学園一年生 5 木曜日 1時間目から昼食前まで
木曜
今日も1時間目の授業だけだ。文化の授業をフエゴと受ける。
サファリア、アカサンドリアだけでなく他国の文化を学べるというものだ。
昨日、午後の授業が2つともマリアと同じだったというフエゴは朝1番の授業にも関わらずグッタリしていた。
「地理と法律か。学園に入る前に勉強してなかったのが悪い。」
「本当に悔やまれます、、、」
フエゴ曰く、マリアは教室に入るとめざとくフエゴを見つけて許可も取らず隣の席に座ってくるらしい。
ゲームではフエゴはツンデレキャラだったから、どこかのタイミングでデレるのだろうか。
今の嫌そうな様子を見ているととても想像できないが。
「今度から始業ギリギリの時間に教室に入って、マリアから離れた席に座ってはどうだ?」
「!そうします!」
俺としてはフエゴとマリアに仲良くなってもらって、フエゴからマリアの情報が取れるようになれば、俺が直接接触しなくてよくなるので有り難いのだが、友人の疲れた顔を見ると可哀想になってしまった。
フエゴ以外の攻略対象者3人の内誰か仲良くなってくれないかな。
******
文化の授業が終わり、フエゴは算術の授業を受けに行った。
俺はもう今日は授業がないので、テールがいるかと思い屋上に向かった。
本当にいた。ゲーム通りだな。
テールはベンチに寝転がりながら本を読んでいた。
「シャルルもサボり?」
「俺は取っている授業が少ないだけだ。」
俺に気づいて体を起こすテールの横に腰掛ける。
「何読んでいたんだ?」
「あー、これ、昔の兵法の本。古典扱いされてるけど、参考になるよ?」
「参考になるような戦いが起こらないといいけどな」
「それはその時の国の代表次第だしね。シャルルも、うちの兄も平和主義だと思うけど他国はどうだろうね?」
少し考え込む。
隣国のアカサンドリアでさえ出向いたことがなく、テールに聞くまで王位継承権のことさえも知らなかった。
産まれた時から、ゲームの展開のことに気を取られていたが、ドラゴンを倒してもこの世界は続いていく。一国の王となる俺が、あまりにも他国に無関心すぎた。
「テールは、他国のことをどれくらい知っているのだ?」
「実際に行ったことがあるのは隣国の砂漠の国 サラストリアだけだけど、他4国の情勢は常に気にしているよ。特にリカルディアなんかは、武器の注文量に気をつけているかな。」
「独裁政権の国か。」
アカサンドリアは鍛治の国なので、武器、防具の注文量で、どの国が戦闘準備に入っているかいち早く察することができる。
「驚いたな、完璧な人間だと思ってたけど、シャルルはちょっと平和ボケしすぎじゃない?」
テールの王族としての当然の発言に図星すぎて言い返せない。
前世の平和な日本で過ごして、この世界でも、戦争は起きないと油断していた。もう長い間国同士の戦争は行われていないので、そういった意識はなかった。
黙り込む俺に、テールはニヤリと笑い、肩を抱かれる。
「まあ、そんな抜けたところがあって安心したよ。完璧超人だと思ってたからさ。戦争が起きそうになったらサファリアにすぐ知らせるから安心しなよ。同盟国なんだからさ。」
・・・・テールに慰められるのも癪だな。
「仕方ないから、戦争になったら守りに行ってやる。大規模防御結界が張れるのは我が国くらいだろう?」
と言い返す。
テールは一瞬驚いたような顔をしたあと笑い飛ばす。
「ハハハ、そうだな。リカルディアから近いのはアカサンドリアだ。アカサンドリアが崩れたらサファリアも危ない。せいぜい守ってくれよ。」
「まだリカルディアが攻めてくるとは限らないがな。」
「それはそうだね。今のところはどの国も何の兆候もないよ。とはいえ、サファリアが戦争をしかけるなら、武器があまり必要がないからうちでは察することができないけどね。」
テールの顔は笑顔だが目が笑っていないことに気付く。
「安心しろ、俺だけでなく父上も平和主義だ。」
サファリアが本気でアカサンドリアを攻めたら、おそらく容易に落とせる。お互い濃い同盟国で内情を曝け出している。曝け出し過ぎている、と言ってもよいくらいだ。
そして、アカサンドリアはサファリアとは戦闘の相性が悪い。洞窟に住むアカサンドリアの民へは、魔法での挟撃が容易い。
この世界に火薬はないから他国には難しくても我が国の魔道士達なら魔法で多数の洞窟の入り口を崩すことが可能だ。あとは窒息死させることも、洞窟内を水で満たすことも火炎で焼くことも可能だろう。
「アカサンドリアがサファリアを裏切らない限り、サファリアから裏切ることはない。」
「大丈夫だよ、親友でしょ?」
「そういうところが信用できないのだがな。」
まあ、テールが裏切るとは思えないが、俺ももっと慎重に他国のことを考えないといけないな。
「難しい話は終わりにしてさ、昼食にしようよ。お腹すいちゃったな。」
「そうだな。」
難しい話は終わりだ。
俺たちは立ち上がり食堂を目指す。
「そういえば、テールは女好きなんだよな。いい女でも見つかったか?」
「ずるいよねーシャルルは。いいなーベアトリスちゃんがいて。考えたらさー授業出ないと女の子と出会えないんだよねー」
「ちょっとくらい授業に出たらどうだ?」
「いいよー面倒くさい。どっかにいい子いるんじゃないかな?」
なんて話しながら食堂に向けて歩いていると、
「シャルルくぅーん!」
俺は振り向かない。気付かないフリをしよう。
タタタタタという小走りの足音が近づいてくるが気付いていないフリを続ける。
「シャルル君!今からお昼?一瞬に食べよ!」
と腕をとられる。
反射的に振り払う。
「酷いなあ!友達でしょ!」
と腰に手を添え、ぷんぷんと怒るマリア。
可愛らしい仕草だが、胸焼けがする。
「可愛子ちゃん、シャルルの知り合い?」
テールがマリアに声をかける。
「うん!シャルル君の友達だよ!マリアっていうの。よろしくね!」
話しかけてもらえて嬉しそうにテールに満面の笑顔を見せる。
チラリと俺の様子を伺うテール。
その後マリアに向けてニッコリと笑顔を向ける。
「君は礼儀がなってないね。」
「酷ーい。さっきも礼儀の授業受けてきたもん!」
おい、礼儀の授業の講師どうなってる?
「ふぅんそうかあ。凄いね!でも」
今までニコニコしていたテールの表情が一気に冷たくなる。
「平民風情が軽々しく声をかけるな」
ヒヤリとする。
あ、マリアも固まってる。
数秒置いてニッコリとマリアに笑いかけるテール。
「じゃあねー。」
マリアを置き去りにし、固まっている俺の腕を引っ張っていくテール。
怖いんですけど。
腕を引っ張られながら、平民風情がっていうセリフはゲームの悪役令嬢ベアトリスが言っていたセリフだなあと思い出す。悪役攻略対象者、、、?
何となく、テールはいつも通りのチャラチャラした感じは本性じゃないんだろうな、とは感じていたけど、実際に見るとギャップが凄くて怖かった。
ツンデレの逆のデレツン、、、そんなジャンルがあるのかはわからないけど、腕を引っ張られながらそんなバカなことを考えていた。
テールさん怖い。
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