺は次の1週間は授業がない時間、通い詰めることになるのだった。
研究室の合鍵ももらい、スルスがいない時間でも、黙々と書き写し、スルスが戻ってきたら修正され、の繰り返し。後半になってくると徐々に修正される部分が減っていった。
「ふむ、君は筋が良いな」
と感心したように言われると悪い気はしなかっ
た。




